安倍元総理 |
フォーラムは台湾の民間研究機関、国策研究院文教基金会が主催。安倍氏は「新時代の台日関係」と題した講演を行った。台北の会場には鄭文燦(ていぶんさん)桃園市長や林智堅(りんちけん)新竹市長などが出席した。
安倍氏は「日本と台湾がこれから直面する環境は、緊張をはらんだものとなる」と指摘。「自由で開かれた、民主主義の枠組みに、自分たちをしっかりと結び付ける努力を続けることが肝心」との考えを示した。
TPPの参加については、「台湾には参加資格が十二分に備わっている」と強調。「WHO(世界保健機関)のオブザーバー資格など、可能な分野からふさわしい発言権を手にしていくべき」とした上で、「実現に向け、支援を惜しまぬつもり」と述べた。
一方で中国との関係については「自由と民主主義、人権、法の支配という普遍的価値の旗を高く掲げて世界中の人から見えるよう、その旗をはためかせる必要がある」と語った。
また台湾の有事は日本の有事だとし、「日米同盟の有事でもある」と主張。中国に対して「自国の国益を第一に考えるなら、両岸(台湾と中国)関係には、平和しかないということを、繰り返し説いていかねばならない」とした。
安倍氏は、「普遍的価値を重視する私たちにとって台湾こそはキーストーンである」と強調。「まずはWHOへの参加など、台湾の国際的地位を、一歩一歩、向上させるお手伝いをしたい」と述べ、「自由で、人々に人権を保障する台湾は、日本の利益」とし、「世界全体の利益でもある」と語気を強めた。
台湾有事論の高まりを前に、1970年代後半の北方脅威論の時代を思い出している。
激しさを増す米ソ冷戦のさなか、日本国内では何十個師団ものソ連軍が北海道に上陸侵攻してくるとの危機感が高まり、マスコミでもそれをあおるような報道が相次いだ。
しかし、現実には海上輸送能力の限界から、北海道に投入できるのは3個自動車化狙撃師団(機械化歩兵師団)、1個空挺(くうてい)師団、1個海軍歩兵旅団、1個空中機動旅団にすぎず、全滅を覚悟しない限り、作戦が発動される可能性はなかった。
意外かもしれないが、そういう角度から軍事を科学的にとらえることを教えてくれたのは、1等陸佐になったばかりのころの、防衛大学校1期生たちだった。
つまるところ、このときの騒ぎはワシントン発、そして永田町発の政治的な北方脅威論にすぎなかった。空騒ぎからさめたあと、国民の防衛意識が高まるには長い年月を必要とした。今回の台湾有事論の高まりには同じ側面がある。
当時のソ連軍と同じような輸送力の限界は現代の中国にもあります。 これについては、以前このブログでも述べました。その記事から引用します。
台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習 |
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。
この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。
このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻するのは無理ということになります。輸送力に欠ける中国は、戦力を小出しにせざるを得なく、台湾に兵を送れば、小出しの兵力ではすぐに台湾軍に撃破されてしまいます。
いくら、中国軍が相対的に巨大であるからといって、小出しにしか兵を送れないなら、台湾軍のほうが数的にも圧倒的に有利になり、個別撃破されるだけになります。
しかも、米国は当然のことながら、台湾を攻撃型原潜で包囲するでしょうから、そうなるとただでさえ少ない輸送力が、さらに破壊され小さくなってしまいます。これでは、十分な人員も武器弾薬も送れず、小出しに展開した兵は、逐次台湾軍に個別撃破されることになります。
それに潜水艦で包囲されてしまえば、中国側はこの包囲網を破ることはできません。それでも、強行突破しようとすれば、多くの艦艇は海の藻屑と消えることになります。
以上に関して、詳細については下の【関連記事】のところに、リンクを掲載しておきますので、そちらをご覧になってください。
戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。
マーチン・ファン・クレフェルト |
実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったのです。極限すれば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきました。そう同著は伝えています。
エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎません。現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行きません。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちているのです。
史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。
そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。
米陸軍の「寒冷地用」戦闘糧食 |
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