2020年9月13日日曜日

【総裁選ドキュメント】内閣人事局変えずと菅氏「政策反対なら異動」―【私の論評】内閣人事局はあって当然、菅政権にはさらに本格的な省庁再編を実行すべき(゚д゚)!

 【総裁選ドキュメント】内閣人事局変えずと菅氏「政策反対なら異動」

菅官房長官

 自民党総裁選に立候補した菅義偉官房長官は13日のフジテレビ番組で、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局に見直すべき点はないと明言した。政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は「異動してもらう」とも強調した。他の2候補者と出演したフジテレビ番組で発言した。

 内閣人事局は平成26年5月に内閣官房に新設された。幹部人事を掌握するため、官邸主導の意思決定を後押しする一方、官僚の忖度を生む要因と指摘される。

 続くNHK番組でも、菅氏は、査証(ビザ)の要件緩和が訪日外国人増加につながったとして「官邸主導でなければできなかった」と語った。

 これに対し、石破茂元幹事長は「官邸が言っているから誰も止められない。そういうことは決して良いと思わない」とくぎを刺した。岸田文雄政調会長も「権力は鋭利な刃物のようなものだ。使い方を間違えてはならない」と訴えた。

【私の論評】内閣人事局はあって当然、菅政権にはさらに本格的な省庁再編を実行すべき(゚д゚)!

菅官房長官の語っていることは、きわめてまともで常識的なものです。これに石破氏や岸田氏が意見していますが、とんでもないです。

そのようなことは、会社組織で考えればわかることです。会社でも、たとえば、経理部長、財務部長、人事部長、総務部長などの幹部の人事は最終的には取締役会で承認を得なければなりません。

大企業だと、経理部長、財務部長の他に経理担当取締役や財務担当取締役がいたりします。中小企業だと。経理部長兼経理担当取締役と、両方を兼任している場合あります。この場合、見かけ上は会社には、社長と部長しかいないという形式になります。

政治の世界では、各省庁の事務次官が部長であり、大臣が取締役と考えると、対比しやすいと思います。

地方都市などには、大企業がなく中小企業がほとんどのところも多く、そうなると表面上会社には、社長と部長しかないということになりますが、それでも取締役と部長を兼任しているという形で取締役がいるのが普通です。

政治に関する組織と、民間企業の組織は単純には比較できませんが、各省庁の事務次官は、企業でいえば、部長に相当します。内閣人事局は取締役会の人事機能のように幹部の人事を担っているといえます。

企業で、取締役会に人事機能がなくなり、人事部あたりが決めるということにでもなれば、とんでもないことになります。そんなことをすれば、人事部の権限があまり大きくなりすぎます。

企業統治に会社の各部署は直接関わらない

民間企業では幹部の定義は各会社によって異なる場合もありますが、幹部以外の人事は人事部で行い、幹部の人事は取締役会の承認が必要というのが一般的です。

ここからが民間企業と政治組織の違いですが、まずは政府は有権者によって選挙で選ばれた与党の議員たち等で構成されます。ここが、民間企業と大きな違いです。民間企業では、幹部や役員を選挙で選ぶということはありません。

一昔前までは、各部の上司が、自分の部下の人事を定めるということが慣例になっていましたが、それでは情実で決まることがおうおうにしてあったので、企業によってどの程度絡むのかは違うものの、幹部以外の人事のほんどに人事部が絡むようになっています。

選挙によって選ばれる政治家による政府と、そうではない官僚では当然役割は違います。本来的には、政治家が日本国の、財政、金融、安全保障など様々な分野の目標等を定めて、官僚は決められたことを専門家的立場から迅速に実行することです。

財務や金融を例にあげると、日本国の財務の目標、金融の目標は政府が定め、官僚はその政府の目標を達成するために、専門家的な立場からその目標を達成することを選ぶことができます。しかし、目標はあくまで政府が定めるべきものです。

そうして、政府が目標を定めるにおいては、財務官僚や日銀は資料提供や、参考意見を政府に対して述べることはできるものの、目標などを最終的に定めるのは政府です。

日本では日銀に関しては、日銀の独立性をたてにとって、日本国の金融の目標を定めるのは日銀であるとする人もいますが、これは国際標準的には間違いです。国際的には、まともな民主国家の金融目標は政府が定め、中央銀行はその目標に従い専門家的な立場から、それを実行す手段を自由に選ぶことができるというのが、中央銀行の独立性です。

現在の日本は、日銀法が改悪され、日本国の金融政策の目標は、日銀の審議委員が決めることになっています。これは、明らかな間違いです。菅内閣においては、国際標準に従い日銀法の改正も実行すべきです。そうでないと、日銀の審議委員が変わるたびに、市場関係者や金融政策を理解している有権者がやきもきするという異常な状態が続くことになります。

これは、民間企業も同じようなもので、財務部、経理部等は、取締役に対して資料提供や、参考意見を述べることはできますが、企業の目標などを最終的に決めるのは取締役会です。

セブン&アイ ホールディングスの取締役会

日本の大企業では、取締役の人数があまりに多く取締役会が形骸化していて、常務会が実質意思決定機関になっていることもありますが、それはまた別の話であり、人事部長や、財務部長、経理部長などが企業の目標を定めるなどということはありません。

民間企業にたとえれば、各省庁は政府の下部機関に過ぎないのです。そういう観点からすると、各省庁の幹部クラスの人事を内閣人事局が担うのは当然のことです。直截にいえば、内閣人事局がないほうが、異常なのです。

