2022年6月23日木曜日

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進

岡崎研究所

 6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。


 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強

 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない、主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

上のような記事を読むと、またかという感じがします。

2020年9月に米国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表しています。

また米海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられました。

それ以来、米海軍が中国軍に負けるという記事がマスコミ等でいくつも掲載されるようになりました。上の記事もこのような背景から掲載されたものと考えられます。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、国防総省等がなぜこうした発表を行うのかということです。

彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのです。


国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているのです。しかし、実際には2020年おいても、上の表の通り、米軍の艦艇数は、中国のそれを上回っています。ただ国防省は、米軍は艦艇を世界中に振り向けなければならないのに対して、中国はインド太平洋地域にだけ配置すれば良く、そうすると中国のほうが米国を上回るというのです。

しかも、中国の艦艇製造速度は早く、いずれ全体の艦艇数でも中国が米国を上回るとしています。ただし、最近は中国の艦艇製造数もひところよりはかなり減りましたし、米国はトランプが大統領の時代に艦艇数を増やすことを決めました。

しかし、もうすでに何十年も前から、海軍力の意味は変わってきています。昔から、「艦艇には2種類しかない、水上艦艇と潜水艦である。水上艦艇はそれが空母であれ、何であれ、ミサイルや魚雷などの標的に過ぎない。しかし潜水艦は違う。現代の本当の海軍の戦力は潜水艦である」と言われています。

実際、1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたのですが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北しました。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのです。

ところが米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

中国海軍が多くの艦艇を持ち、さらに世界中に基地のネットワークを作ろうと、いざ米海軍と海戦ということになれば、米軍は圧倒的に勝利しかつほとんど被害を被ることはないでしょう。一方中国海軍は壊滅的な打撃を受けることになります。

ただ、このようなストーリーでは面白みもないですし、米海軍も艦艇の予算を得ることもしにくくなります。だからこそ、攻撃型原潜抜きで戦えは、艦艇数の多い中国海軍に、米海軍はまけてしまうというストーリーで耳目を惹きつけ、さらにドローンの脅威などで味付けすれば、多くの人々の耳目を惹きつけ予算を獲得しやすくなります。

ドローンであろうと、偵察衛星であろうと、水中に潜む潜水艦を発見できなければ無意味です。潜水艦への攻撃は潜水艦が発見できてはじめて可能になります。その能力が日米は中露をはるかに凌駕しているのです。これにより、日米と中露が海戦を行えば、中露にはまったく勝ち目がありません。中露は日本の海上自衛隊と単独と戦っても勝ち目はないでしょう。

現在の技術では監視衛生で水中の潜水艦は発見できないし、中露のドローンも対潜哨戒力は低い

米国防省の報告書や、さらにこれらを根拠とするマスコミ報道を真に受ける必要はありませんが、ただそうはいっても米国防総省としては、中国海軍への対抗措置として新たな試みに挑戦し続けるべきです。新たに攻撃型原潜を増やすとか、水上艦艇でも必要なものを増やすとか、メンテナンスのための工廠を増やすなど、現実的な予算の要求をすべきと思います。

日本も米国並にASW(対潜水艦戦闘力)が強く、特に対潜哨戒能力は米軍とならび世界トップクラスです。これは、冷戦中に米国の要請によって、オホーツク海のロシア原潜の行動を監視することによって得た能力です。

日本の場合は、米国のように攻撃力の強い、攻撃型原潜はありませんが、ステルス性に優れた通常型潜水艦があります。この潜水艦も米国の攻撃型原潜には及ばないものの、通常型としては十分な攻撃力があります。現在22体制で運用されており、日本は専守防衛はできます。

中国海軍が日本に侵入しようとして、陸上部隊を送ってきた場合などは、これらを撃沈できますし、たとえ陸上部隊が上陸したとしても、潜水艦隊で包囲して補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。そのため、中露や北などが、日本に上陸しようとしても、なかなかできません。よって、日本は独立を維持することはできます。

マスコミで喧伝されてはいますが、中国にとっては台湾や尖閣諸島に武力で侵攻して、略奪するようなことは、簡単なことではないのです。

ただ、日本でもなぜか米国のように、日本防衛といういうと、水上艦艇、航空機、陸上兵力による防衛ばかりが議論され、潜水艦はでてきません。日本も潜水艦なしで、中国と対峙するとなると、かなり分が悪いです。これは、日米というか、いずれの国でも、昔から潜水艦の行動は隠密にされるのが普通だからかもしれません。

日米ともに、自国のASWの能力や、潜水艦隊の実力を国民に正しく啓蒙すべきでしょう。特に日本では、中国の軍事力の拡大の脅威を盲目的に信じて、中国には到底勝てないと思い込む人も多く、「中国に頭を下げるべき」とか「攻め込まれたら、戦え戦え正義のために戦えだけではだめだ」などという言葉を真に受ける人もいるようです。これでは、いたずらに中国のプロパガンダに加担することになってしまいかねません。

尖閣危機、台湾危機を一方的に煽る人もいますが、一方的に煽るのではかえって中国のプロパガンダに加担することにもなりかねません。なぜなら、それによって尖閣も台湾もすぐに簡単に中国によって侵略されしまうと信じ込む人が増えるからです。

実際、台湾も尖閣もいつ中国に奪取されてもおかしくないと考える人は多いです。しかし、あれだけ何回も長期間わたって尖閣や台湾を脅しているのはどうしてでしょうか。中国が台湾や尖閣を奪取できるだけの軍事力があるなら遠の昔に奪取しているはずです。

それどころか、中国海軍のロードマップでは、2020年には、第二列島線まで、確保する予定だったはずですが、現状では第一列島線すら確保はできていません。なぜできないのでしょうか。

かといって、日本の海自の海軍力はアジア最強であって、中国など全く脅威ではないと主張するのも問題です。バランスが重要だと思います。

そうして、最近のこのブログで述べたように、日本の潜水艦隊の運用は専守防衛にかなり傾いており、ロシアがウクライナにしたように中国が日本の国土にミサイルなどを直接打ち込めば、国土は破壊され、多くの国民の生命や財産が失われる可能性は否定できません。独立が維持できても、国土が破壊されてしまえば、悲惨なことになります。できることなら、こうしたことも防ぐべきです。

これを防ぐためには、先日もこのブログに掲載したように、日本も攻撃型原潜を持つことも検討すべきです。ある程度大型で、巡航ミサイルなども多数搭載できる攻撃型原潜があれば、敵基地攻撃もできます。

さらに、日本がタイやカンボジアなどを含む、アジア太平洋地域全体の安全保障に関与したり、日本のシーレーン全体の安全保障も関与するというのなら、攻撃型原潜の保有も必須となるでしょう。なぜなら、これらも日本の安全保障のテリトリーに加えるというのなら、長時間潜水でき、かつ大量の兵器を格納できる原潜が必要になるからです。

それとともに、日本はいたずらに中国の軍事的脅威だけに注目することなく、地政学的戦いにも注力すべきです。

米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

「中国製造2025」の段階を示すダイアグラム

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

現状では台湾にすら武力侵攻は難しい中国です。中国としては、軍事力ではない他の分野で日本に対抗しようとするのは、当然です。そうした日本が中国と対峙するのは米国と同じく「地政学的戦争」になるのは明らかです。

日本では、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が先月11日の参院本会議で可決、成立しました。半導体など戦略的に重要性が増す物資で供給網を強化し、基幹インフラの防護に取り組む体制を整える。2023年から段階的に施行します。

どの程度実効的な措置がとれるのかが課題です。

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