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岡崎研究所
6月15日付のTaipei Times紙の社説が、シャングリラ会合での中国の魏鳳和国防相による攻撃的発言と、台湾海峡は国際水域ではないとする中国側の発言をとらえ、中国封じ込めが唯一の選択肢である、と主張している。
Taipei Timesが最近の中国の極端な台湾攻撃の好例として挙げるのが、(1)シンガポールでの「シャングリラ対話(Shangri-La Dialogue)」における中国の主張と(2)さらには、台湾海峡は中国の「内水」であり、国際法の適用がある国際水域ではない、との中国外務報道官の主張である。
シャングリラ対話において、中国の魏国防相は「これだけははっきりさせておきたい。台湾を中国から切り離そうとする者に対しては、誰であれわれわれはひるむことなく、あらゆる代価を払っても最後まで戦う。これは中国にとっての唯一の選択肢である」と述べた。
この発言の前日、シャングリラ対話の場で、オースティン米国防長官は、中国が台湾海峡の「現状維持」を一方的に変更しようとしていることに対して警告した。「米国の政策は全く変わっていない。しかし、残念なことに中国の政策はそうではなく、現状を変更しようとしている」と述べた。
シンガポール会議の前月には、バイデン大統領が、訪問中の東京で、米国は台湾の防衛に「コミットしている」との趣旨の発言を行い、これは「失言ではないか」などという反応を引き起こしたばかりであった。シンガポールでの魏の発言の背景にはこのバイデン発言も当然影響を与えたと見るべきだろう。
最近、中国は米国が台湾の地位について、「戦略的曖昧さ」ではなく「戦略的明晰さ」へと変わりつつあるのではないか、との危惧の念を持ち始めているのかもしれない、というのがTaipei Timesの論説の趣旨でもある。
中国が仕掛けてきている「法律戦」の新説
ごく最近、中国外交部の王報道官は、台湾海峡について「台湾海峡は中国の主権下にある『内水』のようなものである」と述べ、国際海峡のように、他の国々が勝手に「無害通航」することは出来ない、と指摘したが、これは今までに中国が公然と主張したことのない新説ともいうべき主張である。
Taipei Timesはこのような中国の主張を新たな「法律戦」と呼び、これを全くの「たわごと」(poppycock)であると一蹴しているが、中国側のこのような言説には、警戒が必要である。
このような「法律戦」は、台湾海峡のみならず、東シナ海、南シナ海の海域を自らの主権の範囲内とする一方的な領土拡張の覇権主義に繋がっており、尖閣の領有権のことを考えれば日本としても断じて看過することは出来ない主張だろう。
振り返れば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇したことがある。台湾が初めて民主主義に基づく総選挙を行い、李登輝総統を選出した時である。
この時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあった。この「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはない。
その後の中国の防衛費増額などを考えれば、軍事力強化の今日と25年前との違いは歴然としている。そして、最近中国が建造した第3隻目空母「福建」には、台湾対岸の省名がつけられており、中国の台湾侵攻を狙う特別の思いさえ感じることが出来る。
中国の「法律戦」のようなフェイク・ニュースに惑わされることなく、日本としては台湾海峡の平和と安定の重要性を堅持する姿勢を貫く必要があることについては、多言を要しないだろう。
戦略的曖昧さ vs. 戦略的明確さ 〜 アメリカの台湾政策を理解するフレームワークとは?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から結論部分を引用します。
IPEF設立に向けたオンライン会合で記念撮影に応じるバイデン大統領、岸田首相、インド・モディ首相の3首脳 |
現在、アメリカはインド太平洋重視の外交政策を進め、同盟国と共同作戦を行う能力を高めている最中であるが、軍事バランス的にまだ充分ではないと判断しているのだろう。今後中国よりも西太平洋における自国及び同盟国の軍事力が上回ったという確信を持てば、「戦略的明確さ」を宣言する可能性がある。
中国がインド太平洋地域での覇権を確立すべく、軍事的・経済的な活動を活発化させる中で、中国による台湾の武力統一を防ぐことができるかは、未だかつてないほど重大な地域の安全保障課題になりつつある。
「戦略的曖昧さ」及び「戦略的明確さ」にはそれぞれの抑止の論理があり、どちらかが絶対に最善の結果を約束しているわけではない。だが、どちらの戦略を採るにしても、重要な論点は中国による台湾の武力再統一を阻止できるかということだ。
米国が「戦略的明確さ」を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない。米国の政策変更は日本の安全保障政策にも大きな影響を与えるだろう。
すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。
特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。
たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。
