2024年11月13日水曜日

台湾、ウクライナにホーク防空システムをひそかに引き渡しか 米国介して―【私の論評】ウクライナ支援が示す台湾の強力な防衛力

台湾、ウクライナにホーク防空システムをひそかに引き渡しか 米国介して

まとめ
  • 台湾は米国製のホーク地対空ミサイルシステムをウクライナに支援していた。
  • この支援は米国を通じて行われ、ウクライナ軍の防空能力を強化した。
  • ホークは古い兵器だが、信頼性が高く、ドローンやミサイルに対しても機能する。
  • ウクライナは多様なミサイルシステムを統合し、ホークを活用して防空網を強化している。
  • ホークシステムはジャミングに弱いが、NASAMSとの統合により改善が期待されている。
米国製のホーク地対空ミサイル

 台湾は、ウクライナ空軍に対して米国製のホーク地対空ミサイルシステムを支援していたことが明らかになった。元米国防総省高官の胡振東によると、台湾は余剰のホークシステムを米国を通じてウクライナに引き渡し、これによりウクライナ軍の防空能力が強化された。この支援は、台湾が公に声高に表明することなく行われていたため、あまり知られていない。

 ホークは60年以上前に開発された古い兵器であるが、そのシンプルさと信頼性の高さから、依然として効果的である。特に、ドローンや巡航ミサイル、有人機に対しても機能するため、ウクライナの防空網にとって重要な役割を果たす可能性がある。ウクライナ軍は、以前から保有していた旧ソ連製の地対空ミサイルシステムに加え、ホークを活用することで多様な防空能力を確保している。

 さらに、ホークは別の地対空ミサイルシステムであるNASAMSとの互換性があり、これにより運用の幅が広がる。ウクライナは、ロシアからのミサイルや自爆ドローンの攻撃に対抗するため、さまざまなミサイルシステムを統合しており、ホークの導入はその一環である。

 ただし、ホークシステムには欠点もある。特に、レーダーがジャミングの影響を受けやすい点が挙げられる。この課題を克服するために、ウクライナ軍はホークのミサイルや発射機を新しいNASAMSの高性能レーダーと統合することが期待されている。全体として、台湾の支援はウクライナの防空力を向上させる重要な要素となっていると言える。

forbes.com 原文

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ウクライナ支援が示す台湾の強力な防衛力

まとめ
  • 台湾はウクライナに米国製のホーク地対空ミサイルシステムを支援しており、これは台湾の防衛能力の余裕を示している。
  • 台湾は「天弓」シリーズの地対空ミサイルシステムを運用しており、約30基以上を配備している。
  • 天弓システムは射程が最大150キロメートルに達し、数百発のミサイルを運用可能である。
  • 台湾は米国からNASAMSを導入し、防空網を多様化している。
  • 台湾は対艦ミサイルや長距離ミサイルも配備し、地理的特性と相まって中国の台湾侵攻を困難にする強力な防衛力を持っている。

台湾軍の早期警戒機

台湾がウクライナに米国製のホーク地対空ミサイルシステムを支援していたことは、台湾の防衛能力や国際的な立場において重要な意味を持つ。この支援は、台湾自身が十分な防空能力を有していることを示している。具体的には、台湾は余剰のホークシステムを持っており、これを他国に供給する余裕があることを意味する。

台湾は、2015年から独自に開発した地対空ミサイルシステム「天弓」を運用している。天弓シリーズは、台湾の防空能力を強化するために設計されており、最新の技術を採用している。特に、天弓IIIは射程が最大150キロメートルに達し、複数の目標を同時に追尾・迎撃できる能力を持つ。台湾は、天弓I、II、IIIを合わせて、約30基以上を配備しているとされており、これにより台湾の防空力は大幅に向上している。

30基以上の発射機がある場合、全体で数百発のミサイルを運用していると考えられます。具体的には、台湾の防空システムは、天弓IやII、IIIの各システムにおいて、発射機ごとに約3~8発のミサイルを搭載できるため、全体でおおよそ100発から240発以上のミサイルが配備されている可能性があります。

