2021年5月31日月曜日

コロナ感染は「あと1ヵ月」でピークアウトする…「波」はワクチン接種で防げる―【私の論評】年末から来年にかけて日本経済は順調に回復していく(゚д゚)!

コロナ感染は「あと1ヵ月」でピークアウトする…「波」はワクチン接種で防げる

相変わらずマスコミは危険を煽りすぎ




外国人の土地購入規制法案審議が止まっている…

 まず私事にわたることだが、1週間前の5月24日内閣官房参与を辞した。関係各位にご迷惑をおかけしお詫びしたい。その経緯は、筆者のYouTubeをご覧いただきたい(https://youtu.be/2R3e52qQiLE)。 アメリカで「ワクチン接種」して分かった、これから日本で起きる「意外な結末」  

 辞めた理由は、家族にも「表現が下品」と言われたことであるが、政治家でもない筆者のために国会での審議が進まないというのもある。特に、内閣委員会で、法案審議拒否の理由になっているというのは、筆者としては納得しがたかった。

  筆者の問題との因果関係はわからないが、内閣委員会では、重要な法案が進んでいない。正式名称は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」といい、要するに、自衛隊などの基地のまわりについて、外国人の土地購入について、一定の規制をするものだ。 

 このような規制は外国では当然であるが、なぜか日本では整備されていなかった。この問題について、筆者は何度も指摘したことがあるので、もし万が一筆者が妨げになることも絶対にあってはならない。

  実際の国会審議は、一部野党はサボりたいだけで、審議ない口実は何でもいいのだろう。その一例としては、筆者が問題提起している憲法改正でも憲法審査会の議論は一向に進んでいないことが挙げられる。

  さて、2ヵ月先の東京五輪について、中止への動きが政治問題化している。結果として筆者もそれに巻き込まれた形だが、その政治的な議論はさておき、そのときの新型コロナの感染状況はどうなっているのかを考えてみたい。 

 まず、ワクチンの接種状況と新型コロナの感染状況の関係を見てみよう。G7諸国でみると、ワクチン接種の一定期間後、新型コロナの感染は確実に抑制されている。 

 カナダ、フランス、ドイツは、100人当たりのワクチン接種が24回程度になると、新型コロナの新規感染率(人口比)がピークとなり、それ以降減少傾向に転じている。

あと約1ヵ月でピークアウト


 イタリアでは12回程度から減少している。これらの国では、ワクチン接種直後に一度ピークが来ているが、その後再び波が来たために、ワクチン接種が一定以上になって再びピークアウトしている。 

 イギリスとアメリカではワクチン接種の直後から減少しているが、これは波がなかったからだろう。

  いずれにしても、こうしたG7諸国の例でみると、遅くとも24回程度、早ければ直後から減少になると思われる。日本は、ワクチン接種直後に一度ピークになっている。再び波が来るとしても、遅くてもワクチン接種が24回程度でピークアウトするだろう。

  5月27日現在で、ワクチン接種回数は100人当たり8.8回だ。1日で60万人ペースでワクチン接種が行われれば、24回まではあと約1ヵ月である。 

 なお、この60万人ペースは、海外の事例から見れば、かなり控えめだ。実際にワクチン接種では、習熟度等がまずので、ワクチン接種回収は、初めのうちは加速度がついて増加し、そのうちに鈍化していく。日本の60万人ペースはそうした海外から事例から見れば控えめだ。これは下図をみれば日本の予測の傾きが海外と比較しても小さいことからいえる。

  いずれにしても、日本のケースに当てはめれば、このまま新たな波がこないと、今の減少傾向が続くだろう。もしもう一回波が来ても、遅くともあと1ヵ月以内でピークアウトするだろう。 

 それでは、2ヵ月後はどうか。そのときには、日本では100人当たりのワクチン接種回数は40回程度になっているとしていいだろう。

  G7諸国の場合、新たな波が来ないと、40回接種時の新規感染率は当初ピークの75~90%減程度になる。新たな波が来ても25~50%減程度だ。

ピークの波も小さくなる

 これを単純に日本に当てはめると、直近ピーク時は5月10日前後の100万人あたり50人程度(全国で6000人程度)であるので、新たな波が来ないと、100万人当たり5~12人程度(全国で600~1500人程度)になるだろう。

  もし新たな波が来ても、100万人当たり25~38人程度(全国で3000~4500人程度)だろう。新たな波が来ないと劇的な改善になり、もし新たな波が来ても、いったんは悪化するが、2ヵ月後には、今より悪くなるようなことはなくなっているだろう。

  これらの状況を示したのが下図だ。


  もともと日本の感染状況は欧米に比べて少ないが、ワクチンが浸透するとさらに、波は小さくなる。

  予測1はあと一回波が来るとの前提で、予測2はもう波が来ないとの前提である。もう一回波が来ても、ワクチンの効果で波が消される可能性が高いと思う。

  こうした予測経済の常であるが、感染力が高いといわれる新株が急速に日本で拡大したらどうなるかであるが、この計算の前提になっているのは欧米の状況であり、新株が欧米でもあることを考えると、日本だけが特別の状況にならないかぎり、新株はある程度計算前提に織り込まれていると考えていいだろう。

  先の24日、米国務省は日本に対する渡航警戒レベルを4段階で最も厳しいレベル4に引き上げた。これがまたセンセーショナルに日本のマスコミで取り上げられた。

  米国の基準はかなり形式的であり、過去28日間の新規感染者数で、10万人当たり100人を超える状態が継続すると最も厳しいレベル4となるが、日本はそれに該当したが、米国や欧州連合(EU)など約150カ国が該当しているので、日本だけが適用になっているわけではない。

豊洲市場報道と被って見える

 そうしたことが報道されないのに、マスコミは危険を煽りすぎだ。ちなみに、上記試算では、2ヵ月後には日本への渡航警戒レベルも解除されてるだろう。

  いずれにしても、この試算の程度までに、仮に新規感染者の数は改善が少なくても、重症患者の数はかなり減少するだろう。その意味で、医療崩壊は考えにくい状況だろう。

  なお、こうした試算について、政治的な意図はまったくない。政治的に五輪反対はどこの国でもあるので、新型コロナがあってもなくても行われるものだ。ただし、今回の日本では、新型コロナを一部マスコミが煽ることと、五輪反対の政治的な動きが連動しているように、筆者には見える。 

 政治記者も、政局があるかもしれないので、煽っている。そのターゲットは、東京都の小池都知事でもある。まるで豊洲の再来を小池都知事に期待しているかのようだ。豊洲問題は確かに政治問題化させた。 

 しかし、実際にはどうだったのか。小池都知事は、共産党の策略にのって、地下水、豊洲市場の地下ピット、豊洲市場の構造が危険などなどいろいろとテレビワイドショーに問題提供したが、実際には何も問題はおきていない。

  筆者には、東京五輪の話が「豊洲市場問題」とかなりダブってしまう。マスコミ報道の煽り方は似ているが、政治的には東京五輪の反対は一部野党のみであり、小池都知事は今のところ冷静なところが違う。はたして、一部の政治記者が期待するような政局になるのだろうか。

【私の論評】年末から来年にかけて日本経済は順調に回復

私は、このブログで「マスコミは森叩きのホップで成功したが、ワクチン叩きのステップ、オリンピック叩きのジャンプでコケて8月にはお通夜状態に」なるであろうことを予測しましたが、まさにそのとおりになりそうです。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】経済成長のカギ握るワクチン接種状況 高齢者の接種が順調に進めば4~6月期GDPの追い風に―【私の論評】マスコミは森叩きのホップで成功したが、ワクチン叩きのステップ、オリンピック叩きのジャンプでコケて8月にはお通夜状態に(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いだだくものとして、以下にこの記事より結論部分のみを引用します。

5月13日までのワクチン接種回数

8月に入れば、8日にはオリンピックは他の国際スポーツ大会と同じく、さしたる混乱もなく閉会し、その後はコロナ死者数はかなり減り、9月あたりには、誰の目から見ても、コロナの収束は近くなるでしょう。そのときには、マスコミは嫌々ながら、コロナが収束に近づいたことを報道するでしょうが、特にテレビのワイドショーはお通夜のような雰囲気になるでしょう。

そうして、その頃に解散総選挙が行われることになるでしょう。その後しばらく、野党もマスコミもお通夜状態のショックから立ち直れないことになるでしょう。
このブログでは、他にもコロナについての予測を行いました。
【日本の解き方】緊急事態宣言がGDPに悪影響 先進国では日本の落ち込みは軽微だが…ワクチン接種急ぎ経済正常化を―【私の論評】今年の秋から年末にかけて、消費のマグマはかつてない程の大爆発!東京五輪はそのファンファーレに(゚д゚)!

