2021年5月1日土曜日

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か―【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること(゚д゚)!

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か

共同訓練する空自の戦闘機(中央下)と米空軍のB52戦略爆撃機(航空自衛隊提供)

 日米両国が、沖縄県・尖閣諸島を断固死守する構えを見せた。航空自衛隊の戦闘機計15機と、米空軍のB52戦略爆撃機2機が4月27日、東シナ海と日本海で共同訓練を実施したのだ。同日、中国海軍の空母「遼寧」から早期警戒ヘリコプターが発艦し、尖閣諸島・大正島周辺の日本領空に接近していた。日米は、尖閣・台湾周辺で軍事的覇権拡大を進める中国を牽制(けんせい)する狙いがあったようだ。


 空自の発表(4月30日)によると、共同訓練には、千歳(北海道)と、小松(石川)、新田原(宮崎)、那覇(沖縄)各基地のF15戦闘機が13機と、百里基地(茨城)のF2戦闘機が2機。米空軍からは、核兵器搭載可能で「死の鳥」と恐れられる戦略爆撃機B52が2機の計17機が参加した。編隊を組んでの飛行と、相手の航空機を迎え撃つ内容だったという。

 防衛省統合幕僚監部は同月26日、空母「遼寧」など艦艇6隻が、沖縄本島と宮古島の間を抜け、太平洋から東シナ海に入ったのを確認したと発表。27日午前、遼寧からヘリコプター1機が発艦して大正島周辺の領空に近づいたため、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)したと発表していた。

 この後、中国の国営メディア「グローバル・タイムズ」(=環球時報の英語版)は4月28日付の記事で、遼寧などの動きについて、「日本への警告と抑止の役割を果たしている」「人民解放軍は今後の中日関係の状況によって該当海域での活動を定例化するだろう」という、中国軍関係者のコメントを掲載していた。さらに、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は4月29日、海事当局の権限を強化する海上交通安全法の改正草案を可決した。交通運輸省所属の海事局の権限を強化するもので、海警法施行で、外国船舶への武器使用が認められた海警局と連携する危険性が懸念される。

空母遼寧

 尖閣周辺での、日米と中国のにらみ合いをどう見るか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「東・南シナ海における中国軍の活発化と、米軍の対応を見ると、『台湾有事』はそう遠くない時期にも起こり得るのではないかという印象を受ける。今回、中国軍から日本への圧力とされる動きが続いたのは、米国と良好な関係を築く日本にくさびを打ち込む目的ではないか。中国に強硬な姿勢をとれない韓国は、米国にとっても同盟国という認識が薄まっている。中国は、日本も同じ状態に陥るよう狙っているはずだ」と分析している。

【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること(゚д゚)!

日米は、上記のように共同訓練をするなどして、中国に対峙しています。日米が本格的に協同して、中国に対峙する体制が整えば、中国は長期にわたって台湾を奪取することができなくなるばかりか、海洋進出の野望が打ち砕かれることになるのです。

このブログでは、中国が圧倒的な軍事力を持つかのような「中国脅威論」は間違いであることを何度か掲載してきました。インドはともあれ、米軍との比較では、中国の軍備ははるかに劣ります。

米有力シンクタンク・戦略国際問題研究所の推定では、中国の防衛予算はおよそ2000億ドルで、米国の予算9340億ドル前後の4分の1にも満たないのです。米国は、中国が攻撃的な姿勢を強める事態を深刻に受け止めていますが、こうした現実を忘れるべきではありません。

 米国にとって中国の軍備が厄介なのは、その規模と能力のためではありません。問題は、米国が「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ中国軍の海上戦略であり、中国周辺の海域への米軍の介入を妨害することを目的としてミサイル・電子兵器を配備していることです。

「接近阻止・領域拒否」概念図

 例えば、中国が沿岸部の基地からミサイルを発射すれば、米軍の艦船が紛争海域に接近することはほぼ不可能になります。中国が台湾に武力行使をちらつかせるなか、この状況は米軍の戦略を深刻に脅かします。

