2021年8月30日月曜日

自民党総裁選「大ピンチ」の菅首相に残された「勝算」はコロナ対策にある―【私の論評】自民党政権は、コロナ感染症に負けない強靭な社会の構築を目指さなければ、2009年のように政権交代を許してしまいかねない(゚д゚)!

自民党総裁選「大ピンチ」の菅首相に残された「勝算」はコロナ対策にある

行動制限「一本槍」はもうやめるべき

 第5波にはピークアウトの兆候

8月24日から、東京2020パラリンピックが始まった。その一方で、国内では政局がすでに動き始めている。これから自民党総裁選、そして衆院選挙を迎えることになる。自民総裁選は、9月17日告示、29日投開票だ。 

菅政権支持率は新型コロナの感染状況と見事に逆相関になっているので、調査によっては危険域といわれる30%を割り込んでいる。


 今後の政局を占う上でも、今後の新型コロナの感染状況を見てみよう。

 まず、全国の先行指標とも言える東京都では、第5波は既にピークアウトした可能性がある。日々の新規感染者だけではなく、その一週間前との差をみると、下表になる。


日々の新規感染者の増加は明らかに鈍化している。上表をみると、ピークは8月18日前後である。 

この分析は、一般的に統計学で用いられるが、最近話題の「再生産数」と基本的には同様のものだ。もちろん、これらの数字は単に過去を反映したものであり、将来について断言はできないが。

 マスコミも煽れなくなっていく

検査の陽性率も低下している。そのピークは8月15日前後だ。過去のデータを見ると、陽性率と新規感染者数にはかなりの相関関係がある。 


最近の陽性率の低下も、第5波のピークアウトの可能性を示唆している。

全国の新規感染者数のデータでも、東京都と似たような傾向が出てきている。ピークは、東京より一週間程度遅れの8月26日前後の可能性もなくはない。 


こうなると、さすがにマスコミが煽りたくても、「新型コロナ感染者数が過去最高」という常套句が使えなくなる。そこで、重症者数が過去最高と最近は言うようになった。 

しかし、重症者数は感染者数の遅行指標であり、だいたい2週間程度遅れる。なると、東京において重症者数が過去最高と言えるのは、あと1週間程度ではないかと筆者は予測している。

 全国の数字では、やはり遅効性のある東京以外で新規感染者数過去最高というだろう。そのうち、○○県では重症者数過去最高というだろう。

 ここで、ちょっと大胆な推計をしてみよう。もちろん、でている数字よりもかなりの幅をもってみてほしい。

 各地の緊急事態宣言は9月12日まで行われる予定だ。そのときには、東京都の新規感染者数は。500~1500人程度になっている可能性がある。東京都に今回の緊急事態宣言が出された7月12日と同じか、若干多い程度だ。それで、緊急事態宣言の解除となるかどうか。

 菅陣営にも勝算がある理由

東京都の新規感染者数について、自民党総裁選の告示日である9月17日には1000人を割り込み、投開票日の29日には500人程度になる可能性がある。前例で言えば、緊急事態宣言解除の目安になる数字だ。

 全国については、17日には10000~15000人程度、29日は2500~5000人程度になるかもしれない。 

この大胆な推計は、今では苦戦が強いられている菅陣営にも勝算があることを意味している。菅政権の支持率は、新型コロナの感染者数と逆相関である。であれば、新型コロナの感染が収まるにつれて、菅政権の支持率は高まる可能性があるからだ。

 新規感染者数は、新型コロナ対策としてはあまり意味がないが、政治的にはまだ意味がある。いずれにせよ、自民党総裁選でも、新型コロナ対策がカギにならざるを得ないだろう。


 自民党総裁選で、是非論点にしてもらいたいのが、憲法改正だ。新型コロナ対策で明らかになったのは、憲法改正してこなかった日本ではまともな有事対応ができないことだ。

 新型コロナ感染者の増加を受けて、全国知事会がロックダウン(都市封鎖)のような強い措置を検討すべきと政府に要望している。政府分科会も同じように要望している。現状の緊急事態宣言とロックダウンは違うのか、日本の現在の法律でどこまで可能なのか。

