2022年7月1日金曜日

岸田政権の「財務省色」人事は防衛費増額の壁か 各省に別働部隊、積極財政とはほど遠く 安倍元首相との〝暗闘〟の背後にある存在―【私の論評】政府の本来の仕事は統治、それに専念するためまずは財務省の力を削ぐべきだがそれには妙案が(゚д゚)!

日本の解き方

高橋洋一


 参院選(7月10日投開票)で、物価高など経済対策に並んで有権者の関心が高い争点が外交・安全保障問題だ。中国の日本周辺での威嚇やロシアのウクライナ侵攻で国民の危機意識が高まるなか、岸田文雄首相は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初参加し、「防衛力の5年以内の抜本的強化」を表明した。しかし、これに水を差しかねないのが防衛事務次官人事だと元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は指摘する。岸田首相と安倍晋三元首相の〝暗闘〟も指摘されたが、背後にはあの省庁の存在があるというのだ。


 政府は6月17日、各府省幹部職員の人事を閣議決定した。防衛省では7月1日付で島田和久事務次官が退任し、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てる。

 防衛省は現在、2022年末に向け国家安全保障戦略など3文書の改定作業中であるとともに、防衛費について国内総生産(GDP)比2%超えを目指すという重要な局面だ。そのため、大方の予想は、島田次官の留任というものだった。

 戦後長らく防衛費がGDP比1%程度の低位だったのには理由がある。予算には「要求なくして査定なし」という金言がある。予算額が要求額以上になることはないという意味だ。

 各省の予算要求の要となるのは会計課長だ。予算がなくては政策もできないので、会計課長は出世コースだ。ところが防衛省では、会計課長は財務省からの出向者だ。出向者は親元の省庁を見て仕事をするのが普通だから、まともな予算要求が行われていなかったといわれても仕方がない面もある。

 そこで、安倍政権では、事務次官に安倍氏の秘書官だった島田氏を充てた。続く菅義偉政権では、防衛大臣に安倍氏の実弟、岸信夫氏を充てた。何とか防衛費の確保をしようとした布陣だった。

防衛次官人事をめぐる攻防も指摘された岸田首相と安倍元首相

 ところが、岸田政権は、前述のような次官人事を行った。参院選後、9月にも内閣改造が行われるだろうが、岸防衛相の交代も噂されている。となると、防衛費のGDP比2%超えは、実現に向けてかなり難航することも予想される。

 岸田首相が対外的に防衛費の「相当な増額」と言っているので多少は増やすだろうが、増額幅を抑制したり、増額期間を引き伸ばし、そのうち雲散霧消させたりするのが財務省の戦略だと筆者は考える。岸田政権は財務省の意向が通りやすく、やりたい放題ではないか。

 防衛省は「岸田人事」の典型だといえるが、筆者の見るところ、官邸を含め他の省庁でも同様の状況で、安倍・菅政権で仕事をしていた官僚をラインから外したりしている。その後釜に就くのは財務省の息がかかった人が多い。まるで、財務省の別働部隊がそこかしこにいるようだ。となると、各省から出てくる素案の段階で積極財政とはほど遠い状況になるだろう。

 公共事業の費用と便益を評価する際の重要な前提条件である「社会的割引率」は、2004年以降、4%のままで、見直しの気配もない。安倍政権時に見直し作業がなされたが、岸田政権では頓挫しているようだ。社会的割引率が高いままでは、そもそも投資案件が出てこない。

 岸田首相は、首相として何がやりたいのかと問われて、「人事」と答えたことがある。本来、人事は何かやりたい時の手段である。ところが、今回の岸田人事を見ていると、財務省のいいなりで財務省サイドの官僚が多く選ばれているようだ。これではインフラ投資の増額など全く期待できず、絶好の投資チャンスを生かせない。

 こうした人事は岸田政権を評価する材料だともいえる。有権者は選挙などの機会で、岸田人事への意見を反映させる必要があるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政府の本来の仕事は統治、それに専念するためまずは財務省の力を削ぐべきだがそれには妙案が(゚д゚)!

