2022年7月6日水曜日

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟

岡崎研究所

 6月23日、欧州連合(EU)の首脳会議において、ウクライナとモルドバにEU加盟候補国の地位を付与することが承認された。この決定は大きな意味を持ち、歴史的決定と評価していいだろう。


 これに先立つ6月17日、欧州委員会は、両国を加盟候補国とするよう勧告していた。その文書には、次のような内容が含まれていた。
・ウクライナは民主主義を保証する諸制度の安定性達成、法の支配、人権尊重、少数派の尊重と保護で相当前進しており、ロシアの侵攻にかかわらず引き続き強いマクロ経済指標を示している。

・しかし、ウクライナの加盟は腐敗とオリガルヒの影響を減らす「野心的構造改革」にかかっている。ウクライナは最高裁判所判事の選出手続きを見直し、腐敗と資金洗浄と戦っていることを証明し、反オリガルヒ法を執行し、メディアを「既得権益」から自由にする必要がある。

 戦争後のウクライナの方向性がこれで決まったとも言える。実際の加盟までには、欧州委員会の文書でも明らかなようにウクライナは腐敗防止など多くの改革を要し、多くの交渉が妥結する必要があるが、ウクライナが西側の国になることになったと言える。ロシアはウクライナへの侵攻を続けているが、ウクライナの版図がどうなるにせよ、ウクライナの大部分が生き残り、EU加盟を目標とした諸改革に取り組むことになろう。

 ウクライナは政治的には人権が尊重される自由民主主義国、経済的には自由な市場経済国になる道筋がつけられたと判断される。

 プーチンは無謀にも、ウクライナを国家として亡き者にし、ロシアに吸収合併し、ロシア帝国の再興を夢見ていたと思われるが、結果としてプーチンが目にするのはロシア離れをした民主主義国ウクライナということになると思われる。EUに加盟したウクライナは、ロシアにとって政治面での脅威になることは明らかである。 

 ロシアは強権指導者に率いられる酷い迫害を伴う権威主義体制を続けそうであるが、ロシア人とウクライナ人は兄弟民族であり、ウクライナが自由民主主義で迫害もなく生きていく中で、ロシアでは今の権威主義体制に対する反発は大きくなってくるだろう。

経済的にもウクライナに寄与

 経済的にはウクライナの一人当たり国内総生産(GDP)はEUで最も低いブルガリアの半分にもならない。ウクライナ人労働者がEU諸国で働くだけでも、ウクライナは大きな経済的便益を受け取り、加盟当初から何年かは高い経済成長を達成するだろう。他方で、ロシアは、エネルギー輸出が気候変動対策で脱炭素化の流れの中で伸びず、ますます苦境に陥るだろう。

 ロシアにとってはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEUとの統合の方が脅威であるように思われる。それが現実味を帯びてきている。大変歓迎できることである。

 なお、ロシアのメドヴェージェフ前大統領は、2年後にはウクライナは世界地図から消えているだろうと発言している。これはプーチンが当初の数日でキーウを占拠、ゼレンスキーを排除し、親ロシアの傀儡政権の樹立を企画したことが実行されるとの前提の話であり、今はその可能性はない。

 プーチン自身はウクライナが軍事組織ではないEUに入ることに反対しないと、サンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムで述べた。プーチンは、今やウクライナの存続を前提にした話をしている。

【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

ウクライナの詳細については、外務省のサイトをご覧いただくと良くわかると思いますので、詳細はこちらに譲るとして、以下にはウクライナはIT大国であるという観点から、ウクライナの概要を掲載します。

ウクライナは、旧ソ連構成国の中でロシアに次ぐ2番目に大きな人口、4159万人(※2021年の統計)を抱えます。国土は日本の約1.6倍の面積があります。ロシアを除けば、国土面積ではヨーロッパ最大です。

人口ではドイツ、イギリス、フランス、イタリアに次ぎます。 ハリコフ、キエフ、オデッサなど24の州oblast'とクリミア自治共和国からなります。 ウクライナという名称は〈辺境〉を意味するクライkraiからつくられたもので、12世紀ころから使われていました。

国旗の2色の意味は、青色が空、黄色が小麦畑とされます。(※諸説あります)1991年にソ連崩壊とともに独立したウクライナですが、それまでも、2色の旗は、ウクライナ人やウクライナ民族解放運動のシンボルとして知られていました。

