2020年9月17日木曜日

「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由―【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

 「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由

                           

岸信夫氏

 アンシンフ――この日本人の名前に、早くも「中南海」(北京の中国最高幹部の職住地)がザワついている。昨日発足した菅義偉新政権で、新たに防衛大臣を拝命した岸信夫氏(61歳)、安倍晋三前首相の実弟である。

 中国最大の国際紙『環球時報』(9月17日付)は、岸防衛大臣に関する長文の記事を発表した。そこでは、生まれて間もなく岸家に養子に出された岸信夫氏の数奇な半生を詳述した上で、次のように記している。

 <岸信夫は、二つの点において注目に値する。第一に、岸信夫は日本の政界において著名な「親台派」である。現在まで、岸信夫は日本の国会議員の親台団体である「日華議員懇談会」の幹事長を務めている。第二に、岸信夫は何度も靖国神社を参拝している。2013年10月19日、岸信夫は靖国神社を参拝したが、これは兄(安倍首相)の代理で参拝したと見られている。安倍晋三本人も、2013年12月26日に参拝している>

 このように、中国は警戒感を隠せない様子なのだ。

当初、「菅政権」を楽観視していた中国だったが・・・

 今月の自民党総裁選の最中、ある中国の外交関係者は、私にこう述べていた。

 「菅義偉新首相が誕生しそうだということよりも、その際に二階俊博幹事長が留任するだろうことが大きい。極論すれば、日本の次の首相が誰になろうと、二階幹事長さえ留任してくれればよいのだ。

 二階幹事長は、日本政界の親中派筆頭で、わが王毅国務委員兼外交部長(外相)も、二階幹事長と会った時だけは、まるで旧友と再会した時のように両手を差し出し、相好を崩すほどだ。習近平国家主席にも面会してもらっている。

 安倍首相は、二階幹事長の進言を聞かず、対中強硬外交に走った。だが菅新首相は、『後見人』の二階幹事長の声を無視するわけにはいかないだろう」

 このように中国政府は当初、菅新政権を「楽観視」していた。だが「岸信夫新防衛大臣」の発表は、冷や水を浴びせられたような恰好なのだ。

 実際、岸防衛大臣は、中国政府が「民族の三逆賊」と呼ぶ台湾の政治家(李登輝元総統、陳水扁元総統、蔡英文現総統)のうち、少なくとも二人と親友だ。李登輝氏とは長年にわたって親交があり、8月9日には、森喜朗元首相とともに、李元総統の弔問のため、台北を訪れた。

  その際、蔡英文総統にも面会している。蔡総統に関しては、総統就任直前の2015年10月に日本に招待し、自分と安倍首相の故郷である山口県下関市まで、わざわざ案内している。

 安倍政権下では「中国担当は兄、台湾担当は弟」で役割分担 

 この時、ある首相官邸関係者はこう述べていた。

  「蔡英文氏の宿泊先を、首相官邸から一番近いザ・キャピトルホテル東急に決めたのも岸信夫氏だった。10月8日昼、ホテル特別室のランチの場に、岸氏は安倍首相を連れてきた。日台合わせて10数人のランチだったが、安倍首相が自分がいかに台湾ファンかを熱く語ったりして、大変盛り上がった。

  だがこのランチは、安倍首相の首相動静からは削除され、日本側も台湾側も、一切極秘とした。それは、中国政府に配慮したからだった」 

 このように、安倍政権の7年8カ月、安倍首相が中国を担当し、弟の信夫氏が台湾を担当するという役割分担をしてきた。だが菅新政権になって、「台湾担当者」が表舞台に登壇したのである。しかもその役職は、中国政府が最も敏感な防衛大臣とあっては、中国側が穏やかでないのもむべなるかなだ。

  一方、台湾(中華民国)総統府は、日本の国会で菅氏が首相に選出されるや、直ちに祝賀コメントを発表した。

  <日本では今日、臨時国会が開かれ、自民党党首に選出された菅義偉官房長官を、第99代首相に選出した。これに対し、総統府の張惇涵報道官は、蔡総統はわが国の政府と国民を代表して、菅義偉首相に祝賀を表し、合わせて日本政府が菅首相のリーダーシップのもとで、順調に各種の国政を進め、国家が発展繁栄していくことを祝う。

  張惇涵報道官はこう述べた。「菅首相は過去に複数回、わが国公開の場で支持している。そして双方が、自由、民主、人権、法治などの基本的価値を共有していると認めている。また、わが国が国際組織に加盟することへの支持を唱えており、台湾にとって重要な海外の友人と言える。

  かつ日本と台湾との往来は密接で、日本はわが国の重要なパートナーだ。わが国はこれからも継続して、日本と多様な協力を進めていき、台日友好のパートナーシップ関係を深化させていく。それによって両国の国民の福祉を共同で推進し、地域の繁栄と発展、平和と安定を維持、保護していく> 

