2021年8月16日月曜日

米、アフガン「敗走」色濃く バイデン政権の見通しの甘さ露呈―【私の論評】今後、米国にかわるような存在がアフガニスタンに進駐することはない(゚д゚)!

米、アフガン「敗走」色濃く バイデン政権の見通しの甘さ露呈

アフガニスタンの大統領府を占拠したタリバンの戦闘員=カブールで2021年8月15日

 バイデン米政権のアフガン撤収戦略は、タリバンの首都カブール制圧で「敗走」色が濃くなった。米メディアはベトナム戦争でのサイゴン(現ホーチミン市)陥落に重ねて報道。カブールでも米大使館員らが空港にヘリで退避するなど、バイデン政権の見通しの甘さは否定できない。
 「明らかにサイゴンではない」。ブリンケン国務長官は15日、米テレビに立て続けに出演し、強調した。ベトナム戦争では、米国が支援した南ベトナム政府の首都サイゴンが1975年4月に陥落し、米国人ら約7000人がヘリで脱出。米国の「敗北」を世界に印象付けた。 

 ブリンケン氏はABCテレビのインタビューで、2001年に始まったアフガン戦争について「米同時多発テロで米国を攻撃した者への対応」だと説明した。

  首謀者で国際テロ組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者を殺害し、アルカイダも弱体化。情報分析の結果、米国を攻撃するような脅威は現段階では無くなっており、駐留しなくても周辺地域から警戒できるとし「任務は成功した」と訴えた。 

 だが、現実はそう見えない。バイデン政権は、国内で対テロ戦争への支持が低くなっていることを踏まえ、アフガン政府とタリバンによる和平協議を支援し、解決の道筋を整えたうえで完全撤収する戦略を描いた。しかし、米国が4月に完全撤収の方針を表明すると、タリバンはアフガン政府への攻撃を強化。和平協議は早々に暗礁に乗り上げた。

  さらに、タリバンの侵攻が米国の予想を上回るペースで進んだ背景には、バイデン政権のアフガン政府軍などへの過信もある。米軍は政府軍兵士を訓練し、最新の装備も与えてきた。バイデン氏は7月上旬に「タリバンがアフガン全体を支配する可能性は非常に低い」との見通しを示した。 

 だが結局、ブリンケン氏は15日のABCテレビで「治安部隊が国を守ることができないと分かった。(タリバンの勢力拡大が)我々の予想よりも早く起きた」と過信を認めざるを得なかった。そのうえで、タリバンについて「国際的な承認を得たいなら(女性などの)基本的人権を認める必要がある。そうしなければアフガンは孤立した国家になるだろう」と話した。

【私の論評】今後、米国にかわるような存在がアフガニスタンに進駐することはない(゚д゚)!

バイデン大統領は37日前、米国民に対し、米軍が撤退した後もタリバンがアフガニスタンを乗っ取ることはないと言いました。そして今日、タリバンはついにアフガニスタン全土を制圧ししてしまいました。バイデンの読みは完全に外れた、というか、撤退を敢行するためにはこう言うしかなかったのでしょう。

タリバンが掲げるのは「イスラム法による統治」であり、これはアルカイダだけでなくイスラム国も同じです。イスラム国統治と異なるのは、タリバンが「外交」を行い、国際社会の承認を志向している点です。

アフガン政府軍を軸とする同国の治安部隊は兵力でタリバンの5倍程度とされていました。米国製兵器を導入しており、物量ではタリバンを圧倒できるはずでした。劣勢はアフガン治安部隊の団結や組織力のもろさを浮き彫りにしたといえます。

アフガニスタン政府の治安部隊

それに思いの外、腐敗がはびこっていたのでしょう。さらに戦術・戦略を誤った可能性も高いです。昨日もこのブロクで述べたように、アフガニスタンの国土のほとんどが山岳地帯であることが、軍事作戦を著しく困難にしています。

山岳地帯に入り込んでしまえば、できるのは局地戦であり、山岳地帯の地理を知りぬいた、少人数の部隊によるゲリラ戦が最も効果をあげられます。山岳地帯に踏み込めば、政府の治安部隊は圧倒的に不利です。

