2022年7月9日土曜日

対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

日本の解き方





 ウクライナ侵攻を受けて、欧米や日本など西側諸国はロシアに経済制裁を実施しているが、これまでのところどのような効果を発揮しているのか。

 対露制裁としては、カネに関する①金融制裁②対外資産凍結と、モノに関する③ロシアからの輸入規制④ロシアへの輸出規制―に大別できる。

 これらの経済制裁に参加している国は、欧米中心だ。3月7日にロシアが公表した非友好国リストでは、米国、カナダ、欧州連合(EU)全加盟27カ国、英国、ウクライナ、モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、北マケドニア、日本、韓国、オーストラリア、ミクロネシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾の計48カ国となっている。

 中国やインドなどアジア諸国、中東諸国は経済制裁に参加していない。この意味からいえば、経済制裁には抜け穴があるので、それを使った取引も少なくなく、そうした事例を使えば、経済制裁は効果がないという説明も可能だろう。

 しかし、いくら個別事例を挙げても、制裁でどれだけロシア経済が疲弊しているかを説明しないと意味がない。経済制裁は効くか効かないかという二択ではなく、どの程度ロシア経済にダメージを与えているかという観点からの分析が必要だ。

 戦時経済ではよくあることだが、ウクライナ侵攻以降、ロシアは貿易統計を公表していない。国内の経済統計についても公表しないか、公表しても信用するのは難しい。

 ただし、他国のロシア向け輸出やロシアからの輸入については分かるので、輸出入の実態はロシアからの公表がなくてもある程度推測できる。

 5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。

 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。

 この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である。こうしたロシア経済への影響が全て経済制裁によるものとはいえないが、ロシアは自国が戦火にさらされているわけではないので、かなりの部分は制裁によるものと考えていいだろう。

 実際、ミクロでみても、ロシアに対する輸出規制により、部品やIT機器が入ってこないので、ロシアの自動車産業は壊滅的になっている。その結果、かなりの雇用も失われているはずだ。軍事産業に対しては、各種の抜け穴を使って影響を最小限度にとどめているのだろうが、ロシア国民が徐々に困窮していくことは避けられない。

 ただし、こうした経済制裁によってロシアの戦争遂行能力が不能になることは短期的には期待できない。あくまで長期的にロシアの国力を奪うものだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

上の記事で、高橋洋一氏は、「ロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう」としています。そうして、「この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である」としています。

4月19日に国際通貨基金(IMF)は、新たな世界経済見通しを発表しました。1月の前回見通しから、2022年の世界の成長率見通しを0.8%ポイント下方修正して+3.6%、2023年は0.2%ポイント下方修正して同じく+3.6%としました。

ウクライナ紛争の当事国であるウクライナの成長率見通しは2022年に-35.0%、ロシアは-8.5%となりました。ロシアの成長率見通しは、他の国際機関などの見通しと比べてやや高めですが、これは、ルーブル相場の持ち直しを受けて、物価高騰による経済の押し下げ効果が小さくなったことを反映していると見られます。

ただしIMFのチーフエコノミストのグランシャ氏は、通貨ルーブルが回復しても、高インフレなどのロシア経済の状況には変わりはなく、ウクライナ侵攻に伴う一連の制裁で受けた打撃からすぐには立ち直らない、との見方を示しています。

さらに同氏は、対ロシア制裁が強化され、エネルギー輸出も制限されれば、ロシア経済は2023年までに17%のマイナス成長に陥る可能性がある、との予想を示しています。その場合、エネルギー価格の上昇、センチメントの悪化、金融市場の混乱などの波及的な影響によって、世界経済の成長率見通しがさらに2%ポイントも押し下げられる恐れがある、と述べています

ロシアは、燃料や弾薬などは自給できる国ですし、この備蓄量もかなりあるとみられています。ロシア軍は、秋の大演習の1週間で10万トンの弾薬を使います。彼らはものすごい量の補給はできます。

ロシア軍が単に戦争を継続するとか、ウクライナ東部に居座り続けるだけであれば、ある程度の期間は続けられるでしょう。ウクライナ東部はロシア本土からも近いですから、兵たんの負担もそれほど大きくなくて済みます。長期にわたってここで戦線膠着させて持ちこたえるということは、ありうるでしょう。ただ、制裁が続けば3年後には、それすらできなくなる可能性が高いです。

ただ、そうではあっても、数年という期間でみれば、リーマン・ショック並みの影響が3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになるのは間違いないでしょう。

2008年リーマンショックのときにはロシア経済は一気に落ち込んでいる

これは、ロシアにとっては間違いなく甚大な被害です。3年でソ連崩壊のときのようなことになるのは容易に想像がつきます。ただ、それが現在でも明確に予想されるのです。

問題は、3年という数字をどうとらえるかということです。これは、経済的制裁の期間としては決して長い期間とは言えないと思います。

たとえば、緩やかなインフレだと、賃金はあがります、ただ数年ですぐに2倍、3倍になるかといえば、そのようなことなく、一年では誤差くらいにしか思えないですが、20年〜 30年経つと倍になるという状況です。

「マジックナンバー69」と言う賃金倍増の法則があります。実質成長率が3%の場合69÷3=23つまり23年で賃金が倍になります。成長率が2%でも約35年で給料は倍になります。経済成長がいかに大事かということが理解できると思います。当然の事ながらこれはデフレ状況では絶対に不可能なのです。実質経済成長率が3%台というのは、私が実感できる数字で1980年代前半と同じです。


そうして、この給料が倍というのは、同じ会社で同じ職位であったとしてもそうなるということです。日本でも以前はこのような時代があったということです。誰もが先に希望が持てた時代といえます。

以前、どのようになれば賃金が上がったと実感できるかというアンケートがあり、それに「1年で倍」などと答えている人がいたのに驚いたことがあります。

このようなせっかちな人なら、3年という数字を聞くと、気の長くなる話に思えるのかもしれませんが、しかしロシアを疲弊させるということでは、決して長い期間とは言えないと思います。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

ただ、短期に終わらせることもできます。それは、NATOが直接参戦して、ロシア本土を攻撃することです。そうなるとは、ロシアは核兵器を使うことでしょう。それに対抗して欧米諸国も核兵器を使うでしょう。そうなれば、戦争の決着はすぐつくかもしませんが、世界中が核兵器で破壊されてしまうことになります。

そうして、世界はその後復興するのに何十年もかかると思います。それと、3年とを比較すれば、3年のほうがはるかに短いです。

これと、経済制裁がどちらが良いかといえば、経済制裁に決まっています。そうして、経済制裁でロシア経済がソ連崩壊地並に破綻するとみられるのは3年後ということになりますが、それは決して長いとは言えないと思います。


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