2021年5月6日木曜日

台湾が日米首脳会談へ示した期待と懸念―【私の論評】台湾は元々反中、日台は協力して「赤狩り」時代の到来に対処せよ(゚д゚)!

台湾が日米首脳会談へ示した期待と懸念

岡崎研究所

 4月16日の日米首脳会談の共同声明について、台湾の蔡英文総統は歓迎と感謝の気持ちを述べつつ、「民主主義や人権などの価値を共有する台湾は、平和で繁栄したインド太平洋を作り上げるため、われわれのパートナーたちと一緒に取り組んでいきたい」と述べ、「日米両首脳が台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認したことを評価する」と述べた。


 これに関して、4月18日付の台湾の英字紙Taipei Timesは、台湾海峡の平和と安定へのコミットメントを強調した日米共同声明を歓迎する解説記事とともに、尖閣諸島に関する台湾独自の立場や福島第一原発の処理水の海洋放出といった懸念もあるとする社説を掲載している。

 台湾の総統府報道官は、今回の日米首脳会談が「インド太平洋地域の平和と安定に役立つ」と歓迎の意を示しつつ、その上で、台湾海峡問題がすでに両岸(台湾と中国)の範囲を超え、世界の関心を集めているとの認識を示し、「北京当局が地域の一員としての責任を果たし、プラスの貢献をする」ことに期待を寄せた。台湾外交部は、台湾は中国の防衛ライン「第一列 島線」(九州―沖縄―台湾―フィリピン)の中枢に位置しており、地域の安定と繁栄の鍵となる役割を担い続けていると指摘している。自由で民主主義的な制度を持ち、2300万人の人口を擁する台湾は、すでに主権の確立した独立国家である、というのが蔡英文政権(民進党)の立場である。ただし、それを強調することによって中国をいたずらに挑発することなく、対話を通じ平和的に現状を維持したいとの方針を堅持している。今回の日米首脳会談の共同声明が、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、中台間で平和的に台湾問題を解決するよう促したことを高く評価したのも理解できる。これに対し、中国は「一つの中国」の原則に基づき、外交、軍事、経済など諸方面において台湾を威圧・併合しようと腐心している。

 最近、岸信夫防衛大臣が、沖縄県与那国島を訪問し、日本の最西端に位置する同島で、駐屯する自衛隊の陸、海、空の隊員たちを視察したことをTaipei Timesはとりあげている。この論評は、「台湾有事」が「日本有事」に直結していることを含意しているのだろう。同論評は、同時に、台北にある日本駐台湾代表(大使に相当)の住む公邸に今年初めから、日本の国旗が掲揚されていることを記述 している。北京からの圧力に抗した形で、日台関係が進展していることを記述するものである。 

 Taipei Timesの社説が尖閣諸島について述べている点は、台湾当局の旧来の立場である。尖閣諸島の領有権の問題については、台湾側としては、尖閣諸島が自らの領土であるとの立場を崩していない。2013年に日台間で漁業取り決めが円満に結ばれてからは、尖閣諸島が日台間で政治・外交上の問題となることはほぼなくなったが、台湾の旧来の主張は変わっていないというのが本社説の言わんとするところである。日台関係を考える際に、潜在的問題点として日本側としても念頭に入れておく必要がある。 なお、蔡英文(民進党)政権は本件を日本側との間で取り上げることによって問題を表面化させたくないとの立場をとっているように見えるが、国民党の立場は必ずしもそうではないという点にも注意が必要だろう。

【私の論評】台湾は元々反中、日台は協力して「赤狩り」時代の到来に対処せよ(゚д゚)!

昨年7月3日夜、台湾の野党、中国国民党の地方議員ら十数人が、沖縄県石垣市議会が尖閣諸島の住所地表記を変更する議案を可決したことに抗議し、北東部・宜蘭(ぎらん)県の漁港で漁船に乗り込み尖閣に向かおうとしました。ところが、出発直前、海洋委員会海巡署(海上保安庁に相当)に船員証の不所持などを理由に阻止されました。

台湾・宜蘭 外澳ビーチ

尖閣諸島の領有権を主張する台湾では、石垣市が昨年6月下旬、同諸島の住所地に「尖閣」を明記すると決めたことで波紋が広がりました。国民党は、謝長廷(しゃ・ちょうてい)駐日代表(大使)の召還を求めるなど強硬姿勢を示しました。

一方、与党の民主進歩党は冷静に対応しています。蔡英文総統は「一方的な行為の停止を望む」と口頭で日本側に抗議しましたが、総統府の報道官は「大陸(中国)公船による関連海域での長期の活動が今回の波風を引き起こした」と語り、中国にも非があるとの見方を示しました。

宜蘭の漁民の間では従来、尖閣周辺は日本統治時代からの伝統的な漁場という理由から対日強硬姿勢への支持が多かったのですが、2013年の日台漁業取り決めの締結で漁業権が確保され、抗議活動に参加する人は激減したといいます。

昨年なくなった李登輝元総統

尖閣をめぐっては、戦前から台湾で暮らす「本省人」と第二次大戦後、中国大陸から渡ってきた「外省人」との間で温度差があります。本省人の李登輝元総統は、退任後に「尖閣は日本の領土だ」と主張しました。

同じく本省人の呂秀蓮(ろ・しゅうれん)元副総統も「この問題で日本ともめるべきでない」と強調しました。中国からの脅威に対抗するため、尖閣の領有権の主張を棚上げにして、日本と良好な関係を築きたいという考えです。

昨年1月の総統選で蔡氏が再選された後、外省人系の支持が多い国民党の影響力は急速に低下しています。李氏や呂氏の考えが今後、台湾で広がることを期待したいところです。

台湾では、対中強硬路線を持つ与党・民主進歩党(民進党)と親中派で最大野党の国民党という二大政党が戦ってきくした。世界が急激に変わるなか、台湾のこの政治構図が奇異でさえありました。