また、台湾は米国からのNASAMS(高度な地対空ミサイルシステム)を取得しており、これにより防空網を多様化している。

NASAMS

これらの防空システムにより、台湾は十分な防衛力を保持しており、ホークのような古いシステムを他国に提供することが可能となった。台湾は、ホークを含む余剰の防空システムをウクライナに供給することで、国際的な連携を強化し、ウクライナの防空能力向上に寄与している。

さらに、台湾の安全保障は、中国の軍事的脅威によって強化されている。中国は近年、台湾に対する軍事的圧力を高めており、台湾は自国の防衛力を強化する必要に迫られている。このため、台湾は自国の防衛力を維持しつつ、国際社会にも貢献する形でウクライナへの支援を行っている。

台湾がウクライナにホークシステムを提供することは、単なる物資の供給に留まらず、台湾の防衛能力の余裕や国際的な連携の強化を示している。また、台湾の防衛政策は、中国の脅威に対抗するための戦略の一環として位置付けられ、国際的な防衛協力の中で重要な役割を果たしている。

台湾は、能登半島のように急峻、台湾の東海岸は絶壁が連なり、西の海岸は河川が入組み滝が多い

加えて、台湾は強力な防空システムを持つだけではなく、対艦ミサイル、地対地ミサイル、長距離ミサイルも配備しており、ウクライナが西側諸国から制限をつけられているのとは対照的に、台湾の意思だけで艦艇や中国の奥地まで攻撃できる様々な強力なオプションを持っている。これにこのブログでも指摘してきたように、台湾の天然の要塞ともいえる地理的特性が加わることで、中国の台湾侵攻は困難を極めることが予想される。

【関連記事】

アングル:中国のミサイル戦力抑止、イランによるイスラエル攻撃が教訓に―【私の論評】イスラエルへのミサイル攻撃の教訓:台湾防衛の現実と課題 2024年10月17日

中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略―【私の論評】中国の台湾侵攻に備える日米台の新旧『地獄絵図戦略』でインド太平洋戦略を守り抜け 2024年6月16日

中国軍による台湾包囲演習はこけおどし、実戦なら台湾のミサイルの好餌―【私の論評】中国による一方的な情報、プロパガンダに基づく見解には慎重であるべき 2024年6月1日

【台湾大地震】可視化された地政学的な地位、中国は「善意」を傘に統一へ執念 SNSには「救援目的で上陸を」の声も―【私の論評】台湾:東アジアの要衝、中国覇権の鍵、日本の最重要課題を徹底解説! 2024年4月6日

台湾が初の自主建造潜水艦を披露 対中防衛を強化―【私の論評】台湾の技術力、潜水艦計画の光輝なる未来(゚д゚)! 2023年9月29日

2024年11月12日火曜日

過去最高を更新し続ける米国の石油生産 何が要因なのか?―【私の論評】トランプ大統領再登場で米国エネルギー政策が激変!新たな世界秩序の幕開け

過去最高を更新し続ける米国の石油生産 何が要因なのか?

まとめ
  • 米国の原油生産量が年初から平均日量1320万バレルに達し、昨年の記録を6.5%上回った。
  • シェールオイル採掘技術の進歩と掘削技術の向上が生産量の急増を支えている。
  • 設備投資の拡大により、石油の輸送と処理が容易になり、米国は主要な原油輸出国となった。
  • 世界的な石油需要の増加と米国の規制環境の改善が生産を後押ししている。
  • 原油価格の回復により、新規プロジェクトへの投資が進み、継続的な生産量の増加が見込まれている。

米国の油田

米エネルギー情報局(EIA)は、米国の原油生産量が年初から平均日量1320万バレルに達したと発表した。これは昨年の最高記録である日量平均1250万バレルを6.5%上回っている。旺盛な需要と採掘技術の進歩により、米国は今年も過去最高の生産量を更新する見込みである。

原油生産量の急増の背景には、シェールオイルの採掘が大きな要因となっている。水圧破砕法や水平掘削技術の進歩により、特にテキサス州やニューメキシコ州のパーミアン盆地から膨大な原油を効率的に採掘できるようになった。また、掘削や採掘の技術向上により、既存の油田からより低コストで多くの原油を生産できるようになった。掘削精度の向上やデータ分析の進展により、操業効率も高まっている。

さらに、設備投資の拡大も生産水準向上に寄与している。パイプラインや製油所、輸出ターミナルの整備が進み、大量の石油輸送や処理が容易になった。この結果、米国は主要な原油輸出国としての地位を確立している。

