スリランカ大統領を辞したゴダバヤ・ラジャパクサ氏(右)。すでに妻のアヨマ氏(左)とボディガードを連れてモルディブに脱出している(写真は2019年11月撮影のもの) |
先週7月13日未明に、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領がモルディブに脱出し、大統領職を辞すという驚愕の展開を見せたスリランカ。日本では、「中国が借金漬けにした結果、『債務の罠』にハマって国家破綻した」という「中国悪者論」が主流になっている。
だが、スリランカのケースを、銀行と企業の例に当てはめるとどうなるか。企業が銀行から多額の借金をしたが、経営破綻した。その企業はお気の毒だが、多額の資金を貸し付けた銀行の側も、借金を踏み倒されることで蒼くなるだろう。
同様に、中国も蒼ざめているのである。4月にスリランカ危機が顕在化して以降、中国は5億元(約103億円)もの緊急援助を行って、何とかラジャパクサ政権を支えようとしてきた。内訳は、米2000t、51万回分のナトリウム注射液などだ。
威振宏(い・しんこう)駐スリランカ中国大使は、6月29日にペライラ投資促進大臣と、翌30日にはペリス外相と、立て続けに会っている。ラジャパクサ政権が中国と一蓮托生であることが窺い知れる。
「第二、第三のスリランカ」が現れれば中国経済も甚大なダメージが
7月14日には、威振宏大使が主催して、オンラインで「在スリランカ中国系企業安全活動会議」を開いた。参加したのは、スリランカ中国企業商会会長の江厚亮(こう・こうりょう)中国港湾スリランカ地域社長、中国が99年間の租借権を得たハンバントタ港を管理する劉恩懐(りゅう・おんかい)招商局集団駐スリランカ首席代表兼ハンバントタ港口集団CEOら、70数社の現地代表らである。
会議の詳細は伝わってこないが、ラジャパクサ政権崩壊後のスリランカ情勢の分析や、今後どうやって中国の権益を保持していくかについて、意見交換したに違いない。こうしたスリランカ在住の官民の動きを見ても、「銀行役」の中国が、大いに悩んでいることが窺い知れるのである。今後、8大臣を独占していたラジャパクサ一族が、こぞってアメリカに亡命でもしたら、中国は万事休すだ。
そのようなスリランカの状況を見ていると、今後「第二、第三のスリランカ」が出現することが考えられる。3年目に入ったコロナ禍や、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻で、発展途上国はどこも経済危機に陥っているからだ。
途上国への投資をストップできない中国の立場
それでも中国は、広域経済圏「一帯一路」を掲げている手前、投資をストップするわけにいかない。実際、今年1月から5月までに、前年同期比9.4%増の527億元(約1兆800億円)も、「一帯一路」沿線国に投資しているのだ。
だがそうなると、「世界の銀行」と化している中国の「貸し倒れリスク」も、自ずと増していくことになる――。
昨年9月29日、米ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所が、中国の投資の実態をまとめた報告書を公表した。そこでは、中国が2000年から2017年までに世界145カ国で投資した計1万3427件のプロジェクトについて、166ページにわたって詳細に分析している。
その報告書によれば、中国からスリランカへの投資総額は107億6800万ドル(約1兆4900億円)で、これは2017年のスリランカのGDPの12.1%にあたる。つまり、GDPの10%強の投資でも、国家破綻を起こしてしまったのである。
中国による投資額がGDPの10%超となる国が47カ国も
そこで、この報告書を改めて読み込んで、中国の投資総額がその国のGDPの10%を超えるケースを洗い直してみた。すると、計47カ国もあることが判明した。
それを「ハイリスク順」に並べ、中国の投資総額を示すと、以下の通りだ。
(GDP比)(投資総額/単位・億ドル)
1.ラオス 64.8% 122
2.コンゴ 53.4% 62
3.ギニア 49.7% 52
4.アンゴラ 49.5% 523
5.ジプチ 48.5% 15
6.モルディブ 40.3% 15
7.トンガ 35.4% 1.6
8.スリナム 34.0% 9
9.ザンビア 32.5% 79
10.キルギス 31.6% 23
11.モザンビーク 31.5% 41
12.サモア 29.9% 2.5
13.スーダン 28.3% 118
14.タジキスタン 27.0% 23
15.トルクメニスタン 24.7% 89
16.バヌアツ 22.5% 1.9
17.ベネズエラ 21.5% 910
18.ジンバブエ 21.0% 30
19.アンティグア・バーブーダ 19.7% 68
19.カンボジア 19.7% 48
19.シエラレオネ 19.7% 7.7
22.モンテネグロ 18.7% 10
23.モンゴル 17.9% 21
24.カザフスタン 17.5% 304
25.コンゴ民主共和国 17.4% 46
26.パプアニューギニア 17.2% 39
27.エリトリア 16.9% 9
28.エチオピア 15.5% 154
29.エクアドル 15.4% 150
30.ベラルーシ 14.6% 79
30.南スーダン 14.6% 21
32.ナミビア 14.5% 17
33.ガボン 14.4% 23
34.カメルーン 13.9% 54
35.ドミニカ 13.7% 0.6
36.ブルネイ 13.5% 17
36.イラン 13.5% 134
38.トーゴ 13.2% 9.8
39.ミャンマー 12.1% 81
39.スリランカ 12.1% 107
41.ウズベキスタン 11.6% 75
42.ジャマイカ 11.2% 15
42.ニジェール 11.2% 14
44.モーリタニア 11.0% 7.5
45.ケニア 10.7% 93
46.カーボベルデ 10.3% 1.7
47.セネガル 10.2% 24
以上である。47カ国で計3747.3億ドルにも上る。邦貨にして、約51兆9000億円!