このブログの読者の方々は、このブログでは折に触れて、経営学の大家ドラッカーのマネジメント上の原理原則を掲載しているのをご存知でしょう。なぜそのようなことをするかといえば、マネジメントには原理原則があって、マネジメント上の問題はこの原理原則に従えば、完璧とはいかなくても、少なくとも方向性は間違わずにすむからです。

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自分の考えだけを掲載というのでは、考え方の幅も奥行きも狭いものになり、このブログを読んでいただいている方々の参考にならないと思うからです。

上の記事で髙橋洋一が指摘するように、「岸田人事」にはかなり問題があります。

そのドラッカー氏は人事に関して、人事こそ組織における最大のコントロール手段であるとしています。コントロールには様々なものがあります。目標や各種数字、叱責や褒めることなど、コントロール手段は、様々ですがその中で最大のものは人事だというのです。

ドラッカー氏は人事について以下のよう語っています。    
日頃言っていることを昇格人事に反映させなければ、 優れた組織をつくることはできない。 本気なことを示す決定打は、人事において、 断固、人格的な真摯さを評価することである。 なぜなら、リーダシップが発揮されるのは、 人格においてだからである」。(ドラッカー名著集②『現代の経営』[上])
田文雄首相は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初参加し、「防衛力の5年以内の抜本的強化」を表明しました。しかし、上の記事にある通り、岸田総理は防衛省人事では7月1日付で島田和久事務次官が退任し、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てるという決定をしています。

これでは、NATOで語ったことが本気であるということを示すことにはなりません。多くの人は「防衛費を上げるつもりはないのではないか」と受け取られても仕方ありません。参院選後に、岸防衛相の交代人事が行われるとすれば、もう、これは決定的であり、誰も防衛費が上がるとは思わなくなるでしょう。

ドラッカーによれば、人間のすばらしさは、 強みと弱みを含め、多様性にある。 同時に、組織のすばらしさは、その多様な人間一人ひとりの強みを フルに発揮させ、弱みを意味のないものにすることにあります。

だから、ドラッカーは、弱みは気にしません。 山あれば谷あり。むしろ、何でもできる人間とは、専門性がなくて、何もできない人間なのです。 ところが、ひとつだけ気にせざるをえない弱みというものがあります。 それが真摯さ(integrity)の欠如です。 真摯さが欠如した者だけは高い地位につけてはならないという。 ドラッカーは、この点に関しては恐ろしく具体的です。
人の強みでなく、弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならない。 人のできることはなにも見ず、できないことはすべて知っているという物は 組織の文化を損なう。 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならない。 仕事よりも人を問題にすることは堕落である。 
真摯さよりも、頭脳を重視する者を昇進させてはならない。 そのような者は未熟である。 有能な部下を恐れる者を昇進させてもならない。 そのような者は弱い。 
仕事に高い基準を設けない者も昇進させてはならない。 仕事や能力に対する侮りの風潮を招く。 
判断力が不足していても、害をもたらさないことはある。 しかし、真摯さに欠けていたのでは、いかに知識があり、 才気があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させ、業績を低下させる。

真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、 あとで身につけることはできない。 真摯さはごまかしがきかない。 一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。 部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、 ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。 そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない。(『現代の経営』[上])  

 防衛費について国内総生産(GDP)比2%超えを目指すのは、たしかに高い目標です。しかし、このような高い目標を基準を設けない者を昇進させてはならないとしています。

何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならないとしています。 仕事よりも人を問題にすることは堕落であるとしています。

デフレに対しては何をすべきかということよりも、財務省や日銀官僚の考えこそ、正しいとするよう者は、堕落しているといえます。

国民や政府のことなど度外視し、省益追求のためにもう30年もデフレを放置してきた財務官僚は、もうとっくの前に堕落しているのです。 

このような財務省は潰したほうか良いと思います。それに関しては、以前このブログも掲載したことがあります。それを以下に再掲します。

政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)

この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」といいます。

しかし、ここで企業の経験が役に立つ。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知ったのです。

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではなかった。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。

