日米欧による「中国のサイバー攻撃非難」について報じる新聞各紙(右上・産経、左上・読売、、下・朝日) |
「日米欧、中国を一斉非難-MSソフト『サイバー攻撃』と結論」(産経新聞)、「サイバー攻撃、中国を非難-米英など声明 日本も支持」(朝日新聞)、「中国サイバー攻撃非難-米、日欧と声明 対抗措置示唆」(読売新聞)。
各紙報道を要約すると、以下のようなことである。
中国政府(国家安全保障省)が関与したとされるサイバー攻撃は、3月に発覚した米マイクロソフトの企業向け電子メールソフトに対する攻撃が典型である。
中国政府につながるハッカー集団がランサムウェア(身代金要求型ウイルス)などで攻撃を行い、日米欧で経済活動の脅威となっている(=NECの防衛関連ファイルが不正アクセスされた)。こうした中国のサイバー攻撃に対処するため、ジョー・バイデン米政権は19日、ハッカー集団の手口を公表するだけでなく具体的対抗措置を取るとの声明を発表した。
では、誰がどの組織・機関を主導して具体的な対抗措置を打ち出すのかである。残念ながら、新聞報道にその言及はない。
「バイデン政権7人の侍」と名付けた経済安全保障政策のプロがいる。その中でも際立つ3人が、中国への対抗措置を決定するキーパーソンである。(1)デビッド・コーエン米中央情報局(CIA)副長官(2)ダリープ・シン米国家安全保障会議(NSC)大統領次席補佐官(3)タラン・チャブラNSC技術・安全保障担当上級部長だ。
まず、バラク・オバマ政権時の財務次官(金融テロ担当)として、「金融制裁のグル」と呼ばれたコーエン氏。カウンターインテリジェンスの責任者として、NSC、財務省、連邦捜査局(FBI)と協力してサイバー攻撃を取り締まる。
次のシン氏も、オバマ政権下で財務次官補(国際金融犯罪・サイバー犯罪担当)を歴任した。現在は、米中対立の先鋭化が進む中で、対中金融制裁の責任者とされる。
3人目のチャブラ氏は、6月初旬に米上院が賛成多数で可決した「米国イノベーション・競争法」の策定を始め、中国との技術覇権競争で注目を集めたECRA(輸出管理改革法)の執行などにも関与している。経済産業省の経済安全保障政策部局がマークしている人物だ。
上述の3人以外に、NSCのローラ・ローゼンバーガー中国担当、エドガード・ケーガン東アジア大洋州担当の両上級部長もキーマンである。
今後の展開いかんで、対中制裁として、米ドルと香港ドル交換の「ドルペッグ制度」の停止もあり得る。(ジャーナリスト・歳川隆雄)
【私の論評】バイデンの胸先三寸で決まる、香港ドルペッグ制度の停止(゚д゚)!
中国のサイバー攻撃を避難するブリケン国務長官 |
欧米のセキュリティ・サービスは、標的を絞ったスパイ活動から、破壊的な攻撃への移行を示しているとみており、中国によるサイバー行為のエスカレートが懸念されています。
中国国家安全部(MSS)は、より幅広いスパイ活動や「見境のない」広範な行動パターンについても非難されてきました。
中国はこれまでハッキング疑惑を否定しており、あらゆるかたちのサイバー犯罪に反対するとしてきました。
欧米の情報機関によると、今回の事案はこれまでに見られたものよりはるかに深刻だといいます。
事の発端は1月、中国とつながりのあるハッカー集団「Hafnium」がマイクロソフト・エクスチェンジの脆弱(ぜいじゃく)性を悪用したことでした。ハッカーはシステム内に後から侵入できるよう、「バックドア」と呼ばれる侵入口を設置しました。
イギリスは、今回の攻撃によって、個人情報や知的財産の取得を含む大規模なスパイ活動ができるようになる可能性が高いと指摘しました。
この攻撃は主に、防衛関連企業やシンクタンク、大学など、Hafniumの過去のターゲットに沿った特定のシステムに対して行われました。
中国国家安全部(MSS)は、より幅広いスパイ活動や「見境のない」広範な行動パターンについても非難されてきました。
中国はこれまでハッキング疑惑を否定しており、あらゆるかたちのサイバー犯罪に反対するとしてきました。
欧米の情報機関によると、今回の事案はこれまでに見られたものよりはるかに深刻だといいます。
事の発端は1月、中国とつながりのあるハッカー集団「Hafnium」がマイクロソフト・エクスチェンジの脆弱(ぜいじゃく)性を悪用したことでした。ハッカーはシステム内に後から侵入できるよう、「バックドア」と呼ばれる侵入口を設置しました。
イギリスは、今回の攻撃によって、個人情報や知的財産の取得を含む大規模なスパイ活動ができるようになる可能性が高いと指摘しました。
この攻撃は主に、防衛関連企業やシンクタンク、大学など、Hafniumの過去のターゲットに沿った特定のシステムに対して行われました。
これだけなら、単なるスパイ活動の一つに過ぎなかったでしょうが、2月下旬に重大な変化がありました。
中国に拠点を置く他のグループがマイクロソフトの脆弱性を悪用し始めたことで、この標的型攻撃は大規模なものになり、標的が世界の主要産業や政府にまで拡大しのですた。