特に、中国と国境を接するラオスは、昨年12月3日、雲南省昆明-ビエンチャン間に高速鉄道を開通させたばかりであり、「第二のスリランカ候補」筆頭と言えるだろう。
重ねて言うが、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響で、発展途上国は軒並み、経済危機に瀕している。だが同時に、「一帯一路」の大風呂敷を掲げている中国も、貸し倒れのリスクに、戦々恐々としているはずなのである。
さらに、中国の貸し倒れリスクは上の記事の結論部分にもあるようにロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかることがすでに予想されています。
それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ちなみにウクライナは101位ですが、EUに加入するためには、様々な改革が迫られることになるでしょう。
スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!
だが、スリランカのケースを、銀行と企業の例に当てはめるとどうなるか。企業が銀行から多額の借金をしたが、経営破綻した。その企業はお気の毒だが、多額の資金を貸し付けた銀行の側も、借金を踏み倒されることで蒼くなるだろう。
同様に、中国も蒼ざめているのである。4月にスリランカ危機が顕在化して以降、中国は5億元(約103億円)もの緊急援助を行って、何とかラジャパクサ政権を支えようとしてきた。内訳は、米2000t、51万回分のナトリウム注射液などだ。
威振宏(い・しんこう)駐スリランカ中国大使は、6月29日にペライラ投資促進大臣と、翌30日にはペリス外相と、立て続けに会っている。ラジャパクサ政権が中国と一蓮托生であることが窺い知れる。
「第二、第三のスリランカ」が現れれば中国経済も甚大なダメージが
7月14日には、威振宏大使が主催して、オンラインで「在スリランカ中国系企業安全活動会議」を開いた。参加したのは、スリランカ中国企業商会会長の江厚亮(こう・こうりょう)中国港湾スリランカ地域社長、中国が99年間の租借権を得たハンバントタ港を管理する劉恩懐(りゅう・おんかい)招商局集団駐スリランカ首席代表兼ハンバントタ港口集団CEOら、70数社の現地代表らである。
会議の詳細は伝わってこないが、ラジャパクサ政権崩壊後のスリランカ情勢の分析や、今後どうやって中国の権益を保持していくかについて、意見交換したに違いない。こうしたスリランカ在住の官民の動きを見ても、「銀行役」の中国が、大いに悩んでいることが窺い知れるのである。今後、8大臣を独占していたラジャパクサ一族が、こぞってアメリカに亡命でもしたら、中国は万事休すだ。
そのようなスリランカの状況を見ていると、今後「第二、第三のスリランカ」が出現することが考えられる。3年目に入ったコロナ禍や、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻で、発展途上国はどこも経済危機に陥っているからだ。
途上国への投資をストップできない中国の立場
それでも中国は、広域経済圏「一帯一路」を掲げている手前、投資をストップするわけにいかない。実際、今年1月から5月までに、前年同期比9.4%増の527億元(約1兆800億円)も、「一帯一路」沿線国に投資しているのだ。
だがそうなると、「世界の銀行」と化している中国の「貸し倒れリスク」も、自ずと増していくことになる――。
昨年9月29日、米ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所が、中国の投資の実態をまとめた報告書を公表した。そこでは、中国が2000年から2017年までに世界145カ国で投資した計1万3427件のプロジェクトについて、166ページにわたって詳細に分析している。
その報告書によれば、中国からスリランカへの投資総額は107億6800万ドル(約1兆4900億円)で、これは2017年のスリランカのGDPの12.1%にあたる。つまり、GDPの10%強の投資でも、国家破綻を起こしてしまったのである。
中国による投資額がGDPの10%超となる国が47カ国も
そこで、この報告書を改めて読み込んで、中国の投資総額がその国のGDPの10%を超えるケースを洗い直してみた。すると、計47カ国もあることが判明した。
それを「ハイリスク順」に並べ、中国の投資総額を示すと、以下の通りだ。
(GDP比)(投資総額/単位・億ドル)
1.ラオス 64.8% 122
2.コンゴ 53.4% 62
3.ギニア 49.7% 52
4.アンゴラ 49.5% 523
5.ジプチ 48.5% 15
6.モルディブ 40.3% 15
7.トンガ 35.4% 1.6
8.スリナム 34.0% 9
9.ザンビア 32.5% 79
10.キルギス 31.6% 23
11.モザンビーク 31.5% 41
12.サモア 29.9% 2.5
13.スーダン 28.3% 118
14.タジキスタン 27.0% 23
15.トルクメニスタン 24.7% 89
16.バヌアツ 22.5% 1.9
17.ベネズエラ 21.5% 910
18.ジンバブエ 21.0% 30
19.アンティグア・バーブーダ 19.7% 68
19.カンボジア 19.7% 48
19.シエラレオネ 19.7% 7.7
22.モンテネグロ 18.7% 10
23.モンゴル 17.9% 21
24.カザフスタン 17.5% 304
25.コンゴ民主共和国 17.4% 46
26.パプアニューギニア 17.2% 39
27.エリトリア 16.9% 9
28.エチオピア 15.5% 154
29.エクアドル 15.4% 150
30.ベラルーシ 14.6% 79
30.南スーダン 14.6% 21
32.ナミビア 14.5% 17
33.ガボン 14.4% 23
34.カメルーン 13.9% 54
35.ドミニカ 13.7% 0.6
36.ブルネイ 13.5% 17
36.イラン 13.5% 134
38.トーゴ 13.2% 9.8
39.ミャンマー 12.1% 81
39.スリランカ 12.1% 107
41.ウズベキスタン 11.6% 75
42.ジャマイカ 11.2% 15
42.ニジェール 11.2% 14
44.モーリタニア 11.0% 7.5
45.ケニア 10.7% 93
46.カーボベルデ 10.3% 1.7
47.セネガル 10.2% 24
以上である。47カ国で計3747.3億ドルにも上る。邦貨にして、約51兆9000億円!