この記事に関しても、詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。
そうなると、オリンピックが終了する8月に入れば、誰の目にもコロナが収束する時期がみえてくるでしょう。そうして、秋から年末にかけて、いままで様々な我慢していた分が爆発して、消費が爆発的に増えるでしょう。

いつまでもこの長いトンネルが永久に続くわけではありません。コロナが収束する日は目前に迫っています。それまでは、三密を守って心穏やかに過ごしていきたいものです。

今年の秋から年末にかけて、消費は大爆発!東京五輪はそのファンファーレとなることでしょう。それに合わせて今から準備をしている人たちも多いでしょう。今年のクリスマスは、いままでいないほど賑やかで、大爆発することでしょう。

バブル期のクリスマスのようになるかもしれません。今から楽しみです。

バブル期のクリスマスの象徴のような山下達郎の「クリスマス・イブ」

これには、単なる私の憶測ではなく、裏付けもあります。以下のサイトをご覧ください。
【調査データ】アフターコロナに女性の消費意欲が爆発!? 55%以上が“労い(ねぎらい)消費”をしたい!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より結論部分を引用します。
感染終息した後、自分に対して“労い(ねぎらい)消費”をしたいと考えている人たちの多くは、コロナ禍で制限された国内外への旅行や、外食を中心とした「食」関連への消費を検討しているようです。

アフターコロナにプロモーションを企画するなら、旅行や食に関連する景品を用意することで、多くのターゲットの心に響くキャンペーンに仕上がるのではないでしょうか。

また、性別・世代別でも“労い(ねぎらい)消費”に対する傾向が異なることが結果として出ていますので、ターゲットのインサイトから最適なプロモーションを企画していきましょう。

 あとは、財務省が大規模な増税キャンペーンを開始し本当に増税したり、日銀が金融引締に転じるなどのバカマネをしなければ、今年の年末から来年にかけて日本経済は順調に回復していくでしょう。

マスコミの中には、欧米に比較して、なぜ日本だけGDPが回復しないのかなどという論調もあるようですが、まだコロナワクチンが十分に接種されていない状況下でそれをいうのは、おかしいです。さらに、欧米は日本に比較して、経済の落ち込みがかなりひどかったので、日本に比較して凄まじい回復ぶりをみせるのは当然のことです。

日本では、コロナ時の経済対策はうまくいっていたので、あとはこれからどうなるかで、経済を見ていくべきです。

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2021年5月30日日曜日

「習氏の野望」日台で粉砕 バイデン政権、対中共闘で文政権を排除も…真意は日韓ともに「次の政権」に期待か 大原浩氏緊急寄稿―【私の論評】安倍晋三氏の再々登板は、内外ともにあり得る状況になってきた(゚д゚)!

「習氏の野望」日台で粉砕 バイデン政権、対中共闘で文政権を排除も…真意は日韓ともに「次の政権」に期待か 大原浩氏緊急寄稿

習近平

 中国との対立姿勢を強める米国。ジョー・バイデン大統領の思いとは別に、米国は習近平氏が事実上の「皇帝」として君臨する可能性がある中国を「最大の脅威」として標的に定めたとみるのは国際投資アナリストの大原浩氏だ。大原氏は緊急寄稿で、米国が対中包囲網の主軸を日本と台湾に託す一方、韓国の現政権には見切りをつけていると指摘する。

 1月の大統領就任以来のバイデン氏の言動を見ると、ドナルド・トランプ前大統領が「居眠りジョー」と揶揄したのがズバリ当たっているように思える。自動運転モードの乗用車の中で、ハンドルも握らずに優雅に昼寝を楽しんでいるかのようだ。

 イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの軍事衝突に関する「停戦の仲介」でも、バイデン氏自身がどこまで関与したのかは不明だ。米国の真意は、首脳会談で菅義偉首相にハンバーガー、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にカニ肉を使ったクラブケーキが出された-などという表面的行動を見ているだけでは全く分からないのだ。

 それを読み解く上で最も重大なのが「習氏が権力を掌握している限り、中国は冷戦時代のソ連と同じ最大の脅威(敵国)」ということであろう。

 米中の「蜜月」は、1990年代前半のビル・クリントン政権から続き、トランプ政権で覆されたが、2018年の3月11日に、全国人民代表大会で、国家主席の任期を「2期10年」までとする規定を撤廃する憲法改正案を採択した。

 そもそも、「2期10年」の規定がつくられたのは、西側推定で8000万人の国民を死に追いやった毛沢東時代への反省からである。反省の気持ちを持ち続けていたからこそ、西側諸国も共産主義国家である中国を受け入れてきたのだ。

 規定が撤廃されただけで「終身国家主席」=「皇帝」の地位が保証されるわけではないが、そのような野望が西側諸国を警戒させるだけではなく、強権的な政治に対する内外の反発を招くという意味で、「中国包囲網」は、習氏自身が招いたものだといえる。

 米国が、中国包囲網の頼りになるメンバーだと考えているのが日本と台湾だ。だから、日本は堂々と米国と渡り合えば良い。ただし、ウイグルの人権問題を抱える中国に「味方した」などととらえられることがないように細心の注意を払うべきだ。

 台湾は少々複雑だ。蔡英文総統が率いるのは、米民主党と同じ左派の民進党だ。この複雑な問題については、人間経済科学研究所HPにある研究パートナー・藤原相禅による「台湾人は本当に親日なのか?」が参考になる。

 韓国も自由主義陣営に取り込みたいはずだが、文政権は、バイデン氏が副大統領を務めていたバラク・オバマ政権時代に、当時の朴槿惠(パク・クネ)政権に繰り返しアプローチしてようやく締結した日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を、安全保障とは全く無関係な日本への嫌がらせの道具として使った「実績」がある。

 バイデン政権の閣僚は、オバマ政権時代から引き継いでいるケースが多いこともあって、文氏をまともな交渉相手と見ているとは思えない。韓国の大統領は再選が禁じられており、1年を切った任期が終われば「韓国歴代大統領の伝統」に従って厳しい末路が待っていることも考えられる。だから米国は、韓国の「次の政権」に期待を寄せていると思われる。

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相も再出馬しないと宣言しており、秋の退任が決まっている。

 また菅義偉首相は9月までの総裁任期だが、現状では苦境に立っている。米国の真意は、もしかしたら「次の世代の首脳たち」と強固な関係を築くことにあるのかもしれない。安倍晋三前首相の再々登板はあり得るだろうか。

 ■大原浩氏(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】安倍晋三氏の再々登板は、内外ともにあり得る状況になってきた(゚д゚)!

昨日のブログで私は、以下のような結論を述べました。

日本の進む道は明らかです。世界の経験からすれば、集団安全保障が平和を守り、単独防衛では平和維持がかなり難しいということが分かります。集団安全保障体制に入っていれば、戦争に巻き込まれる恐れはないのです。

QUADによる集団安全保障は日本にとっていかに大事かということを日本人大多数の共通認識にして、日本は東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献すべきなのです。「弱小国の振り」などするのはやめて、他の普通の国と同じようにすべきなのです。

昨日も述べたように、現在のQuadは、まだ軍事同盟にまでは至ってはいませんが、4カ国は、いずれこれを軍事同盟としても機能させるべきでしょう。そのためには、Quadでも安全保障条約の締結をするべきでしょう。

これを締結すれば、仮に米国の大統領が、バイデンよりもさらに親中的な大統領になったとしても、米国自体が過去のオバマ政権のように、中国に対する曖昧な態度を取り、中国を増長させることはなくなります。

オバマ氏(左)とバイデン氏(右)

また、日本にとっても良い影響があります。Quad諸国が、集団的安全保障を確実にするために、日本にも応分の行動をもとめるようになれば、日本にとっては改憲をせざるを得なくなります。それに反対する勢力なども、ファイブアイズの諜報力により、明らかにされる可能性も大きいです。

そうして、いずれ台湾など他の国々もQuadに取り込むべきです。それにより、台湾等も集団的安全保障によって守られることになります。

そうして、昨日のブログにも掲載したように、クアッドとは、第一次政権時の安倍前首相が2007年に提唱し実現させたものです。安倍首相はその後、間もなく退陣してしまうことになりますが、この方針は後を受けた麻生政権にも引き継がれ、そして民主党政権を経た後の第二次安倍政権でもこの4カ国の枠組みの維持が図られてきました。

ここで、いう米国とは、バイデン政権そのものではありません。

米国の挙党一致で中国に対峙しようとする、大きな勢力のことをいいます。上の大原氏の記事で、結論部分で語っている「米国の意思」という言葉の中の「米国」という言葉も同じ意味で使っているようです。

このブログでも従来から語っているように、中国と対峙するという考えは、党派性などからは超越し、米国は挙党一致で中国と対峙する方向に向かっています。この流れは、次の大統領が誰になろうと変わりありません。

この方向性をさらに強化するのが、Quadです。もし、Quadが構築されていなかった場合、米国かいくら挙党一致で、中国と対峙しようとしても、時の政権が、中国に対して融和的であれば、中国に対して厳しい態度をとらないということも考えらます。

しかし、Quad があれは、日本、印度、オーストラリアが米国に対して圧力をかけ、米国に対して、中国に対峙する姿勢を維持させることが可能になります。

さらに、このQuadを名実ともにアジアのNATOのようにすれば、米国とて、Quadの意向は無視できなくなります。

そうして、米国はその立役者である安倍晋三氏が日本の総理大臣であることが米国にとってもQuadにとっても望ましいと考えるかもしれません。なにしろ安倍晋三氏は、バイデン大統領よりも、はるかに中国の脅威について熟知しており、それに対峙する枠組みを最初に提供したのです。


さて日本では、安倍前首相が存在感を示す場面が最近、目立っています。自民党の議員連盟や議員グループの顧問に就き、表舞台での発信にも積極的です。保守派の代表格として党内外で影響力を保つ狙いがあるとみられます。

「自民党は保守政党だ。違う方向に党役員が進むようであれば、行動する気概を持って取り組んでほしい」

安倍氏は先月22日、顧問を務める自民の保守系議員グループ「保守団結の会」で講演し、こう激励しました。同じ日には憲法関連のシンポジウムで持論の憲法改正を訴え、会場を沸かせました。

安倍氏は昨秋、持病の悪化で首相の座を降り退任直後の一時期は活動を控えました。

しかし、体調が回復したこともあり、最近は活発に動いています。安倍氏は同月27日、動画サイト「ユーチューブ」の番組で「新しい薬を使ったら、(治療が)大変うまくいった」と語りました。先月に入って自民の保守系グループ「伝統と創造の会」と、原子力発電所の新増設を推進する議連の顧問に就きました。自民憲法改正推進本部の最高顧問も引き受けています

そのような安倍氏に、出身派閥の細田派(96人)では「ポスト菅として再々登板してほしい」との期待が広がっているようです。細田派は党総裁選に意欲を示す下村政調会長や西村経済再生相らを抱えるものの、残念なが支持の広がりを期待できないという事情もあります。

安倍氏自身は安倍前首相は26日発売の月刊誌「Hanada」のインタビューで、9月末の任期満了に伴う自民党総裁選に向け、菅首相の続投を支持する考えを改めて示しました。