ウクライナは、現在の中国の軍事技術の多くを提供したといわれ、軍事産業があり、またもし
ウクライナの宇宙産業がなければ、世界の多くの宇宙開発計画は存在しなかったといわれる宇宙産業も存在します。

また隠れたスタートアップ拠点そしてIT大国として世界で注目されています。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、ウクライナのIT産業は1990年代初頭から発展し2010年から急速に成長。2018年のIT産業市場規模は約45億ドルと10年で9倍近くになりました。

背景には、優秀な人材と豊富な教育機関があると言います。

ウクライナのエンジニアリングの学位取得者は欧米諸国と比べても多く、フランスやドイツ、英国より多い統計があります。(図参照)


さらにJETROによりますと、人件費は米国の4分の1程度だということで、欧米諸国はウクライナのIT人材に注目しています。

ウクライナ発のIT企業として有名なのは「Ring」や「Grammarly」です。

「Ring(リング)」は住宅のドアに設置する防犯カメラを開発する会社で、画像認識機能やAI(人工知能)で来訪者を見分けることもできるといいます。Amazonに買収されたあとも多機能なセキュリティーカメラのメーカーとして注目されています。


Grammarly(グラマリー)」はAI(人工知能)やNLP(自然言語処理)を用いて、文法チェックやスペルチェックそして盗用の検出といったサービスを提供しています。2009年にウクライナで創業され、業務を拡大させています。このアプリは私もお世話になっています。

また、世界中で使われるあのメッセージアプリも実はウクライナ出身の実業家が創業しました。

米大手メッセージアプリ会社WhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者で、2018年まで最高責任者を勤めたジャン・コウム氏は、ウクライナのキエフ生まれで、のちに米国に渡ったといいます。米国での報道によるとコウム氏は、フィットネスジムを利用している際に「電話をとりそこなうのでどうにかできないか」とアプリ開発につながるアイデアを思いついたそうです。
WhatsAppは2020年時点で世界で約20億人が利用すると発表しています。

日本でもウクライナ人女性が、女性のためにと起業しました。アンナ・クレシェンコさんらは2020年、妊婦さんや子育てママのサポートや月経・妊活そして更年期への対応など、女性のライフステージにあわせた心のケアを展開する会社Flora(フローラ)を起業。登録すると、専門家への相談や情報交換あるいは講義が受けられるとしています。

Floraを創業したアンナ・クレシェンコさん

女性の心の不調が社会課題のひとつとされるなか、クレシェンコさんは、身近な出来事をきっかけに、解決に取り組みたいと起業したといいます。

人を動かす、ウクライナのIT技術。その行方にも世界中が注目しています。

ウクライナの、国民総生産(GDP)1,555億ドル(2020年:世銀)、一人当たりGDP3,726ドル(2020年:世銀)です。

現在のウクライナは、上でも示した、一人あたりのGDPではEUでは最低の9,975.78 ドル(2020年)のブルガリアの半分にも満たないです。

これは常にロシアによる危機や干渉があったこと、そうして特にゼレンスキー政権の前の政権までは政界、産業界も腐敗まみれであり、とても民主主義体制であるといはいえなかったことが最大の原因でしょう。

これでは、いくらある程度の産業基盤があっても経済は発展しません。ウクライナがEUに加盟して、ロシアから干渉を抑え、西欧並の民主化に成功すれば、急速に経済成長するのは目に見えています。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

プーチンと習近平

詳細はこの記事をご覧いただものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。

バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。
中露の一人あたりのGDP1万ドル台です。ウクライナがEUに加盟し、経済成長しこの水準を突破すれば、中露にとってかなりの脅威になるでしょう。中国はEUに加盟するウクライナを「一帯一路」に取り込むことは困難になるでしょう。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では人口や一人あたりのGDPからウクライナの一人あたりのGDPから、ウクライナの一人あたりのGDPが韓国を若干上回れば、ウクライナのGDPはウクライナ戦争直前のロシアを上回る可能性を指摘しました。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

産業基盤もあまりなく、国土も狭く、人口も少ない国が EUに加入したとしても、あまり大きな期待はできませんが、ウクライナは違います。 21世紀には、過去の日本や中国、インドのように急速に経済発展する国はもうないと思われていましたが、ウクライナにはその可能性が十分にあります。国土が広いので経済発展すれば、人口も伸びるでしょう。

ウクライナが経済的にも大国になれば、世界の秩序は一変します。プーチンはロシアにとって良かれと思ってウクライナに侵攻したのでしょうが、それは全く想定もしなかったウクライナの台頭を招くことになりそうです。

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