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高橋洋一 日本の解き方
米国、英国、オーストラリアの3カ国が、安全保障の新たな枠組みを作ると発表した。オーストラリアの原子力潜水艦配備を支援する考えを示しているが、中国の海洋進出への対抗としてどれだけの力を持つのか。そして日本はどのような役割を果たすべきなのか。
原潜を運用している国は、米英のほか、ロシア、フランス、中国の国連安全保障理事会常任理事国とインドの計6カ国だ。オーストラリアは7カ国目になるだろう。
原潜は軍事秘密の塊であるが、原子力により長期間の連続潜航が可能なので、敵国から本国が攻撃を受けても無傷のまま反撃できる。そのため攻撃への抑止力としては現時点では抜きんでている。
しかし、日本には、原子力と自衛隊へのアレルギーがあり、その両者の結節点とも言える原潜の導入について、海上自衛隊内部ではこれまで幾度も検討がなされてきたが、具体的な結論はいまだに出ていない。原潜を運用すれば攻撃されにくいのに、原潜そのものを拒否してしまうという不合理な対応に陥ってしまっていたわけだ。
日本が原潜を持ち得ないというのは、日米豪印の「クアッド」の枠組み検討の際にも欠点として指摘されていた。つまり、日米豪印でインド太平洋の安全保障を考えても、原潜保有国は米印だけであり、インドは独自の軍事戦略をもっているので、米国とはなかなか相いれないだろうと思われていた。そこを日本が橋渡しする役割があったが、日本自身が原潜を保有していない以上、説得力がなくなるのだ。
そこで米国は、英語圏で機密情報を共有するファイブアイズ(米、英、豪、カナダ、ニュージーランド)のうち、英国に加えてオーストラリアを原潜運営国に格上げしようとしているのだ。
これにより、日米豪印のクアッドは、日本が原潜を運用するという意思表示をしなければ米豪が基軸になるだろう。もちろん、日本国民のアレルギーをなくすとともに、米国の了解がなければ実現しないという高いハードルがある。
筆者はかねてより、核兵器などを共同管理する「核シェアリング」を主張してきた。一例は原潜の運用は米国に委ねつつ、意思決定に日本を絡ませるというものだ。その延長線上には、原潜のレンタルや退役した米原潜の購入などもある。
いずれにしても、日本の諜報機関設置や、スパイ防止法などの制定が大前提だ。ファイブアイズに参画できないのは、日本には役に立つ諜報機関が事実上なく、ほしい情報が入らないためメリットがないばかりか、スパイ防止法がないので情報を与えると漏洩(ろうえい)するデメリットばかりだからだ。
自民党総裁選やその後の衆院選において、これらの日本の安全保障上の諸問題をぜひとも争点にしてもらいたい。次の日本のリーダーの重要な試金石だと筆者は考える。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
2015年11月5日東京湾に姿を現した米海軍の攻撃型原子力潜水艦「ノースカロライナ(SSN-777)」 |
原潜を運用している国は、米英のほか、ロシア、フランス、中国の国連安全保障理事会常任理事国とインドの計6カ国だ。オーストラリアは7カ国目になるだろう。
原潜は軍事秘密の塊であるが、原子力により長期間の連続潜航が可能なので、敵国から本国が攻撃を受けても無傷のまま反撃できる。そのため攻撃への抑止力としては現時点では抜きんでている。
しかし、日本には、原子力と自衛隊へのアレルギーがあり、その両者の結節点とも言える原潜の導入について、海上自衛隊内部ではこれまで幾度も検討がなされてきたが、具体的な結論はいまだに出ていない。原潜を運用すれば攻撃されにくいのに、原潜そのものを拒否してしまうという不合理な対応に陥ってしまっていたわけだ。
日本が原潜を持ち得ないというのは、日米豪印の「クアッド」の枠組み検討の際にも欠点として指摘されていた。つまり、日米豪印でインド太平洋の安全保障を考えても、原潜保有国は米印だけであり、インドは独自の軍事戦略をもっているので、米国とはなかなか相いれないだろうと思われていた。そこを日本が橋渡しする役割があったが、日本自身が原潜を保有していない以上、説得力がなくなるのだ。
そこで米国は、英語圏で機密情報を共有するファイブアイズ(米、英、豪、カナダ、ニュージーランド)のうち、英国に加えてオーストラリアを原潜運営国に格上げしようとしているのだ。
これにより、日米豪印のクアッドは、日本が原潜を運用するという意思表示をしなければ米豪が基軸になるだろう。もちろん、日本国民のアレルギーをなくすとともに、米国の了解がなければ実現しないという高いハードルがある。
筆者はかねてより、核兵器などを共同管理する「核シェアリング」を主張してきた。一例は原潜の運用は米国に委ねつつ、意思決定に日本を絡ませるというものだ。その延長線上には、原潜のレンタルや退役した米原潜の購入などもある。
いずれにしても、日本の諜報機関設置や、スパイ防止法などの制定が大前提だ。ファイブアイズに参画できないのは、日本には役に立つ諜報機関が事実上なく、ほしい情報が入らないためメリットがないばかりか、スパイ防止法がないので情報を与えると漏洩(ろうえい)するデメリットばかりだからだ。
自民党総裁選やその後の衆院選において、これらの日本の安全保障上の諸問題をぜひとも争点にしてもらいたい。次の日本のリーダーの重要な試金石だと筆者は考える。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合、原潜は必須(゚д゚)!
