2021年8月31日火曜日

中国の空母戦力が抱えるミサイルへの脆弱性―【私の論評】海戦で圧倒的に有利な日米は、 中国の空母開発を大歓迎(゚д゚)!

中国の空母戦力が抱えるミサイルへの脆弱性

岡崎研究所


 フィナンシャル・タイムズ紙のカトリーン・ヒル中華圏特派員が、8月17日付け同紙掲載の論評‘China’s focus on giant aircraft carriers makes it vulnerable to missile threat’で、中国が増強する空母戦力について、地勢的に宮古海峡やバシー海峡を通過して太平洋に出る必要があり、その際必ず地上配備のミサイルの射程に入るので脆弱である、と指摘している。

 ヒルの議論は合理的と思われる。しかし、中国は空母群の建造を悲願とし、それに力を入れており、潜在的に彼我の軍事バランスに影響を与える可能性もあるので、注意深く見ていく必要があることは言うまでもない。

 空母戦力が抱える脆弱性という中国の状況は、ここ数年ミシェル・フロノイ(元国防次官)などの米専門家が米国の空母等巨艦中心主義が中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略により脆弱になっている警鐘を鳴らしていることの丁度裏返しとなっており、興味深い。米国は、この非対称の問題を是正すべく、ドローンなど精密兵器の開発、配備に乗り出している。

 これまでに中国は2隻の空母を就役させている。ウクライナのバリヤアーグを購入、再建造した2012年9月の「遼寧」、最初の国産で「遼寧」の改良型となる19年12月の「山東」である。基地は青島と海南島の三亜である。30年頃までには4隻を保有する可能性が指摘されている。空母は、運用上最低4隻が必要と言われる。

 4隻目は原子力推進になるとの見方もあるが、そのためには相当の技術力が必要とされるようだ。またカタパルト(発艦方式)の開発も注目されており、3隻目は電磁式を採用すると見られている。なお、電磁式カタパルトの技術については、中国系米国人エンジニアが米国から持ち出したとして米国で起訴され、有罪になった。

 中国の空母能力が実際に大きな力を持つためには、まだ種々の問題を克服する必要があるように思える。空母が実際に作戦に出る場合、艦載機の他、警戒機、駆逐艦、潜水艦等で構成される空母艦隊が必要となる。そうでなければ裸の巨艦になる。今太平洋に入っている英国のクイーン・エリザベスも艦隊を組んできており、先日その一部を構成する潜水艦が韓国釜山に入港したと見られている。

 中国の空母が真に力を持つためには、これらの構成要素が全て高い能力で揃わねばならない。遠方で作戦する場合には、更に補給・保守サービスなどの基地やネットワークも必要となる。それには外交努力や保守能力の確保等が重要となる。簡単なことではない。中国は現在ジブチに基地を有しているが、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港も狙っているといわれる。

 米国は空母等の運用に必要な世界的同盟網、相互支援網を持っているが、中国はそれを欠いている。中国の空母が世界的な作戦をできる体制には未だ程遠い。しかし、今後そのようなネットワークを構築するかもしれない。注意すべきであろう。

 中国が何のために空母保有を追求するのか、そのドクトリン、シナリオは未だ判然としない。大国としてのステータス、国威発揚が目的かもしれない。中国の戦略家は、「今や中国は大国になったから、大国の役割を果たせねばならない。大きな軍事力も持たねばならない」という趣旨のことをよく言う。

【私の論評】海戦で圧倒的に有利な日米は、
中国の空母開発を大歓迎(゚д゚)!

このブログでは、以前から空母をはじめとする海上に浮かぶ艦艇は、もはや海上戦力ではないことを述べてきました。その代表的な記事のリンクを以下に掲載します。
中国への脅威となれる日米豪印「クワッド」―【私の論評】対潜哨戒能力も同盟関係も貧弱な中国にとって、日米豪印「クワッド」はすでに脅威(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部引用します。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。

船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。
現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力
そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。

サイズ的には中国海軍は、数も多いし脅威ではありますが、実際の戦闘態勢になったら、水中の戦力は日米のほうが圧倒的です。海戦ということになると、中国は日本単独と戦っても負け戦になってしまいます。

