「アベノマスク廃棄」 国の調達は本当に無駄だったのか?
この問題が表面化したのは2021年11月5日の会計検査院20年度決算検査報告からだ。同報告で、「アベノマスク」と呼ばれた全世帯向けを含め、国が調達した布マスクは3月時点で8300万枚(約115億円相当)が倉庫で保管されていたと報じられた。マスク不足だった昨年、国が調達したのは無駄だったのか。
「アベノマスク」は1億3000万枚準備、1億2600万枚配布
この種の報道は、その後発表される政府資料を事前に政府が報道機関にリークしたもので、マスコミは政府からいわれるままに報道する。
10月末の報道によれば、昨年、「アベノマスク」といわれる世帯向け布マスクを約1億3000万枚、介護施設や妊婦向けには約1億5700万枚を調達。このうち、それぞれ約400万枚と約7900万枚が保管されていた。マスクの平均単価は約140円。
所管する厚生労働省は、介護施設向けはマスクの品薄状態が解消された後、希望する施設のみへの配布に方針を切り替えた。
「アベノマスク」は全世帯への配布を終え、保管されていた400万枚は余剰分という。
政府が2020年に配布した通称「アベノマスク」 |
介護施設向けは1億5700万枚準備し、当初は全施設にプッシュで配布したが、施設側が調達可能になった後、希望配布に切り替え。その時に7900万枚の在庫。「アベノマスク」は1億3000万枚準備し、1億2600万枚配布し、400万枚の在庫となった。
これでわかるだろう。「アベノマスク」については、全国民への配布だったが、予定どおり無駄なしで完了。一方、介護施設向けは多くが在庫になった。しかし、新聞の見出しでは「アベノマスクも」などと書かれて、「アベノマスク」が大量在庫になったかの印象となり、国民へのミスリードになった。
見込みを誤って介護施設でマスク不足になったら、その方が問題
介護施設向けについては、準備量が結果としては多かったが、当初のマスク不足への対応は出来た。マスク不足がどのように解消されるかを当時予測するのは不可能だ。後から過剰な準備だったと結果論で言うのは簡単だが、見込みを誤って介護施設でマスク不足になったら、その方が問題だろう。さらに、「アベノマスク」は当時売り惜しみをしていた業者に打撃を与えたともいわれている。
この20年度決算検査報告では、会計検査院法に基づく意見表示などは付されていない。つまり、会計検査院として調査をしたが、問題なしという見解だ。
マスコミは、10月末の報道で「アベノマスクも」という奇妙な見出しだったが、今回の報道では、介護施設向けまで含めて「アベノマスク」と称している。
マスコミは「アベノマスク」と揶揄したいがためか、事実は無駄なしで貶める余地がないのに、介護施設向けまで用語を広げているようだ。これでは、もはやまともな報道と言えない。そこまでしてでも元首相を話題にしたいのだろうか。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。
・国民の不安を解決した ・布製マスクの配布の後、マスクの製造・流通が回復 ・初期の目的を達成 ・現在5億枚を超える高性能マスクに備蓄に至った ・財政資金効率性に基づき見直し
この部分をマスコミは見事にスルーしています。しかも、高橋洋一氏も語るように、 20年度決算検査報告では、会計検査院法に基づく意見表示などは付されていません。つまり、会計検査院として調査をしたのですが、問題なしという見解です。問題とみなせば、必ず意見表示をすはずです。
「アベノマスク」については、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、全国民への配布だったのですが、予定どおり無駄なしで完了。一方、介護施設向けは多くが在庫になったということです。
介護施設向けなどもあわせると、かなりの多さともみえますが、国家レベルの事業と考えると、この程度の余剰はむしろ、配布漏れを防ぐためには、致し方なかったと思います。
ただこれを、とんでもない余剰と受け取る人は、これが国家レベルの事業であったことを認識していないのではないでしょうか。自宅のマスク、あるいはせいぜい1介護施設や学校、あるいは大きくても市町村レベルなどのマスク等しか想定していないのではないでしょうか。
日本の人口は約1億2千万人です。世帯数は5340万世帯です。これらに、行き渡るように配布するというのは壮大な事業です。それに付随する保管費用なども、一家庭内や一企業内のレベルよりは、はるかに大きくなるのは当然です。
10年くらい前だったと思いますが、プーチンが北方領土に数千億円かけて支援するなどを公表したことがあって、これに対して「ものすごい」と評価する人がいましたが、数千億というと個人的には天文学的な数字と感じるかもしれませんが、日本ではこのくらいのこと以上のことを各自治体(都道府県単位)に対して普通にしています。
ただ、人口では1/3以下の韓国よりもGDPでは若干を若干下回る程度の現在のロシアでは、この国家事業はたしかに大判ぶるまいだったのでしょう。
国家レベルの事業と、個人事業や家計を同次元でみるととんでもないことになります。特にマクロ経済などはそうです。これに関しては、過去に何度か述べてきたので、ここでは詳細は述べませんが、マスク一つとってもそうだということです。
そうして、この国家事業をあの時期にあえて実行したということに大きな意義があったのです。
安倍政権でのマスク配布が組織的にマスクを買い占めていた日本国内の転売ヤーは無論、中国の企業も慌てて在庫を吐き出すしかなくなり、日本国内でもマスクが誰にでも手に入るようになったのです。費用対効果は絶大でした。私自身は、物理的マスクの効果もありがたいですが、こちらのほうが余程すごいことだと思いました。どの国の軍隊、日本では自衛隊は、兵站がなければ戦えません。いかに屈強な兵士であっても、一日3000キロカローの食料、水、兵器、弾薬は欠かせません。このブログも掲載したように、戦争の素人は戦略を語り、プロは兵站を語るといわれるくらい兵站は重要です。
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