ただし、このブログでも何度か掲載したように、米軍の対潜哨戒能力は世界最高であり、それとは対照的に中国軍のそれは全く及びません。以前にもこのブログに掲載したように、中国は対潜哨戒能力を引き上げなければ、中国の海軍力は軍事力ではなく単なる「政治的メッセージ」にすぎなくなります。

有事となれば、米軍は中国の潜水艦を排除し、米軍の潜水艦を思いのままに自ら配置したいところに配置できます。そこから、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷を発射し、中国の「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ中国軍の海上戦略を破ることができます。また、米軍のステルス戦闘機も、米軍は探知できないため、これも中国軍の海上戦略を破ることができます。

米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。ところが昨年5月太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であること同司令部か明らかにしました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。これは、当時はある空母打撃群がコロナ感染で動けなくなっていたこともありますが、米軍が原潜をそれにかえることができると認識していたと考えられます。

空母打撃群と代替えが効くと、思わせるほどに、米軍の原潜は攻撃力が強いのです。かつて、トランプ元大統領は、「米国には空母打撃群に匹敵する潜水艦がある」と自慢していました。

これには、日本の潜水艦隊も参加すればより効果的です。なぜなら、このブログにでも何度か述べているように、日本の対潜哨戒能力も米国に次ぐほどすぐれており、さらに日本の通常型潜水艦は、ステルス性(静寂性)に優れていて、これを中国側は探知できないからです。

これで一件落着といえそうです。では、米アジア太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官はなぜ「米軍は中国軍より弱いし、中国は6年以内に台湾を武力攻撃する」と言い、米国が、自国軍が弱いと主張したのでしょうか。

これには、よほどの目的があると考えるべきです。

2020年9月1日、アメリカ国防総省(DOD)が「中華人民共和国を含めた軍事・安全保障に関する2020年版報告書」を発表した(DOD Releases 2020 Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China)

報告書はミサイルと造船技術に焦点を当て、ミサイルについては、中国軍が射程500~5500キロメートルの中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていないと指摘しました。米国は元ソ連時代からロシアと締結してきた中距離核戦力(INF)廃棄条約に拘束されてきたからです。

まず昨年の国防総省(ペンタゴン)リポートは、そもそも「議会用」に発表されたものなので、米軍側が「国防費の予算を獲得するために、議会に向けて発信したもの」と解釈することもできます。実際これが主目的なのでしょう。

ただ、今年3月9日6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言したデービッドソン司令官が、公聴会で「(中国が)やろうとしていることの代償は高くつくと中国に知らしめるために、オーストラリアと日本に配備予定のイージス・システムに加え、攻撃兵器に予算をつけるよう議会に求めた」という発言には注目すべきでしょう。

これは、「中距離弾道ミサイルの日本配備」を求めているということに他なりません。

米露間にはINF廃棄条約があったため、中国軍が中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていませんでした。そこでトランプ元大統領はINF廃棄条約から脱退し(2019年8月2日)、米国も自由に製造することができるようにして、中距離弾道ミサイルを配備してくれる国を探していました。

韓国の文在寅大統領は習近平に忖度して断ったのですが、オーストラリアの首相は親中派のターンブル氏から嫌中派のモリソン首相に替わったので、候補地としてはオーストラリアと日本ということになったのです。

米軍全体の軍事力は中国軍より強かったとしても、第一列島線の戦闘において中国は、いざとなれば全ての軍事力(中国人民解放軍200万人以上)を投入することができるのに対して、有事の時にアメリカが投入できる軍隊は30万人にも満たないです。

それも在日米軍や在韓米軍および第七艦隊も含めてのことです。これは全米軍の20%程度で、中国が100%の兵力を使えることと、中国には航空母艦からでなく「陸地にあるミサイル全てを使うことができる」というメリットがあることを考えれば、たしかに米軍は弱いことになります。

とはいいながら、米軍は世界最高水準の対潜哨戒能力を用いて、中国の潜水艦を無効化して、強大戦闘能力をもつ攻撃型潜水艦を用いれば、中国の艦艇を大量に沈めて中国軍を無効化することができます。中国国内にある中距離ミサイルも、潜水艦や航空機で叩けば完璧です。

