今年の梅雨も各地で記録的な豪雨があり、静岡県熱海市では土石流も発生した。このところ毎年のように大規模な水害が起きているが、防災対策として何を優先すべきなのか。
筆者は毎週大阪で仕事があるので、東海道新幹線を利用している。熱海市の土石流は、新幹線のところまで来ていたので、そのあたりでは速度を落として通過している。たまたま車窓から土石流の跡を見ることができたが、想像以上のひどさだった。ネットでは別のところの土石流の映像もあり、被害のすさまじさがわかる。
原因については、上流にあった盛り土によるものかどうかなどさまざまな究明が待たれるところだ。
まずは、そうして解明された原因の除去が必要だ。これは、各種の規制・届け出などを改善することによって行われる。その上で、防災対策としての公共事業が切り札になる。
地域ごとに災害予測ができればそこに重点的な防災対策ができるが、現状では不可能だ。なので、毎年一定の公共事業予算をつけて、計画的に防災対策をせざるを得ない。
ここ3年ほどで、当初予算と補正予算を合わせた公共事業関係費は8兆5000億円程度だ。公共事業では社会ベネフィット(便益)がコスト(費用)を上回っているという採択基準がある。その基準を満たしている公共事業は建設国債を発行して実施可能だ。この意味で、国債発行額が予算制約になるのではなく、採択基準が公共事業の規模を決定する。
その採択基準において、ベネフィットもコストも将来見通しを現在価値化するために割引率を使うが、現時点では4%だ。ベネフィットは将来にわたって長く継続し、コストは遠い将来にはあまりないので、割引率が高いほどベネフィットに不利になり、採択しにくくなる。
割引率は15年ほど前に設定されたままとなっているが、本来は金利と同水準であることを考えてもあまりに異常である。
国土交通省関係者も、財務省に忖度(そんたく)しているのか、15年も放置しているが、インフラ整備への熱意があるのか、疑問を感じざるを得ない。
本来の割引率は期間に応じた市場金利であるが、海外では市場金利の変動に応じて、ほぼ毎年見直すのが当たり前だ。
これを現在の低金利環境を踏まえて機械的に見直すだけで、4%から1%程度以下になるはずで、となると公共投資予算について、これまでの倍増以上の大幅増が達成可能だ。
なお、ちなみにこの話は、予算事務の話なので、最近はやりのMMT(現代貨幣理論)とは無関係だ。この割引率4%問題を直さずにMMT思想に走るのは、本質をずらしているといわざるを得ない。
MMT思想をいくら主張しても、実際の予算実務で割引率を是正しないと、公共事業を行うことはできない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
筆者は毎週大阪で仕事があるので、東海道新幹線を利用している。熱海市の土石流は、新幹線のところまで来ていたので、そのあたりでは速度を落として通過している。たまたま車窓から土石流の跡を見ることができたが、想像以上のひどさだった。ネットでは別のところの土石流の映像もあり、被害のすさまじさがわかる。
原因については、上流にあった盛り土によるものかどうかなどさまざまな究明が待たれるところだ。
まずは、そうして解明された原因の除去が必要だ。これは、各種の規制・届け出などを改善することによって行われる。その上で、防災対策としての公共事業が切り札になる。
地域ごとに災害予測ができればそこに重点的な防災対策ができるが、現状では不可能だ。なので、毎年一定の公共事業予算をつけて、計画的に防災対策をせざるを得ない。
ここ3年ほどで、当初予算と補正予算を合わせた公共事業関係費は8兆5000億円程度だ。公共事業では社会ベネフィット(便益)がコスト(費用)を上回っているという採択基準がある。その基準を満たしている公共事業は建設国債を発行して実施可能だ。この意味で、国債発行額が予算制約になるのではなく、採択基準が公共事業の規模を決定する。
その採択基準において、ベネフィットもコストも将来見通しを現在価値化するために割引率を使うが、現時点では4%だ。ベネフィットは将来にわたって長く継続し、コストは遠い将来にはあまりないので、割引率が高いほどベネフィットに不利になり、採択しにくくなる。
割引率は15年ほど前に設定されたままとなっているが、本来は金利と同水準であることを考えてもあまりに異常である。
国土交通省関係者も、財務省に忖度(そんたく)しているのか、15年も放置しているが、インフラ整備への熱意があるのか、疑問を感じざるを得ない。
本来の割引率は期間に応じた市場金利であるが、海外では市場金利の変動に応じて、ほぼ毎年見直すのが当たり前だ。
これを現在の低金利環境を踏まえて機械的に見直すだけで、4%から1%程度以下になるはずで、となると公共投資予算について、これまでの倍増以上の大幅増が達成可能だ。
なお、ちなみにこの話は、予算事務の話なので、最近はやりのMMT(現代貨幣理論)とは無関係だ。この割引率4%問題を直さずにMMT思想に走るのは、本質をずらしているといわざるを得ない。
MMT思想をいくら主張しても、実際の予算実務で割引率を是正しないと、公共事業を行うことはできない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!
