2020年9月23日水曜日

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ―【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ

岡崎研究所

 今年のG20首脳会議は11月21、22日にサウジのリヤドで開催されることになっている。サウジの実質的な統治者である皇太子のムハンマド・ビン・サルマンはその会議の主宰者になるが、その会議の成功を強く望んでいる。しかし、サウジは、イエメンへの軍事介入における文民をターゲットとした攻撃、国内での反対派の弾圧などにより、国際的に「のけ者」となっている。


 そして、2018年10月にサウジ人ジャーナリストのジャマール・カショギが殺害された事件がある。本件について、9月7日にリヤドの裁判所は、8人の容疑者に有罪判決を言い渡し、この事件に一つの区切りをつけた。これも、11月のG20首脳会議をにらんでのことであると思われる。ただ、言い渡された判決は透明性に欠け、かつ、この犯罪の首謀者を無罪にするもので、国際社会を納得させるものではない。

 9月9日付けのワシントン・ポスト紙社説‘The Khashoggi verdict is meant to provide a fig leaf. Democratic leaders shouldn’t take it.’は、「リヤドの裁判所の判決は全く透明性を欠いている。有罪とされた人の氏名は報道されておらず、彼らの犯罪の詳細は述べられていない」と述べ、国連の報告者アグネス・カマードが判決について、「法的或いは道徳的正統性をもたない」「正義のパロディ」である、なぜならばこの処刑を組織し行った高官は「最初から自由に歩き回っているからである」とツイートしたことを紹介している。社説は、サウジの判決をメルケル、マクロン、ジョンソンなどが受け入れるべきでない、と論じているが、当然彼らは受け入れないだろう。トルコのエルドアンもG20に参加するが、トルコも、当然サウジの裁判所の判決を受け入れないだろう。したがってカショギ事件についてのサウジへの追及は今後も続くし、またそうあるべきであると思われる。

 G20は世界の金融経済問題を扱うフォーラムであり、世界経済で主要な役割を果たす国々が参加している。たまたま今年の開催場所がリヤドということであるが、それだからといって参加を躊躇する理由はない。

 世界経済についても、金融についても、コロナで大きな打撃を受けており、これからの対応についてG20で話し合うべきことは多い。カショギと世界金融・経済問題は分けて対応するのが正解と思われる。政治的な問題はプーチンのナヴァルヌイ問題、習近平のウイグル問題や香港問題、エルドアンの東地中海問題などなど枚挙にいとまがない。諸問題の関連を考えることも時には重要であるが、諸問題を分けて考える方が実り多い結果につながると思われる。

【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

20カ国・地域(G20)の議長国を務めるサウジアラビアは、11月に予定されている首脳会議(サミット)の開催を12月に延期することを次期議長国であるイタリアに非公式に打診した。サウジ政府の協議に詳しい当局者2人が明らかにしています。

G20サミットはサウジの首都リヤドで11月21、22両日に開催が予定されています。協議内容が非公開だとして匿名を条件に述べた同当局者によると、サミットを延期すれば、12月1日に予定するイタリアの議長国開始も後ずれすることになります。

ただし、現在のところ中止という話はないので、いずれ開催されることを前提に話をすすめます。

サウジアラビア人記者 故カッショギ氏

上の記事では、カショギと世界金融・経済問題は、分けて考えるべきとしていますが、まさにそのとおりだと思います。分けて考えるとともに、優先順位と劣後順位をはっきり決めるべきです。世界中の問題をあれこれと少しずつ噛じるように手をつけることは、いたずらにエネルキーを無駄にするだけです。

そもそも、米国にとっては中東はさほど重要ではありません。それを示すデータなどを以下に掲載します。以下に中東の名目GDPを掲載します。


中東においてはサウジアラビアGDPがトップであり、石油で儲けた王族などがイメージされ、さもありなんと思いがちですが、サウジアラビアのGDPは、世界で18番目に過ぎません。中東の全部のGDPをあわせたにしても、世界の4.3%に過ぎないのです。

サウジアラビアのGDPは、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。さらに、最近の米国は自国内で石油を生産できるようになっています。

ちなみに、サウジアラビアのGDPの規模は日本の県と比較すると、ほぼ福岡県相当です。

無論、経済の大きさだけで、米国にとっての中東の重要度を推し量ることはできませんが、それにしてもこの程度ということを認識しておくべきです。ただし、日本にとっては、中東は石油の最大の輸入先です。日本は米国のようには中東を軽視することはできないでしょう。ただし、石油価格がかつてないほどに低下しているというのも事実です。

世界には、まだまだ様々な問題があります。これに優先順位をつけないで取り組めば、混乱するばかりです。無論政府という組織の性質上、国際問題でも国内問題でも、優先順位の高いものだけに集中して、それ以外は一切てをつけないというわけにはいかないですが、そのためにこそ官僚などが存在するわけですから、やはり政治家は優先順位、劣後順位をつけるべきなのです。

経営学の大家ドラッカー氏は、優先順位と劣後順位について以下のように述べています。

いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)

誰にとっても優先順位の決定は難しくありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)

以上は、企業でまともに、マネジメントをして成功した経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。政治家出身ではない、米トランプ大統領はこのことを良く理解しているようです。 そのトランプ氏の最優先課題は、中国問題です。今回のG20でも、コロナ問題と中国問題を最優先するでしょう。一方、中東の諸問題などは中国と対峙する上での制約条件に過ぎないとみているでしょう。

G7もそうすべきです。コロナ問題と、中国問題に集中すれば、それにつれて国際関係も変化していき、他の問題も自動的に解決するか、解決の機運が高まることになります。カジョキ氏の問題は、現状では幕引きにさえしなければ良いでしょう。

そのようなことよりも、コロナと中国の問題に集中すべきです。

トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、この原則が骨身に染みているでしょう。それに、選挙で勝利するためにも、優先順位をつけなければ、失敗することも十分理解しているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということがほとんどです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚です。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

先進国の水準では、政治家ではなく官僚である習近平

民間企業であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位や劣後順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。ただし、共産党内での熾烈な権力闘争はありますが、権力闘争と政策は直接は関係ありません。

中共は、権力闘争には熱心ですが、人民のことなど二の次です。国際関係も二の次です。中国は国際的にも自分の都合で動く国です。

そうして、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとしただけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。G20でも、トラン不大統領は、中国に対して予期せぬ相当厳しい要求をつきつけ、習近平はきりきり舞いさせられるでしょう。今のままだと、中国もかつてのソ連同じ運命を辿ることになります。

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