「菅政権はたった1年しかたっていない。政権には春もあれば冬もある。歯を食いしばって、みんなで支えていくべきではないか」と述べました。盟友の麻生副総理兼財務相とは菅首相を支える立場で一致しているようです。首相の憲法観や安全保障への取り組みに物足りなさを感じていると見る向きもあるようですが、当面は首相の政権運営を見守る構えのようです。

そうして、この考えは正しいと思います。現状のコロナ禍が収束するまでは、政権が余程弱体化しているとか、大きな問題がない限り、同じ政権であったほうが良いです。野党は、現在のコロナ禍が「さざ波」程度は認識していないどころか、かなり厳しいと認識しているようです。

であれは、こういうときは野党も政権に協力する姿勢をみせるべきですが、本当に矛盾しています。安倍総理としては、直近の総裁選挙に出馬することはないでしょう。直近では菅政権の続投できるように、応援することになるでしょう。

菅義偉首相自身は、安倍晋三前首相から引き継いだ自民党総裁任期の切れる9月末以降の続投に意欲を示しています。

安倍晋三氏の細田派への復帰は次期衆院選後となる見通しです。安倍氏は周囲に「衆院選では派に縛られず、若手の応援に飛び回りたい」と漏らしているといわれています。総裁として政権を奪還した2012年衆院選で、自民は119人もの新人議員を当選させました。

以来、連続3回の当選を重ねた議員の多くは逆風の選挙を知らず、足腰の弱さが指摘されています。選挙応援に汗をかいた上で派閥復帰を果たせば、党の実力者としての立場は一層強まることになるでしょう。

さらに安倍氏には好材料もあります。すでに1年以上を経過して、マスコミと反菅政権の人たちのコロナ煽りによる倒閣運動にはさすがに多くの人が呆れ果てています。

彼らは、ワクチンや五輪での揚げ足取り的な「もりかけ桜」的手法でワイドショー民とともに菅政権を貶めようと躍起になっています。マスコミや野党が、コロナやワクチンや五輪中止論議で煽るたびに、野党の矛盾が露呈して、その悪質さは逆に批判を浴びるようになっています。

ところが、菅内閣の支持率は落ちているものの、自民党への支持率は横ばいであり、立憲民主党や共産党の支持率も上がっていません。

ここにきて、安倍晋三氏の再々登板は内外ともにあり得る状況になってきたといえます。

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2021年5月29日土曜日

いつまで「弱小国の振り」を続けるのか? 日本が“再軍備”できない本当の理由―【私の論評】日本はQuadでも安全保障条約の締結をし、東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献すべき(゚д゚)!

いつまで「弱小国の振り」を続けるのか? 日本が“再軍備”できない本当の理由

グレンコ・アンドリー(国際政治学者)

グレンコ・アンドリー氏

日本はどうして弱小国家の振りを続けているのだろうか。

国際政治学者のグレンコ・アンドリーは、戦後日本の基本原則である「吉田ドクトリン」があったお陰で、日本の軍事力は高まることがなかったと指摘する。この時代の、日本における真の安全保障とは何だろうか。

※本稿は、グレンコ・アンドリー 著『NATOの教訓』(PHP新書)の内容を、一部再編集したものです。

吉田ドクトリンの功罪

戦後、日本を国際関係の「弱者」「小国」として固定させたのは、いわゆる「吉田ドクトリン」である。

吉田ドクトリンとは、安全保障をアメリカに依存することで、軽武装を維持しながら経済の復興、発展を最優先させることによって、国際的地位の回復を目指した戦後日本の外交の基本原則である。

アメリカは朝鮮戦争勃発のため、日本に軍事費増加を要求したが、吉田茂首相は日本国憲法第9条を盾に、この要求を拒否した。

吉田首相が退陣した後も、吉田ドクトリンの路線は日本に定着した。安全保障をアメリカに任せたおかげで、日本は復興や発展に集中でき、高度経済成長を成し遂げて世界第2位の経済大国となった。吉田ドクトリンに基づく方針はおおむね現在も続いており、多くの人から評価されている。

それでは、実際に吉田ドクトリンは正解だったのだろうか。日本が高度経済成長を成し遂げたのは紛れもない事実だから、成功だという意見は理解できる。

一方、吉田ドクトリンが日本の足枷になっていることもまた、事実である。主権を回復してから70年近く経っているにもかかわらず、日本は憲法9条を改正できず、自国の防衛、安全保障政策を自主的に制限している。

もしあの時、アメリカの要求通り軍事費を増やしていれば、その後の再軍備も現実的になり、今の日本は自立した軍隊を持つ「普通の国」になっていた可能性が高い。

日本が弱小国の振りを続ける余裕はもうない

吉田ドクトリンが妥当だったかについては、やはり議論の余地がある。百歩譲って、吉田首相の在任当時は経済の復興を一刻も早く実現する手段として合理的な判断だったとしても、その後もずっと日本の安全保障政策の基本になっている状態は明らかにおかしい。

吉田首相自身も、再軍備の拒否と復興、発展の最優先を敗戦直後に置かれた状態を踏まえた上で決断したと思われ、同じ状態が未来永劫、続くことは想定しなかっただろう。

「21世紀の日本は小国として、大国の中国やアメリカ、ロシアとバランスを取りながらうまく付き合う」という方針は、驚くべきことに今でもかなりの支持を集めている。実際自民党から共産党まで程度の差はあれども、国政政党が軒並み小国路線を支持している

しかし、これでいいのだろうか。まず言えることは、人口が1億人以上で、世界第3位のGDPの国は、どう見ても「弱小国」ではない。弱小ではない日本がなぜ「弱小国」の振る舞いをしなければならないのか。

日本は東アジアにある。隣に中国とロシアのような凶暴な軍事大国と、日本人を拉致する犯罪国家の北朝鮮がある。このような地域に位置すれば、弱小国は必ず危険に晒される。仮に直接の軍事侵攻を受けなくても、隣国に振り回される運命を免れない。

実際にいま日本の領土はロシアと韓国に不法占領されており、尖閣諸島も中国に狙われている。中国をはじめ、近隣諸国は日本の外交・内政問題への干渉を繰り返している。

この状態で、日本が弱小国として振る舞うことは決して許されない。今は当たり前の平和な日常が破壊されても構わないなら、そのままでもいいのかもしれない。だが、現在の暮らしを守りたいなら、弱小国の振る舞いを続ける余裕は、日本にはもうない。

アメリカに"日本を守る気になってもらう"ために

筆者は、地政学的な思考としては「親米」を選ぶ。そして「日本の安全保障政策の基本は、日米同盟を軸にした親米路線しかあり得ない」とも考えている。

しかし、戦後復興を成し遂げた後もなお吉田ドクトリンを続ける路線は、決して親米ではない。さらに言えば、それは対米従属ですらない。もし日本が本当に対米従属であれば、アメリカの要望通りある程度の再軍備を実行したはずだ。

再軍備を拒否した時点で、日本は対米従属の国ではない。現在でも吉田ドクトリンを支持している論者には、アメリカに対する愛も尊敬も、執着もないといえるだろう。自分で生活を守る努力をせず、ただ楽をしたいためにアメリカを利用しているだけである。

吉田ドクトリンの支持者は、「いざというときにアメリカは日本を守ってくれる」と言う。それを批判する反米左翼は「話し合えば分かり合える」と言う。さらにそれらを批判する反米保守は「アメリカは絶対に日本を守ってくれないから、対米自立しかない」と言う。しかし、全部間違いなのである。

吉田ドクトリンの支持者と反米左翼は「日本が努力しなくても済む」という点で共通している。また、反米左翼と反米保守は「アメリカとの同盟は要らない」という点で共通している。

さらに、いずれの一派も「アメリカが日本を守る気になるように、日本は今まで何か努力をしたのか」「アメリカが日本を守る気になるように、どうすればいいのか」を真剣に考えていない、という点で共通している。

実際の安全保障において、「アメリカは日本を守る」「守らない」という議論は無意味であり、現状に何の影響も与えない。

むしろ「アメリカが日本を守る気になるために、何をすればよいか」を語る議論こそ現状に影響を与え、日本の安全保障に役立つ可能性が十分にある。

日本は、今までアメリカが日本を守る気になるための努力をせずに、日米安保の条文だけに甘えてきた。条約の条文は大事だが、それが全てではない。実際に各時代の政権が条約をどう運用するかが重要である。当然、日米安全保障条約も例外ではない

日本にとっての"真の安全保障"とは

日本人が日米安保条約の第5条(「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」)の条文に頼るだけの態度を続けるなら、いずれアメリカも条文を守る気にならず、条約が形骸化する恐れがある。

アメリカが日本を守る気になるには、まずは日本が国防のための努力を行い、少なくともアメリカが諸同盟国に要求する防衛費の対GDP比2%の予算を実現し、アメリカの地政学的な戦略に付き合う必要がある。

反米左翼と反米保守は「対米従属」と言うであろうが、これは従属ではない。日本の国家安全保障を確立するために必要な外交政策であり、何よりも日本の国益に適うのだ。

吉田ドクトリンに基づく外交を続け、日米安保条約の条文だけに頼っても、日本の主権と独立を守ることはできない。また、左右の反米主義者の極論を聞いても、日本は危うい道を歩むだけだ。

今の日本に必要なのは、防衛費の倍増と再軍備だ。複雑かつ危険極まる現代の世界において、危機はいつ、どこから迫ってくるか全く予測できない。

不測の事態は必ず起きる。有事にいち早く対応するには、平時のうちに危機に備える必要がある。日本の国民一人ひとりが、国家安全保障が日常生活に直結することに気づき、国防の努力の必要性を理解すべきだろう。

政治家もまた、利権や自分の政治生命ばかりではなく、国家の主権と独立を守ることを第一の目的にしなければならない。

【私の論評】日本はQuadでも安全保障条約の締結をし、東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献すべき(゚д゚)!