しかし、カブールなどの都市は、山岳地帯ではなく、比較的開けているので、政府の治安部隊は、戦車や航空機を多数投入することができ有利なはずです。カブールやその他の都市で、政府治安部隊が徹底抗戦をすれば、勝利することができたかどうかは別にして、少なくとも膠着状態には持ち込めた可能性は十分にあったと思います。

バイデン大統領にとっても、この治安部隊のもろさは、予想外だったと思います。そうして、私自身も予想外であり、昨日時点まではタリバンがこれほどはやく全土と、首都を掌握するとは考えられませんでした。

バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アフガン撤収を決めたことについて「後悔していない」と語りました。タリバンは同日までに少なくとも8州都を制圧したとされさいましたが、バイデン氏は8月末の撤収方針を堅持しました。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7月下旬の記者会見で、タリバンがアフガンの半分程度の地区を支配したと明らかにしていました。

治安悪化を受け、国際社会も対応を急いでいます。カタール政府関係者によると、10日前後に米国や英国、欧州連合(EU)、国連、中国、パキスタンなどがカタールでアフガン情勢をめぐる協議を開催。アフガン政府とタリバンに対話を促す構えですが、先行きは不透明感が強いです。

バイデン氏は7月上旬の演説でアフガン治安部隊について「世界のどの軍隊にもひけをとらない30万人」と持ち上げていました。多くの分析で約6万人と推計されるタリバンの戦闘員を大幅に上回ります。ホワイトハウスによると、米国は2002年以降、アフガン治安部隊に880億ドル(9兆7000億円)の資金支援を実施。軍用ヘリコプター「ブラックホーク」など多数の米国製の装備品も提供してきました。

それでもアフガン政府が劣勢だったのはなぜなのでしょうか。米シンクタンクCNAのジョナサン・シュローデン氏は1月、米陸軍士官学校の関連機関の月刊誌でアフガン治安部隊とタリバンを兵士数や財政など5項目で比較し「タリバンがやや優位だ」と結論づけました。アフガン治安部隊の最大の弱点にあげたのが団結の弱さです。「タリバンはアフガン治安部隊よりも戦う意志が強い」とも指摘しました。

米紙ワシントン・ポストが19年に入手した米政府内部文書はアフガン治安部隊のモラルの低さを浮き彫りにしました。

文書によると、アフガン空軍を支援した米軍事顧問は「アフガン兵が売却目的で航空機燃料を頻繁に盗んでいた」と証言。軍事基地での訓練などの状況を念頭に「悪ふざけのようなものだった」と指摘しました。別の元米当局者は「アフガン軍に装備品を渡しても3割はなくなる」と語りました。複数のアフガンの地域指導者は「治安部隊の目的は市民防衛やタリバンとの戦いではなく、金稼ぎだ」と指摘しました。

団結力の弱さは「離職率」にも表れていました。米政府機関がデータを公表していた15年前後に月2~3%程度で推移し、「いまも高水準のままだ」(ランド研究所のジェイソン・キャンベル政策研究員)との見方が多かったのです。部隊規模を維持しても年間で3割前後の兵士が入れ替わっている可能性があり、軍事作戦の熟度が高まりにくい状況でした。

キャンベル氏は、タリバンがSNS(交流サイト)などを通じて戦闘を優勢に進めていることを示す写真や映像を発信し、忠誠心の低いアフガン治安部隊の戦意を下げる戦略をとっていると分析しました。米メディアによると、5月以降にアフガン治安部隊がタリバンと戦わずに降伏するケースが相次いでいました。

バイデン氏が30万人規模とした治安部隊のうち実際に戦闘任務を行う兵士は少ないとの見方も目立ちました。治安部隊には35万人の定員枠があり、主に軍と警察に分かれました。

シュローデン氏は20年7月時点で18万5000人が軍に属したが、このうち陸上の戦闘部隊は約9万6000人と推計しました。タリバン兵の1.6倍にとどまりました。これとは別にアフガン政府には警察が約10万人いましたが、「30万人」という数字が示すほど戦闘部隊の規模ではタリバンと大差がないとみられました。

