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岡崎研究所
長い間、米国の楽観主義者たちは、世界経済に中国を歓迎することは、中国を「責任ある利害関係者」にし、中国に民主化をもたらすと考えてきた。しかし、現実は、その期待を裏切った。トランプ政権において、既に米中対立は、貿易や技術を通じて始まっていたが、バイデン政権は、米中対立を、民主主義対独裁主義という政治システムないしイデオロギーの闘争にしている。これを、エコノミスト誌は、「トランプとバイデンはニクソン訪中後の50年で最も劇的な対中外交の転換をもたらしている」と位置付ける。そして、その基本方針を是認しながらも、詳細には幾つか問題があると指摘する。
エコノミスト誌の社説は、バイデン政権の対中政策に関連して、主として労働組合に配慮するバイデン政権の貿易に関する保護主義を批判したものであり、適切な論を展開している。貿易面で保護主義を実施しながら、米中対立で米国の側に立つように同盟国や新興アジア諸国を説得していくのは難しいのではないかとのこの社説の論旨をバイデン政権はよく考えてみるべきであろう。
オバマ政権が締結し、アジアにおける貿易の自由化その他に大きな影響を与えるはずであったTPP(環太平洋パートナーシップ) をトランプは拒絶してしまったが、日本が努力して部分的に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)として復活させた。今やこれに英国も加入の道を探っている。これには台湾も経済地域として条文上参加できることになっており、それが実現すれば、台湾の国際的地位の向上や経済面での良い効果が見込まれる。米中対立の中で、台湾は米ソ冷戦時代のベルリンに似たような重要性を持っているのであるから、バイデン政権はこの問題をもっと真剣に検討すべきであると思われる。
バイデン政権の対中政策には中国の国際法を無視した行動を看過すべきではないと考えるので、全体として賛成であるが、エコノミスト誌の社説が言うように詳細なところで効果的ではないところがある。信頼されている同盟国として、日本も、米国には率直な意見を述べていくことが望ましいと思われる。
中国の台頭は、少子化、高齢化の人口上の問題、水の枯渇や大気の汚染などの環境問題があり、これまでのように順調にいくとは思えない。対外的には習近平は早々と鄧小平の「能ある鷹は爪を隠す」政策を放棄し、国際的に対外強硬路線を打ち出しているが、結局のところ、自ら中国を取り巻く国際環境を悪くしているようである。
【私の論評】米国が経済安全保障という観点から、中国に制裁を行うのは同盟国には異論はないが、保護主義に走るのは筋違い(゚д゚)!
保護主義のメリットとデメリットを以下にあげます。
〈保護主義のメリット〉
・国内産業の保護・育成
安い外国製品との競争から守られるので、その産業が成長します。また、高い品質の製品を外国から買うだけでは、いつまでも国内産業は技術発展しません。・雇用の増加
保護された産業が成長すると、人を雇います。働く人が増えれば、税金を収め国も豊かになります。・貿易赤字の減少
貿易で、輸入額>輸出額だと貿易赤字となります。保護貿易で輸入が減れば、貿易赤字の減少につながります。
〈保護主義のデメリット〉
・他国から非難される
関税を上げると、その商品を多く輸出していた国は儲からなくなるので、非難されます。・制裁や報復を受ける
保護貿易の理由を説明しても納得してもらえない場合、他国からもお返しで関税アップなどの報復を受けます。・貿易摩擦の発生
お互いに関税をアップし続け、それがエスカレートしてしまい、他の分野にも悪影響を及ぼしてしまう貿易摩擦・貿易戦争につながる可能性があります。・外国の良い商品が買えない
国民は、安くて品質の良い海外製品を購入することができません。・外国へ商品を売りにくくなる
外国からの報復で、海外へ売る時に高い関税をかけられますので、商品を売りにくくなります。
以上からみて明らかなように、発展途上国などの場合は、保護主義にはメリットがあり、さらに保護主義に走っても他国から一定の理解を得やすいといえます。
先進国の場合は、保護主義にはデメリットのほうが多く、さらに保護主義に走れば、他国からの反発をくらいやすいといえます。
米国のように自由主義を標榜する国が、保護主義に走れば、他国、特に先進国からは、反発をくらうのは必至です。
バイデン米大統領は4月28日の施政方針演説で「米国人の雇用を生み、米国でつくられた米国製品を買うのに米国人の税金を使う」と述べ、保護主義的な姿勢を鮮明にしました。中国の通商問題に対処するとしつつも、具体的な政策に踏み込みませんでした。
施政方針演説におけるバイデン大統領 |
バイデン氏は「『米国雇用計画』の投資は1つの原則が指針となる。バイ・アメリカンだ」と力を込めました。トランプ前大統領が施政方針演説で「米国製品を買い、米国人を雇う原則が指針となる」と語ったのとほぼ同じです。内向きの姿勢は変わらりません。
