2020年9月19日土曜日

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立


 中国の投資会社が今月、ウクライナの航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の株式の過半数を取得しながら同国政府の妨害で経営に関与できず巨額の損害を被ったとして、同国政府に賠償を求める訴訟を起こすと警告した。中国は同社の軍用エンジン技術の取得を目指しているとされ、米国はウクライナに技術流出への懸念を伝達。事態は中国の軍事技術獲得へのこだわりと、激化する米中対立を浮き彫りにした。

  ウクライナ最大の民間通信社ウニアンが18日までに報じた。同国政府に訴訟を警告したのは中国企業「北京天驕航空産業投資有限公司」(スカイリゾン)。同社の王靖代表は中国共産党や人民解放軍に近いとされる。警告で同社は、ウクライナ政府の妨害で議決権が行使できず経営に障害が生じ、35億ドル(約3700億円)超の損害を被ったと主張。事態解決のための交渉を同国政府に要求し、応じない場合は賠償請求訴訟を起こすと警告した。提訴先の裁判所や請求額などは明らかになっていない。

  モトール・シーチはウクライナを代表する大企業で、旧ソ連時代からソ連と後継国ロシアに軍用機やヘリコプターのエンジンを供給。しかし2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合でロシアとの取引が困難となり、経営が悪化した同社は17年、中国企業と合弁工場の設立計画に合意するなど中国との取引を拡大させていた。

  ウクライナ治安当局は同時期、モトール・シーチと中国の関係について捜査に着手。その結果、同社株式の計56%がスカイリゾンなど複数の中国企業に取得されていたことが判明した。治安当局は国家の安全保障リスクを理由に、取得された株式に基づく議決権の一時凍結などを同国の裁判所に請求し、認められた。 

 一連のウクライナの動きの背後には、ウクライナが対ロシアの後ろ盾とする米国の意向がある。昨年8月に同国を訪問したボルトン米大統領補佐官(当時)は「中国との取引には技術流出のリスクがある」と懸念を表明。ポンペオ国務長官も8月末、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で「モトール・シーチ獲得への努力を含む、中国によるウクライナ投資に懸念を提起した」と発表した。

  中国は活発な軍用機開発を進めているが、エンジン技術に課題を抱えるとされ、過去にも輸入したロシアの戦闘機エンジンの盗用などが指摘された。モトール・シーチの技術を獲得した場合、中国のエンジン技術の向上は確実とされる。

  モトール・シーチをめぐっては現在、ウクライナ政府が買収を阻止する方策を検討している。ただ、株取引自体は成立済みで、取引の無効化は法的に困難とみられている。仮に取引を無効化した場合でも、中国側からさらなる賠償を請求される可能性が高い。

  事態を報じた露経済紙ベドモスチは「ウクライナは米国の不興を買うか、中国に巨額賠償を支払うか二択にさらされた」と伝えた。

【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国は、以前から独力ではまともなジエット・エンジンを製造できないと言われていましたが、改めてそれ事実が暴露されたともいえます。

中国は2016年10月、ロシアから戦闘機用エンジン「AL-31」と、爆撃機や輸送機用エンジン「D-30」を輸入しました。総額10億ドル(約1150億円)に上る契約を締結しました。この契約で、中国は3年以内に、ロシアから合計約100台のエンジンを入手することになりました。

中国は10年から、D-30エンジンを調達していて、人民解放軍の「轟-6」爆撃機や、「運-20」輸送機に搭載しています。

また、1990年代から、AL-31エンジンを搭載した「Su-27(スホーイ27)戦闘機」「Su-30(スホーイ30)戦闘機」を輸入してきました。2000年代からは「殲-10(J-10)」(=イスラエルの支援を得て開発した国産戦闘機)や、「殲-11(J-11)」(=Su-27をライセンス生産した戦闘機)にも、AL-31が搭載されるようになりました。

中国は、国産エンジン「WS-10」の開発を進めてきたのですが、期待通りの性能を達成できず、ロシア製のAL-31を使わざるを得ない現状がありました。一方で、WS-10の後継であるWS-15の開発を進めていて、国産エンジン開発に執着していました。