元国務省高官は、タリバンが広範な地域を統治しながら戦闘を続ける能力は乏しいと指摘しました。アフガン治安部隊が15年ごろから人口密集地域の防衛を重視する戦略をとっていることから、首都カブールの陥落はハードルが高いとの見方が多かったのですが、そうではなかったようです。そもそも、治安部隊の士気は相当低かったのでしょう。

アフガニスタンの首都カーブルを制圧したタリバン。アフガニスタン当局は最後まで国民に「恐れて逃げるな、国にとどまれ」と呼びかけていました。アフガニスタンが近代化に向けて歩み出した20年の全てが終わりました。

タリバンが侵攻したアフガニスタンの首都カーブルでは、女の写真、肖像が塗りつぶされつつあります。このような肖像は反イスラムとみなされるからです。女性の権利は著しく失われることになります。日本のフェミニストが全く声を上げないのは、事態が理解できないからか、興味がないからなのでしょうか。

女性の肖像が塗りつぶされつつあるカブール

女性たちのことを思うと本当に心が痛みます。イスラム法統治で最も苦しめられるのは女性です。

タリバンの報道官は「女はヒジャーブを着用すれば教育も就労も認める」と発表。ただし既にタリバンから職を奪われ家に閉じこもるよう命じられた女性は多く発生しています。タリバンは嘘つきなので、信用してはならないです。言葉ではなく行動で判断するべきです。

さらにタリバン報道官「我々はできるだけ早期の平和的な権力委譲を待っている」と発言していましたが、あれだけアフガニスタン人を大量に殺害してきて、いまさら「平和的な権力委譲」などと語るその鉄面皮ぶりには呆れてしまいました。

タリバンが、アフガニスタン全土を掌握したのは今回がはじめでではありません。

旧ソ連軍が撤退した1990年代のアフガニスタンは、支配権をめぐって各地で軍閥同士が武力衝突が絶えない内戦状態になっていた。そこに突如登場したのがタリバンでした。

タリバンはアラビア語「ターリブ」のペルシア語風の複数形で、「アッラー(神)の道を求める者たち」(神学生、求道者)を意味します。内戦でパキスタンの難民キャンプに逃れたパシュトゥーン人難民のうち、イスラム神学校(マドラサ)で宗教教育・軍事訓練を受けた学生・教師らで結成されたと言われている。最高指導者はオマル師でした。

1994年11月、南部の主要都市カンダハルを制圧したことでタリバンは鮮烈なデビューを飾りました。「国内に平和と安全をもたらすためにイスラーム神聖国家を樹立する」と宣言して、各地で軍閥を破って支配地域を拡大。96年9月には政府軍を破って首都カブールを制圧し、「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言しました。

タリバン率いる「アフガニスタン・イスラム首長国」は国土のほとんどを支配したものの、国際的な承認を得ることができなかった。承認したのは隣国パキスタンなどわずかな国にとどまりました。

国際的に孤立しながらもタリバン政権は、住民に対して厳格なイスラム教信仰に基づいた生活を送ることを強制しました。あごひげを生やさない男性や、頭や足首からすっぽり大きな布で覆う「ブルカ」を着ない女性を逮捕し、映画や音楽、テレビまでを禁止しました。

公安調査庁によるとタリバンは、元々、欧米諸国に対して明確な敵意を持っていなかったのですが、1997年に国際テロ組織「アルカイダ」を率いるオサマ・ビン・ラディン氏らを保護下に入れた後、次第にその世界観に影響され、欧米諸国や国連に対し、ビン・ラディン氏の使う挑発的な言葉を用いた声明を出すようになりました。

1998年9月には、イスラム教の偶像崇拝の禁止を徹底すべく、世界遺産に登録されていた中央部・バーミヤン州の仏教遺跡群の石像を一部破壊しました。

2001年9月にはアメリカで同時多発テロが発生。首謀者とみなされたビン・ラディン氏の身柄引渡しを拒否したため、アメリカ主導の連合軍は同年10月、アフガニスタンへの攻撃を開始した。同年12月に最後の拠点であるカンダハルが陥落し、タリバン政権は崩壊しました。

