2020年9月30日水曜日

菅首相の徹底した“情報収集術” 高い処理能力と速い政治決断、官僚はこれまでにない緊張感 ―【私の論評】菅総理の卓越した情報収集力に、マスコミも大緊張を強いられることになる(゚д゚)!

 菅首相の徹底した“情報収集術” 高い処理能力と速い政治決断、官僚はこれまでにない緊張感 

高橋洋一 日本の解き方

9月26日 福島を訪問した菅総理(左)

 菅義偉首相が連日、有識者と会食していることが話題になっている。菅氏はどのように情報収集し、どのように政治判断につなげるのだろうか。

 仁徳天皇の逸話にあるが、高台に登って国を見渡し、民家のかまどに煙が立っていなければ、民が貧しいと判断した。そして、3年間の徴税をやめた。

 政治家の仕事も、国民の声を拾って、政策として実現することだ。

 情報収集のやり方は政治家それぞれだが、菅首相は、役所の統計だけではなく、自ら集めた生の声を重視している。そして政治家としてこの情報収集にかなりの時間を割いている。その際、聞き上手でもっぱら聞き役に徹しているようだ。さらに、複数の異なるタイプの情報ソースを持ち、相互チェックもしているようだ。

 ある役人から聞いたことだが、資料を渡して、歩きながら説明しても、菅首相の目はしっかりと資料を見ており、しかも説明より先を見て、説明者が追い付かなかったという。

 資料全体を一瞬で読み込み、理解する人は、いわゆる仕事のできる人によく見かけるタイプで、情報処理能力の極めて高い人だ。

 こういう人は、一度聞いた説明を忘れない。そして、仕事の進捗(しんちょく)プランができているので、その後チェックして、適切に対応できているかを確認し、状況に応じて、政治決断をする。どんな職場にもいるが、仕事のできる幹部そのものだ。


 政治決断の結果は、それまで作業に当たっていた人の思惑とは異なっているかもしれない。もっと時間をかけて慎重に検討したいと思っていても、幹部の要求はもっと早くやるというものかもしれない。

 政治決断の結果、一定の成果を得るためには、担当する人を変えることもあるかもしれない。それは民間企業でもよくある話だ。そういう意味では、これまでの政治家にはない仕事への厳しさがあるのではないか。

 筆者のこれまでの印象では、菅首相はいろいろと話は聞くが、決断は速いと思う。話の途中でも決断し、すぐに指示を出すことも珍しくない。

 しかも、菅首相は官房長官を歴代最高の7年以上も務めた。首相に上がる情報は原則官房長官にも上がり、その過程で霞が関幹部官僚の大半の能力を把握し、頭の中に整理しているはずだ。

 官僚にとって、霞が関の人的情報を含めて各種の情報収集にたけ、政治決断の早い首相は、頼りがいもあるが、思い通りにならないという怖い側面もあるだろう。

 これまでの首相は、みこしに担がれ、比較的官僚には優しく、言いなりになる人が多かった。しかし、菅首相はたたき上げであり、仕事の成果を求め、決して官僚の言いなりにならないし、卓越した情報収集能力がある。

 官僚の間にはこれまでにない緊張感があるのではないか。その緊張感が官僚の良い仕事につながれば何よりだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理の卓越した情報収集力に、マスコミも大緊張を強いられることになる(゚д゚)!

ドラッカー氏

上の記事で、高橋洋一氏は、徹底した“情報収集術”と、高い処理能力と速い政治決断について述べています。情報について、経営学の大家ドラッカー氏は以下のように主張しています。
データそのものは情報ではない。情報の原石にすぎない。原石にすぎないデータが情報となるには、目的のために体系化され、具体的な仕事に向けられ、意思決定に使われなければならない。(『未来への決断』)
情報の専門家とは道具をつくる者です。ところが道具として、いかなる情報を、何のために、いかにして使うかを決めるのは、ユーザーです。ユーザー自身が、情報に精通しなければならないです。

ほとんどの政治家が、情報が自らの意思決定に対して持つ意味を考えていないようです。したがって、情報をいかに入手するか、いかに検証するか、既存の情報システムといかに統合するかが、今日最大の問題です。

かつては、とにかく情報を持つことが勝利への道でしたた。軍隊でも企業でも同じでしたた。ところが、情報革命により、情報が氾濫しました。今では、誰でもクリックするだけで、世界中のあらゆることについて情報を得られます。

その結果、情報力とは、情報を入手する力ではなく、情報を解釈して利用する力を意味することになりました。情報のユーザー自身が、情報の専門家にならなければならなくなりました。情報もまた、ほかのあらゆるものと同じく、使われて初めて意味を持ちます。
コンピュータを扱う人たちは、いまだにより速いスピードとより大きなメモリーに関心をもつ。しかし、問題はもはや技術的なものではない。いかにデータを利用可能な情報に転化するかである(『未来への決断』)
データに詳しくなることと、情報に精通することは違う、とドラッカーは主張しているのです。そうして、それを見分けるのに重要なのは、次の2つの問いに答えられるようになることだとしています。