 このように、「岸信夫新防衛大臣」には触れていないが、菅新政権を手放しで歓迎するムードである。

岸氏の防衛相起用は「安倍政権の継承」の証 

 菅新首相が、岸氏を防衛大臣に抜擢した理由は何だったのか?  安倍政権時代の官邸関係者に聞くと、こう答えた。

 「それは、安倍前首相に気を遣うと同時に、同盟国アメリカのトランプ政権に、『安倍政権の継承』を示すためだ。このところのトランプ政権は、『台湾シフト』を鮮明にしており、今後は日本にも役割を求めてくる。そうした日米台の連携に、最もふさわしいのが岸氏の起用だったというわけだ」  当の岸防衛大臣は、16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べた。

 「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を守り抜く方策を検討していきたいと思います」

 「11日の総理談話」とは、次のようなものだ。

 <迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>

 いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」である。「敵」とは表向きは北朝鮮だが、実際には中国だろう。

 「米台vs中国」――岸防衛大臣の就任で、この米中新冷戦の「断面」に、日本も組み込まれつつある。「まずはコロナウイルスの防止に全力を尽くす」と述べた菅新首相だが、その先には、大きな地政学的リスクが横たわっている。

近藤 大介

【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

中国の習近平国家主席は16日、菅義偉新首相に祝電を送り、「中日は友好的な隣国で、長期的な(関係の)安定発展は両国人民の根本的な利益にかなう」と述べ、関係強化を呼び掛けました。これは、異例なことです。李克強首相も祝電を発出。日本の新首相への国家主席と首相による祝電は「珍しい対応」(外交筋)で、習指導部は日本重視の姿勢を鮮明にしました。

汪文斌外務省副報道局長は記者会見で「菅氏が中国と安定した外交関係を構築すると表明していることを高く評価する」と強調しました。

菅首相が7年8カ月にわたり安倍晋三前首相の下で官房長官を務めたことから、中国では「中国に一定の配慮を見せた安倍氏の路線を受け継ぐ」(日本専門家)という見方が強いです。15日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で「(新政権は)日米同盟を基軸として中国との関係も発展させ、利益の最大化を図る」と予想しました。

一方で、沖縄県・尖閣諸島をめぐる問題などで、日中の立場の隔たりは大きいです。中国は、安倍前首相の実弟で、台湾との関係が深い岸信夫防衛相を警戒しています。汪氏は会見で、岸氏について「防衛部門の交流を強化し、『一つの中国』原則を守り、いかなる形でも台湾との公式往来を避けるように希望する」と語りました。

産経新聞社が発行する雑誌「正論」1月号増刊には岸氏は「日米台の安全保障対話を」と題した文章を寄せました。蔡氏が日本との安保対話を呼び掛けたことに言及し、「日台の安保対話はぜひ進めていくべき」と言明。それには米国の関与が重要だとし、日米台で安保対話ができるようにしていくべきだとの考えを示しました。

台湾への訪問を重ねてきた岸氏。今年1月の総統選で蔡氏が再選を果たした翌日の12日には、台北市の公邸を訪れ蔡氏と面会しました。日本は台湾や米国と同様、自由で民主的なインド太平洋戦略に着目しているとの考えを示し、台湾が「日本との関係をより緊密にし、共に地域の平和と安定を維持していけることを期待する」と述べていました。

岸信夫氏(左)と蔡英文台湾総統(右)

一方米有力シンクタンク、ヘリテージ財団が16日に開催した日本の安全保障を巡るオンライン会合で、米識者から菅政権の閣僚起用法に疑念を示す意見が出ました。岸信夫防衛相は「初心者だ」として、敵基地攻撃能力保有の是非や軍事力を強める中国への対応など課題が山積する中、厳しく評価されました。

米軍が創設に関わり安全保障分野の研究に定評があるシンクタンク、ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員は岸氏は新参者や未熟者などを意味する「ノービス」だと指摘。その上で「菅政権が敵基地攻撃能力など微妙な問題のある安保分野で大胆な措置を取るとは思えない」との見方を示しました。

安倍氏の下で、7年8カ月間、官房長官を務めた菅氏は、就任前から「安倍政権継承」を旗印に掲げていました。日本では、今回の岸入閣はこのような意志を示すものという見方があります。

安倍氏は辞任を控えて防衛政策関連の談話を発表するなど意欲を見せていました。岸氏を防衛相に起用することによって『敵地攻撃能力』など、安倍氏が完遂できなかった政策を最後まで成しとげるというメッセージを伝えようとしたとの見方です。

 米国は短期間に終わる可能性がある菅義偉体制にまだ信頼を持てずにいると思います。そうした中岸氏を防衛相に据えたことは、安倍氏の下の日本の安全保障路線、強力な日米同盟を継承していくというメッセージとみることができます。

 岸氏は上でも述べたように、「日本・台湾 経済文化交流を促進する若手議員の会」を率い、台湾関係法を推進するなど議会内の「親台湾派」としても知られています。

安全保障と軍事は、イコールではありません。それは、石破氏をみていればわかります。石破氏は軍事オタクではありますが、安全保障に関しては現実的には素人以下だったかもしれません。