バイデン氏はインフラ投資で外国製品を使う例外を限定すると強調しました。米国は公正な調達ルールを定めた世界貿易機関(WTO)の政府調達協定に加わるのですが「どんな貿易協定にも違反しない」と正当性を主張しました。
通商政策では対中国を取り上げました。国有企業への補助金や、技術や知的財産権の窃取を挙げて「米国は不公正な貿易慣行に立ち向かう」と語気を強めました。中国に構造問題の是正を迫る方法は明示し
トランプ氏は演説で、関税を使って圧力をかけると表明しました。バイデン政権はこれから具体策を問われることになる。
米政府の年間予算規模は4.7兆ドルに達するが、物品などを購入する政府調達は約6000億ドル程度といわれる。
"バイ・アメリカン"という言葉は、バイデン氏の専売特許ではなく以前からあるものです。そもそも、バイ・アメリカン政策は、政府調達や政府が財政支援するプロジェクトにおいてアメリカ製品の購入を優先するもので、1933年に成立したバイ・アメリカン法(ハーバート・フーバー大統領の任期最終日に署名された)や、バラク・オバマ政権下の2009年に成立した景気対策法におけるバイ・アメリカン条項などを根拠とします。連邦政府の調達規則では、バイ・アメリカン政策に従う場合、価格ベースで自国製品や自国資材を50%以上にすることを求めていますが、バイデン政権は、この比率を上げて米国製品の調達を増やします。また例外適用についての判断基準も厳格化するといいます。
民主党はもともと労働組合が支持母体であり、時に保護主義的な政策によって雇用維持を図ることがあるので、これはある程度、予想された事態と言ってよいです。バイデン氏自身は自由貿易論者といわれ、本来なら過度な保護主義には走らないはずですが、今回は少し様子が違うようです。バイデン氏は脱炭素シフトを重要な政策に掲げており、国境炭素税の導入まで検討しているからです。
国境炭素税とは、脱炭素を促すため環境規制が緩い国からの輸入品に税金を課すもので、EUが既に導入を表明しています。ところが、この税金は事実上、特定の国を対象とした関税そのものであり、本来ならWTO(世界貿易機関)の協定違反となりかねないものです。
ところが、脱炭素シフトの必要性から、これを例外適用すべきとの議論が盛り上がっています。もしバイデン政権が国境炭素税を導入すれば、トランプ政権が実施した中国に対する高関税の対象や製品が替わるだけで、事実上、保護貿易が継続される可能性が高まってきます。
菅政権は2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロ宣言を行い、日本も脱炭素シフトに舵を切り始めました。
ところが日本の環境規制は欧州などと比較すると甘く、米国が本格的に脱炭素シフトを進めた場合、中国からの輸入品に加え、日本からの輸入品についても高関税が課される可能性が否定できないです。政府調達における外国製品の採用比率も下がってしまえば、まさに日本の輸出産業にとってはダブルパンチです。
日本では、「アメリカ・ファースト」などの言葉尻を捉えて、トランプ前大統領が保護主義的傾向を強めたと見る向きも多いですが、米国の保護主義的傾向は今に始まったことではなく、トランプ政権以前のオバマ政権時代あたりからかなり顕著となっていました。在日米軍や在韓米軍の撤退論もこの頃から本格化しているという現実を考え合わせると、これは長期的な動きであり、今だけの現象とは考えないほうがよいです。
トランプ前大統領が最初に保護主義的政策を打ち出したという認識は間違い |
ただし、自由主義を標榜する米国が、保護主義に走れば、先進国、特に同盟国からの反発は免れないでしょう。
現在の戦争は、武力を用いれば、抜き差しならない状況になるのが目に見えており、経済などで行う、経済安全保障で行うのが通例になりつつあります。
米国が経済安全保障という観点から、中国共産党が産業を保護するために、輸出企業に対して補助金を出したり、低賃金や強制労働や、先進国からの技術の剽窃で、コストを低減しているという事実があるので、中国に制裁を行うのは日本を含む同盟国には異論はないでしょう。
しかし、中国だけではなく、同盟国に対しても保護主義的な政策を打ち出せば、同盟にひびが入るのは必至です。これは、米国にとっても、同盟国にとっても得策ではありません。そのことを日本は、バイデン政権に強く訴えるべきです。
ただし、自由貿易を阻害しないための、国際ルールの再徹底はすべきとは思います。たとえば、TPPのルールをWTOのルールに盛り込むなどもその一つの方法だと思います。これは、以前もこのブログに掲載したとことがあります。国際ルールを破り続けてきた中国が制裁を受けるのは、自業自得です。
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