世界的な石油需要の増加も、米国の増産を促進している。新型コロナウイルスの影響から経済が回復する中、特にアジア地域での石油消費が増加しており、これが原油価格を安定させる要因となっている。加えて、米国の規制環境も業界にとって好ましいものであり、国内資源の開発を支援する政策が生産者の活動を活発化させている。

最後に、原油価格の回復も生産を後押ししている。コロナ禍で急落した原油価格は回復し、以前は採算が取れなかったプロジェクトが再び実行可能になった。このような状況により、米国の原油生産量は継続的に伸び続けている。これらの要因が相まって、米国は記録的な原油生産量を達成し、世界のエネルギー市場でのけん引役としての地位を確固たるものにしている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプ大統領再登場で米国エネルギー政策が激変!新たな世界秩序の幕開け

まとめ
  • バイデン政権は気候変動対策を重視し、パリ協定復帰や温室効果ガス削減目標設定など野心的な政策を推進した。
  • しかし、産業界からの反発や経済成長への欲求により、環境政策の実施に課題が生じた。
  • 2023年の米国原油生産量は史上最高を記録し、バイデン政権の環境政策と現実の乖離が顕在化している。
  • トランプ政権では原油増産や環境規制緩和が予想され、エネルギー政策が外交の切り札として重視される可能性がある。
  • 米国のエネルギー政策は国際秩序に影響を与え、エネルギー政策が、国際政治の新たな主戦場となる時代が始まったのだ。

就任直後パリ協定復帰を含む多数の大統領令に署名するバイデン大統領

バイデン政権は、気候変動対策を最優先課題として掲げ、パリ協定への復帰や2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50〜52%削減するという野心的な目標を設定した。インフラ投資やインフレ削減法を通じて再生可能エネルギーの推進を図り、環境規制の強化にも取り組んでいる。特に、自動車のGHG(温室効果ガス)排出規制や燃費基準の見直しは、クリーンエネルギーの普及を促進する重要な施策だ。

しかし、これらの政策は産業界からの強い反発に直面している。特にメタン規制の強化に対しては、石油・ガス業界が準備不足を訴え、実施に向けた懸念が高まっている。このような状況は、バイデンの理想主義が現実の産業界と乖離していることを示している。

そして、現実はどうだ。2023年、米国の原油生産量は日量1320万バレルに達した。これは史上最高だ。テキサス州やニューメキシコ州では、最新技術を駆使した低コストの掘削が行われている。国際的な原油需要の回復も、生産を後押ししているのだ。


バイデン政権は、この矛盾をどう説明するのか。彼らは、クリーンエネルギーへの移行期間中は、従来のエネルギー源も必要だと主張するだろう。だが、それは言い訳に過ぎない。実際には、エネルギー産業からの圧力や、経済成長への欲求が、環境政策を骨抜きにしているのだ。

トランプ新大統領の「脱・脱炭素」担うEPA(環境保護局)長官に指名されたゼルディン氏

では、トランプが再び大統領になったらどうなるか。答えは明白だ。原油生産はさらに増加する。トランプは公共の土地での掘削を積極的に進め、オフショア(海底)掘削の規制も緩和するだろう。石油産業への支援も強化される。原油価格が上昇すれば、新規プロジェクトへの投資も増えるはずだ。

トランプは、バイデンの環境政策を「金の無駄遣い」と批判している。彼は、米国のエネルギー独立を目指し、国内の化石燃料産業を強化する方針だ。環境規制は緩和され、パリ協定からの離脱も再び検討されるだろう。

だが、これは単なる経済政策ではない。外交の切り札になるのだ。原油生産の増加は、米国の影響力を強化する。エネルギーを武器として、他国との関係を操ることができる。中国に対しては、原油輸出を通じて関係改善を図ることも、逆に禁輸措置で圧力をかけることもできるのだ。

ニュースケール社が設計したSMRの1ユニット、上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

さらに、米国は小型モジュール炉の開発も進めている。これが実現すれば、次世代エネルギーの覇者になれる。2030年までに10基以上の稼働を目指している。これは、複数の小型モジュール炉(SMR)を1か所にまとめて設置する原発「モジュール型原子力プラント」を想定している。