グレンコ・アンドリー(Gurenko Andrii)氏は、国際政治学者。1987年、ウクライナ・キエフ生まれ。2010年から11年まで早稲田大学で語学留学。同年、日本語能力検定試験1級合格。12年、キエフ国立大学日本語専攻卒業。

3年、京都大学へ留学。19年3月、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程指導認定退学。アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門優秀賞(2016年)。ウクライナ情勢、世界情勢について講演・執筆活動を行なっています。著書に『プーチン幻想』(PHP新書)。

彼の祖国ウクライナは2014年にロシアに侵略されました。彼は日本に来て、国民の平和ボケと危機への無関心ぶりに驚き警鐘を鳴らしています。

国際社会はお花畑の日本人の多くが考えているよりもはるかに厳しいもので、おとなしい平和国家であっても、凶暴な他国から攻撃されることがあります。

似たような状況にもあるように見える、ウクライナと日本は、同じ結末にたどり着く危険性も十分にあると思います。 ウクライナに対して用いられたロシアの共産主義的手法は、今、中国によって日本に対して用いられています。その最も顕著な例が沖縄と尖閣諸島です。沖縄は第二のクリミアになりかねません。

しかし、その日本が弱小国のような振る舞いをするのは、彼からみれば驚きでしょう。現在のロシアのGDPは日本の1/3以下であり、ウクライナはさらにGDPは小さいです。経済力でみると、日本はロシアよりはるかに大きいのです。

さらに、人口でも、日本は1億2千万人、ロシアは、1億4千万人、ウクライナは4400万人です。人口でも日本とロシアはあまり差異がないのです。日本は確かに領土は狭いですが、とても小国と呼べるような存在でないと、彼の目に映るのは当然のことです。

ウクライナは黒海に面する東ヨーロッパの国で、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ハンガリー、モルドバなどと国境を接しています。同国のGDPは約1650億ドルで、世界のGDPシェアの0.23%程度に過ぎません。

しかし、ウクライナは以下の理由からロシアにとっては極めて重要です。

1)ロシアから西欧へ天然ガスを運ぶパイプラインの80%が同国を通っている
2)黒海に面したクリミア半島にロシアの海軍基地がある

そうして、ウクライナの民心は、決して一つではありません。

そもそも、ウクライナは歴史的経緯から、複雑な民族構成になっています。

地方都市リヴィウを中心とする西ウクライナではウクライナ語が話され、住民は欧州に親近感を持っています。

これに対してクリミア半島を含む南東部ではロシア語が話され、住民はロシアに親近感を持っています。

ひとつの国でありながら民心はまとまりを欠いており、親欧州、親ロシアの両勢力が同国のほぼ中心に位置する首都キエフで混在しています。



さて、このウクライナでは、NATO加盟の必要性を巡って激しい議論が繰り広げられていました。2014年までのおおまかな構図としては、保守派と独立派が加盟に賛成であり、それ以外は反対でした。

 また国民世論も、おおよそ六割は加盟反対でした。反対の理由としては、「NATOの戦争に巻き込まれる」「NATOに支配される」「軍事費が増える」といった、まったく根拠のない嘘やプロパガンダでした。真に残念ながら、ロシアや親露派にコントロールされていた言論空間においては、真実の声はあまり国民に届かずに、国民の多くは騙され続けていたのです。

これは、2015年の安保法制改正のときに噴出した反対派の意見と酷似しています。「米国の戦争に巻き込まれる」「戦争になる」挙げ句の果ては「徴兵制」になるという、全く根拠のない嘘やプロパガンダでした。

  もう一つの反対の理由とは「ロシアの反発」「ロシアとの関係悪化」でした。もちろん、ウクライナがNATOに加盟すれば、当然ロシアの反発は不可避でしょう。ところが、それを気にすること自体、当時のウクライナ人の極めて強い属国根性の表れであると言わざるを得ないです。

日本でも、政財界を中心「中国の反発」「中国のとの関係悪化」を懸念する声は今でも大きいです。  

ただし、仮に当時のウクライナ世論がNATO加盟に肯定的だったとしても、あのときウクライナのNATO加盟は不可能でした。

なぜなら、ウクライナ国内だけではなく、ヨーロッパ諸国までロシアの反発を恐れて、ロシアに配慮していたからです。  

ウクライナは一度、NATO加盟を試みたことがあります。2008年4月2日から4日まで、ルーマニアの首都、ブカレストでNATOのサミットが行われました。

そのサミットの前に、ウクライナ、そして同じ旧ソ連のジョージア(旧名:グルジア)がNATO加盟のための行動計画への参加を申請しました。NATO加盟のための行動計画とは、NATO加盟そのものではないのですが、加盟の準備段階であり、それに参加する国は、将来NATOに加盟するという前提で、NATO側との緊密に協力しながらさまざまな改革や準備を行っている過程です。

 もしこのウクライナとジョージアの申請が承認されたていたら、両国はいずれNATOに加盟できたと考えられます。しかし、両国の申請は拒否されました。  

ドイツとフランスが拒否権を発動したのです。そのサミットにはゲストとしてロシアのプーチン大統領も誘われており、彼はその場でウクライナとジョージアの行動計画への参加に強く反発しました。その時ドイツとフランスはロシアの圧力に屈したのです。その結果、あれ以来、ウクライナとジョージアはNATOに参加できないままです。 

このサミットの4カ月後、ロシアはジョージアに侵略し、ジョージアの領土の一部を占領しました。あれから既に10年以上経っていますが、そのジョージアの領土はロシアに占領されたままです。
そして、その6年後、ロシアはウクライナへ侵略し、一部の領土を占領し、その戦争は現在に至っても続いているのです。  

それでは、もしその2008年4月のサミットで、ウクライナとジョージアの申請が承認された場合は、戦争が免れたのでしょうか。 


  
この疑問に答えるにはバルト三国の例を見ればわかります。バルト三国、即ちリトアニア、ラトビアとエストニアは、ウクライナやジョージアと同じく旧ソ連構成国であり、人口はそれぞれ、約280万人、200万人、130万人です。

バルト三国

三国合わせても、その人口はウクライナの七分の一、面積は四分の一しかありません。また、個別に計算すれば、いずれの国もジョージアより小さいです。しかも、ラトビアとエストニアはロシアと陸続きで国境を接しており、両国の人口の四分の一はロシア民族です。そのロシア民族は当然バルト三国がロシアの支配下に入って欲しいし、何かあれば必ずロシアに全面的に強力するでしょう。  

当然、ロシア自身もバルト三国を支配したいという強い願望を持っています。このような状況では、圧倒的な力の差やロシア系住民の存在を考えれば、ロシアのような軍事大国にとって、バルト三国を制圧するのは非常に容易いものです。  

しかしロシアはバルト三国へ侵略できません。なぜなら、バルト三国はNATO加盟国だからです。NATOに入っていれば、どのような小さい国でも安全になります。

なぜならその国が武力攻撃を受けた場合は、アメリカ合衆国やイギリス、フランスなどの軍事大国かつ核保有国が反撃することになるからです。その反撃の恐れは最も効果的な抑止力となり、ロシアのような凶暴的な軍事大国であっても、簡単に手を出せないのです。  

バルト三国とウクライナ、ジョージアの違いとは、正に集団安全保障の枠に入っている国と入っていない国の違いです。  

集団安全保障の組織に入っておけば、どんなに小さい国でも安全でいられます。しかし入らなければ、自国を自分だけで守らなければならないです。もし攻撃してきた敵の方が強かったら、どうしようもないのです。

 だかこそ2008年にウクライナとジョージアのNATO加盟のための行動計画への参加申請が承認され、その後両国がNATOに加盟できていたら、きっとウクライナもジョージアもロシアに侵略されず、領土や何千人の尊い命も奪われずに済んだでしょう。

街路に張り出された死傷者リストを見入るジョージア南オセチア住民

この状況を日本はどう見るべきでしょうか。日本にはすでに日米安保条約があります。この点だけでも、今の日本の状況はウクライナよりは良いです。しかし、日米安保だけでは不十分です。一つは日米安保条約はNATOが基づく北大西洋条約と比べると、同盟国を守る義務が緩いからです。

これらを比較すると、北大西洋条約の方が実際に集団的自衛権が発動される可能性が高いです。だから日本のこれからの課題とは、同盟国同士がお互いを守る義務が今よりも明確化された条約の締結です。

多国間の安全保障条約は二国間の安全保障条約よりは安定しています。だからこそ、日本は積極的にアジア・太平洋地域で、多国間の集団防衛の義務がある安全保障条約の締結を促すべきである。

そうして、このNATOに近いといわれているのが、Quadなのです。当時のマイク・ポンペオ米国務長官は昨年10月6日、中国共産党政権に対抗するため、米国・日本・オーストラリア・インドによる4カ国安保対話(Quad、クアッド)を公式化し、拡大する意思を示しました。

クアッドとは、非公式な同盟を結んでいる米日豪印の4カ国間の会合で、第一次政権時の安倍前首相が2007年に提唱し実現させたのです。安倍首相はその後、間もなく退陣してしまうことになりまいが、この方針は後を受けた麻生政権にも引き継がれ、そして民主党政権を経た後の第二次安倍政権でもこの4カ国の枠組みの維持が図られてきました。

安倍総理が、2007年にこの4カ国の枠組みを提唱したことは、まさしく慧眼だったといえます。

現在のQuadは、まだ軍事同盟にまでは至ってはいませんが、4カ国は、いずれこれを軍事同盟としても機能させるべきでしょう。そのためには、Quadでも安全保障条約の締結をするべきでしょう。

NATOが基づく北大西洋条約の第五条を以下に掲載します。
締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。 
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

確かに、この条約がある限りNATOは、ロシアの弱体化にともない軍事的性格は薄れたとはいえ、集団安全保障、集団防衛の同盟であることには変わりないです。

旧ソ連の核兵器や、軍事技術を受け継ぎ、いまでも世界第二位の軍事費を投入するロシアは決して侮れる相手ではありませんが、何しろ経済力が日本の1/3にまで落ちてしまったロシアではできることは限られています。

米国を抜いた、NATOともまともに対峙できないでしょう。NATOと事を構えて、武力衝突ということになれば、初戦では勝ち抜くかもしれませんが、長期にわたって戦線を維持できないでしょう。そのようなことを予め認識しているため、バルト三国を侵略できないのです。

このようなことを考えると、日本の進む道は明らかです。世界の経験からすれば、集団安全保障が平和を守り、単独防衛では平和維持がかなり難しいということが分かります。集団安全保障体制に入っていれば、戦争に巻き込まれる恐れはないのです。

QUADによる集団安全保障は日本にとっていかに大事かということを日本人大多数の共通認識にして、日本は東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献すべきなのです。「弱小国の振り」などするのはやめて、他の普通の国と同じようにすべきなのです。

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2021年5月28日金曜日

バイデン氏声明に波紋広がる コロナ「武漢起源」追加調査加速、中国反発「可能性は極めて低い。責任を押し付けている」―【私の論評】米国政府は、コロナウイルスの武漢ウイルス研究所起源の可能性も排除しないとの立場に変化(゚д゚)!

