2021年5月21日金曜日

インド太平洋に同盟国合同の「空母打撃群」を―【私の論評】中国にも米とその同盟国にとってもすでに「空母打撃群」は、政治的メッセージに過ぎなくなった(゚д゚)!

インド太平洋に同盟国合同の「空母打撃群」を

岡崎研究所

 IISS(国際戦略研究所)上級フェローのニック・チャイルズが、インド・太平洋で米国とその同盟国が相互に調整して空母打撃群の運用に当たる必要性を、4月26日付のIISSのサイトで論じている。


 米国の空母については、中国が空母キラーと呼ばれる対艦ミサイルを開発・配備したこともあって、その脆弱性が指摘されて久しいが、空母打撃群が抑止と実戦においてその厳然たる有効性を発揮する場面が多い事情に変わりはない。しかし、米国がその持てる空母打撃群(米国は11隻の原子力空母を有する)をやりくりしてインド・太平洋のプレゼンスが必要とされる海域に頻繁に展開することには無理が生じている。その主要な要因に秩序破壊的な中国の海洋進出がある。この事情に対応するために、この論説は空母を有するフランスと英国が米国と協調し、更には(限定的な形になろうが)空母とはいわずともこれに近い能力を有する米国の同盟諸国(日本、韓国、豪州)がこれに加わり、必要な時と場所に空母不在の空白が生じないよう相互に調整された形で行動することの重要性を説いている。的を射た議論と言い得よう。

 米国はタリバンに対する空爆のためにインド洋に空母打撃群を展開していたが、今また、アフガニスタンからの安全な撤退を確保するために空母「ドワイト・アイゼンハワー」を展開している。ここにも空母を取られている訳である。アフガニスタンからの全面撤退にはリスクがあるが、バイデン大統領が指摘したように、他のより重大な脅威に対抗するために必要な決断だったと思われる。

 遠からず、英国の新鋭空母「クイーン・エリザベス」が東アジアに派遣され、日本にも寄港予定であるが、この論説は以上のような同盟・友邦諸国の海軍の間の相互調整という観点からこの空母の行動に関心を寄せている。この空母の派遣にそういう意義もあるのであれば、そのことは日本でも広く認識されるべき事柄であろう。

 バイデン政権は同盟諸国と協議し協調して行動し、中国の不当な行動に対抗しようとしているが、そのことは日本も置かれた状況に相応しい負担をすべきことを意味する。改修された護衛艦「いずも」と「かが」には海洋の秩序を守る上で米国海軍と連携して果たすことの出来る限定的かも知れないが有益な役割があろう。

 なお、この論説は、中国の空母「遼寧」には台湾や南シナ海に関連する対決の場面での役割は考えにくく、より遠隔の地域への展開を想定したものだとの観測を書いているが、その根拠は必ずしも明らかではない。有事に来援する米軍の阻止など役割は有るように思われる。

【私の論評】中国にも米とその同盟国にとってもすでに「空母打撃群」は、政治的メッセージに過ぎなくなった(゚д゚)!

かつて米海軍は戦艦中心主義でしたが、ミッドウェー海戦など太平洋戦争で航空母艦が中心的役割を果たしたことから、空母中心主義に転換しました。しかしながら、米海軍を支配している空母中心主義も、いまや新たな海軍戦略への抜本的転換が迫られています。

理由の一つが、航空母艦の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということが挙げられます。稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだ米国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあるといえます。

このような海軍関係ロジスティックス能力の低下は量的なものだけではなく、質的にも深刻であるという調査結果も数多く提示され、米国の国防上、深刻な問題となりつつあるのです。

これまで米海軍は、護衛空母と呼ばれる小型空母を含め178隻の航空母艦を運用してきました。このうち、撃沈されたものと、大破したため自ら沈めたものを含めて、戦闘で喪失したのは12隻です。うち11隻は日本海軍によって、1隻はドイツ海軍によってです。