しかし東京電力福島第一原子力発電所事故でリスクの高さを露呈し、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して競争力を喪失しつつあります。今後は既存原発の運転期間を延長することでコスト上昇を抑えるしかありません。大型軽水炉は将来的には小型モジュラー炉にとって代わられるでしょう。
軽水炉の弱みは、冷却水の供給が何らかの理由で途絶えることで燃料のメルトダウンを招く点にあります。船舶用の動力として小型原発を使えば、万が一の場合、海中投棄でメルトダウンは防げます。燃料の補充が長期にわたって不要な点で潜水艦、砕氷船、発電バージなどで小型軽水炉は最適です。
現在の日本ではすっかり忘れ去られていますが、日本はかつて原子力船「むつ」を建造し、自前の舶用小型軽水炉を実証しましたが、放射線漏れを起こし、残念ながら建造路線は放棄されました。
日本で原潜の開発をするなら、まずは、むつの失敗を総括するところから始めなければならないでしょう。「むつ」の失敗は、「むつ」建造に関わった複数企業の設計インターフェースの悪さ、海外専門家から放射線漏れの可能性を指摘されながらも十分に検討しなかった建造体制の不備などが問題だったようです。
原子力船「むつ」 |
日本の場合、日本の領土と領海を守るためだけであれば、現在の通常型潜水艦でも十分であるといえます。しかし、日米豪印でインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛のためには原子力推進の潜水艦保有を検討すべきで。
ポストコロナの中国が南シナ海や東シナ海での軍事活動強化に走り、香港の一国二制度を否定したのは、狙いが台湾併合にあることは明らかです。今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ないです。長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ。
日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れています。そのため、このブログで何度か掲載したように、現時点においては、日本の潜水艦だけでも、尖閣を含む日本の領土や領海を守ることは十分に可能です。
なぜなら、静寂性に優れ、対潜哨戒能力が低い中国には、これを発見することは困難ですし、逆に日本は対潜哨戒能力にすぐれ、中国の潜水艦を発見するのが容易だからです。
台湾有事においても、日本の潜水艦だけでも、これに対応できる可能性が高いです。静寂性の高い日本の潜水艦数隻で台湾を包囲してしまえば、中国海軍は台湾に近づけば、撃沈されてしまいます。
運良く、中国軍が台湾に上陸できたとしても、日本の潜水艦が台湾を包囲している限り、中国の補給船などは、台湾に近づくことができません。それでも、無理に近づこうとすれば、現地んされてしまいます。そうなれば、台湾に上陸した中国の舞台は、水・食料、武器・弾薬などの補給を絶たれお手上げになってしまいます。
日本だげでもこれだけできますが、米国の攻撃力に優れた攻撃型原潜と協同すれば、中国はお手上げです。日本の通常型潜水艦は、情報収集などにあたり、これを米軍の攻撃型原潜と共有すれば、米軍はより安全に正確に中国や中国の艦艇、潜水艦を攻撃できます。そうなると、中国海軍は最初から手も足もでないです。
ただ、日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合には、通常型潜水艦の速度や航続距離などがネックになります。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄されました。
敵国領内での基地攻撃の可否が議論されていますが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御です。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきでしょう。
まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきですが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があるでしょう。
日本では、原子力や自衛隊に対するタブーがあるので、原潜の製造には高いハードルがあるのは事実ですが、モジュール型の小型原発の開発は進んでいます。日立製作所は米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社、日立GEニュークリア・エナジーで出力30万キロワットの小型原子炉を開発中。北米で、2030年ごろに実用化したい考えです。
このモジュール型の小型原発は、無論原潜用にも転用は比較的容易です。量産化された場合、これが原潜に転用されるということは十分に考えられます。
日本の場合、工作技術は世界のトップクラスですし、昔から様々な製品の小型化には定評があります。その日本が、本気で原潜開発に取り組めば、比較的短期間で国産の原潜を製造できるようなるかもしれません。
まずはそのためにも、1隻米国から原潜を購入し技術移転すべきです。そうして、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきと思いますが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると思います。
そうなると、日本は、静寂性に優れた通常型潜水艦と、攻撃力と航続距離に優れた原潜の両方を運用できるようになるでしょう。
米国と英国は、原潜を製造した段階で、通常型潜水艦の建造をやめています。そのため、米英には通常型潜水艦の建造技術はありません。フランスやロシアでは現在でも通常型潜水艦を建造しています。ドイツも製造しています。
ロシアの通常型攻撃潜水艦「クラスナダール」 |
日本が原潜開発ができるようになれば、静寂性の優れた通常型潜水艦と併用して、世界一の潜水艦隊をつくることができるかもしれません。
たとえば、通常型潜水艦が静寂性を発揮して情報収集や攻撃型原潜の守備にあたり、その情報に基づき攻撃型原潜が、敵基地や監視衛星の地上施設を攻撃をするというような運用の仕方も考えられるのではないかと思います。
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