バイデン氏声明に波紋広がる コロナ「武漢起源」追加調査加速、中国反発「可能性は極めて低い。責任を押し付けている」 
激突!米大統領選

発生源説が再燃する武漢ウイルス研究所

 ジョー・バイデン米大統領が26日、新型コロナウイルスの「起源」について発表した声明が波紋を広げている。「中国の研究機関からの漏洩(ろうえい)説」を否定せず、情報機関に90日以内の追加調査を指示したからだ。一方、情報機関による未公開報告書の存在をスクープした米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、社説や特集記事などを相次いで発信している。

 「当初から疑わしい事実が明らかになっていたのに、大統領が調査を指示するまでこれほど時間はかかったのは恥ずべきことである」

 WSJ紙(日本語電子版)は27日の社説で、バイデン政権をこう批判した。中国・武漢市にある中国科学院武漢ウイルス研究所からの漏洩説については、ドナルド・トランプ前政権で強く指摘されていただけに、皮肉を込めた論評といえる。

 同紙は26、27日、「武漢のウイルス流出疑惑、焦点は廃銅山」というタイトルの長文記事を前後2回にわたって掲載した。中国が抱える数々の疑惑に切り込んだうえで、漏洩説に否定的だった米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が「流出」の可能性を示唆したことを伝えた。

 バイデン政権の方針転換に、同盟国も注目している。

 日本の加藤勝信官房長官は27日の記者会見で、「今後の徹底した調査が発生源解明につながるよう、わが国も必要な対応を取りたい」と述べた。

 来月、英コーンウォールで開催される先進7カ国(G7)首脳会談で主要テーマとなる可能性を見据えた対応といえそうだ。

 これに対し、中国外務省の趙立堅報道官は27日の記者会見で、「世界保健機関(WHO)の国際調査団は、中国の研究所からのウイルス漏洩説は『可能性は極めて低い』とはっきりと報告書に記録している」「政治的にもてあそび、責任を押し付けている」と反発した。

【私の論評】米国政府は、コロナウイルスの武漢ウイルス研究所起源の可能性も排除しないとの立場に変化(゚д゚)!

ドナルド・トランプ前大統領は25日に声明を発表し、武漢ウイルス研究所がCOVID-19の起源だとする自身の長期にわたる主張に「誰もが同意している」と述べました。

「私がかなり早い段階で武漢がCOVID-19の発生源だと述べ、中国ウィルスと呼ぶことがあったのは正しかったのだということに、今や誰もが同意している」とトランプは声明で述べました。

「私にとっては初めから明らかだったのに、例によってひどく批判を受けた。今やその全ての人が『彼は正しかった』といっている。ありがとう!」と声明は結ばれていました。


トランプはニュースマックスとの25日夜のインタビューでも研究所流出説懐疑論者に対する批判を繰り返し述べました。「賢明な人たちにとってはそこ(武漢ウイルス研究所)が起源だということは明白だったと思う。私は全く疑問を持っていなかった」とトランプはインタビューで述べました。

トランプ氏は2020年4月の時点で、ウイルスの起源が武漢ウイルス研究所(WIV)だという高度な確信を得られるだけのインテリジェンスを見たと主張しましたが、情報源を「話すことは許されていない」と述べました。

「そして世界保健機関は中国のPR会社のようになっているので、恥を知るべきだ」とトランプはその記者会見で述べていました。

CNNのサンジェイ・グプタ博士、国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長と、CDC元所長のロバート・レッドフィールド博士を始めとする医療専門家は、研究所流出説がさらに一定の考慮をするだけの価値があるものだとこれまでに認めていました。

ところがアンソニー・ファウチ博士は当時、トランプの結論の妥当性を否定していました。

  ホワイトハウスで行われた記者会見に臨むアンソニー・ファウチ博士(2020年2月29日)
  左はペンス副大統領、右はトランプ大統領

「最も有力な証拠からパンデミックを起こしたウイルスが中国の研究所で作られたものではないことが明らかだ」「段階的進化に関する全ては、(このウイルスが)自然に進化してから種をまたいだことを強く示している」とファウチは、2020年5月のナショナルジオグラフィックとのインタビューで述べたまし。

ファウチは研究所流出説を段階的に受け入れ、そのピークとなったのが5月11日のことであり、この日ホワイトハウスの医療顧問トップは、コロナウイルスが自然に生じたとはもう確信していないと述べました。

「いいえ。実際のところ・・・私はそれについて確信していません」とファウチは、「まだ自然発生したと確信して」いるかどうかと質問したポリティファクトのケイティー・サンダーズに答えました

コロナウイルスの起源が明確に解明されない状況が1年以上続いたことで、科学界からは、原点から起源を再調査すべきだとの声があがり始めていました。3月4日、世界の有名科学者たちは世界保健機関(WHO)に公開書簡を送り、WIV起源の可能性を否定したWHOの調査には欠陥があるとして、新たな調査を求めました。

中国側のWIVに対する完全かつ制限のない調査を要求したのです。今月14日には18人の著名な科学者が権威ある科学ジャーナル「サイエンス」に「研究所からの漏出事故と動物から人への感染理論のいずれもが有効だ」とし、新たな調査が必要だと述べました。

署名者の1人は、この間WIVからの漏れ出た可能性を否定してきたWIVの石正麗博士と協力してきたラルフ・バリック博士です 。


中国武漢市のウイルス研究所で研究に当たる石正麗主任=2017年2月23日、武漢

このような中、米情報機関の諜報報告が報道されるとともに、この内容が米国務省の事実資料に記されていることが明らかになりました。トランプ前大統領が退任する5日前の1月15日に、国務省がWIVについての「ファクトシート」で「米政府は、WIVの何人かの研究員が、新型コロナ感染の初事例が報告される前の2019年秋に、新型コロナおよび季節性疾患に符合する症状の疾患を患ったという信頼に足る根拠を持っている」と明らかにしていました。

同資料は「この研究所は、加工されたウイルスを作る機能獲得についての研究を行ったという資料を出している」とし「しかし研究所は、何人かの鉱夫がSARSと似た症状で死亡した後、2013年に雲南省の洞窟で採取した『RaTG13』などの新型コロナウイルスと最も類似したウイルスを研究した記録について、透明でなく一貫していない」と指摘しています。 

結局、米国政府は現在のところ新型コロナウイルスの起源を特定していないのですが、WIVに起源を持つ可能性も排除しないとの立場に変化しました。科学界も「コロナウイルスが研究所で操作された形跡はない」というのが公式の立場ですが、(自然から採取したコロナウイルスを研究中だった)研究所から漏れ出た可能性は別問題だという態度を取っています。

コロナに関しては、このブログでは、昨年のはやい時期から、いわゆる生物兵器はありえないですが、武漢ウィルス研究所で研究中のウィルスが漏れた可能性は十分にありえるという結論を掲載しました。それが正しかったことが、裏付けられたと思います。

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2021年5月27日木曜日

世界的に注目の経済安全保障 米中対立でも危機感薄い日本…まずはスパイ防止法から ―【私の論評】確かな安全保障のためには、「スパイ防止法」制定の議論は避けて通れない(゚д゚)!

世界的に注目の経済安全保障 米中対立でも危機感薄い日本…まずはスパイ防止法から 
高橋洋一 日本の解き方

バイデン大統領

 政府は新たな成長戦略の骨子として、経済安全保障を盛り込む方針だ。

 もともと「経済」と「安全保障」は異なる概念だ。重なるとしても、両国で経済関係が良好ならば、戦争になりにくいという意味で安全保障にもプラスという素朴な考えだ。

 しかし、経済というツールを使って戦争を行うという発想に立つと、違った見方ができる。今の米中両国の覇権争いは、軍事的な措置なしで行われているという前提だ。軍事の代わりに経済という武器を使った覇権争いということになる。

 米中の新冷戦でも実際に軍事力を行使するよりも、経済を武器としている公算が大きいので、経済安全保障は国際政治のキーワードになっている。

 典型例は、中国の「一帯一路」構想だ。これは、中国の経済圏を作るもので、中国が相手国に破格の条件で融資し、中国がインフラ投資を行い、中国の戦略拠点を作っていくものだ。融資がうまくいかない場合には、中国が戦略拠点を召し上げ、事実上の中国領とすることもあるので、中国にとって相手国への融資は進出の足がかりとの見方もできる。

 最近の米国による中国企業への締め付けも、米中が経済を武器にして覇権争いをしていると見ればスッキリする。経済安全保障の観点では、トランプ前政権がやっていたことをバイデン政権でもおおむね引き継いでいるのは当然である。

 日本では、経済と安全保障は別と思い込んでいる経営者が多いので、経済安全保障の観点から思わぬ余波に困惑している。例えば米国による中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する制裁の影響で、ファーウェイへ納品していた半導体メーカーなどは製品供給を停止せざるを得なくなった。

 政府も対応のための組織づくりをした。2013年12月に設置された国家安全保障会議(NSC)の事務局として国家安全保障局(NSS)があるが、昨年4月、同局に経済安全保障戦略を担当する「経済班」が新設された。財務、総務、外務、警察各省庁からの出向者が20人ほどいるという。

 ようやく日本でも経済と安全保障を表裏一体で考えて政策を立案する部署ができた。しかし、日本でのこの分野はやっとスタートしたばかりで、やるべきことが山積している。

 例えば、大学や企業での先端技術研究は軍事に直結するものもあるので、外国人研究者を関与させる場合、そのバックグラウンド情報は必須だが、日本ではほとんどその感覚がない。

 そもそもスパイ防止法という国家として当然の法律もないので、危機意識はまったく希薄だ。まずは、どこの国でもあるスパイ防止法の制定が第一歩ではないだろうか。その上で、サイバー対応も含めて先進国にキャッチアップしていくしか方法はないだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】確かな安全保障のためには、「スパイ防止法」制定の議論は避けて通れない(゚д゚)!

