麻生太郎財務相は新たな財政出動に踏み切るか |
1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は5月18日、4~6月期速報値は8月16日に公表予定だ。日本経済研究センターが4月に公表した景気予測調査では、1~3月期の実質GDPが前期比年率で6・1%減、4~6月が5・6%増となっている。
昨年後半は、経済活動が回復して景気が一時良くなったのは確かだ。それでも10~12月期時点で、筆者の試算によるGDPギャップ(潜在GDPと現実のGDPの差)は30兆円程度あった。
今年1~3月期は2度目の緊急事態宣言もあり、経済活動が落ち込んだ。4~6月期はやや回復するとみられるが、1~3月の落ち込みをカバーする程度だろう。3度目の緊急事態宣言も懸念材料で、GDPギャップは引き続き30兆円程度あると思われる。
なお、筆者の試算する潜在GDPは、失業率2%半ば、インフレ率2%程度に対応したものだ。つまり、GDPギャップがあるということは、失業率は2%半ば、インフレ目標2%にも達しない経済状況を意味する。
前述の日本経済研究センターの予測でも、2021年の失業率は3%を超えている。インフレ率も7~9月にはプラスになるが、それでも21年内には1%にも達しないとしている。
景気変動からみると、直前の景気の「山」は18年10月(政府暫定見解)だ。その後の「谷」がいつなのか正式見解はないが、20年5月だろうと多くのエコノミストは思っている。その意味で、最悪期の「谷」はすでに越えており、今は「景気回復」の途上だといえる。
しかし、今年1~3月期、4~6月期の経済状況についてそう見るべきだろうか。筆者は判断の基準を雇用状況に置いている。マクロ経済政策において最優先すべきは雇用であるからだ。雇用を達成した上で、給料が上がれば満点という立場だ。
その立場からみると、失業率3%台というのは満足できない。せめて2%台を目指すべきだろう。そのためには、財政政策と金融政策を発動すればいい。幸か不幸かインフレ目標2%にも達しないような状況であるので、同時発動してもインフレ目標を大きく超えることはないだろう。
しかも、国債発行による財政出動と、日銀による国債購入による金融緩和の同時発動により、財政負担がないものとできる余地がある。
1~3月期と4~6月期の経済停滞が見えている。内閣府試算でもGDPギャップは20兆円程度はあるだろう。5月の1~3月期GDP速報値発表と前後して補正予算を準備すべきだ。
そうしたマクロ経済政策、さらに東京五輪・パラリンピックの開催、国民へのワクチン接種がかなりの程度整えば、年後半には良い経済状況になるだろう。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)
高橋洋一氏が、マクロ経済政策を解説する場合には、高橋氏が作られたグラフを思い浮かべていただきたいと思います。このグラフは過去にこのブログでも何度か掲載しましたが、以下に再掲します。
このグラフについて、説明します。これは、元々は経験則から作成されたものですが、これはいずれの国の経済にも当てはまります。いずれの国もこのような形になります。まずは、インフレ率と失業率は逆相関になります。無論、NAIRUやインフレ目標はそれぞれの国によって違います。ただ、これらの値が違ったとしても、いずれの国でも上のグラフ通りの動きをします。
日銀はインフレ目標を2%としていますが、幅がある国も多いです。多くは目標プラスマイナス1%です。インフレ目標国は、このレンジに7割程度収まるのが通例です。
インフレ目標の数値自体は、失業率の下限であるNAIRU(インフレを加速しない失業率:ブログ管理人注:構造的失業率とも言われる。現状では2.5%程度と見積もられている)に対応するものとして設定されています。
インフレ目標の下限を設定するのはデフレを放置しないためです。そして上限は金融緩和で失業率を下げたいのですが、やりすぎて必要以上にインフレ率を高くしないように設定します。
インフレ目標の下限を設定するのはデフレを放置しないためです。そして上限は金融緩和で失業率を下げたいのですが、やりすぎて必要以上にインフレ率を高くしないように設定します。
マクロ政策のうち、財政政策は公的部門の有効需要へ直接働きかけるので即効性があるものの、持続性には欠ること、他方、金融政策は民間部門の有効需要へ実質金利を通じて働きかけるので、波及範囲は広いのですが、効果は即効的ではありませんが持続的であることを理解していれば、マクロ政策のほとんどは理解できます。
現状は、失業率が3%を超えているし、インフレ目標2%も達成できていないのですから、当然のことながら、グラフでいえば、増税不可の✖のあたりか、さらに左にあると考えられ、物価目標も達成はできていませんから、当然のことながら、実施すべき経済対策は、積極財政と金融緩和策ということになります。マクロ経済学的には、全く何の迷いもなくそういう結論になります。
このようなことを知らなかったのか、日銀の前総裁の白川総裁までは、実体経済とは全く関係なしに、ことあるごとに金融引締ばかりやっていました。愚かなことです。まさに、白川氏は「日本の貧乏神」と謗られても、甘んじてそれを受けてしかるべきです。
白川総裁最後の金融政策決定会合(13/03/07)を報じるテレビ
現状は、非常にわかりやすい状況です。これ以外の政策は、全部が間違いです。麻生太郎財務相は新たな財政出動に速やかに踏み切るべきです。
そうして、日銀も速やかにさらなる金融緩和に踏み切るべきです。何も難しいことは、一つもありません。
コロナ増税をすべきなどという人もいますが、それはインフレ率が目標2%はっきり超えて、失業率が2.5%にまで低減した場合なってはじめて検討すべきことです。それ以前に、コロナ増税をしていまえば、東日本大震災後の復興税と同じく、大失敗し日本経済を毀損するだけです。
このように、マクロ経済政策は非常に簡単なことです。無論現状で、どのくらいの量や期間の財政出動や金融緩和をするのか、そうして、どのような具体政策をすることが効果的なのかを事前に計量的に知ることは難しいところもあります。
ただし、経済対策自体は、過去の経験則などから意外と簡単です。実際に実行してみれば、やりすぎなのか、やり方が悪いのかは、失業率やインフレ率の推移をみていれば、すぐにわかり、修正することができます。岩石理論などという無茶苦茶な人もいますが、これは嘘っぱちです。
積極財政と金融緩和をやりすぎれば、失業率がNAIRU(2.5%前後)下がらずインフレ率があがり続けることになって、すぐにわかります。
このような簡単なことが、実施されなかったからこそ、日本では平成年間のほとんどがデフレだったのです。
財務省大田次官 |
日本の財務官僚や日銀官僚は、思ったほど頭は良くないようです。それに、いわゆるエコノミストや経済評論家にも碌なものが居ないようです。
皆さんは、上のグラフを頭のすみに置いて、マスコミや識者に騙されないようにしましょう。
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