実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、トップが決定と方向付けに専念できるようにするのです。この企業で得られた原則を国に適用するならば、実行の任に当たる者は、政府以外の組織でなければならないことになります。

下は、ヤマト運輸の組織図ですが、コーポレート本部は統治に専念しているのでしょう。事業本部は、事業に専念し、輸送機能本部などは事業を実施しているのではないものの、事業部組織に組織横断的な実行に関わる部門だと考えられます。

ヤマト運輸株式会社の組織図

政府の仕事について、これほど簡単な原則はありません。しかし、これは、これまでの政治理論の下に政府が行ってきた仕事とは大いに異なります。

これまでの理論では、政府は唯一無二の絶対の存在でしたた。しかも、社会の外の存在でした。ところが、この原則の下においては、政府は社会の中の存在とならなければならないのです。そうして、中心的な存在とならなければならないのです。

おまけに今日では、不得手な実行を政府に任せられるほどの財政的な余裕はありません。時間の余裕も人手の余裕もありません。

この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する。一方において、企業、大学、病院など非政府の組織が、成果を上げるための機関となる。他方において、政府が、社会の諸目的を決定するための機関となる。そして多様な組織の指揮者となる。(『断絶の時代』)

以上を簡単に言うと、政府の仕事を統治のみにして、それ以外の実行部分は全部政府の外に出し、非営利企業などの民間企業に委託するという形にするということです。ただ、政府が統治に集中するとはいっても、ある程度事務作業などはどうしても必要になるでしょうから、内閣府くらいは残すのが良いかもしれません。

これは、民間の大企業ではすでに行われています。持株会社などを本部として、本部がグループ企業の統治を行い、それ以外は事業会社として実行に専念するというものです。これは、世界的な大企業が様々な試行錯誤した上でたどりついた方式です。

大企業がしばしば機能不全に見舞われ、その打開策として考え出され、現在定着したものです。無論、企業でも規模が小さいところでは、そのような必要はありません。しかし、世界的な大企業であれば、このような形にしないと不正や腐敗がはびこり機能不全に至ることから、今日はこのような形が世界中で普通になっています。

政府は大企業よりもさらに規模が大きいのが普通ですから、いずれこのような形にするのが理想と考えられます。

このようにすれば、政府の機能不全も徐々に改善されていくことでしょう。財務省のような省庁が実体経済どんなときにでも、緊縮財政を実行し挙げ句の果に30年も「失われた時代」という経済も成長せず、賃金もあがらないなどというよう馬鹿げたことを防ぐこともできるでしょう。ただ、私も一足とびにこのようなことはできないと思いました。

そう思いつつ、何か途中の形で良いものはないかと思っていたところ、高橋洋一氏が素晴らしい提案をしていました。その動画を以下に掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただくものとして、簡単にいうと、各省庁の仕事の分掌を、設置法方法式で行うをやめ、束ね政令方式にするというものです。これは、その時々で政府の政令によって、どの省庁に何をさせるかを定める方式ということです。

海外には政府の各省庁の分掌を設置法で決めているところはなく、概ね束ね政令方式が普通です。財務省(官僚全般)の大弱点は、いまやってる仕事をほかの役所に割り振られることです。そうなると、省益の追求はかなりしにくくなります。

たとえば税部門の仕事を歳入庁をつくって、歳入庁は内閣府の下にするとか。主計局の仕事でも、それを内閣府の下にするという方式です。

ただ、それで固定するというのではなく、その時々で、政令でそれを実行する方式です。

これは、非常に良い考え方だと思います。ただ、財務省はこれに当然反対し、恐ろしい勢いで、政治家を殺す(もちろん本当に殺すわけではなく実質的に政治生命を絶つなどのこと)勢いで挑んでくるのは間違いないので、すぐにできることではないですが、髙橋洋一氏は、今ではないもののいずれ政治家が挑んでも良いのではないかと語っています。

これは、いずれ実行すべきでしょう。そうして、それが終われば、いずれ政府が本来の統治だけを行う方式に移行すべきものと思います。

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