1945年2月21日、米海兵隊による硫黄島侵攻準備の事前爆撃に従事していた米海軍護衛空母ビスマルク・シー(CVE-95)が、日本海軍第二御楯特攻隊の2機の特攻機の体当たり攻撃を受けて沈められました。ところが、それ以降75年近くにわたって米海軍は1隻の空母も喪失していません。

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ攻撃に対応して、米軍は02年に莫大な予算(およそ2億5千万ドルといわれている)を投入して大規模なウォーゲーム「Millennium Challenge 2002(以下MC-2002)」を実施しました。

これはミリタリーシミュレーション、兵棋(へいき)演習、図上演習などとも呼ばれるもので、軍事組織やシンクタンクが、軍事理論や戦略、個々の作戦などを研究するため、敵と味方の詳細データに基づいてコンピューターなどを使って実施する軍事演習です。

日本の兵棋演習

MC-2002では米軍が、イランやイラクを想起させる仮想敵「レッドチーム」と2週間にわたって机上で戦闘を交えることになっていました。ところが、米海兵隊ポール・ヴァン・リッパー退役中将が率いたレッドチームは、対艦ミサイル連射攻撃や小型ボートによる接近攻撃などを駆使した見事な作戦を成功させました。

何と開戦2日目までに原子力空母や強襲揚陸艦などを含む16隻の米軍艦を撃沈しました。そして見積もられた米軍の戦死者は2万人に上ったのでした。

海軍首脳を中心とする米軍首脳部はMC-2002を中断させました。莫大な予算を投入し、演習予定期間2週間のMC-2002が開戦2日目で、しかも「レッドチーム」の勝利で終結したのでは、残りの期間が無駄になる、という理由でした。

撃沈された空母を含む16隻の軍艦は全て“再浮上”し、MC-2002は再開されました。ただしレッドチームは、これまで用いた戦術やさらなる奇抜な戦術を禁止されたのです。

そうして米軍側が勝利するという事前に策定されたシナリオに沿って演習が続けられ、その通りに米軍が勝利しました。このようにして「空母不沈神話」は守られたのでした。

海軍首脳や「空母こそ米軍の軍事的支配力の象徴である」と信じる多くの軍関係者、政治家にとって、「空母不沈神話」は不滅でなければならなかったのです。また、空母には戦闘攻撃機、早期警戒機、小型輸送機、哨戒ヘリコプター、輸送ヘリコプター、救難ヘリコプターなど様々な航空機が搭載されるため、造船造艦業界のみならず、航空機産業も巨大な原子力空母の建造やメンテナンスに関与して恩恵を得ています。

そのため、空母建造や運用に関連する幅広い産業やそれらの従業員にとっても「空母不沈神話」は不滅でなければならないのです。

MC-2002から19年が経過した現在、「レッドチーム」よりも強力な空母攻撃用軍事システムが続々と誕生しています。

かつては大海原を航行する敵艦艇を発見することは至難の業でしたた。ところが海上を警戒監視するための軍事衛星、水平線の先まで探知可能な超水平線レーダーシステム、それに高性能海洋哨戒機など、科学技術が飛躍的に進歩したため、海上を航行する艦艇や船舶、とりわけ原子力空母のような巨艦が敵の監視網から姿を隠すことは100%不可能になりました。

海上戦闘艦艇にとってさらに悪いことに、中国やロシアの各種対艦ミサイル(艦艇船舶を攻撃するためのミサイル)の射程距離、命中精度、スピードなど性能が、やはり飛躍的に進歩しています。

特に中国軍は、中国沿岸域に接近してくる米空母を撃破することを主目的として各種対艦兵器(アメリカ軍では接近阻止/領域拒否兵器あるいはA2/AD兵器と呼んでいる)の開発に全力を投入してきました。