その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。
それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。
この記事で「ゲームの目的」とは米海軍の弱点補強のための予算獲得や、多くの人の耳目を惹き付けることです。この目的のため、台湾戦略ということになると、国防省はもとより海大でも、米国の原潜、特に大型の攻撃型原潜や米海軍の世界トップレベルの対潜哨戒能力は急に姿がなくなってしまいます。
国防省や海大が公式にこのような戦略案を出しているわけですから、米国政府としては、これを無視するわけにも、ましてや否定するわけにもいきません。ただ、国務省などは様々なインテリジェンスから、台湾防衛は比較的簡単だし、たとえ台湾を巡って中国海軍と海戦になったとしても米海軍側の犠牲者は多くはならないことを知っていることでしょう。
そうなると、自ずと台湾戦略については、あるときは明確に、またある時は曖昧にならざるを得なくなります。
さらに、上の記事では、「米国が"戦略的明確さ"を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない」としていますが、これは事実だと思います。
インド太平洋地域は広大です。米国一国だけでは守備するには広すぎます。多くの国の支援が必要です。であれは、米軍が台湾を守備するのは簡単だと言ってしまうよりは、危機を煽っておいたほうが、良いという判断もあるでしょう。
そうして、米軍が台湾有事で、攻撃型原潜を用いようとしていると考えられることは、米国ポウ長官オースチン氏の発言からもうかがえます。これについては、以前このブロクでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米潜水母艦「フランク・ケーブル」6年ぶり来航 台湾情勢にらみ抑止力強化【日曜安全保障】―【私の論評】オースティン長官の「抑止」とは、最恐の米攻撃型原潜による台湾包囲のこと(゚д゚)!2021年12月4日、レーガン国防フォーラム(Reagan National Defense Forum)において、オースティン(Lloyd James Austin III)米国防長官は、2022年初頭に公表される新しい国防戦略に言及し、その中で、新国防戦略の核となる「統合抑止(Integrated Deterrence)」に関して述べています。
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一方米攻撃型潜水艦は、潜水母艦から迅速に補給を受けつつ攻撃ができますから、トマホークなど1000発でも、2000発でも打ち放題になるので、圧倒的に有利に戦闘を展開できます。それにもしかすると、台湾にも補給基地を用意しているかもしれません。それに、日本の米軍基地からも補給が受けられます。交代しながら、24時間臨戦態勢で、攻撃ができます。
もし、それでも台湾に上陸した中国の地上部隊が台湾軍を攻撃をしようとすれば、台湾軍に撃破されることになるでしょう。それでも諦めなければ、潜水艦によりほぽすべての艦艇が撃沈され、中国海軍は壊滅します。このような攻撃ができる米軍の攻撃型原潜がすでに台湾付近に潜航しているとみなすべきです。
そのことを米軍は、「フランク・ケーブル」を神奈川・横浜、広島・呉、長崎・佐世保、そして沖縄と、立て続けに寄港させるこによって、中国に対してはっきりわかるように示しているのです。私は、オースティン国防長官が述べた「抑止」の全貌(ブログ管理人注:台湾戦略における「抑止」)はこのようなことだと思います。これでは、中国は台湾への武力侵攻はあきらめざるをえません。侵攻すれば、中国海軍は崩壊し多数の犠牲者を出し、習近平の権威は地に落ちることになります。
このような現実があり、中国海軍は米海軍に勝てる見込みはないので、中国は「法律戦」を仕掛けようとしているのではないでしょうか。
中国が台湾に本格的な軍事的介入をしようとすれば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇した時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあったことの再現になることでしょう。
米国は、台湾近海に攻撃型原潜を派遣して、24時間の防備体制をしくことを宣言することになでしょう。そうすれば、中国はなすすべもなく、後退することになります。後退しなければ、中国は海軍は新型空母「福建」を含め、崩壊することになります。
1998年の台湾海峡危機での屈辱を晴らすために、中国は海軍の増強に勤めました。そうして、艦艇数は増やしたものの、対潜水艦戦争(Anti Submarine Wareare)では未だ米国には追いつけません。特に対潜水艦哨戒能力では日米に大幅に遅れをとっています。
その結果として、中国は海戦能力では到底日米に及びません。その屈辱を晴らそうにも、従来のように日米から技術を剽窃しようとしても日米ともに従来よりもはるかにガードを固め容易ではありません。それにロシアも対潜哨戒能力が低いのであてになりません。
この1998年の「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはないのに、中国がそのような主張はじめたことが、上で述べたことを裏付けていると思います。
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