今年1月の台湾総統選で、国民党の公認候補として出馬し、現職の蔡英文総統に大敗した韓国瑜・高雄市長は後日、リコール(罷免)投票で職を追われました。反中に大きく傾いた台湾国内の民意に答えられずに、国民党は大やけどをしました。

中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか、多くの人は理解に苦しむところだと思います。

戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共でした。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党でした。

大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからだ。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針でした。

変化が生じ始めたのは80年代後半でした。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していきました。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させました。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのです。

ただ問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことです。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではありません。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのです゜。

トランプ政権下では、「ドレイン・ザ・スワンプ」という標語が打ち出されました。「スワンプ」とは、悪臭を放つ沼のことです。

腐敗した穢い黄濁な泥水が溜まっている。その中に蛭やトカゲや毒蛇がうじゃうじゃにょろにょろと這い回って棲息しています。そこで排水溝やバキュームカーのような排水設備(ドレイン)を用いて汚水を抜き取り、排出させることです。


そうすると、いよいよ穢い沼底に棲息していた蛭やトカゲや毒蛇が姿を現し、これらを太陽の日差しに当てて天日干しにして日光消毒を行い、すべて殺してしまうということです。

泥沼の傍で、トランプがバキュームカーで泥水を抜き取っているという政治風刺画があります。チャイナマネーによって汚染されたワシントンやウォール街の既得権益層にトランプがターゲットを絞ったのです。

皮肉にも、自由民主主義国家の政財界が社会主義独裁国家によって汚染されたのです。それは社会主義や共産主義に赤化されるのではなく、資本主義制度下で増殖・変異した「唯物的」な拝金主義ウイルスが巧妙に利用されたのです。

このメカニズムは長きにわたりグローバリゼーションという大義名分の下で温存されてきました。誰もが気付かなかったし、気付こうとしなかったのです。いや、気付いても口に出して言えなかったのです。

米国では、バイデンが大統領になってからは、このキャンペーンは下火になっているようですが、台湾では、逆にこの機運が高まっています。そこで、親中本家の国民党はこのままいけば、政権奪取が夢のまた夢だけでなく、そのうち泥水を抜き取られた沼底から蛭やトカゲが姿を現し、「赤狩り」に遭遇したところで、党が沈没しかねません。

そうした危機感に駆られて、この際、思い切って親共から反共へと180度の方向転換しようと決心したようです。

とはいいながら、国民党内は決して一枚岩ではありません。既得権益層がおとなしくこの大転換についていけるのでしょうか。ぶつぶつ文句を言いながらも、いざ議決になれば、賛成票を投じざるを得なかったようです。

そうして、『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が全会一致で可決されたことにより、まさに台湾では「ドレイン・ザ・スワンプ」キャンペーン、つまり「赤狩り」時代の到来がきたといえます。

このような潮流の中では、尖閣問題が日台間の大きな問題になることは考えられないです。2013年に日台間で漁業取り決めを粛々と実施すれば良いだけです。そのようなことよりも、中国漁船の違法操業を両国で厳しく取り締まるべきです。

国民党にとってはすべて悪い話ではありません。なんといっても台湾に中華民国を移し、根を下ろしたときからの本流与党であり、豊富な「人」「財」の資源をもっています。基本的な立場を「反中国共産党」に切り替えたところで、むしろ重荷を下ろしての原点回帰といえます。そうすれば、民進党との戦いを本格化させ、政権奪還に挑むこともできます。

そうして、米台国交回復は決して机上の空論ではなくなったようです。トランプは本気でこれを検討していたようです。米台国交が回復すれば、習近平の中国共産党政権が発狂することになります。

ただし、バイデン政権は、そこまでは考えてはいないようですが、それにしてもバイデン政権ですら、現状変更は絶対に許さないという姿勢で中国に対峙しています。それに、米国がまた政権交代して、再び共和党政権になった場合、米台国交回復が再び検討される可能性は大きいです。

様々なシナリオが描かれるなか、世界中で「反中国共産党」の潮流が勢いを増し、その先に中国共産党政権の崩壊・交替があるかもしれないです。そうなれば、蒋介石が夢見ていた「大陸反攻」が単なる夢ではなくなり、実現する可能性も出てきます。

無論蒋介石の夢がそのまま実現するということはないでしょうが、いざ大陸に民主主義の政体ができた時点で、国民党が民主主義国家運営のノウハウや豊富な党内人材を生かせば、与党としての貫禄を世界中に見せつけるという可能性もでてきます。

このように見方を変えれば、国民党は、目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げることができます。李登輝元総統は、「反攻大陸」のスローガンを下ろしたものの、台湾の民主化を推進した国民党の政治家であり、蒋介石を補佐していたことを思い起こすべきです。

そうして、蔡英文率いる民主進歩党も、紛れもなく、民主化の産物なのです。国民党がまともになれば、台湾にまともな二大政党制が根付くことになるかもしれません。そうなれば、米国の二大政党制よりまともなそれが、台湾に出来あがることになるかもしれません。

実は日本も同じような状況に置かれています。中国共産党に取り込まれて商売上の利益を得てきた既得権益層には、その利益が白であれ、グレーであれ、あるいは黒であれ、いよいよリセットする時がやってきたようです。

少なくとも現時点では、米国の昨年のビューリサーチセンターの調査でも明らかになったように、86%の国民が中国に対して否定的な感情を抱いています。

あからさまに親中・媚中的な発言や、行動をすれば、多くの国民からバッシングされるようになってきました。日本も原点に立ち返り、日本国家の長期的利益を見据えて、台湾とも連携しながら、新たな一歩を踏み出すべきです。

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