熱海の土石流と工事が関係あるかどうかは、未だ明らかにはなっていませんが、公共インフラの老朽化が全国で深刻な事態になっているのは明らかです。1960~70年代の高度成長期までに建設された多くの道路や橋、上下水道、建築物(公共施設)などが、いま一斉に更新の時期を迎えており、地震などがきっかけで危険視される市庁舎や橋が使用停止になる事例が多発しています。
公共事業には、様々なものがあります。具体的なイメージを思い浮かべていただくために、ここでは橋を例にとります。
日本では1950年代に大量の建設ラッシュが始まり(表1参照)、ピークの60~70年代には年間1万本近い橋を建設しました。第2次世界大戦後の復興から高度成長期に向かう時期であり、社会経済活動の基盤として次々と整備されたのです。この公共投資はわが国の高度成長の源になり、大きな意義があったと思います。
表1: 米国・日本の年次別橋りょう建設数の推移 |
しかし現在、これらの橋が老朽化しています。老朽化すると、使用停止や通行規制になる橋が増えます。2013年のデータでは、全国で使用停止が232本、通行規制が1149本あります。このままでは、崩壊に近づいていきます。高度成長期に集中投資した結果、老朽化も集中して起きているのです。
米国では日本より30~40年早い1930年代に橋の大量建設が始まりました。世界恐慌で落ち込んだ経済と雇用を下支えするため、ニューディール政策の一環として大量のインフラを建設したのです。80年代になると一斉に老朽化し、あちこちで事故が起きました。それと同じ状況が30~40年遅れて今日本で起きているのです。
日本全土に73万本の橋がありますが、日常的に管理されているのは比較的大規模な少数の橋だけです。予算がないために実態調査ができず、実態が把握できないために更新や維持補修の予算要求ができない、という悪循環に陥っています。
老朽化自体は当然起きることなので仕方ありません。問題は、むしろ老朽化を放置せざるを得ない、つまり十分な対策を取るための財源を用意しない、あらかじめ準備していなかったという点が問題なのです。
橋以外でも、建築物(公共施設)の破損や上下水道に起因する道路の陥没などが問題です。建築物の事例としては、病院や学校、図書館などでコンクリートが剥げ落ちる事故が起きています。内部の鉄筋がさびて膨張する爆裂現象が主な原因です。
2016年の熊本地震では、宇土市役所が崩壊寸前となり、東日本大震災では震度6以下だった福島県庁や水戸市役所、郡山市役所などの庁舎が使用停止になりました。地震がきっかけでしたが、根本的な原因は老朽化にあります。
1981年の建築基準法改正で震度7での耐震性が求められるようになりましたので、多くの施設は耐震補強されましたが、耐震補強だけでは寿命が延びるわけではありません。大規模改修や更新をしなければ安全性を維持できないということです。
建築物の老朽化は首都圏と近畿圏で特に顕著です。東京五輪(1964年)や大阪万博(1970年)など、公共投資を集中的に実施するタイミングが、他地域より早かったためと考えられます。
下水道管の損傷に起因する道路の陥没は現在、全国で年間3000件以上起きています。上水道管は水圧がかかっているので管に若干の亀裂が生じただけで破裂し、地面から噴き出します。下水道管は、圧力はかかっていませんが、一度穴が開くと下水がじわじわ流出して空洞を広げ、道路の陥没を引き起こします。
2016年の博多駅前の大陥没 |
2017年3月時点で「個別積み上げ方式」により、公共インフラの種類別(建築物、道路、橋、上下水道管、浄水場、下水処理場、空港、港湾、病院、ごみ処理場、機器類)の物理量にそれぞれの更新単価をかけて算出した金額によれば、最も金額が大きい建築物は年額4.63兆円、道路1.32兆円、橋0.42兆円、上下水道3.03兆円で、その合計が9.17兆円です。放置しておけば、これが永遠に続きます。50年間であれば459兆円となります。9兆円は毎年の国家予算の約1割にも相当する大きな金額です。もしインフラの補修や更新が行われなかった場合どういうことになるでしょうか。
予想されるのはインフラの故障や使用停止です。橋やトンネルは崩壊の危険が高まって通行禁止になり、交通や物流がマヒします。庁舎や公民館、ホールなど多くの公共施設も使えなくなり、住民サービスは機能不全に陥ります。いたるところで赤さびた歩道橋、でこぼこの道路といった光景を目にすることになります。上下水道や公共施設の使用料は大幅に値上げされるでしょう。