中国本土の地上移動式発射装置、中国軍にとって安全な空域のミサイル爆撃機、中国軍にとって安全な海域の駆逐艦やフリゲートやミサイル艇などから、対艦弾道ミサイル、対艦巡航ミサイル、超音速対艦ミサイル、極超音速対艦グライダーなどで米軍艦を攻撃することができます。

とりわけ巨体の原子力空母は、それらA2/AD兵器にとっては、sitting duck(容易な標的)に近い、恰好の攻撃目標です。

これに対して米海軍は、空母艦隊を敵のミサイル攻撃や爆撃から防衛するために、超高性能防空戦闘システムである「イージスシステム」を開発し、常に改良を続けています。イージスシステムによって発射され、敵のミサイルや航空機を撃破するための「防空ミサイル」にも巨額の費用(日本からも引き出している)をつぎ込んで、その性能はめざましく向上しています。

しかしながら、軍艦に比べると米粒よりも小さいミサイルを攻撃するための防空ミサイル開発は、対艦ミサイルの開発よりも技術的に遙かに困難であることは容易に理解できます。

技術的に困難であるが故に、防空ミサイルの開発費や調達価格は対艦ミサイルの比ではない超高額になっています。そのため、中国軍やロシア軍の「各種対艦ミサイル」保有数と、米軍の「防空ミサイル」保有数を比較すると、「各種対艦ミサイル数」が凌駕しています。

ミサイル攻撃を受ける空母打撃群 想像図

中国軍による米空母艦隊へのミサイル攻撃は「猛烈な飽和攻撃」になることが確実です。すなわち短時間のうちに大量の対艦ミサイルが、地上発射装置、空中のミサイル爆撃機、海上の艦艇から、つるべ打ちにされるのです。

これに対して米軍艦艇に装填してある防空ミサイルや対空機関砲の弾薬の数量には限りがあります。米軍艦がそれらを撃ち尽くしてしまったら、それ以後に中国軍が発射する対艦ミサイルは百発百中になってしまうのです。

以上のような理由で、中国そしてロシアにはもはや、「空母不沈神話」など成り立たないといった指摘が、米海軍関係者の中からも唱えられ始めています。

「超巨大空母を中心に据えた海軍戦略は時代遅れで、そのような原子力空母に巨額の国防費を割り当てるこれまでの仕組みを抜本的に見直さなければならない」という空母中心主義からの脱却を巡る激しい議論が交わされ始めているのです。

もっとも、これまで空母中心主義の海軍戦略を維持することができたのは米海軍だけでした。したがって、米海軍の空母中心主義が時代遅れになってきたという事実は、米以外の国々が持つ航空母艦とは別次元の問題です。それぞれの海軍は、それぞれ独自の海軍戦略に基づいて自らの空母を運用しているからです。

要するに、空母中心主義が時代遅れになってきたからといって、航空母艦そのものが無用の長物になってきたということを意味しているわけではありません。大艦巨砲主義の時代に、空母打撃群が投入されるようになったのですが、空母打撃群には相変わらず、空母だけではなく、様々な艦艇が用いられていました。

無論、これは空母だけでは、防御力に劣るとか、様々な理由があります。現在の米海軍の巨大原子力空母も新しい時代に対応した新たな存在価値を付与されることになるでしょう。

この状況を打開するのは、このブログでも何度か掲載したように、海戦においては、潜水艦の有効活用でしょう。なぜなら、中国は対潜哨戒能力か極度におとり、これとは対照的に米国のそれは世界一です。

米軍の優れた対潜哨戒能力で、米軍は中国の潜水艦を丸裸にして、これに対処することができます。

ただ、米軍は潜水艦の運用でも失敗しています。それは、原潜を過信して、すべての潜水艦を原潜にしてしまい、通常型潜水艦を建造せず、それが長く続いたので、米国は最新型の通常型潜水艦を建造する能力を失ったしまったのです。