たとえば、米国のNuScale PowerのSMRプラントは、各モジュールが60メガワット(MW)級の発電能力を持ち、複数のモジュール(最大12基)を同じサイトに設置することで、総発電量を大規模な原子力発電所に近い規模にすることを目指している。

この設計により、発電容量を電力需要にあわてせ段階的に増加、減少させたり、メンテナンスの際に一部のモジュールだけを停止できるため、従来の大型原子炉に比べて柔軟でかつ安全な運用が期待されている。米国は、原子力分野でも競争力を持つことで、国際的な地位はさらに強化されるだろう。

結論は明確だ。米国のエネルギー政策は、単なる国内問題ではない。世界の力関係を左右する重要な要素なのだ。行き過ぎた環境政策で失敗したバイデンとは異なり、トランプの増産政策は、エネルギーを通じて、米国の覇権を維持し、強化することを目指すだろう。

我々は、このダイナミックな変化の中で、新たな国際秩序が形成されていく過程を目撃しているのだ。環境保護と経済成長、エネルギー安全保障と気候変動対策。これらのバランスをどう取るか。それが、次期大統領の手腕の見せ所だ。

米国の政策転換は、世界中に波紋を広げる。同盟国は、米国の方針に従うべきか、独自の道を歩むべきか、難しい選択を迫られる。新興国は、経済発展と環境保護のジレンマの呪縛から解放される。そして、中国やロシアといった競合国は、米国の政策変更を自国の利益に結びつけようと画策するだろうが、そうはうまくはいかないだろう。

我々は、歴史の転換点に立っている。エネルギー政策が、国際政治の新たな主戦場となる時代が始まったのだ。この激動の時代を生き抜くには、冷徹な現実主義と長期的な視野が必要だ。表面的な理想主義や短期的な利益に惑わされてはならない。エネルギーと安保・外交、環境と経済。これらの複雑な関係を見極め、戦略的に行動する。それが、これからの国際社会で生き残る唯一の道なのである。

【関連記事】

マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情―【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状 2024年10月24日

トランプ氏とEVと化石燃料 民主党の環境政策の逆をいく分かりやすさ 米国のエネルギー供給国化は日本にとってメリットが多い―【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望 2024年7月31日

G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道 2024年4月14日

フィリピンの先例警戒、中国が電力支配 40%株式保有、送電止める危険 米軍基地抱える日本も〝脅威〟再エネに中国の影・第5弾―【私の論評】エネルギー武器化の脅威:ドイツのノルドストリーム問題と中国のフィリピン電力網支配 2024年3月30日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い 2024年4月25日

2024年11月11日月曜日

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明―【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明

まとめ
  • 福岡県宗像市沖で、海上自衛隊の掃海艇「うくしま」が火災を起こし、転覆。行方不明の古賀辰徳3等海曹の所在を確認できていない。
  • 消火活動中に乗員が退避し、1人が軽傷を負ったが命に別状はなし。海上保安庁が捜索を準備中。

うくしま

 10日午前9時50分ごろ福岡県宗像市の大島沖で、海上自衛隊の掃海艇「うくしま」で火災が発生し、1人が取り残されたとの通報があった。消火活動が行われたが火は消えず、翌11日午前0時5分ごろ転覆した。

 海自は行方不明の古賀辰徳3等海曹の所在を確認できておらず、事故調査委員会を設置した。転覆によって火が消えたため、海上保安庁は捜索を準備中だ。海自の斎藤海上幕僚長は、延焼の恐れがあったことを説明し、国民に心配をかけていると述べた。また、消火活動中に乗員が退避し、1人が軽傷ったが命に別状はないと報告されている。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線

まとめ
  • 掃海艇は海上自衛隊の重要な役割を担い、機雷探知や無力化を通じて海の安全を確保する。
  • 日本は約30隻の掃海艇を保有し、特に多くの艦艇は、FRP製であり、これは軽量で腐食に強く、レーダーに対する低可視性を持つ。
  • 海上自衛隊は対機雷戦(AMW)と対潜水艦戦(ASW)の両方の優れた能力を持ち、地域の海洋安全保障に重要な役割を果たしている。
  • ASW作戦においては、昨年ヘリコプターの衝突事故が発生し、安全性向上の必要性が再確認された。
  • 掃海艇の火災に対する脆弱性が露呈し、防火対策や新素材の開発が求められている。これらの掃海艇や対潜装備を擁する海自の力は、海洋の安全と国際社会全体の安定を支えるための象徴であり、日々成長を続けている。
出港する掃海艇を見送る人々