日本では、昨年も複数のスパイ事件が発覚しました。1月20日には、三菱電機防衛部門へのサイバー攻撃が発生、企業秘密が流出しました。1月25日には、ソフトバンク社員がアントン・カリニン・ロシア通商代表部元代表代理に機密情報を漏洩し、不正競争防止法違反で逮捕されました。

2月6日には、「神戸製鋼所が保有する潜水艦や魚雷の製造技術に関する情報が漏洩した可能性がある」と防衛省が発表しました。

今年入って、目立ったスパイ事件はありませんが、米国ではスパイの巣窟であるとされる孔子学院が日本ではそのまま手つかずにされているなど、問題は山積です。

現在も放置されている孔子学院

このブログにも何度か掲載してきたように、日本は、「スパイ天国である」といわれています。日本には最先端の科学技術や世界中の情報が集まる一方で、スパイ活動をしても捕まりにくく、捕まっても重刑を課せられないからです。

米国に亡命した旧ソ連KGBのレフチェンコ少佐は「日本はKGBにとって、もっとも活動しやすい国だった」と、韓国に亡命した元北朝鮮工作員は「昔から北朝鮮の工作員は日本に潜入し、在日朝鮮人をスパイに仕立て上げ、日本から多くの情報を吸い上げ、軍事強化に活用してきた。そうして、今もスパイ活動は継続されている」と証言しました。

レフチェンコ氏

初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏は在職中、「我々は精一杯、多くのスパイを摘発してきた。しかし、いくら逮捕・起訴してもせいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのが実態だった。

どこの国にでもある『スパイ防止法』がないため、国家に対する重大犯罪であるスパイ活動などを出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法など刑の軽い特別法や一般刑法で取り締らされ、事実上、野放し状態だった」と回想しています。

世界各国には『スパイ防止法』が存在し、諜報機関を設けて取締りを強化しています。例えば米国ではCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)、イギリスではMI5(保安局)やMI6(秘密情報部)、フランスではDST(国土監視局)やDSPD(国防警備保安局)、ロシアではGRU(連邦軍参謀本部情報総局)などがスパイの摘発を行っており、スパイ罪の最高刑として死刑や終身刑などの重い刑罰が課されています。

日本では1985年に『スパイ防止法案』が廃案になった経緯があります。国家の管理が強すぎると「戦前の特高警察のようになる」との戦時中の反省から、憲法が保障する表現や報道の自由に抵触する恐れがあるというのが、当時廃案となった理由でした。

その後、2014年12月、「特定秘密保護法」が施行されました。この法律は、我が国の安全保障に関する機密情報のうち、特に秘匿する必要のあるものを「特定秘密」に指定し、取扱者の適正評価や漏洩した場合の罰則を定めています。

主に「特定秘密」を取り扱う公務員を処罰の対象としていますが、公務員以外でも「特定秘密」であることを知っていたうえで、不当または不正に取得した場合にも処罰の対象となる法律であり、最高刑は10年以下の懲役および1,000万円以下の罰金が科せられます。

自衛隊でも、「特定秘密保護法」施行以前に情報漏洩事件が発生しています。2007年1月、神奈川県警は、海上自衛隊の護衛艦乗組員の中国籍の妻を入管難民法違反容疑で逮捕しました。

家宅捜索したところ、イージス艦の迎撃システムなど800項の機密情報を含むファイルが発見されました。中国人と結婚した自衛官は現在500人を超えており、その中には幹部自衛官も含まれているといいます。

また、同年2月に防衛庁(現防衛省)技術研究本部の元技官が在職中に潜水艦の資料を持ち出し、中国に情報を漏洩したことによる窃盗容疑で書類送検されました。

「スパイ防止法」は、国連憲章第51条で認められた独立国の固有の権利で、安全保障に関する国家機密を守り、他国のスパイ活動を防ぐのは自衛権の行使として当然の行為とみなされています。

1985年当時のように「表現や報道の自由」に制約を受けるということが反対理由ならば、西側自由主義陣営の状況をみれば、それは明らか錯誤です。

あらゆる犯罪も事前に規定を決めておかなければ取り締まることはできません。法に定めがない=合法と見なされても仕方ないのです。そのために日本は「スパイ天国」などと揶揄される始末になっているのです。

スパイ防止法が日本に無いのは、的はずれな反対意見を持つマスメディアと特定の政党(政治家)が居るからでしょう。

しかし、特定秘密保護法がそうであったように、スパイ防止法が定められたからといって、普通に暮らしている人にとっては何の変化もありません。これを批判するのは、なにか思い当たる節があるからではないか勘ぐられても仕方ないと思います。

特定秘密保護法

特定秘密保護法成立時に反対派に回っていた党や政治家、マスメディアは要観察だと思います。

企業ですら「企業秘密」はあり、社員には「守秘義務」があります。企業秘密を守らなければ、企業は存続できず、新技術も新製品すらも出すことができません。

これと同じ論理で、国であっても国家機密はあるのが当然であって、それを漏洩するようなことがあれば罰せられて当然です。

こういった国家機密が漏洩されることを防止する法律に対して反対する勢力は、スパイなのでは、と疑われてしまっても仕方ないと思います。

当時の反対意見も論点がぶっ飛んでズレていたり、事実無根の内容で国民の不安を煽るなどと、議論の余地もないという印象でした。

特定秘密保護法が制定されてから、この法律のおかげて、普通の方で不利益を被った人はいません。不利益を被った人がいたとすれば、それは特定秘密情報を漏洩したり、漏洩しようとした人だけです。実際に不利益を被った人がいるというのなら、ぜひ教えてほしいものです。

また、この法律は特定秘密を「保護」することしかできないので、「スパイ行為」自体を取り締まることができる「スパイ防止法」も絶対に必要です。

これに反対する人々の中にこそ、スパイが居るのではないかとすら思ってしまいます。安全保障の次なる課題はスパイ防止法の早期制定ではないでしょうか。

経済安全保障体制を整えたにしても、まずはスパイ防止法がなければ、安全保障体制が万全になるとは、とても思えません。

的はずれな反対意見が出ないことを祈りつつ、国民の意識次第では議論再燃もあり得ると思います。いや、再燃してくれなけば困ります。

昨今の中国の覇権主義的な力による現状変更に対し、米国、英国をはじめインド、オーストラリア、ASEAN各国と連携を深め、今後ファイブアイズとの情報共有という事態にも備えて情報管理の信頼性を向上させるためにも、「スパイ防止法」制定の議論は避けて通れません。

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2021年5月26日水曜日

朝日新聞、創業以来最大の赤字441億円―【私の論評】朝日新聞は、大赤字を出してでも世論誘導したいのか?もはや何のための組織なのすらわからない(゚д゚)!

朝日新聞、創業以来最大の赤字441億円

朝日新聞本社

 朝日新聞社が26日発表した2021年3月期連結決算は、純損益が441億円の赤字だった。赤字額は1879年の創業以来で最大となった。

【私の論評】朝日新聞は、大赤字を出してでも世論誘導したいのか?もはや何のための組織なのすらわからない(゚д゚)! 

この赤字に関しては、朝日新聞も記事にしています。朝日新聞デジタル版から以下に引用します。
朝日新聞社3月期決算、11年ぶり赤字 コロナ禍影響
 朝日新聞社が26日発表した2021年3月期連結決算は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、売上高が前年比16・9%減の2937億7100万円、営業損益が70億3100万円の赤字だった。業績の動向などから、将来の利益を前提に税金の前払い分を資産として計上する「繰り延べ税金資産」を取り崩したため、純損益は441億9400万円の赤字となった。赤字は11年ぶり。

 単体の決算も営業損益が74億600万円、純損益が458億8700万円の赤字だった。当社は、今年4月にスタートさせた新たな中期経営計画で21年度の営業黒字転換を目標に掲げており、事業構造の改革やデジタル、不動産、イベント各事業の拡大などを推し進める方針。

朝日新聞は、大赤字を出してでも世論誘導したいのでしょうか、もはや一体なんの会社なのかもわかりません。 

朝日新聞といえば、慰安婦問題に関するフェイクニュースを忘れるわけにはいかないでしょう。

慰安婦問題をめぐり、政府は4月27日、「従軍慰安婦」という用語は誤解を招くおそれがあるとして、政府としては「慰安婦」を用いる、との答弁書を閣議決定しました。

答弁書は日本維新の会の馬場伸幸幹事長の質問主意書に答えたものでした。馬場幹事長は、「従軍慰安婦」という用語は、軍により強制連行されたかのようなイメージが染みついており、政府が「従軍慰安婦」という表現を用いるのは不適切としていました。

従軍慰安婦など存在しない、存在したのは当時合法だった売春婦

閣議決定を受け、「従軍慰安婦」という表現を使った教科書が検定に合格していることについて、萩生田光一文部科学相は「教科書会社において、政府の統一的見解を踏まえて、訂正を検討することになる」と述べました。

日本と韓国との間の壁を高くする慰安婦問題において、従軍の有無、つまり強制連行の有無は重要なポイントになっています。

事実として、これまで強制連行を裏付ける確かな資料や証言は見つかっていません。

韓国の反日勢力は「日本は半島の女性を性の奴隷にしてきた」と主張しますが、これはいわゆる反日種族主義にすぎないものです。文在寅大統領も2015年の日韓合意を否定することで、慰安婦問題を政権維持に利用してきました。