原子力潜水艦は、動力を原子力に頼っているため、半永久的に潜航して任務を継続することができます。実際には食料の問題で半永久的に潜っていることはできないのですが、原子力潜水艦であれば海水を蒸発させて真水を作りだすことができ、それを電気分解することによって酸素も作り出せます。

そのため、従来のディーゼルと蓄電池を使った通常動力潜水艦よりも、乗員たちは快適な環境で長期間生活をすることができます。水と電力をほぼ無限に使用することができることから、ロシアの原子力潜水艦にはサウナまで取り付けられているそうです。

ただ、原子力潜水艦は、長期間に渡って潜航し続けることができますが、難点があります。それは「うるさい」ということです。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。

タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

一方ディーゼルエンジンと、蓄電池を元いる通常型潜水艦は、原潜よりは長期間潜航ができないという欠点はあるものの、静寂性に優れています。この静寂性が海戦においては、徹底的に重要です。

潜水艦を攻撃する方法は、種々ありますが、基本は今でもソナーによって索敵してこれを攻撃します。潜水艦の静寂性が高いと、ソナーでも発見できにくくなります。

日本の潜水艦は従来から、静寂性が高いのですが、最新型の潜水艦の動力はリチュウムバッテリーにしており、これによりさらに静寂性を高め、ほとんど無音に近いといわれています。

これは、海戦においては圧倒的に有利です。日本の潜水艦は、中国に発見されずに航行できます。一方、中国の潜水艦は日本にすぐに発見されてしまいます。これでは、最初から勝負になりません。

一方米国の原潜は、攻撃力は強大ですが、静寂性には劣ります。ただ、米軍が対潜哨戒能力が世界一なので、これも有利です。予め、深海に潜み、そこから動かず、ここぞというときに、ミサイルや魚雷で攻撃するという戦法もできます。

呉 第1潜水隊群

日米の潜水艦隊が組めば、世界一強力な潜水艦隊になるでしょう。上の記事では、空母打撃群の合同ということが語られていますが、それも一つの手でしょう。中国の空母打撃軍が軍事力というよりは「政治的メッセージ」であることを考えると、インド太平洋に同盟国合同の「空母打撃群」を置くことには「政治的メッセージ」として、中国に対する強い牽制となることは間違いないでしょう。

しかし、現代の海戦による本当の戦いは、最初潜水艦隊により行われ、それでほとんど雌雄を決することになるでしょう。そのときには、中国の艦船はほとんどが撃沈され、地上の基地も破壊され、その後に、米軍の空母打撃群等が参加して、最後の詰めをするという形になるでしょう。

中国も、米国とその同盟国も潜水艦を持っています。特に、日本、フランス、ドイツなどは現在でも静寂性の優れた通常型潜水艦を建造しています。ロシアもラダー型という静寂性の優れた通常型潜水艦を建造しています。中国も通常型潜水艦潜水艦を建造していますが、静寂性には劣ります。

ロシア海軍に関しては、もはやその実力は、象徴的なものに過ぎないとみるべきでしょうが、その中でも最も恐れるべきは、このラダー型潜水艦かもしれません。

これらの潜水艦は、すでに随分前から、南シナ海や東シナ海などに息を潜めて様々な行動をしています。米国とその同盟国の潜水艦は、何度も中国の艦艇を撃沈する模擬訓練も行っています。特に、中国の空母「遼寧」は日米が模擬訓練で、何度も撃沈訓練をしていたことは、このブログにも過去に掲載したことがあります。

すでに、日米と、他の同盟国は、潜水艦隊でも互いに協力しあう体制を整えたか、整えつつあるでしょう。空母打撃群の動向は、もはや中国と同じく「政治的メッセージ」とみたほうが良さそうです。無論政治的メッセージにも大きな意味があり、中国を牽制することになるでしょう。なにしろ、目に見えるものは、見えないものよりは相手に強力なメッセージを送ることができます。

そうして、実際の海戦になれば、目に見えない、耳で聞こえない敵の脅威は、そうではない敵よりもはるかに大きいです。

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