掃海艇──それは、海上自衛隊が世界に誇る精鋭の一翼である。見えざる海中の脅威、機雷を前に、ひるまず立ち向かう彼らの使命は並大抵のものではない。彼らはただ海をきれいにするための掃除屋ではない。掃海艇は、海の安全を担保し、ひいては国と国際社会を守るための戦士なのだ。

まず第一に、掃海艇の任務は機雷探知から始まる。音響センサーや磁気センサーといった最新装備を駆使し、海底に潜む機雷を探知する。敵の罠として潜む機雷を見逃さず、的確に見つけ出すことこそが、掃海艇の要となる。そして、見つけた機雷は無力化する。掃海艇には、機雷を引き揚げ、爆破し、安全な航路を確保するための多様な装備が整えられている。これによって、商船や軍艦が安心して航行できるようにするのだ。

しかし、掃海艇の意義はこれだけにとどまらない。機雷は、敵が補給線や艦船を阻むために使うことが多く、掃海艇の存在はその妨害を打ち砕く鍵となる。これにより、自国の海上作戦の自由度を守り、戦略の幅を大きく広げることが可能となる。実際、2023年時点で日本は約30隻の掃海艇を保有しており、その技術力と規模において他国を圧倒する。

海自の掃海母艦と、掃海艇

さらに日本の海上自衛隊には、対機雷戦(AMW)能力と並び、対潜水艦戦(ASW)能力がある。この2つの能力こそが、海自を世界のトップクラスに位置づける要素の一つだ。AMW、つまり機雷掃討においては、FRP(繊維強化プラスチック)製の掃海艇が大いに活躍している。この素材は軽量かつ腐食に強く、さらにレーダーによる探知を難しくする特性があるため、敵の監視をかいくぐり、機雷の除去を迅速に遂行できるのだ。

対潜水艦戦(ASW)能力についても、日本は高い評価を得ている。海自は最新の潜水艦や対潜哨戒機をはじめ、音響センサーや対潜ミサイルといった装備を備え、地域の海洋安全保障の重要な役割を果たしている。しかし、ここでも試練はある。昨年はASW(対潜水艦戦)作戦の一環として運用されていたヘリコプターが衝突事故を起こした。今回の事件も含めて、ASW、AMWの訓練には常に大きな危険が伴うのだ。

日本の海上自衛隊のAMW能力の歴史を振り返ると、1991年、湾岸戦争後のペルシャ湾での掃海作業に派遣され、「世界一」とも称された。その後、掃海艇の老朽化により評価が一時低下したが、最新型の掃海艦や掃海ヘリコプターの導入により再び実力を取り戻し、今やアメリカや中国をも凌ぐ対機雷戦能力を誇るまでに成長している。

ペルシャ湾に向けて出港する掃海母艦「はやせ」を見送る人々(1991年4月26日、海自呉基地)

FRP製の掃海艇の特性を見ても、日本の技術の高さがうかがえる。軽量であり、腐食に強く、さらにレーダーへの反応が抑えられるため、敵の探知を回避しつつ迅速に作戦を展開することができるのだ。この特性は、偵察や掃海活動においてまさに必要不可欠なものである。

だが、完璧とはいえない。火災に対する脆弱性がFRP素材の弱点であり、一度発火すると炎が広がりやすい。そのため、海自では防火材料の使用や自動消火システムの装備など多重の対策を講じているが、今回「うきしま」で発生した火災がその脆弱性を露呈させた。火災の原因究明が急がれるとともに、将来的には耐火性に優れた新素材の開発も検討すべきであろう。

これらの掃海艇や対潜装備を擁する海自の力は、もはや単なる軍事力ではない。海洋の安全、そして国際社会全体の安定を支えるための象徴である。海上自衛隊の努力と技術は、日本を支え、世界に誇るべき存在として日々成長を続けているのだ。