中国は「WS-10」国産エンジンを「J-15」戦闘機に搭載したが、まともに使えなかった

2018年には、元米上院外交顧問が、ウクライナによる中国への軍用ジェットエンジンの供与について、「背信行為」だとして抗議しています。

8月14日に中国国営メディアが、中国の新型ジェット練習機「洪都 JL―10」の公開を報じました。JL―10練習機は、中国海軍の空母パイロットの訓練に使用されると公式に中国軍が発言しています。

ワシントンタイムズ紙(2018年8月15日付)によると、中国政府が発行する英字メディア・チャイナデイリー(中国日報)には、最初の12機のJL―10練習機がウクライナのジェットエンジンを使用していることがご都合主義で書かれていないとしました。

中国の軍用ジェットエンジン技術は、ここ約十年にわたって中国軍の大きな弱点のひとつと言われてきた分野です。

現在はそこまで酷くはないでしょうが、2016年あたりまでは、中国の戦闘機の稼働率は20%ともいわれていました。国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちでこのようなことになっていたと思われます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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中国j11戦闘機

この記事は、2016年8月11日木曜日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、稼働率が20%とは何を意味したのか、その部分のみを以下に掲載します。
保有していても稼動しないのは飛べないので、存在しないのと同じです。航空自衛隊の稼働率90%、従って実数は315機です。中国空軍の稼働率推定20%、従って実数は50機です。

日本と中国が尖閣諸島で戦う時には、日本の315機が中国の50機の戦闘機と戦う事になるのです。これも、中国が本格的に尖閣に攻めて来ない理由なのです。

しかしながら、日本は中国機のスクランブルできりきり舞いさせられているということも報道されています。あれは、いつどこに来るか前もってわからないことと、中国は戦力外といいながらも多数の戦闘機を持っているからです。 

当時、中国は1450機の戦闘機・攻撃機を有しているといわれてましたが、旧式の戦力外の戦闘機を除外すると、当時は実際に稼働できる機体は50機程度と考えられました。これに対して、日本の航空自衛隊の戦闘機の実数は少ないですが、稼働率が90%なので315機が実働していたのです。

この状況は現在では、改善されてはいるでしょうが、稼働率はあいかわらず低いでしょう。なぜなら、国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちと言う現実はそう簡単に改善はできないからです。

この状況をなくすためにも、中国はモトール・シーチを何としても手に入れたいのでしょう。

しかし、米国もこれについては以前から反対していました。ワシントンタイムズ紙によると、2016年に中国の12機のJL―10練習機のために、ウクライナは20基のエンジンを販売しました。同紙によると、トランプ政権がウクライナに圧力をかけて、他の軍用製品の譲渡と同様に、中国へのエンジンの販売をやめさせるべきだと批評家たちが主張していたといいます。

中国のジェットエンジン生産問題を解決するためウクライナが支援している、と米国の中国専門家で元アメリカ合衆国上院外交顧問のウィリアム・トリプレットは抗議しています。

「中国海軍のパイロットが空母への着艦を学ぶペースを加速度的に早くする手助けをすることを、米国は望まない」とトリプレットは不満を述べています。ウクライナのエンジンで飛行する空母パイロット用中国ジェット練習機が公開されたのは、米国国防総省がウクライナ軍を援助するために2億ドルを提供すると発表してから、わずか1カ月後のことでした。

一方、環球網(2018年8月20日付)によると、ウクライナ急進党党首オレグ・リャシコ議員が、批判に対して反論しています。リャシコ議員はフェイスブックで次のように発言しました。

「ウクライナのモトール・シーチ社の航空機エンジンが中国に売られるのを、米国人が批判している。けれども、ウクライナが中国に航空機エンジンを売るのを米国人が嫌がるのなら、米国がウクライナの航空機エンジンを買うべきだ。ウクライナが中国に売ることを禁止しながら、米国が買わないのなら、モトール・シーチ社は破産するしかなく、高度な技術を持つ数千人のウクライナ人が失業することになる」。

かつて、ウクライナはソビエト連邦の一部として、多くの軍需にかかわる製品を製造していまし。しかし、ソ連が崩壊し、ウクライナの軍需産業はソ連という最も重要な顧客を失いました。