特に、日米が協同した場合、海戦においては世界最強です。日本の通常型潜水艦は、静寂性(ステルス性)に優れており、中国にはこれを発見することはできません。一方米国の原潜(米国製通常型潜水艦は製造されていない)は、攻撃型も戦略型も攻撃力は世界一です。

日米潜水艦隊が協同して、日本の潜水艦隊が情報収集にあたり、米原潜が攻撃をするなど双方の長所を生かした役割分担をした場合、これに勝てる海軍はありません。ロシアは無論のこと中国でも海戦では全く歯がたちません。

このような中国がなぜ空母を持つのでしょうか。そのヒントになりそうなことが、中国メディアの騰訊に今年の3月に掲載されていました。

記事はまず、海軍強国はどこも空母を保有しているという共通点があると指摘し、空母はその国の総合的な実力を測る良い指標となっていると主張。世界最強の海軍を持つ米国は11隻もの空母を運用していて、新たな空母も開発中だと伝えました。

続けて、空母の分野では米国が「圧倒的な発言権」を持っているのですが、実は日本も「空母を7隻保有している」と主張。これは、いずも型護衛艦2隻とひゅうが型護衛艦2隻、それにおおすみ型輸送艦の3隻を指しているようです。

ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」

これらは護衛艦という名前がついていることからも分かるとおり空母でないのは明白ですが、いずも型護衛艦を空母に改修することが決定していることから、「日本はその気になれば護衛艦を空母に改修したり、空母そのものを建造することが可能」と主張しているのでしょう。

さらに記事は「米国は、日本が目の前で7隻もの空母を造るとは思いもしなかったはずだ」と主張し、「このことから日本の野心がいかに大きいかがよく分かる」としています。ほかにも、日本は原子力発電に力を入れており、核兵器の分野で一定の成功を収めればいつでも核による反撃ができることになると分析。

「そうなったら隣国だけでなく、世界中の多くの国が大きな被害を受けることになる」と最大限の警戒を示して記事を結びました。どうやら中国は日本の防衛力とその潜在力を警戒しているようです。

この記事からもわかるように、まずは中国は世界から海軍強国であるとみられたいと考えているようです。

日本が7隻の潜在的な空母を持っていることや、潜在的な核保有国であることに非常に脅威を感じているようです。

こうした脅威をはねのけたいという願望もあるようです。だからこそ、空母を持ちたがるのでしょう。

空母は、日米などをはじめとする先進国や中国のようにある程度大きな軍事力を持つ国にとっては、もはや大きな標的にすぎず、海上戦力ではありません。

昭和17年1月の空母「瑞鶴」飛行甲板後方

では、米海軍をはじめ空母を所有する国々は、なぜそれを所有し続けるのでしょうか。

それは、まず第一に先程述べたように、中国もそう考えているように、「海軍強国はどこも空母を保有している」という根強いイメージがあるからでしょう。

次に、対艦ミサイルや潜水艦などを持ち、ある程度の軍事力のある国はではない国々とっては、未だに空母は大きな脅威です。よほど内陸の国で無い限り、空母により世界中のいかなる国にでも、戦闘機や爆撃機を送り込むことができます。

また、ある程度軍事力のある国でも、制空権・制海権を奪われた後には、空母は依然として脅威です。

現在の空母の現実的な使い方としては、軍事力の劣る国を短期間に制圧するとか、軍事力のある国に対しては、ミサイルや魚雷で制空権・制海権を奪った後の最後の仕上げを素早く行うことでしょう。軍事力のある国に対して、初戦で空母を用いるのは、相手に大きな標的を与えるだけのことになり、愚の骨頂といえます。

日米は、強力な対潜哨戒能力を持っているので、中国の空母は脅威ではありません。日本は、ステルス性に優れた潜水艦隊を、米国はステルス性にはおとるものの、驚異的な戦闘力を持つ原子力潜水艦隊を持っているので、海戦においては中国に対しては、圧倒的に有利です。

中国海軍は、米軍にはとうてい及ばないし、日本単独でも海戦では、勝ち目はありません。

日米にとっては、中国が空母を開発することには大歓迎でしょう。何しろ、海戦では全く役にたたない空母に中国が巨額の投資をするわけですから、その他の部分がおろそかになるわけですから、大歓迎です。

潜水艦や、対潜哨戒能力をあげることに投資するのではなく、空母に投資すれば中国は今の状況から抜け出せず、海戦においては日米に水を開けられたままの状態になるでしょう。

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