2022年6月20日月曜日

トランプの対中関税で続くインフレ圧力―【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

トランプの対中関税で続くインフレ圧力

岡崎研究所

 米国では、8%を超えるインフレを受けて、政権内外で、トランプが2018年に導入した対中制裁関税(3000億ドル超の産品に掛けている)を引き下げるよう求める声が高まっているようだ。ワシントン・ポスト紙の5月30日付け社説‘It’s time for Biden to lift Trump’s China tariffs’は、米国内のインフレ抑圧のためにバイデンはトランプの対中制裁関税を撤廃する時だ、と主張する。正論だ。


 トランプの関税は、米中貿易関係を改善したというよりも、米国の消費者、生産者双方にコストを掛けることになった。競争力のない一部の米企業とその労働者は保護から利益を得たかもしれないが、経済的に理屈に合わない政策であったことは最初から分かっていた。それが4年も続いている。

 バイデンもトランプ関税を批判してきたが、それをそのままにしてきた。それではトランプと同じ政策になる。制裁関税の撤廃は中国と取引し、もっと早く撤廃すべきだった。ピーターソン国際経済問題研究所の試算によれば、対中制裁関税の撤廃はインフレを直ちに0.3%下げ、潜在的には向こう1年で1%以上インフレを下げる効果があるという。

 しかし、撤廃の議論はなかなか動いていない。米通商代表部(USTR)は5月3日、対中制裁関税を見直す作業を始めると発表した。イエレン財務長官などがインフレ抑圧のために当該関税撤廃を求めている。

 それでも、政権内部の意見は割れている。タイ通商代表、ビルサック農務長官、国家安全保障会議(NSC)のサリバン等は撤廃に反対、他方イエレン、ライモンド商務長官などは産業界、消費者の利益を考え、撤廃に賛成の主張をしていると言われる。

中間選挙でも争点となる可能性

 バイデンは、5月31日付けのウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿‘My Plan for Fighting Inflation’でも関税撤廃には触れていない。撤廃すれば中間選挙でトランプ勢力に攻撃材料を与えることになることを恐れているのだろう。秋の中間選挙に向けて、経済は大きなイシューになる様相が強まっている。

 バイデン政権は難しい立場に追い込まれている。バイデンは政権の経済閣僚等のインフレ対策に不満を募らせているという。

 上記ワシントン・ポスト社説は、「中国は未だ公正な貿易をしていない。主要産業への補助金等中国政府の反競争的政策は、知財保護になっておらず、更に悪いことに外国企業の市場参入を難しくしている。中国を変化させる最善の方法は、米の対中依存を下げるために他の国々との貿易連携を強化することだ」と指摘したうえで、環太平洋経済連携協定(TPP)を高く評価、先般バイデンが発表したIPEFは内容が乏しくTPP加盟の代替にはならないと言う。

 こんなに多くのところで支持されているTPPにつきバイデンが動こうとしないのは、理屈が分からない。もっと果敢に動くことが望まれる。

【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議を通じ、アジアとの経済関係を強化するため近く発表する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を説明して引き込みを狙っていました。しかし米国が自国の市場開放に消極的なため魅力が薄いと判断する国も多く、10カ国のうちIPEFに当初から加入するのはシンガポールとフィリピンのみの見通しでした。共同声明もIPEFに言及しませんでした。


米国は、日本など11カ国による環太平洋連携協定(TPP)から脱退し、代わりにインド太平洋地域で経済的な関係を強める枠組みとしてIPEFを提唱。今回の首脳会議に合わせて訪米した各国の閣僚らに、米通商代表部(USTR)のタイ代表と商務省のレモンド長官が説明しました。

IPEF以前もこのブログで述べたように、「貿易」「供給網」「インフラ、脱炭素」「税、反汚職」の四本柱ですが、ルール整備が主体とみられ、経済連携協定で一般的な関税の引き下げは想定していません。米国が自国の産業や雇用の保護を優先して市場開放に消極的なためで、各国にとっては米国への輸出を増やすという実利は薄いです。