朝日新聞などのオールドメディアで「国民世論第1位」と紹介されていた石破茂氏は得票数がなんと最下位で終わりました。結局オールドメディアは事前に調査等せずに、印象や願望で報道するということが暴露されたと思います。

この石破氏の転機は、集団的自衛権の限定行使を容認した、いわゆる安全保障法制を巡る氏の対応だったと思います。

集団的自衛権の限定行使で戦争になると安保法制改正に反対する人々

石破氏は安倍首相から安全保障法制担当大臣の就任を要請されながらも、これを辞退しました。

氏は安全保障政策に精通し国会答弁能力も高く、過去に防衛庁長官として有事法制の成立に尽力しました。日本の安全保障政策は国会審議で停滞、混乱するのが常でしたから石破氏の国会答弁能力の高さは貴重でした。

だから安倍首相による安全保障法制担当大臣への就任要請も政局的要素が皆無とは言えないですがやはり石破氏の能力を評価しての話ではなかったと思います。

ご存知のとおり安全保障法制の国会審議は大変、混乱しました。混乱の直接的原因は自民党による参考人の人選ミスでしたが、これを差し引いても「石破安全保障法制担当大臣」ならば国会審議も大分落ちついただろうし、変わらず混乱したとしても石破氏の政治的威信は著しく高まったでしょう。

そしてこの政治的威信を背景に自民党が大敗した2017年の都議選直後に安倍首相に辞任を迫ることもできたかもしれませんし、同年9月に起きた民進党の分裂騒動にも多大な影響を与えることもできたかもしれません。

この「石破安全保障法制担当大臣」という「歴史のif」は色々な想像を掻き立ててくれます。

石破氏の表す言葉として「軍事オタク」があります。否定的なニュアンスも含む言葉だと思いますが氏自身は、まんざらでもなかったように思えます。

総裁選で地方遊説をした石破氏

軍事オタクという言葉に動揺しない石破氏の姿は正真正銘の政治家でした。「自分は知識をひけらかすだけで終わっていない」という自信がみえました。実際、氏は防衛庁長官として活躍しました。

しかし、安全保障法制を巡る氏の対応はリスクを避け知識をひけらかすだけの軍事オタクでした。そして今なお軍事オタクの状態にあります。

だから自民党総裁選に出馬した石破茂とは政治家ではなくただの軍事オタクだったのです。ただの軍事オタクが政党代表、内閣総理大臣になれないのは当然です。

端的に言えば石破茂氏は勝負所を間違えました、彼にとって勝負所は最大の総裁選ではなく安全保障法制だったのです。

石破は政治家にとって「決断」がいかに重要なのか身をもって証明したと言えます。もちろん、歴史に彼の名は残らないでしょう。

一方、安倍総理とともに歩んだ岸信夫氏は、少なくとも軍事オタクではありません。福田改造内閣~麻生内閣では防衛大臣政務官、第2次安倍内閣では、衆院外務委員長、外務副大臣、衆院安全保障委員長などを歴任しました。

岸氏は、沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、那覇地検が船長を「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮して」釈放した問題で、当時の民主党政権の対応の不十分さをたびたび非難しています。例えば10年10月8日の参院本会議では、

 「中国が反応してくることが容易に想像できたにもかかわらず、すべてを地検に押し付けた形にして、自ら前向きに対処しようという気構えが全く見られない。むしろ早く厄介払いしたかったようにしか思えない」 

「この度の尖閣諸島での漁船衝突は、その間隙(編注;岸氏は演説の中で、基地問題の迷走が日米同盟を危うくさせたと主張)をついて中国が仕掛けてきた海洋進出の結果じゃないですか」

 「後々、中国の圧力に屈し我が国の領土、領海について日本が譲歩したことが日本外交最大の敗北の日として歴史に残るかもしれない」 などと述べています。

岸氏は、国会で中台関係に言及したこともあります。日米安全保障協議委員会が05年2月に発表した共同声明で「地域における共通の戦略目標」のひとつとして「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」ことを挙げ、中国が反発した問題です。

岸氏は05年3月16日の参院予算委員会で、 「我が国と米国が台湾問題に関して平和的解決を促して、また中国の軍事分野における透明性を高めることを通して中国がアジアの、アジア太平洋地域で責任ある役割を果たしていくよう求めることは、これは我が国としても当然のことだと思う」 などと述べています。

岸氏は、現在のところは、確かに純粋な軍事面では素人に近いかもしれません。しかし安全保障については素人ではないし、確たる信念を持っているようです。軍事面に関しては、これから学んでいけば良いことだと思います。

信念がなく、オタクになる政治家には明日はありません。

そうして、政治家は何と言っても結果を出せなければ、無意味です。岸信夫氏が防衛大臣として立派な成果を残されることに期待したいです。

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