欧米のセキュリティ関係者によると、Hafniumはマイクロソフトが脆弱性がみとめられる部分について、修正パッチを公開または廃止にする方針であるという情報を事前に入手。この情報を中国のほかのグループと共有し、修正が行われる前に利益を最大限得ようとしたといいます。
こうした脆弱性についての情報を拡散するという見境のない判断が、今回中国を公然と非難する事態を招いたと、当局は説明しています。
イギリスは、中国のサイバー活動について証拠書類を渡すなどし、長期にわたって中国政府に内々に問題を提起してきたとも言われています。
マイクロソフトは3月2日にこの脆弱性を公表し、問題を解消するための修正パッチを提供しました。この時点で、世界中のさらに多くのハッカーがこの脆弱性の価値を認識し、攻撃を開始しました。
この結果、世界中の約25万ものシステムが危険にさらされ(その多くは中小企業や組織)、少なくとも3万もの組織が不正にアクセスされました。
米国司法省は、MSSのハッカー4人の起訴を発表しています。この4人は、少なくとも12カ国の政府および主要部門の企業を標的とした長期的な活動に関与しているといいます。
中国に拠点を置く他のグループがマイクロソフトの脆弱性を悪用し始めたことで、この標的型攻撃は大規模なものになり、標的が世界の主要産業や政府にまで拡大しのですた。
欧米のセキュリティ関係者によると、Hafniumはマイクロソフトが脆弱性がみとめられる部分について、修正パッチを公開または廃止にする方針であるという情報を事前に入手。この情報を中国のほかのグループと共有し、修正が行われる前に利益を最大限得ようとしたといいます。
こうした脆弱性についての情報を拡散するという見境のない判断が、今回中国を公然と非難する事態を招いたと、当局は説明しています。
イギリスは、中国のサイバー活動について証拠書類を渡すなどし、長期にわたって中国政府に内々に問題を提起してきたとも言われています。
マイクロソフトは3月2日にこの脆弱性を公表し、問題を解消するための修正パッチを提供しました。この時点で、世界中のさらに多くのハッカーがこの脆弱性の価値を認識し、攻撃を開始しました。
この結果、世界中の約25万ものシステムが危険にさらされ(その多くは中小企業や組織)、少なくとも3万もの組織が不正にアクセスされました。
米国司法省は、MSSのハッカー4人の起訴を発表しています。この4人は、少なくとも12カ国の政府および主要部門の企業を標的とした長期的な活動に関与しているといいます。
欧米の安全保障関係者は、今回明らかになったすべての活動の背後にはMSSがいると考えており、国際的な協調行動で圧力をかけられることを期待しています。
香港ドル |
上の記事では、今後の展開いかんで、対中制裁として、米ドルと香港ドル交換の「ドルペッグ制度」の停止もあり得るとしいます。
米ドルと香港ドル交換の「ドルペッグ制度」が停止されると、中国の金融・経済は破滅的な影響を受けることになります。
香港ドルHKD=D3は米ドルに対する変動幅を1米ドル=7.75-7.85香港ドルの狭い範囲に設定。香港金融管理局(中央銀行、HKMA)が香港ドルを売買し、値動きをこの範囲内に収めます。HKMAが香港ドルを買えば需給が引き締まり、香港ドルをショートにするコストが上昇します。HKMAが香港ドルを売れば逆になります。
ペッグ制を維持するため、香港の公定金利は米国の政策金利を上回るように設定されます。香港ドルがレンジ内ながら変動するのは、香港と米国の市場金利の差によります。香港の銀行間取引金利は米国の銀行間取引金利よりも高くなっているため、昨年の国安法に関連した資金流出の懸念にもかかわらず、香港ドルは堅調を維持していました。
米中間の緊張がエスカレートすれば米国が香港の銀行による米ドルへのアクセスを制限する可能性があるとの懸念もあります。そうなればペッグ制が揺らぐことになります。
香港は1997年に中国に返還されて以降、中国本土に比べた経済的な重要性は薄れましたが、金融面での存在意義は増しています。ペッグ制が本物の脅威に見舞われれば、脅威がいかなるものであっても、そうした存在意義は低下することになります。
中国政府が本土で厳しい資本統制を続けているため、香港が果たす役割は、主要な資金調達の経路から世界最大級の株式市場、中国本土の株式や債券に流入する国際投資の最大の入り口まで幅広くあります。
中国本土の富裕層も香港に信頼を置いています。1兆米ドル超と推定される香港の個人資産の半分以上は、本土の個人資産とされています。
現在は米ドルペッグを続けている香港ドルですが、香港基本法によれば、どの資産を裏付けとして使用することも可能です。実際に香港はドルペッグ以前には英ポンドにペッグされていたことや銀に紐づけて管理されていた時代があります。ですから今後、例えば香港ドルの為替レートを日本円にペッグさせる、人民元にペッグさせると言うことも法制度上は可能で選択肢に入ってくる訳です。
ただし現在、人民元は資本の自由移動に制限がありますから、現行の制度を活かす形で運用する場合には、香港側の選択肢に入らないはずです。では日本円を裏付け資産に使うかと言うと、それもまた基軸通貨である米ドルの方が良いとなるわけです。ですから現在のところ香港側が裏付け資産を米ドルから他の何かに変えるインセンティブはないです。