そもそも慰安婦問題は1990年代に「旧日本軍が強制連行していた」との非難が巻き起こったことで、こじれてしまいました。その「証言」を最初に掲載したのが朝日新聞(1991年8月11日付、大阪本社発行)でした。

見出しは「思い出すと今も涙 元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀 重い口開く」「韓国の団体聞き取り」。女子挺身隊の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦の1人が初めて証言したという内容です。

この「証言」は虚偽でしたた。朝日新聞は2014年にこの記事を含めた従軍慰安婦報道の間違いを認め、記事を取り消しています。

朝日新聞社の従軍慰安婦報道に関する第三者委員会の報告を受け、記者会見し頭を下げる渡辺雅隆社長(右)ら=2014年12月26日、東京都港区

これだけを持ってしても、朝日新聞は万死に値します。このような反社会的な会社が今まで存続してきたのが不思議なくらいです。

朝日新聞といえば、朝日新聞出版社のニュースサイトが、悪質なコロナワクチン予約行為をしていました。

防衛省が運営する新型コロナウイルスワクチン大規模接種センターの予約システムに不備が見つかった問題で、架空の接種番号などで虚偽の予約をしたとして、同省は朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.(アエラドット)」と毎日新聞に抗議文を贈りました。

両社の報道では、架空の情報を入力して予約、その後キャンセルしたとしており、岸信夫防衛相は「ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為だ」と非難しました。 

立憲民主党代表の枝野幸男は「報道機関が一種の調査報道的に確認し、報道するのは当然」と述べ、抗議した防衛省を「見苦しい責任転嫁だ」と批判するという非常識な行動と言動をしました。 

一般論としては、ランダムな番号でも予約できるというのはありえない不備だといえるでしょう。一方、緊急性の高い有事で、少しでも早くワクチン接種を進めるためにリリースを優先したことも理解もできます。 

システムの不備を発見した場合の手順としては「情報処理推進機構(IPA)や開発者に通報するべきでした。システムの脆弱が公開されれば、悪用されるリスクも生じます。通報しても開発者が対応に動かない場合の手段として報道するなど、段階を踏むべきでした。

架空予約が大量に行われた場合について加藤勝信官房長官は「悪質なケースは法的措置をとることも排除していない」と警告しました。 

ワクチン接種枠を取るために架空予約を行えば、電子計算機使用詐欺罪にあたる可能性があり、最高刑は懲役10年となります。実際に接種したいという動機でなく架空の情報を入力して予約を取った場合、偽計業務妨害罪にあたる可能性があり、最高刑は懲役3年または50万円以下の罰金となります。

今回、架空予約をした記者らは、起訴すべきでしょう。上の責任も問うべきです。

そうして、極めつけは、朝日新聞は社説で【東京五輪中止】を表明しておきながら、『スポンサー(オフィシャルパートナー)は続ける』たり『朝日主催の夏の甲子園は開催する』ということはは典型的なダブルスタンダードであり、理解不能です。

朝日新聞社 として東京五輪反対表明したのですからスポンサー契約打切をし、系列のテレビ旭は五輪放送権返上すべきです。

このような反社会的企業が、赤字になるのは当然です。朝日新聞の購読者はもとより、多くの国民がノーをつきつけた結果でしょう。

朝日新聞本社の受付前には東京オリパラ大会を応援するプラカードが置いてある

企業の社会的責任についてドラッカーは以下のように述べています。
社会的責任の問題は、2つの領域において生ずる。第一に自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる(『マネジメント【エッセンシャル版】』)
工場の目的は、騒音を出し、有害なガスを出すことではありません。顧客のために高性能の製品をつくることです。そのために騒音を出し、熱を出し、煙を出します。これら社会に及ぼす影響は、組織の目的に付随して起こります。このような副産物はゼロとすることが理想です。

他方、組織は社会環境のなかに存在します。それは社会の機関です。したがって社会自体の問題の影響を受けざるをえません。地域社会が問題視せずとも、社会の問題は組織にとって関心事たらざるをえません。健全な企業、健全な大学、健全な病院は、不健全な社会では機能しえません。

あらゆる組織が、自らの本業を傷つけない限りにおいて、それら社会の問題の解決に貢献しなければならないのです。

社会や経済はいかなる企業をも一夜にして消滅させるとドラッカー氏は言います。企業は社会や経済の許しがあって存在しているのであり、社会と経済がその企業は有用かつ生産的な仕事をしていると見なす限りにおいて、その存続を許されているにすぎないのです。朝日新聞は、そのことを忘れたようです。
社会性にかかわる目標が必要となるのは、マネジメントが社会に対して責任を負うからではない。企業に対して責任を負うからである(『マネジメント【エッセンシャル版】』)

朝日新聞のマネジメント(経営陣)は、企業に対する責任を放棄したようです。 この態度を改め無い限り、ますます先細りになり最終的には崩壊することになるでしょう。

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2021年5月25日火曜日

台湾軍兵士がフェイスブックで“極秘情報”をポロリ「米軍進駐で忙しく昼休みもない」常駐なら「一線越える」―【私の論評】中国は台湾に侵攻できないし、米国にはそれを許せないわけがある(゚д゚)!

台湾軍兵士がフェイスブックで“極秘情報”をポロリ「米軍進駐で忙しく昼休みもない」常駐なら「一線越える」

2020年11月、中部台中市内で戦車のメンテナンスを行う台湾陸軍部隊。同年7月には、台中に中国軍が上陸したケースを想定して大規模な軍事演習が行われている。


アメリカの陸軍顧問団が台湾軍を訓練指導するため、台湾軍の基地に「一時進駐」したことが明らかになった。

さらにその直後、「台湾有事」に備えて、台湾軍の6基地に米海兵隊の「常駐」を求める軍関係者の論考が、台湾国防部シンクタンクの論文集に掲載された。

 海兵隊が実際に常駐すれば、(中国側の忍耐の限度を意味する)「レッドライン」を越えたとして、中国が強硬な対応に出るのは確実だ。 台湾をめぐり、米中双方が相手の出方を探る際どい情報・心理戦が続く。

台湾軍兵士の「何気ない」投稿で発覚

米陸軍顧問団の一時進駐を報じたのは、国民党寄りの台湾大手紙「聨合報」(5月16日付)だ。

台北市の西、新竹県・湖口郷にある台湾陸軍合同訓練北部センター(以下、訓練センター)の兵士がFacebookに投稿。米軍兵士が同センターに駐屯しているため、「業務量が増えて昼休みもとれない」と不満を漏らしたのがキッカケだった。

 米軍進駐は極秘情報だけに、台湾陸軍司令部は「ノーコメント」。記事を掲載した「聨合報」は、訓練センターの将校の証言から確認したと報じている。

 同記事によると、進駐した米陸軍顧問団は「安全保障部隊支援旅団(SFAB)」。目的は、地上作戦における部隊の移動速度、海・空軍との連携などに関する訓練の監察・指導という。

 米陸軍には5つのSFABがあり、台湾に進駐したのは「第1」旅団。約600名の兵士で構成されるが、今回派遣された人数は不明。ただし、台湾軍の兵士が不満を漏らしたことから考えると、かなりの数にのぼるのは間違いない。

 顧問団は4月に進駐後、コロナ感染防止対策として14日間の隔離期間を経て、活動を開始。すべての行動は訓練センター内に限られ、外出は厳禁とされた。

 Facebookへの投稿がなければ、一時駐留が表面化することはなかっただろう。

中国寄りメディアの社説「レッドラインには触れない」

一方、中国寄りとされる台湾紙「旺報」の記事(5月21日付)によれば、「米軍は7月まで滞在し、(同月行われる)台湾軍の定例軍事演習『漢光37』の実弾訓練を検証・監察するかどうかは不明」と書き、米陸軍顧問団が現在も駐留しているかどうかも明らかではない。

 同記事は「台湾軍は近年、米軍の提案を受けて「統合部隊」を設立。地域司令部のもとに少なくとも23の統合大隊が編成され、装甲旅団や歩兵旅団がそれぞれの傘下に属している。2020年7月の『漢光』軍事演習ではその実力を発揮した」とする。

「旺報」は、中国系資本が入った「中国時報」グループのメディアで、中台関係を専門とする日刊紙。 

記事内容から判断すると、米軍が水面下で台湾軍を指導するなどの軍事協力を行ってきたことを、中国は以前から把握していた可能性が高い。そして、今回の米軍の台湾進駐についても、中国は公式の反応を出していない。

 なお、「旺報」は「引き返せない戦争へと進むのか」と題する社説を掲載し、米軍顧問団の進駐はあくまで一時的なもので、その目的も訓練の指導であり、「レッドライン」には触れないだろうと書いている。

全島6基地への米軍駐留を支持する論文

一方、台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の論文集「国防安全隔週刊」の最新号(5月17日付)は、「台湾有事」に備え、米軍駐留を公然と支持する論文を掲載している。その主張は以下の3点に集約される。

 米海兵隊の台湾6基地への駐留を希望 

米海兵隊の基地間の機動作戦を期待

 対上陸作戦を計画、米海兵隊は台湾と共同して中国軍と戦う 

掲載された論文とは、謝沛学氏の「米海兵隊の新作戦モデルと台湾の可能な役割」だ。中国軍による台湾本島への攻撃に備え、米海兵隊や他の海外兵力と共同して上陸を阻止する態勢づくりを提言しており、蔡英文政権の意図をある程度汲んだ主張だろう。

 謝氏は、米軍常駐基地の候補として、宜蘭、花蓮、緑島、蘭嶼、小琉球、東沙の6カ所をリストアップ。移動式ミサイル発射台、多弾装ロケット砲、射程500キロの次世代型地対地ミサイル(PrSM)などを配備することで、「台湾本島のシームレスな防衛が可能になる」としている。