ソ連崩壊後に至っても、多くの軍需品をウクライナはロシアに供給していたのですが、2014年のロシアによるクリミア併合ではじまったウクライナ危機で、ウクライナとロシアとの軍事産業分野での断絶は決定的なものとなりました。内需の少ないウクライナの軍需産業は、製品の販売先の大部分を海外の顧客に頼っていました。

ロシア軍事アナリスト小泉悠氏は、日本語ウェブメディアJBpress(2014年4月24日付)『ウクライナで軍事技術流出の危機』で、次のように書いています。「ロシアがウクライナに依存していたのと同様、ウクライナもまた、ロシアに大きく依存していたわけだが、両国の断交が今後も続けば、ウクライナ軍需産業がたちまち苦境に陥るであろうことは容易に想像がつく。(中略)そこで懸念されるのが、技術流出である」。

ウクライナの中国への軍需品の提供は多岐にわたっています。ウクライナから製品そのもの、もしくはライセンス生産などで中国に提供された軍需品としては、航空機や軍用ヘリコプター用のエンジン、戦車用ディーゼルエンジン、軍艦用のガスタービンエンジンをはじめ、その他多くのものが存在します。

 世界最大のウクライナ製貨物輸送機「アントノフ An-225 ムリーヤ」。モトール・シーチのエンジンを
 6発搭載し、サイズはジャンボジエットの倍。元々はソ連製スペース・シャトル運搬用に作られたという

中国の空母である「遼寧」は、元はソ連の未完成空母「ヴァリャーグ」だったのは、よく知られているところです。ヴァリヤーグはウクライナの造船所で建造されていました。ソ連が崩壊すると、ヴァリヤーグは完成に至らず放置されていたのですが、それをスクラップとして中国が購入し、完成させたのが現在の中国空母遼寧です。

多維新聞(2017年9月4日付)によると、ウクライナの技師バレリー・バビッチ氏が、中国の空母遼寧の再生・建造においてコンサルタントをしたといいます。バレリー・バビッチ氏は、ウクライナの造船事業で働いていた設計技師です。

しかも、遼寧の前身である空母ヴァリヤーグの建造においては、バビッチ氏は同空母の設計技師長を勤めていたといいます。バレリー・バビッチ氏はソ連時代の数多くの空母や巡洋艦の設計・建造のブレインとして高く評価されていた人物です。

日本としては、この出来事を対岸の火事とみるべきでしょうか。私はそうは思いません。他山の石と見るべきと思います。

現在、日本の技術は中国をはじめとして、世界中で使われています。たとえば、工作機械などは、日本とドイツの機械が世界のシェアのほとんどを占めています。ただし、日本の工作機械のほうが、故障も少なく小回りが効き使いやすく、この点に関しては日本の工作機械は独壇場と言っても良いです。

これがなければ、中国もロシアも他の世界中の国々も、半導体は無論のこと、高度な航空機や船舶、乗用車、戦車などや、その部品を等を作成することが困難になります。

これがなければ、おそらくロシアも中国もまともに戦闘機を含めた、軍需品などを工作できなくなるでしょう。そうなると、米国は軍事的にかなり有利になります。

ただ、現状では、米国が中国に対して冷戦を挑んでいるとはいえ、米中のデカップリングがまだ進んでいない部分も多く、また日本も日本の高度な技術の詰まった機器などを中国だけではなく、世界中に供給しているので、米国等も日本がこれらを中国に輸出していることを批判したり、やめさせようとはしていません。

しかし、米中デカップリングが進んだときに、日独が中国への製品輸出をやめなければ、中国を利するとして、現在ウクライナが米国の不興を買いつつあるような事態に追い込まれることも十分に考えられます。そのような事態になる時期は、意外と近いかもしれません。

ただし、ウクライナの輸出先は、元々ロシア向けがほとんどだったことと、最近は中国にシフトしていたということで、元々世界中に輸出していた日独が、ウクライナのような危機に至ることはないでしょうが、それにしても日本はウクライナを他山の石として、いまから米中デカップリングに備えるべきです。

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