 1年半前海外からの新規株が流入しているときも、どうして入管で入国拒否できないのか、一定期間隔離できないのか、と疑問があった。そのときからの話が1年半ぶりにぶり返した。

 ロックダウンは一般人に対する罰則つきの行動規制(移動制限)があるが、現状の緊急事態宣言では一般人に対する行動規制は、罰則がなくお願い、自粛要請でしかない。

 行動制限「一本槍」に意味はあるのか

なぜ日本では罰則つき移動規制でなく自粛なのか。それは移動の自由は基本的人権として憲法22条で認められているが、その制限には公共の福祉では不十分で、緊急事態条項などの憲法上の規定が必要だからだ。先進国では緊急事態条項があるが、日本では憲法改正しなかったのでその条項はない。日本でロックダウンが行えない理由だ。

 もっとも、今の日本の憲法でも、私権制限がまったくできないわけではない。憲法の中の公共の福祉を活用して一部の私権制限は可能だ。

 日本の場合、飲食店などの一部業界については、限定的な規制ができる。筆者は、一般人に対する行動制限は憲法改正しないと厳しいと思うが、一部の免許業種では、公共の福祉による限定的な制限ができると考える。

 それは、免許条件で付せばいい。免許業種はしばしば「お上」に従うが、それは免許条件に反し免許を剥奪されると困るからだ。筆者も役人時代、法律に書き込めないものは、免許条件で対応した経験がある。

 全国知事会や政府分科会は、まず一般人の移動規制をいっているようだが、それは憲法上のハードルが高い。もちろん憲法改正も議論すべきであるが、より即効性があるのは免許業種に対する行動規制だ。

 特に、医療従事者には、医師法が適用できるのだから、免許条件で緊急時に政府や各都道府県知事の指揮命令に従うことを検討してもいい。

 さらに、今の新型コロナ対策での感染抑制一本槍も改めるべきだ。

 結局この1年半で医療体制は強化されたのか

今回、バッハ会長が再来日したが、それについても批判が出ている。

 25日午前の衆院厚生労働委員会での、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の発言が典型だ。

 立憲民主党の尾辻かな子氏からの質問に西村氏が答える際に、尾辻氏は「バッハ会長が、人々にテレワークを要請してる時に、また来るんです。バッハ会長の挨拶が必要なら、なぜ、オンラインでできないのか」と疑問視。「国民に(不要不急の外出の自粛を)お願いしてるんだったら、オリンピックの会長、なんでわざわざ来るのか」と批判した。

 25日午後の衆院議院運営委員会でも、西村康稔経済担当相も、「国民感情に配慮すべき」と尾身氏と同様で、感情的な発言をしている。

 バッハ会長は既にワクチンを2回接種している。もちろん、ワクチン接種者でも感染リスクはあるが、未接種者と比べるとはるかに低い。世界中の国で、海外渡航用のワクチンパスポートを導入している。日本も7月末から導入した。

 さらに、公共施設や飲食店入店において、ワクチン接種済み証の提示を求める動きも世界に広がっている。つまり、ワクチン接種者は、世界ではどこでも行動は原則として自由になっている。しかし、日本ではワクチン接種済み者の入国でも一定の制限を課している。 

尾身会長は、ここ1年半くらい感染者の拡大を防ぐために行動制限一本槍だった。1年以上前から、医療体制強化のための緊急包括支援交付金や新型コロナ患者入院確保のための緊急支援事業などにより予算は確保されていたが、未消化であったり、補助金を受けていても実際に患者受け入れを怠るなど、医療の供給体制は強化されていない。

 合理的に考え、社会を回していくべき

この点について、尾身会長は1年以上前には何ら発言をしてこなかったのに、今頃になって「臨時のプレハブ施設でもいい」といっているのはかなり無責任だ。

日本でもワクチン接種はかなり進んでいる。27日時点で、少なくとも1回接種は国民の55%、2回接種も44%になっている。

となると、政府、尾身会長もワクチン接種者をどのように社会の中で活用すべきかを考えたほうがいい。民間のソフトバンクは、プロ野球でワクチン2回接種者にチケット販売すると発表した。 

ワクチン接種者のバッハ会長に、挨拶をオンラインでして、来日するなと言うのは、まるでバッハ会長をウイルス感染者であるかのような言い方だ。 

ワクチン接種者と未接種者を同一視し感情的に反応するよりも、(差別ではなく)区別して合理的に考え、社会を回すことを考えたらどうか。

【私の論評】自民党政権は、コロナ感染症に負けない強靭な社会の構築を目指さなければ、2009年のように政権交代を許してしまいかねない(゚д゚)!