こんなふうに都市機能が損なわれると、日本の最大のセールスポイントである「安全」が脅かされます。海外からの観光客は激減し、外資系企業などが日本から撤退する事態も起こりかねません。
冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり、公共事業採択基準であるB/C(ベネフィット/コスト)の算出で重要な割引率がここ15年間4%とあまりに高すぎます。これで公共投資は本来の半分以下の過小投資になってきたのです。これを見直すべきなのです。
公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(ベネフィト・コスト比)基準が導入されています。これが1以上ならいい公共投資、1未満なら悪い公共投資と、定量的判断ができます。
B/C基準の割引率が採択基準に影響を及ぼすのです。この割引率とは、金利のような計算がそのなかに入っています。金利と置き換えても良いです、国交省では「金利で4%」という基準で判断しているのです。
予想されるのはインフラの故障や使用停止です。橋やトンネルは崩壊の危険が高まって通行禁止になり、交通や物流がマヒします。庁舎や公民館、ホールなど多くの公共施設も使えなくなり、住民サービスは機能不全に陥ります。いたるところで赤さびた歩道橋、でこぼこの道路といった光景を目にすることになります。上下水道や公共施設の使用料は大幅に値上げされるでしょう。
こんなふうに都市機能が損なわれると、日本の最大のセールスポイントである「安全」が脅かされます。海外からの観光客は激減し、外資系企業などが日本から撤退する事態も起こりかねません。
冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり、公共事業採択基準であるB/C(ベネフィット/コスト)の算出で重要な割引率がここ15年間4%とあまりに高すぎます。これで公共投資は本来の半分以下の過小投資になってきたのです。これを見直すべきなのです。
公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(ベネフィト・コスト比)基準が導入されています。これが1以上ならいい公共投資、1未満なら悪い公共投資と、定量的判断ができます。
B/C基準の割引率が採択基準に影響を及ぼすのです。この割引率とは、金利のような計算がそのなかに入っています。金利と置き換えても良いです、国交省では「金利で4%」という基準で判断しているのです。
このような基準は、本来「市場金利を見ながら毎年変わる」というのが当たり前なのです。それを普通に計算すると、いまは0.5とか1なのです。採択基準を変えるだけで公共事業が2倍〜3倍くらいになりますし、そうすべきなのです。
そもそも、4%の利回りを市中で求めたたとしても、多くの人がご存知のように、現在の低金利時代にそれを求める事自体が奇異と受け取られるでしょう。
この4%の割引率で考えると、よほど利益が上がるような仕事ではない限り、公共事業はできないということになります。これは逆に言うと、「やるべき公共事業を抑えているように見えますよ」といえます。4%もの利回りが見込めるなら、公共事業でやらなくても民間が率先してやるはずです。そもそも、基準がずれすぎているのです。毎年金利が変わるのですから、この手の話は毎年割引率変えるのが当たり前です。
まともな国では、長期金利から機械的に計算するのが普通です。そのために財源として、建設国債などもあるわけであり、本当B/C基準と連動しているべきなのです。いくら何でも15年も据え置きというのはないだろうというレベルの話です。
金利と連動していれば、その時々で適正な公共工事などが実施でき、現在のようなすさまじいインフラの老朽化も防げたかもしれません。さらに、国債を大量発行したとしても、それで財政破綻することはないことをこのブログでも何度か掲載してきました。そのあたりは、ここで掲載すると長くなるので、他の記事に譲ることとします。
何かといえば、「財源がー」と叫び、インフラの老朽化を結果として放置するのは本当に罪深いことです。このようなことは、すぐにやめるべきです。
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