米軍に殺害されたオサマ・ビンラディン

しかし、タリバンの一部は国境に近いパキスタン北部に活動拠点を移して勢力を回復させるとともに、2002年には反政府勢力となって武装活動を再開。2005年以降は、自爆攻撃や即席爆発装置と呼ばれる手製爆弾の攻撃を採用して、アフガニスタン東部から南部にかけてテロを拡大させていきました。

創設者のオマル師は2013年に死亡しましたが、その後も後継者が組織を維持していました。年間何億ドルにものぼるタリバンの主な収入源は「麻薬の製造と販売」とみられています。

米軍は2011年にビン・ラディン氏を潜伏先のパキスタンで殺害した。その後も、治安維持のためにアフガニスタンに駐留し続けたことで、軍事費が重い負担になっていた。BBCはアメリカ国防総省からの情報として、2001年10月から2019年9月までのアフガニスタンでの総軍事費は7780億ドル(約85兆円)に達したと報じています。

2020年3月、トランプ大統領(当時)はタリバンとの和平合意に調印。米軍を完全撤退させる方針だったが、大幅削減にとどまっていました。

新しく就任したバイデン大統領は2021年4月、「米国史上最も長い戦争を終わらせる時だ」とテレビ演説しました。同時多発テロから20年の節目となる9月11日までに、アフガン駐留米軍を完全撤退させると表明しました。これを受けて5月以降、タリバンが攻勢を開始してアフガニスタンの支配地を広げていきました。

バイデン大統領は7月8日、ベトナム戦争当時の米軍撤退との類似点を記者団に問われました。バイデン大統領は「(1975年のサイゴン陥落時のように)アフガニスタンの米国大使館屋上から人々を救出するような状況では全くない」と反論。「タリバンが全土を支配する可能性は非常に低い」と語っていました。

しかし、実際には首都カブールをタリバンの軍勢が包囲する中で、米国大使館員はサイゴンと同様にヘリコプターで脱出することになったのです。

ただ、昨日も述べたように、タリバンがアフガニスタンを長期にわたって統治する可能性は低いと思います。そもそも、山岳地帯でゲリラ戦をしたり、平野部でゲリラ戦をして、すぐに山岳部に逃げるというやり方で、政府の治安部隊を弱らせて、結果として勝利することができたにしても、それと統治は全く別ものです。

タリバンは、上にも述べたように、かつて「アフガニスタン・イスラム首長国」を統治しようとしたのですが、結局できませんでした。今回も長期にわたって統治できるとはとても思えません。戦闘することと、統治は全くの別物です。

アフガニスタンを撤退する米軍に変わるような存在が、50年以上もアフガニスタンに進駐し続けて、アフガニスタンに新体制を築くようなことでもしなければ、誰もアフガニスタンを統治できないでしょう。

そうして古くは英軍、その後ソ連軍、最近では米軍がそれをしようとしましたが、いずれも中途半端だったために、すべて失敗しました。

米軍は巨費を投じて、アフガニスタンに20年も駐留したのですが、結局何も変えられませんでした。今回のような、すぐにタリバンに全土を掌握されてしまうというのは、確かにバイデンの失態といえると思いますが、私自身はこの決定を支持したいです。

なぜなら、あまりにも犠牲が多い割に、おそらく今後駐留を続けても勝利の見込みはありませんでしたし、特に米兵の犠牲者が多すぎでした。米軍は2000人以上の死者を出しています。その他の国々も犠牲者を出しています。ここまでして、勝利の見込みのない不毛な戦いを続ける必要はないと思います。

トランプ政権もアフガニスタンから撤退するつもりでした、ただすぐには撤退せずに、削減という措置をとっていました。しかし、結局誰かが、いずれ撤退を決めなければならなかったのです。その意味では、バイデンはたまたま損な役回りを引き受けただけということができると思います。

ただ、今回の出来事は失態は失態です。一時的にでも、現地政権が引き継げる形にすべきでした。

ただ今後、米軍にかわるような存在がアフガニスタン全土を統治を支援する形で、再度進駐することはないでしょう。ただし、国境を超えるなどのことはあるかもしれません。

そのため、昨日も述べたように、いずれタリバン、政府治安部隊の残党や、その他の勢力とが拮抗し膠着状態が長く続くことになると思います。

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