上の記事で、ワクチン接種者と未接種者を同一視し感情的に反応するよりも、(差別ではなく)区別して合理的に考え、社会を回すことを考えたらどうかという主張は正しいと思います。

そうして、その行き着く先は、先日もこのブログで述べたように、コロナ感染症に負けない強靭な社会を構築することです。多少感染者が増えたにしても、重症者、死者を増やすことなく、自粛などもしないですむ社会を構築することです。

それについては、以前このブログでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。
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新型コロナウイルスの構造

詳細は、この記事をご覧いただくものして、この記事では、新型コロナをインフルエンザと同じように扱えるようにすべきことを主張しました。そのためには、現在重症化リスクのある患者に限って適用できる、抗体カクテル療法などを、医師の判断によって、抗インフルエンザ薬のように用いることができるようにすべきことを述べました。

そうなれば、コロナウィルスを撲滅することには長い時間がかかるかもしれないし、場合によっては、永遠に撲滅はできないかもしれませんが、それでも感染症で多くの人が重症化し亡くなることの無い、社会経済活動を制限しなくてもすむ強靭な社会を構築できるようになります。

まさしく、このようにして、日本社会をコロナ感染症に負けない社会を構築すべきなのです。この方向に菅政権が舵を切り、さらにコロナで痛めつけられた、経済をいちはやく回復させるために、効果のある財政出動ならびに大規模な金融緩和を行うべきなのです。

これは、英米などではすでにその方向に向けて動きだしています。シンガポールもその方向に向けて動いています。

日本だけが、行動制限「一本槍」に固執していれば、とんでもないことになります。感染症ではないですが、これに似たようなことは以前にもありました。

それは、リーマンショックです。リーマンショック(2008年)の原因はいうまてもなくサププライムローン問題ですが、日本はその頃はデフレ真っ只中で、日本の証券会社などには、サブプライムローンなどに手を出すような余力はありませんでした。

ですから、本来日本はリーマンショックなどで悪影響など受けるはずはなかったのです。しかし、現実には大きな悪影響を受けました。

それは、何に原因があったかといえば、当時の日本は日本経済がどうであろうと、とにかく増税などの緊縮財政を続けたことと、日銀は、金融引締策を実行したことに原因がありました。

リーマンショックで直接悪影響を被った国々が、大規模な金融緩和、財政出動を行ったにもかかわらず、日本では日銀は金融引締、財務省は緊縮財政をつづけたわけですから、日本はより深刻なデフレ・円高に見舞われたのは当然のことでした。

このような有様でしたから、本来日本はリーマンショックなどとは無縁だったにもかかわらず、リーマンショックの直撃を受けた多くの国々がいちはやく経済を回復させたにもかかわらず、日本は長期にわたって回復せずに、一人負けの状態となりました。

今回のコロナ対策でも同じことです。他国か、コロナに負けない強靭な社会を目指し、経済対策も、大規模な金融緩和、財政出動を行っているときに、日本だけが、それを行わず、行動制限「一本槍」に固執しつづければ、リーマンショックの再現になります。

他国は、コロナに負けない強靭な社会を構築し、経済も素早く回復するなか、日本だけが税字訳な社会の経済も回復せずとんでもないことになってしまいます。

それを回避するためにも、菅政権はコロナに負けない強靭な社会の構築を目指すことと、物価目標2%を達成するまでは、実効性のある財政政策を重視することとを宣言し、実行すべきです。

そうすれば、菅総理に「勝算」の目が出てくることになります。それをせずに、行動制限「一本槍」に固執しつづければ、リーマンショックの二の舞になります。

それこそ、菅政権どころか、自民党が危なくなります。リーマンショックの頃のように、社会は閉塞感にさいなまされることになり、その結果として、民主党に政権交代をゆるしてしまった2009年を再現することになりかねません。それだけは、回避すべきです。

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