となると、現行の米ドルペッグが崩れる唯一想定される事態は、米国が米ドルと香港ドルとの自由な交換を認める香港政策法を改正して、香港ドルと米ドルの交換に制限を加える場合です。これは米中対立において米国側の最終手段として発動される可能性はあります。ただその際には当然人民元についても同様の制限を加えることが想定されるため、人民元と香港ドルにセットで交換制限を加えることになるでしょう。
この場合に、香港ドルは裏付けとなる資産を米ドル以外から探さなくてはなりません。日本円を裏付け資産にするという可能性もありますが、そこは米国のほうから、日本に対して裏付け資産にはしないようにとの強い要請をするでしょうから、これはないでしょう。
香港ドルHKD=D3は米ドルに対する変動幅を1米ドル=7.75-7.85香港ドルの狭い範囲に設定。香港金融管理局(中央銀行、HKMA)が香港ドルを売買し、値動きをこの範囲内に収めます。HKMAが香港ドルを買えば需給が引き締まり、香港ドルをショートにするコストが上昇します。HKMAが香港ドルを売れば逆になります。
ペッグ制を維持するため、香港の公定金利は米国の政策金利を上回るように設定されます。香港ドルがレンジ内ながら変動するのは、香港と米国の市場金利の差によります。香港の銀行間取引金利は米国の銀行間取引金利よりも高くなっているため、昨年の国安法に関連した資金流出の懸念にもかかわらず、香港ドルは堅調を維持していました。
米中間の緊張がエスカレートすれば米国が香港の銀行による米ドルへのアクセスを制限する可能性があるとの懸念もあります。そうなればペッグ制が揺らぐことになります。
香港は1997年に中国に返還されて以降、中国本土に比べた経済的な重要性は薄れましたが、金融面での存在意義は増しています。ペッグ制が本物の脅威に見舞われれば、脅威がいかなるものであっても、そうした存在意義は低下することになります。
中国政府が本土で厳しい資本統制を続けているため、香港が果たす役割は、主要な資金調達の経路から世界最大級の株式市場、中国本土の株式や債券に流入する国際投資の最大の入り口まで幅広くあります。
中国本土の富裕層も香港に信頼を置いています。1兆米ドル超と推定される香港の個人資産の半分以上は、本土の個人資産とされています。
現在は米ドルペッグを続けている香港ドルですが、香港基本法によれば、どの資産を裏付けとして使用することも可能です。実際に香港はドルペッグ以前には英ポンドにペッグされていたことや銀に紐づけて管理されていた時代があります。ですから今後、例えば香港ドルの為替レートを日本円にペッグさせる、人民元にペッグさせると言うことも法制度上は可能で選択肢に入ってくる訳です。
ただし現在、人民元は資本の自由移動に制限がありますから、現行の制度を活かす形で運用する場合には、香港側の選択肢に入らないはずです。では日本円を裏付け資産に使うかと言うと、それもまた基軸通貨である米ドルの方が良いとなるわけです。ですから現在のところ香港側が裏付け資産を米ドルから他の何かに変えるインセンティブはないです。
となると、現行の米ドルペッグが崩れる唯一想定される事態は、米国が米ドルと香港ドルとの自由な交換を認める香港政策法を改正して、香港ドルと米ドルの交換に制限を加える場合です。これは米中対立において米国側の最終手段として発動される可能性はあります。ただその際には当然人民元についても同様の制限を加えることが想定されるため、人民元と香港ドルにセットで交換制限を加えることになるでしょう。
この場合に、香港ドルは裏付けとなる資産を米ドル以外から探さなくてはなりません。日本円を裏付け資産にするという可能性もありますが、そこは米国のほうから、日本に対して裏付け資産にはしないようにとの強い要請をするでしょうから、これはないでしょう。
次の選択肢としては英ポンドに戻すという可能性もあるかもしれません。ただ、香港の一国二制度を破った中国に英国は業を煮やしており、それを許すことはないでしょう。もしくはこのような事態になれば、いよいよ中国が人民元の資本移動制限を外すかもしれません。
そうなれば裏付け資産は当然人民元が最有力候補ということにはなりますが、香港のドルペッグ制を停止した、中国の人民元をペッグ制の対象にすることはあり得ません。あるとすれば、現中国の体制が崩壊して、新たな体制になった場合のみでしょう。
そうなれば、中国は世界から膨大な資金の調達することが不可能になり、金融・経済はかなり落ち込むことになります。これは、予め予想されたことではありますが、米中の対立が続く限り、いずれこれは実行されるかもしれません。
なお、香港ドルペッグ制度の停止についてはは、すでに法律が定められており、議会の承認がなくても、大統領令だけで速やかに実行できます。まさに、バイデンの胸先三寸なのです。
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