特に、中国と国境を接するラオスは、昨年12月3日、雲南省昆明-ビエンチャン間に高速鉄道を開通させたばかりであり、「第二のスリランカ候補」筆頭と言えるだろう。
重ねて言うが、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響で、発展途上国は軒並み、経済危機に瀕している。だが同時に、「一帯一路」の大風呂敷を掲げている中国も、貸し倒れのリスクに、戦々恐々としているはずなのである。
【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!
さらに、中国の貸し倒れリスクは上の記事の結論部分にもあるようにロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかることがすでに予想されています。
それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!
セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。
その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。
もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。
世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。
中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。
ウクライナのような国であれば、国土面積も広く、人口も比較的大きく、ある程度産業基盤が整っているため、ロシアとの戦争が終了すれば、西欧諸国から支援を受けて経済発展する可能性が高いです。しかもEU加入を目指しているので、民主化しなければならず、民主化できれば、かなり発展する可能性があります。
ここで、キーワードは民主化です。民主化しない国は経済発展しません。などとというと、中国はどうなんだという疑問を投げかける人もいるでしょうし民主化しなくても金儲けはできるのではないかと考える人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。実際中国は経済大国ではありません。
中国の一人あたりのGDPは未だに10000ドルを若干超えた程度にすぎません。これは、ロシアとさほど変わりません。ただ、中国が経済大国といわれるのは、人口が14億人もいるからに過ぎません。中国のGDPはロシアの10倍ですが、ロシアの人口は1億4千万人に過ぎず、人口が1/10なので、GDPも国単位では中国の1/10なのです。
バルト三国や、スウェーデン、フィンランド、台湾や、韓国よりも、中露の一人あたりのGDPは、はるかに低いのです。一人あたりのGDPは一人あたりの年収に近似できます。10000ドルというと、日本円に換算すると、ざっくりと100万円です。これでは、日本では生活できません。
これが中国人や、ロシア人の平均年収なのです。日本は貧乏になったなどといわれることもありますが、中露よりははるかに裕福です。
中露には富裕層もいますが、一般国民が貧乏であり、貧富の差が激しいです。
民主化しない国は、経済発展しても一人あたりGDPが10000ドル前後を上限として、そこから伸びないということが経験的に知られており、これを中進国の罠と呼ばれています。
クリックすると拡大します 内閣府資料より |
民主化するつもりのない中露はこれから、経済発展する見込みはありません。そうして、今一度中国の投資先をご覧になってください。スリランカをはじめ、どうみてもこれから民主化して、経済発展するような国はありません。
74位です。ただ、経済的には未だ恵まていません。それ以外の国は全部100位以下です。
こうしてみると中国自身もこれから経済発展する見込みはなく、中国による諸外国への投資も、うまく行きそうにはありません。
中国の最近の経済発展は、民主化により、国民一人ひとりがが豊かになった結果によるものではなく、政府が国内に大規模なインフラ投資をすることによってもたらされてきました。ただし、インフラ投資にも限界があり、中国国内では投資が一巡してしまい、大規模は投資案件がなくなってしまいました。
中国は過去の栄光を再現するために、「一帯一路」などのスローガンを掲げ、海外投資に踏み切ったのでしょうが、海外投資のノウハウに乏しい中国は、まともな海外投資もできず、結局その多くが貸し倒れで終わることになるでしょう。
日米欧などが、このような投資をしないというか、できないのは、結果がこうなることが予め予想できるからしないのです。
中国はいい加減気づくべきです。すぐに欧米レベルとまではいかなくても、ある程度の民主化を進めるべきなのです。そうしなけば、何をしても八方塞がりとなり、閉塞感に苛まされるだけになります。
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