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岡崎研究所
バイデン大統領は、中国との競争を米外交の第一優先事項に正しく位置づけている。最初の政策文書では、中国につき「経済、外交、軍事、技術力を組み合わせて安定し開放的な国際システムに挑戦しうる唯一の競合国」と言明し、バイデンも出席した6月のNATO首脳会議の共同声明は初めて「中国の台頭は全ての同盟国にとり安全保障上の意味を持っている」としている。中国は、冷戦時代のソ連と類似した役割を果たす面も出てくる。そうすると、ニクソンが冷戦時代にソ連に対抗すべく共産党の中国を取り込んだこととの類推から、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきであるとの意見が出てくる。
これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。
・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。
・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。
・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。
・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。
・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。
このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。
バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。
ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。
ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。
これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。
・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。
・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。
・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。
・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。
・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。
このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。
バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。
ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。
ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。
【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!
このブログでも何度か述べてきたように、現在のロシアは旧ソ連の軍事技術や核兵器を継承している国であり、その点では侮ることはできませんが、GDPは韓国なみであり、もはやかつてのソ連のような超大国でないのは確かであり、大国とすら呼べない国になっています。
現在のロシアは、米国なしのNATOと戦争したとしても、勝つことはできないでしよう。持ち前の軍事技術を活用して、初戦には勝つこともあるかもしれませんが、その後は経済力に優れるNATOがロシアを圧倒するでしょう。
ロシアはもう大掛かりな戦争はできません。ウクライナなどの先進国以外の国とであれば、勝つみこみもありますが、先進国に勝つことはできないでしょうし、ましてやNATOと現在のロシアとでは、勝負は最初からついています。
そもそも、ロシアは大戦争を開始してしまえば、その経済力からみて、兵站を維持できません。今年の5月にそれを如実に示すような事態が発生しました。
それについてはこのブログでも解説したことがあります。その記事のリンク以下に掲載します。
ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!
4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、 軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相 |
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。
ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。
この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。
旧ソ連のまだ衰退する前のソ連であり、GDPが米国に次ぐ世界第二位であった頃のソ連であれば、似たような事態(当時はウクライナはソ連邦に属していた)があれば、半年でも1年でも、他国の国境付近に軍隊を駐留させて、軍事演習をしていたかもしれません。
現在のロシアにはそれはできません。経済力がないので、兵站を維持できないからです。現代の陸軍2万人規模の一個師団であれば、1日で2000トンの水・食糧・その他を消費します。空軍が陸軍の一個師団を火力支援するなら、一日で弾薬も含めて4000トン消費するのです。つまり、セットで6000トン消費するのです。
作戦規模が大きくなれば、5倍や10倍の消費になるのは当たり前です。この消費に耐えるように、各国は常に生産・輸送・備蓄・補給を行います。消費と同時に備蓄も進めるので、生産ができなければ対応困難となります。このようなことは、現在ロシアには到底できません。軍事演習は実際に他国の軍隊に対して、武力攻撃しないだけであり、後は実戦と同じです。
ロシア海軍ミサイル巡洋艦ヴァリャーグ |
上で述べたようにロシアがウクライナ国境にロシア軍約10万人を配置して軍事演習を行うと、1日で1万トンもの水・食糧・その他を消費することになります。これを長く続ければ、どうなるか考えてみてください。
だからこそ、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じたのです。
現代のロシアが、いまのままで対中のために、米国がロシアを取り込んだとしても、中国にとってロシアはもはや大きな脅威ではないということです。
それに、経済力に劣るロシアを米国が取り込めば、今度は米国がロシアの面倒をみなければならなくなります。米国は、ロシアに対して様々な面で経済や軍事的援助を行わなければならなくなるでしょう。
そもそも、ロシアは中国と長い国境を接しており、中国の人口が14億人、ロシアのそれは1億4千万人に過ぎません。特に中国と国境を接する極東地域の人口密度はかなり低いです。中国と対峙することは、ロシアにとって大きな脅威となることでしょう。
このようなことをロシアが自ら、招くようなことはしないでしょう。ただし、米国の戦略家ルトワック氏は、ウクライナ危機で中国とロシアの接近は氷の微笑だと分析しています。
米国の戦略家 エドワード・ルトワック氏 |
本質的には、ロシアと中国は同盟関係になることはなく、互いに敵対関係にあるとみるべきです。だからこそ、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきという考えもでてくるのです。
しかし、現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけです。仲間に引き入れるとすれば、今後ロシアが経済成長をするとともに、中国が経済的に疲弊し、中露の経済が拮抗するようになった場合でしょう。
その時は今ではないことは確かです。プーチンがロシアを支配している限りは、その時はきません。ロシアでも、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、中間層が多数排出され、それらが自由に社会・経済活動を行えるような素地ができあがれば、話は変わってきますが、現状では全く無理です。
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