アジア地域ではTPPや、日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)が既に発効しており、9割以上の品目の関税撤廃で合意済みです。各国にとっては輸入が増えて国内産業が厳しい競争にさらされるリスクがある一方、海外に輸出を増やすチャンスもあります。

このため、ASEAN各国には、IPEFへの期待よりもRCEPなどの活用を優先する動きが広がっています。

米国はバイデン大統領の訪日に合わせてIPEFを公表しましたが、既に貿易活発化や幅広い取引ルールを定めた協定がある中、米国主導の枠組みがどこまで割り込めるかは未知数です。


世の中にはいろいろな芸人がいるが、中でもTPP芸人という興味深いカテゴリーがあります。かつて、民主党政権時代に「TPPは亡国の協定」とか、「国民皆保険がなくなる」とか、「日本の農業が壊滅する!」とか、面白いことを言って拍手喝さいを受けた芸人たちです。

安倍政権が誕生し、2013年にTPPへの参加を表明すると、この芸人たちは「表明した瞬間にすべてはアメリカの思い通り決まっている!」などと言っていました。この時はファンたちと大いに盛り上がったものですが、それも今となってはなつかしい楽しい思い出です。残念ながら一発芸人の命は短いです。TPP芸人バブルは完全に弾けてしまいました。

もちろん、日本の国益を守るためにTPPについて警戒すべき点があったことは事実だ。ISD条項やラチェット条項が本来とは違う意味でつかわれたりしたらこれは一大事です。

ISD条項とは事後的な法律の変更などにより、対外投資が水泡に帰した場合、その賠償を請求できる権利を明記した条です。1989年に日本は支那と投資協定を結んだのですが、そこにもISD条項は入っています。支那のように法律をコロコロ変える国と取引する場合は必須の条項です。

米国にもこの種の芸人たちは存在するのでしょうか。本当に困ったものです。関税撤廃や削減をを軸とした自由貿易協定への米国内での強いアレルギーがあるのは間違いないようですが、それにしても、関税の撤廃・削減はマイナス面だけではなく、米国も域内でそのような恩恵を得られるということを米国TPP 芸人たちは忘れているのでしょうか。

そうして、もう一ついえることは、米国の産業が貿易で成り立っているわけではないことを、米国のTPP芸人たちは理解していないのかもしれません。

輸出はGDPを押し上げ、輸入は逆にGDPを押し下げる要素であるが、それぞれ、日本では実質GDP全体のうち、輸出が約17%、輸入が約15%を占めています。

米国は、この比率はさらに低いです。この意味するところは、日米ともに輸出や輸入がGDPに占める割合は他国から比較すれば、かなり低く、両国とも内需大国なのです。世の中では、貿易が強い国が、良い国であるような認識がありますが、それは逆の側面からみると、外国の景気に左右されやすいということです。内需大国の日米はそうではないのです。


内需大国は、外需大国よりは、貿易によって影響を受ける度合いは低いです。カリフォルニア州の経済は、世界の国と比較しても第5位に相当する大きな規模です。 2017年時点での州内総生産額(GDP) は約2兆7460億ドルであり、アメリカ合衆国のGDPの13%に相当します。ウクライナのGDPは四国と同じくらいです。東京と韓国も同じくらいです。

米国は日本よりもさらに内需大国です。このような国が、たとえ貿易で関税を撤廃したり、削減したりしても、さぼと大きな影響を受けることはありません。もし受けるようなことがあれば、何らかの保護政策をしつつ、転換をはかるようなことは十分にできます。であれば、なぜ米国が TPPに加入しないのか、理解に苦しみます。

加入したほうが、米国にとってメリットが大きいですし、米国は、早急にTPP に復帰して、中国との「地政学的戦い」に本格的に挑むべきです。

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