2022年7月31日日曜日

ペロシ米下院議長、アジア歴訪を発表も訪台は明示せず 割れる賛否―【私の論評】ペロシの台湾訪問は米国による対中国「サラミスライス戦術」の一環(゚д゚)!

ペロシ米下院議長、アジア歴訪を発表も訪台は明示せず 割れる賛否

ペロシ下院議長

ペロシ米下院議長は31日、アジア歴訪を正式発表した。訪問先は日本、韓国、シンガポール、マレーシアとしており、焦点の台湾を訪れるかどうかは明記していない。正副大統領に続く米国ナンバー3の下院議長が訪問すれば、中国が統一圧力を高める台湾への連帯を強く打ち出せるが、一層の米中関係悪化と情勢の不安定化を招くジレンマがあり、賛否は割れている。

発表によるとペロシ氏は31日までに給油でハワイに立ち寄った。ワシントン出発日は不明。ミークス下院外交委員長ら5議員も同行している。

米下院議長が訪台すれば、1997年のギングリッチ氏以来25年ぶり。ペロシ氏は中国の人権問題での厳しい立場で知られ、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世とも親交がある。28日にバイデン大統領と電話会談した習近平国家主席は「火遊びは自らを焼き滅ぼす」と牽制(けんせい)した。

【私の論評】ペロシの台湾訪問は米国による対中国「サラミスライス戦術」の一環(゚д゚)!

米政府は中国が台湾への圧力を強める中、台湾に現状維持の保証を与えるために、台湾への支持を示す行動を段階的に展開してきました。今回ペロシ下院議長が台湾を訪問することになれば、これもその一環であると考えられます。

北京ではしばしば、「サラミ・スライス戦術」を使用して、飛躍的な変更ではなく、段階的な進歩を通じて現状を変えてきました。

例えば南シナ海では1つずつ埋め立て(人工島の建設)を行い、1つずつ新たな軍事基地を建設して、米国との対決につながる可能性のあるさらに大きな挑発を回避しながら、その影響力や権益を徐々に拡大しました。

習近平氏は、数年前から米国版の「サラミ・スライス戦術」に直面することになりました。この戦略は数年後にピークに達し、台湾の国際的地位を大幅に向上させる可能性があります。

そうして、この戦術は、成功する可能性が高いです。なぜなら、このブログでは従来から指摘してきたとおり、今でも米軍の海軍力は中国のそれを大きく上回っているからです。

米国国防省や米海大の台湾有事のシミレーションでは、なぜか米軍は、攻撃型原潜を用いることはありません。なぜそのようなことをするかといえば、米国の攻撃力に優れた攻撃型原潜をシミレーションに参加させれば、米海軍の中国に対する絶対優位性が証明されることになり、シミレーションの本来の目的が達成されなくなってしまうからです。

本来の目的は何かとえば、米海軍の脆弱な部分を補うための予算を獲得すること、さらに米海軍の脆弱な点に対して、世間の耳目を惹き付けることです。

そのシミレーションの目的は、十分とはいえないものの、ある程度は効果を現しているようです。しかし、そこにたとえば、オハイオ型攻撃型原潜を参加させれば、このシミレーションは変わっきます。オハイオ型は、比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載でき、これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

米オハイオ級攻撃型原潜

トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能です。さらに、現在の米国の大型原潜は、巡航ミサイル以外にも、対艦ミサイル、対空ミサイル、魚雷等を多数配備し、さながら海中の大型ミサイル基地のようであり、その攻撃力は半端ではありません。

このような大型攻撃型原潜が1隻でも、台湾近海に潜んでいれば、台湾有事には最初の一撃で、多くの艦艇、航空機、中国の防空施設、監視衛星の地上施設を攻撃すれば、中国海軍は壊滅的打撃を受けることになります。