さらに、たとえ中国が尖閣や、台湾に人民解放軍を上陸できたにしても、潜水艦隊でこれを囲み艦船による補給を断ち、ステルス戦闘機で航空機による補給を絶てば、人民解放軍は食糧・水、弾薬が尽きてお手上げになります。

その後に、米軍を送り込めば、最終的には、米軍は勝利を収めることになるでしょう。

さらには、中国に対峙しているのは米軍だけではなく、QUAD諸国が対峙しているという事実も忘れるべきではありません。韓国は全く当てにはならいものの、QUAD諸国は信頼できますし、中国は国境を接しているロシアへの警戒も怠ることはできません。無論、中距離ミサイルを持つ台湾を無視することもできません。

ただ問題は、中国軍が射程500~5500キロメートルの中距離弾道ミサイルを1250発を持っていることを過信して、台湾や尖閣を攻撃する挙に出る可能性は現時点では完全否定はできないということです。

そのときには、日本国内や米軍基地、日米の艦艇も攻撃を受ける可能性もあります。たとえそうなっても、日米の潜水艦隊の多くは無傷で反撃できますし、そうなる前に中国軍を攻撃することも可能です。ただ、今のままだと、中国が過信をして、台湾・尖閣を奪取の挙に出る可能性は否定できないということです。

中国の過信を打ち砕くには、日本にある程度以上の中距離弾道ミサイルを配置する必要があるということです。無論、これは在日米軍が配置するということもあるでしょうが、無論それだけではなく、日本が独自で配備することも念頭に入れているでしょう。

準中距離弾道ミサイル MGM-31 パーシング

日本は、イージス艦8隻体制、潜水艦20隻体制はすでに構築し、中国の野望を挫く体制はかなりできたといえますが、中距離弾道ミサイルを配備すれば完璧となり、中国の台湾・尖閣への武力攻撃を長期にわたって(おそらく数十年)完璧に防ぐことができるのです。

また、米軍としては、日本の潜水艦隊もいざというときには、尖閣防衛や台湾有事に積極的にかかわってほしいと考えていることでしょう。これが、米国潜水艦隊と制約なしに密接に協同すれば、ステルス性に優れ、攻撃力も世界一の世界最強の潜水艦隊ができあがります。

これに対抗する術は、中国どころか、全世界にありません。さらに、日本が中距離弾道ミサイルを配備すれば、まさに、蟻の一穴天下の破れということもなくなるのです。中国の海洋進出の野望が完璧に打ち砕かれるのです。中国が本当に恐れているのはこれなのです。

米アジア太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官としては、日本に対して当事者意識を持ち、中国と対峙するべきとの、強いメッセージを送ったというのが妥当な見方だと思います。何よりも、いざというときには米国に頼るだけではなく日本が矢面で戦う覚悟を持つことを促したといえます。

【関連記事】

中国海軍 初の大型強襲揚陸艦など3隻就役 海軍力の増強を誇示―【私の論評】現在の中国海軍は、軍事力というよりは、海洋国に対しては「政治的メッセージ」と呼ぶほうがふさわしい(゚д゚)!

中国爆撃機10機超、9時間にも及ぶ爆撃訓練…台湾への攻撃力アピールか―【私の論評】中国が台湾侵攻のため航空機を派遣すれば、甚大な被害を被る(゚д゚)!

台湾めぐり白熱する米中の応酬 迫る有事の危機―【私の論評】中国が台湾に侵攻しようとすれば、大陸中国国内もかなりの危険に晒される(゚д゚)!

中国爆撃機など20機、台湾の防空識別圏進入 米が英に「一帯一路」対抗策を提案 識者「中国軍が強行上陸の可能性も」―【私の論評】中国が台湾に侵攻すれば、台湾は三峡ダムをミサイルで破壊し報復する(゚д゚)!

0 件のコメント:

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発―【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発 まとめ デンマーク政府はグリーンランドの防衛費を拡大し、予算を少なくとも15億ドルに増やすと発表した。これは長距離ドローンの購入に充てられる予定である。 トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したが、エー...