宜蘭は、建設凍結が決まった第4原子力発電所のサイトに近い。蘭嶼は既存の3原発からの低レベル放射性廃棄物などが大量に貯蔵されている。また、南シナ海に位置する東沙(島)は、日米の軍事専門家が、中国の離島攻撃の対象になる可能性を指摘している。

「アメリカは台湾を助けない」との論説も

台湾初の国産ジェット戦闘機F-CK-1「経国」
 
アメリカの台湾との軍事協力は、1979年1月の米中国交正常化にともなう台湾との国交断絶を受け、同年4月に成立した「台湾関係法」に起因する。

 同法にもとづき、アメリカは台湾に定期的に兵器を供与してきたほか、2020年からは米軍艦が台湾海峡をくり返し航行、米軍機も台湾領空を飛行するなど、中国へのデモンストレーションと軍事的けん制を強めてきた。

 中国側もこの動きを受け、戦闘機や偵察機による台湾中間線越境などの報復措置をとり、2020年9月以降、台湾海峡の緊張は激化している。

 謝氏の論文が出たあとに掲載された、前出の「旺報」社説は次のように述べ、海兵隊の常駐は「レッドライン」を踏み越えることを強く示唆した。 

「海兵隊を常駐させるという主張が、大陸(中国)の強烈な反応を引き起こすのは必至。台湾は自らを戦争の境地に追い込もうとしている。もし両岸の武力衝突が起きた場合、米軍は本当に台湾支援のために一肌脱ぐだろうか。残念だが、それは難しい」

2020年11月にも台湾西部の基地で合同訓練

ただし、台湾に米軍を常駐させる主張は、この論文が初めてではない。

 米ニューズウィーク誌(9月24日付)によれば、米海兵隊の現役大尉は2020年9月、米陸軍大学の軍事誌「ミリタリーレビュー」で、米軍の台湾駐留を支持する論文を発表。

 これに対し、中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の編集長・胡錫進氏は、ソーシャルアプリ「ウィーチャット(WeChat)」に「米軍が台湾に戻れば、解放軍は中国領土を守るための正義の戦いを始める」と投稿し、台湾への武力行使を示唆した。

 また、2020年11月には台湾大手紙「聨合報」(前出)が、米海兵隊特殊作戦部隊と台湾海軍がおよそ1カ月にわたって水陸両用作戦の合同訓練をしたと報道。

 台湾海軍司令部はこれを「定期的な訓練」としたが、実は、米軍部隊の台湾での活動が公式に明らかにされたのは、米台断交以来初めてだった。 

「定期的な訓練」ということは、米台間ではほかにも「机上訓練」や「教育指導」が以前から行われていたことを示唆している。対中関係が緊迫するなか、台湾軍は米台協力を印象づけるためリークしたと考えられる。

 中国は米台両軍の水面下での協力や演習情報を把握していたとみられ、今回の訓練センター進駐と同様、このときも中国側の激しい対応はなかった。

 軍事的に対立する双方が、相手に手の内をさらけ出すのは「愚の愚」。だから「レッドライン」も秘中の秘であり、「旺報」の社説も警告の域を出ない。 

米政権にとっても、海兵隊を台湾に常駐させれば、中国の台湾武力行使への対応を明らかにしない「あいまい戦略」の放棄とみなされかねない。軍事当局者の間では、40年間維持してきたこの戦略を放棄すべきとの声もあがっているが、バイデン政権は応じない方針だ。 

米台軍事協力に関する情報がリークされ、米軍駐留を公然と主張する論文が発表される背景には、中国の「レッドライン」を探る狙いや、「あいまい戦略」の有効性への疑念を打ち消す意図が透けて見える。 

メディアのヘッドラインには最近、「台湾有事切迫」の言葉が踊るが、米中両国ともに本当の有事は避けたいのが本音だ。台湾をめぐる情報・心理戦はしばらく続くだろう。 

(文:岡田充) 岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

【私の論評】中国は台湾に侵攻できないし、米国にはそれを許せないわけがある(゚д゚)!

台湾有事に関しては、バイデン政権は現状変更は許さないという姿勢でのぞんでいますから、もし中国が本気で台湾に武力侵攻した場合、これを阻止するでしょう。

中国軍が本気で台湾に侵攻するときにはは、ミサイルなどで台湾はもとより、韓国や日本の米軍基地も攻撃し、様々な軍事施設や艦艇を破壊することでしょう。

これによって、日韓、米軍は甚大な被害を受けることになるでしょう。しかし、その後日米は反撃に出るでしょう。その反撃は、空母打撃群や、海兵隊などを上陸する古典的なものではないでしょう。

それは、中国の最大の弱点を突く、潜水艦隊によるものです。そうして、中国の最大の弱点とは、対潜哨戒能力の弱さです。これが弱いので、中国軍は日本の潜水艦は全く探知することができず、米国の原潜の探知も難しいです。

一方、日米の対潜哨戒能力は世界一です。まずは、日米潜水艦隊の脅威となる、中国の潜水艦を全部撃沈するでしょう。その後に日米潜水艦隊は、台湾を包囲します。そうして、台湾に近づく中国の艦艇をことごとくミサイルや魚雷で撃沈することになります。

日本の潜水艦は静寂性(ステルス性)を生かして、主に情報収集にあたり、攻撃力に優れた、米原潜は日本の潜水艦と情報を共有して、中国軍に対して効果的な攻撃を行うことになるでしょう。

そうなると、中国の強襲揚陸艦などは、またたくまに撃沈されてしまうことになります。中国のイージス艦も空母を護衛できず、イージス艦も空母も撃沈されてしまうことになります。無論、台湾への上陸部隊も船ごと撃沈されることになります。

艦艇や戦闘機とともに南シナ海での軍事演習に参加した中国初の空母「遼寧」。(2019年)

運良く、台湾に上陸したとしても、台湾が日米の潜水艦隊に包囲されると、中国はこの上陸部隊に補給ができず、お手上げ状態になります。最終的には、降伏する以外になくなります。旧日本軍のように、補給がなくても、戦い、最終的には敵陣に切り込みで玉砕するような覚悟のある将兵は一人もいないでしょう。

こういうことをブログに掲載すると、中国の超音速ミサイルが、ドローンがなどと騒ぐ人もいますが、そういう人に言いたいです。どんなに優れた攻撃用兵器であっても見えない敵は、攻撃できません。

ましてや、現代戦においては、一秒でも先に敵を発見したほうが勝ちです。海戦においても、それは決定的です。ソナー等が優れていて、相手を先に発見でき、こちら側が静寂性に優れていれば、圧倒的に有利です。

このようなことが予め予想されるため、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。ここまでは、このブログでも何度か掲載してきたことです。

しかし、以上のようなシナリオを公表する軍事評論家など皆無に近いです。まるで、日米にはは潜水艦隊がなきがごとしですし、中国の対潜哨戒能力について全く触れない軍事専門家などもいて驚くばかりです。

ただし、米国には、台湾が潜水艦の開発に成功すれば、今後数十年にわたって中国の侵攻を防ぐことができるだろうとする専門家もいます。このような専門家は、無論上記のようなシナリオを想定しているのでしょう。

ただし、隠密性が重視される潜水艦の動向に関しては、各国政府が公表しないのが普通ですから、これらの情報は入手しにくいため、これに関して論ずる軍事専門家も少ないのかもしれません。しかし、それでは、あまりに想像力に欠けていて、まともまな軍事評論などできないと思います。

はっきりいえば、中国が台湾に侵攻すると、中国海軍は崩壊するか、崩壊しないまでも、中国の軍港から一歩でも出れば、すぐに撃沈されるということになります。

このような現実を考えると、中国が台湾に侵攻することは考えられません。中国としては、武力で台湾に侵攻することは考えていないでしょう。それよりも、いわゆる3戦で、台湾や日米と戦わずして、台湾を我が物にしよう考えているでしょう。中国の台湾に対する様々な圧力はその現れとみるべきです。

さらに、中国が台湾を攻撃できない理由もあります。

台湾で標高2500m級の山、樂山の頂上には巨大なレーダーが立っています。このレーダーは、米国が米本土に向かって発射された戦略弾道ミサイルをいち早く捕捉するために開発した、PAVE PAWS戦略レーダーを基に作られたレーダーで、2つあるアンテナの直径は30メートル以上。EWRとも呼ばれていました。

Googleマップで「台湾 楽山 レーダー」と入力して検索し、航空写真でみると以下のような巨大施設を見ることができます。


このレーダーは、弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイル・航空機を捕捉できるように性能が変更され、探知距離は以前、3500km以上と言われていました。

南シナ海の海南島には、核弾頭を搭載した戦略核ミサイル「JL-2」を搭載した戦略ミサイル原潜の基地があります。

樂山から2000kmで、南シナ海全域が監視できる上、このレーダーなら、中国本土から発射されるICBMも捕捉できるかもしれないです。

しかも、2016年に改修されているので、性能が向上した可能性があります。米国にとっては、米本土防衛のためにも無視できない存在となっているかもしれないです。

中国が、このまま戦略核兵器の開発・生産・配備を続けるなら、米本土防衛の観点から、この台湾の山上に立つレーダーは、戦略弾道ミサイルを見張る眼として、米国防当局にとっても、極めて重要な存在といえます。

では台湾にとって、このレーダーはどんな存在なのでしょうか。もちろん、台湾に向かってくる弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機の捕捉に重要な役目を果たすでしょう。

しかし、それ以上に、このレーダーが破壊されれば、米本土に向かう戦略弾道ミサイルを見張る眼が効かなくなることを意味しかねないです。

ましてや、中国が台湾に侵攻して、このレーダーを手に入れればとんでもないことになります。無論、そうなる前に米軍はこれを破壊するでしょうが、そうなれば、対中国の巨大な目を失うことになります。

この米本土防衛に直結しうる“眼”を米国が防衛するなら、それは米国による台湾防衛にも直結するでしょう。

米中関係が対立し、緊張すればするほど米国は、台湾を重視せざるを得なくなるでしょう。それは、バイデン政権でも変わりありません。だからこそ、バイデン政権も現状変更は認めないという厳しい姿勢で中国に対峙しているのです。

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