1つは、企業経営者として(菅総理なら総理として)いかなる情報を必要とするか、もう1つは、自分個人としていかなる情報を必要とするか、で。

そうして、これらの問いに的確に答えるには、次の3つの点を真剣に考え抜かなければならない、としています。

第1点は、自分の職務とその本質は一体、何なのか、そして本来どうあるべきか。
第2点は、自分が寄与貢献できるのは何であり、また何であるべきか。
第3点は、自分の関わっている組織の基礎(ファンダメンタルズ)をつくる事柄は一体、何か。

以上の3点に関する、それぞれ異なった型の情報が必要であり、それらを別個に、独自のコンセプトでもってバックアップしておかなければならないのです。

それには外部の情報、内部の情報、そして組織を超えた情報、この3つを押さえることが重要になる、とドラッカーは言います。

さらには、組織としての成功も、自分個人としての成功も、すべてこの3問に的確に答え得るかにかかっている、と喝破します。

単なるデータ」に詳しいことから、「本当に必要な情報」に詳しくなるためには、上記の3つの問いに十分答えられるようにすることが必要不可欠であり、21世紀のマネジメントの真のあり方だとして、ドラッカーは重視しています。

菅氏は、このようなデータと情報の違いを長い間の経験から、熟知しているのだと思います。だからこそ、菅首相は、役所の統計だけではなく、自ら集めた生の声を重視しているのでしょう。

総理になる前から、このようなことを垣間見ることができた事例があります。

菅官房長官(当時)は昨年5月9日から12日の日程でアメリカ・ワシントンとニューヨークを訪問しました。危機管理を担う官房長官の外遊は“異例“で、歴代の官房長官を見ても平成以降は米国本土への外遊はなく、ホワイトハウスにまで乗り込んだ菅長官訪米は、まさに異例中の異例でした。

菅長官が会談した相手はペンス副大統領、ポンペオ国務長官、次期国防長官に指名されていたシャナハン国防長官代行といったトランプ政権のまさに中枢の面々で、北朝鮮情勢や拉致問題などについて意見交換を行いました。

菅官房長官(当時)とペンス副大統領(昨年5月10日 ワシントンDC)

この中で特筆したいのは、国務長官や国防長官といった閣僚だけではなく、政権ナンバー2のペンス副大統領が菅長官をホワイトハウスに迎え入れ会談したことです。ペンス副大統領が面会をする相手は各国の首脳級に限られ、閣僚クラスの面会はなかなか実現しないといわれていました。

菅氏が意識していたかは別にして、副大統領はポスト安倍を意識していたはずです。菅長官は、ペンス副大統領ら会談相手と「次もまた会おう」と約束したといいます。早速、6月にシャナハン国防長官代行が来日する際には表敬訪問を受けました。

元々、菅氏本人と、側近には米国に太いパイプ持つとされています。このパイプと菅氏自身の情報分析力が、このときにも生かされたと思います。

菅総理は、高い情報収集力を活かし、安倍前総理大臣にも匹敵するような、それでいて菅氏独自の外交を展開することも期待できます。

それにしても、日本のマスコミは相変わらず、どうしようもありません。安倍前総理が、現役で総理大臣をしていたときには、安倍外交を無視して(最悪は安全保障のダイヤモンド構想を報道しなかったので日本人で知らない人が未だに多い)ほとんど報道しなかったのですが、総理が菅氏に変わると、途端に安倍外交は良かったが、菅外交は心もとないなどと批判しています。

そのマスコミは、菅政権誕生の直前には、安倍政権の転換を求める報道をしていました。しかし、これはおかしなことです。安倍総理は、選挙で負けたわけではありません。あくまで病気で退いたのです。であれば、後継政権は、まずは安倍政権の政策を踏襲し発展させていくのが筋です。

今後選挙で、菅総理が安倍政権とは異なる政策をかがげて、大勝利したというならばともかく、マスコミが安倍政治の転換を求めるのは筋違いです。それでは、安倍政権を選挙という民主的手続きで、継続させた民意にそむくことになります。

特に、マスコミの情報収集力は格段に低いです。それは、トランプ大統領の登場を予測できなかったことでもはっきりしました。マスコミはとにかく「時の権力と対峙する」のが自分の仕事であると思っているようで、データを利用可能な情報に転化することができず、反権力を是とする、些末なデータばかり収集し、それに基づき報道するだけで、誰にとっても役にたたない存在になってしまいました。今のマスコミの報道は、野党にとってすら役にたたないと思います。

そのようなことをしているうちに、情報収集に長けた菅総理には、マスコミにとってこれまでにない緊張感を強いられることになりそうです。それはなぜかといえば、菅総理が官房長官だったときの、記者会見にもみられるように、マスコミは自分でも気づかないうちに、かなり低能力化していて、くだらない質問をいなすことが、度々ありましたが今度は官邸VSマスコミという構図に変わるからです。


その緊張感がマスコミの良い仕事につながれば何よりですが、まずは無理でしょう。現在のマスコミの記者の能力は地に落ちました。私は、マスコミは左よりというよりは、下(特に能力)なのだと思っています。これからも、マスコミは見当違いの愚かな報道を繰り返し、一部の老人には受け入れられるでしょうが、やはり情報収集に長けた大学生、高校生、中学生などの若者に馬鹿にされ、新聞は購読されなくなり、テレビもみられなくなり、ますます衰退していくことでしょう。

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