それを覚悟の上で、無理に中国が台湾に上陸部隊を上陸させたにしても、米攻撃型原潜が台湾近海に潜んでいれば、中国海軍の艦艇や航空機が、台湾に近づけばこれがことごとく破壊され、上陸部隊への補給ができず、上陸部隊はお手上げ状態になります。

中国はASW(Anti Submarine Warfarea:対潜戦)においては日米に著しく劣る中国海軍には、これに対抗する術はほとんどありません。中国軍は、米攻撃型原潜が台湾沖に恒常的に潜むことになり、米軍がそれを公表する事態になれば、第三次台湾海峡危機(1995年-1996年)において、米軍の空母に対応できず、軍事恫喝を継続することができなかったときのように、再度米国の攻撃型原潜に屈服することになります。

これについては、米国の著名な戦略家、ルトワックも台湾有事には米軍は攻撃型原潜を2、3隻攻撃型原潜を台湾沖に派遣すれば、十分防衛できると主張しています。台湾有事に、わざわざ空母打撃群などを最初に派遣して、中国軍に大きな標的を与える必要性など全くありません。

一部の米評論家は、この事実を見ようともせず、米国がやっていることはまだ十分ではない、米国は台湾に軍隊を駐留させるか、あるいは習近平氏により明確な公開警告を発するべきと信じているようです。

しかし、米軍の海戦能力が中国を遥かに凌駕している現在、「曖昧戦略」は取り消しても良いかもしれませんが、それ以上は必要があるとは到底思えません。無論、サラミスライス戦術が功を奏して、台湾に米国が軍隊を駐留させても良いとか、習近平にはっきりと警告を出しても良い時期が来た場合には、すべきとは思います。

中国当局は30日、台湾の対岸に位置する福建省福州市の平潭(へいたん)島の周辺海域で実弾射撃訓練を行うため船舶の進入を禁じました。平潭島は台湾に最も近い中国の島とされており、ペロシ米下院議長の台湾訪問計画を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられます。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報の胡錫進前編集長は31日までに、台湾訪問の可能性が取り沙汰されているペロシ米下院議長について、中国軍による台湾入りへの妨害に効果がなければ搭乗機を「撃ち落とせ」と英語でツイートしました。規定違反だと警告されたため、その後削除しました。胡氏は著名な愛国主義的論客です。

過激な発言で有名な、環球時報の胡錫進前編集長

胡氏が短文投稿サイト微博(ウェイボ)に投稿した経緯の説明によると、29日に「台湾に入るペロシ氏の搭乗機を米軍戦闘機がエスコートすれば、それは侵略だ。人民解放軍には警告射撃や妨害を含め、搭乗機と戦闘機を強制的に駆逐する権利がある。効果がなければ、撃ち落とせ」とツイート。規定違反だとされて非表示になり、アカウントを復活させるため削除しました。

中国としては、ペロシの台湾訪問は嫌で嫌でしょうがないのでしょう。

米軍嘉手納基地に30日、米国内の空軍基地に所属するKC135空中給油機9機が次々と飛来した。そのほか、空母艦載輸送機C2Aグレイハウンド2機と、米軍ホワイトビーチに入港した米海軍の強襲揚陸艦トリポリの搭載機、MH60ヘリ1機も飛来しました。ペロシ米下院議長の台湾訪問計画を受け、米中間の緊張が高まっているためとみられます。

これに先立つ28日、米海軍第7艦隊は、ロナルド・レーガン空母打撃群がシンガポールに寄港後、南シナ海に戻ったことを明らかにしました。

ロナルド・レーガン空母打撃群

ペロシの台湾訪問は、台湾にさらに現状維持の保証を与えるための大きな一歩となることでしょう。是非実現していただきたいものです。それにしても、ペロシの訪問が、これだけのインパクトを中国与えるわけですから、安倍元総理が訪問していたらどういうことになったか想像に余りあります。

そうして、このような段階的な米国の「サラミスライス戦術」これからも少しずつ実行されていくことでしょう。

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