これに関して、マスコミが、内閣人事局を悪いことのように報道するのは間違いです。このようなことを報道する新聞記者が会社の中で、取締役会が幹部の人事にからむのは、忖度などを招くので良くないと心の底から信じ込み、すべて人事部が決めるべきと、会社に抗議すれば、降格・減給、あるいはどこかに左遷される、それどころか全部の懲罰をくらうのが落ちでしょう。

そもそも、石破氏のいう「官邸が言っているから誰も止められない」というのは理屈として成り立ちません。官邸が言っていることを官僚が止めるなどということがあってはならないのです。官僚がとめなくても、間違いばかりしている政権は有権者にみはなされるだけです。これを官僚がとめることができたら大変なことです。

岸田氏のいうように、「権力は鋭利な刃物のようなものだ。使い方を間違えてはならない」というのはおかしな話であり、菅氏が語る「政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は異動してもらう」という措置は当然のことです。この点では、鋭利な刃物どころか、大鉈をふるうべきです。それが間違っていれば、有権者がそのような政府を支持しなければ良いのです。

民間企業で、取締役会が、会社の方針に従わない幹部を異動させたり、左遷させたり、降格したり、減給、解雇等の処分ができないようであれば、会社はまともに機能しなくなります。それを人事部が行うということにでもなれば、会社を真にコントロールするのは実質人事部ということになります。

いくら取締役会かあっても、取締役会は意思決定機関であって、会社を実際に動かすのは、各部署であり、各部署の幹部の人事を取締役会が決めることができなければ、結局会社をコントロールできるのは人事部ということになってしまいます。

自民党総裁選は菅義偉氏が最優勢です。アベノミクス踏襲を掲げていますが、経済政策以外に省庁再編にも意欲を示しています。

デジタル庁構想に加え、厚生労働省再編にも言及し、中央省庁の「再々編」の可能性も出てきています。

現在の1府12省庁体制は、1996年橋本政権で議論され、2001年森政権に発足しました。これは、戦後初の本格的な省庁再編で、政治主導、縦割り行政打破を狙っていました。


しかし、これによって旧建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁が合併した国土交通省、旧総務庁、郵政省、自治省を一体化した総務省、旧厚生省、労働省による厚労省という巨大官庁が生まれました。

特に、厚労省は、業務が多岐にわたり増え、国会対応もままならないと言われています。2018年9月、自民党行政改革推進本部(甘利明本部長)から、厚労省の分割を促したほか、子育て政策を担う官庁の一元化が提案されました。その当時、自民党総裁選の最中でしたが、争点化されることなく、議論は立ち消えになってしまいました。

省庁再編は霞ヶ関役人の最大関心事です。役人の本能として、仕事の拡大があります。逆にいえば、省庁再編では、各省所管分野の争奪があり、「領地」の拡大縮小で各省庁は悲喜交交(こもごも)になります。その中で、政官の関係では政治が優位になることが多いです。

菅氏は、第二次安倍政権で創設された内閣人事局のシステムをうまく使い、官僚を適切にコントロールしてきました。その結果、歴代官房長官の中でも屈指の官僚掌握能力を持つに至りました。

省庁再編を政策の柱にすれば、菅氏の官僚に対する権勢を維持し、優位を保てるでしょう。自民党内でも省庁再編は議論されてきたので、各派閥も表だって反対しにくい事情もあります。

ただし、省庁再編の議論が具体的に進むと、特定の省庁での不満が出てくる可能性もあります。そうなると、各派閥と省庁が結託して、総論賛成各論反対に回る可能性もあります。この辺りについて、マスコミはどちら側につくのかも興味深いところです。

省庁再編は、当然なことながら、その時の政策課題と大きく関係があります。その意味で重要なのですか、省庁再編では政策議論というより「器」にばかり議論がいき、そこに人的リソースをかけすぎるのは効率的とはいえません。

内閣人事局は、官僚側の言い分をそのまま記事にして批判するマスコミもありますが、先にも述べたように、それまで各省で行っていた幹部人事を官邸に移したもので、民間企業では幹部人事を各事業部でなく本部で行い最終的には取締役会が承認するの同じく当たり前のことです。

その時の発想では、省庁再編が行いにくいのは、各省の事務分担が各省設置法で定められているからでした。そもそも、海外の国々では、各省設置法などなく、その時の政権が柔軟に行政組織を決めるのが普通です。

民間企業では、組織の改編は執行部がきめ取締役会が承認しています。さらに、その時々で既存の部署のほかに、独立型を含むプロジェクトチームをたちあげ、業務が終了すれば解散ということも行っています。そうでないと、時代の変化に対応できないからです。

現在各省庁や、各省庁をまたいだ、ブロジェクトチームやワーキンググルーブも存在はしていますが、十分なものとはいえないです。それは、いまだにプロジェクトチームやワーキンググループで決められたことを実行するのは各省庁だからです。

この発想からいえば、今ある各省設置法を全て束ねて政府事務法として一本化し、各省の事務分担は政令で決めれば良いです。こうした枠組みを作れば、その時の政権の判断で省庁再編を柔軟に行えます。それどころか、特定の問題・課題に関して、時限的なプロジェクトチームをつくり意思決定だけではなく、実行にまでもっていくことができます。この方式の方が世界標準であり、政治主導がより発揮でき、時代の変化への対応も容易になります。

菅政権には、ここまで実行していただきたいものです。

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