2021年12月5日日曜日

米紙“ロシアがウクライナ侵攻を計画”―【私の論評】兵站に欠陥のあるロシアはウクライナ全土は併合できない!できるのは最大でいくつかの州のみ(゚д゚)!

米紙“ロシアがウクライナ侵攻を計画”


ロシアが来年早々にも最大17万5000人規模の部隊で、ウクライナへの軍事侵攻を計画していると、アメリカの有力紙、ワシントンポストが報じました。

ワシントンポストは、アメリカの情報機関の分析として、ロシア軍が現在ウクライナ国境地帯に展開している部隊を増強し、最大17万5000人規模で、来年早々にも侵攻を計画している、と伝えています。

ロシア軍は国境の4か所に集結していて、軍事侵攻は多正面作戦になるとしています。アメリカのバイデン大統領は3日、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するための対応策を準備していると述べました。

バイデン大統領「プーチン大統領が実行に移すのを阻止する包括的で意義ある取り組みになる」

ブリンケン国務長官も2日、ロシアのラブロフ外相との会談で、ウクライナへ侵攻すれば「深刻な結果を招く」「同盟国とともに大きな代償を与える」などと強く警告していました。

一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は、米露首脳によるオンライン会談が、今月7日に行われると明らかにしました。

【私の論評】兵站に欠陥のあるロシアはウクライナ全土は併合できない!できるのは最大でいくつかの州のみ(゚д゚)!

ロシアの軍事力は、米国についで2位とされてはいますが、その実体はどうかといえば、兵站においては劣っており、現状では米国を除くNATOとでも本格的に戦えば負けます。

米軍抜きのNATOと戦えば、初戦においては現在でも軍事技術に優れたロシア軍は、一時目覚ましい戦果を挙げられるかもしれませんが、後続きせずに、NATO軍に打ち負かされるのは必定です。

なぜ、そのようなことを自信を持っていえるかといえば、現状のロシアのGDPは、韓国なみであり、世界10位にも入っていないという現実があるからです。

ですから、ロシアはNATOと本格的に対峙することは避けるでしょう。それを考えると、今後ロシア軍は国境付近に軍隊を配置するだけで終わるかもしれませんし、国境を超えたとしても、最大でも数十キロくらいで、そこに橋頭堡をつくる程度でしょう。

それは何のための橋頭堡かといえば、ドネツク州のようなロシア語を母語とする多い、州などをロシアに併合するための橋頭堡です。

ロシア語を母語とする人口の割合

未来永劫絶対にありえないのは、ウクライナ全土をロシアに併合することです。そうしてしまえば、NATOも何らかの手段を講じるでしょう。それに対峙できる力は現在のロシアにはありません。ドネツク州併合くらいなら、クリミアを併合したように、併合できる可能性はあります。それも、無論軍事力だけではなく、ハイブリッド戦も駆使してということになるでしょう。

なぜそのようなことがいえるかといえば、先日も中国が台湾に侵攻できない大きな一つの理由として、兵站、特に輸送力の限界を指摘しましたが、ロシアにもそのような限界があるからです。まず、先に上げたようにロシアの経済力は今や韓国を若干下回ります。これでは、大規模な戦線を長期にわたって維持することはできません。

それにロシア軍も兵站力では西側諸国に比較して、劣るという重大な欠陥があります。詳細は、以下の記事をご覧ください。
FEEDING THE BEAR: A CLOSER LOOK AT RUSSIAN ARMY LOGISTICS AND THE FAIT ACCOMPLI(クマに餌をやる:ロシア軍の兵站学と既成事実を詳しく見る)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして。以下に一部を引用します。
ロシア軍の兵站部隊は、鉄道から離れた場所で大規模な地上攻撃を行うようには設計されていない。

ロシア軍は各統合軍に十分な持続旅団(彼らが言うところの物的技術支援旅団)を持っていない。

ロシア軍の切り札は10個の鉄道旅団で、これは西洋にはないものだ。鉄道旅団は、鉄道の警備、建設、修理を専門としており、鉄道車両は国営企業が提供している。

ロシア軍の装甲列車
ロシアが鉄道旅団を持つユニークな国である理由は、物流的に、ロシア軍が工場から陸軍基地、統合軍、そして可能であれば師団・旅団レベルまで鉄道と結びついているからだ。ヨーロッパの他の国では、ロシア軍ほど鉄道を利用している国はない。その理由の1つは、ロシアが端から端まで6,000マイル以上という非常に広大な地域であるからだ。
ロシア軍をロシアの鉄道網を超えて補給しようとすると、鉄道部隊が鉄道を再構成/修理するか、新しい鉄道を建設するまで、トラック部隊に頼らざるを得なくなる。
ロシアの兵站は、鉄道に大きく依存しており、大規模砲兵隊を持つが故に大量のトラック輸送が必要になるため、今の補給部隊の編成性質と許容量では、国境沿いで高い戦闘力を発揮できるが、長距離地上進撃の際にそれを維持できない。
結局のところ、ロシア軍はウクライナの奥地までは、侵攻できないのです。さらに、鉄道が主な輸送手段ということは、鉄道が破壊されてしまえば、補給は途絶えるということになります。

鉄道線路の破壊などは、極端なことをいえば、手榴弾でもできます。NATO側が、ロシアの鉄道網を破壊してまえば、ロシア軍はお手上げになってしまいます。それに、ウクライナは内陸なので、船による輸送もできません。

ロシアの目論見が、ウクライナを破壊することであれば、ロシア国内から核兵ミサイルを数発でも打てば、それで終わりになります。そこまでしなくても、航空機で爆撃したり、通常のミサイルを多数打ち込めば良いです。しかし、それでは意味がありません。

あくまで、ロシアの狙いはウクライナもしくはその一部を統治することですから、これはほとんど不可能です。ウクライナ全土を統合するということになれば、そこに多くの軍隊を派遣して、それらに食料(一日3000kカロリー/人)・弾薬などの物資を長期間にわたって補給しつづけなければなりません。しかも、NATOと対峙しなければなりません。これは、現在のロシアの経済力からしても無理があります。

そのため、ロシアの目論見は、国境沿いのウクライナ領内に、橋頭堡を築き、将来そこを拠点にドネツク州などのロシア人の多い地域の一部もくしは、全部をロシアに組み入れることでしょう。

マスコミの報道を見て、ロシアがすぐにもウクライナ全土を併合すると思い込むのは明らかな間違いです。

ウクライナ軍女性兵士

もう一つの可能性としては、ロシア領内のウクライナ国境沿いに軍隊を配置し、西側諸国に対して「ロシアへの制裁を解かないと、侵攻するぞ」という政治的メッセージを伝えることでしょう。こうすれば、少なくとも話し合いの緒はつかめるかもしれません。

実際、バイデン米大統領は7日、ロシアのプーチン大統領とのオンライン会談でウクライナの主権を米国として支持する姿勢を改めて表明すると、ホワイトハウスが発表しています。

つい最近、アフガンの撤退で大失敗したバイデンです。プーチンとの話あいで、譲歩するのではないかという不安もありますが、それにしても、ロシアの兵站の脆弱性が変わるわけではないので、バイデンもしなくても良い譲歩はしないでしょう。

できれば、経済的に低迷するロシアが、ロシア軍をウクライナ領内に侵攻させるなど分不相応な愚かな真似をしないように、プーチンを説得してもらいたいものです。

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