【関連記事】

中国海軍の測量艦、鹿児島沖で領海侵入 防衛省発表―【私の論評】日本南西海域の地形と潮流、中国の侵犯と不適切発言が意味するもの

海自護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初通過、岸田首相が派遣指示…軍事的威圧強める中国をけん制―【私の論評】岸田政権の置き土産:台湾海峡通過が示す地政学的意義と日本の安全保障戦略 2024年9月26日

2024年11月10日日曜日

トランプ前大統領の圧勝とその教訓―【私の論評】トランプ再選がもたらす日本への良い影響:経済、安保、外交、社会的価値観と一貫性

トランプ前大統領の圧勝とその教訓

顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

まとめ
  • ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領に圧勝し、全米選挙人票296人、総得票数でも大差をつけた。
  • 世論調査が実態を反映せず、トランプ氏の優位が選挙結果に表れたことが示された。
  • トランプ氏の強力な指導力が支持を集め、様々な攻撃を乗り越えた。
  • ハリス氏は政治指導者としての脆弱性を露呈し、支持を失った。
  • 日本のメディアや専門家のトランプ氏に対する評価が誤っていたことが明らかになり、その変化は日本にとっても歓迎すべき動きだとみて、柔軟な対応を試みるべきである。
カウンティ(郡)レベルでの米大統領選挙の結果 赤が共和党、青が民主党

 アメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領に対して圧勝を収めた。特に激戦区とされた7州でもトランプ氏がすべてで優位に立ち、全米選挙人票では296人を獲得し、ハリス氏の226人に対して大きな差をつけた。また、総得票数でもトランプ氏は7,215万票を得て、ハリス氏の6,734万票を大きく上回った。これは過去20年で共和党候補が投票総数で勝利したのは初めてのことだ。

 この選挙結果から学べることは多い。まず第一に、アメリカの世論調査の結果が実態を反映していなかったことが挙げられる。選挙前の調査ではハリス氏の支持率が急上昇し、トランプ氏との接戦が予想されていたが、実際の投票結果はトランプ氏の圧倒的な勝利だった。このことは、世論調査に依存することの危険性を示している。

 第二に、トランプ氏の強力な指導力が際立っている。彼は歴史的に敵対的な環境の中で、アメリカ国民の大多数の支持を獲得した。トランプ氏は2016年の選挙以来、様々な疑惑や攻撃を受け続けたが、これらを乗り越え、自国第一の政策に対する支持を維持した。

 第三に、ハリス氏自身の政治指導者としての脆弱性が目立つ。彼女は副大統領としての低い人気を持ち、民主党の予備選を経ずに候補となったことが、多くの有権者を遠ざける要因となった。一時的に支持率が高かったものの、選挙戦中の政策の変動が批判され、支持を失った。

 さらに、日本側のトランプ氏に対する評価が誤っていたことも明らかになった。日本のメディアや専門家はトランプ氏を「危険」な存在として捉えていたが、アメリカの有権者はその逆の判断を下した。これにより、日本の政治的分析の誤りが国際情勢の理解にも影響を与えていることが浮き彫りになった。

 トランプ氏は2025年1月20日に新たな大統領として就任し、内政・外交においてバイデン・ハリス政権とは異なる大胆な政策を打ち出すことを明言している。この変化はアメリカだけでなく、世界全体に影響を与える可能性が高く、日本にとっても重要な展開となるだろう。そのため、日本側も柔軟な対応を模索する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプ再選がもたらす日本への良い影響:経済、安保、外交、社会的価値観と一貫性

まとめ
  • 経済効果:トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策による減税や規制緩和が、米国経済と日本企業の国際競争力向上につながる可能性がある。
  • 対中強硬姿勢:トランプ氏の中国に対する強硬な安全保障政策が、日本の防衛力向上に寄与し、日米同盟の強化を促す。
  • 外交政策の一致:中東和平やウクライナ紛争解決へのトランプ氏の姿勢は、日本のエネルギー安全保障にも好影響を与える。
  • 社会的価値観の共鳴:トランプ氏の伝統的な家族観の重視が日本の保守派の価値観と一致し、アイデンティティ政治の影響を抑制する可能性がある。
  • 一貫性ある政策:1980年代から続く「アメリカ・ファースト」の理念を堅持し、対中強硬姿勢やエネルギー独立、二国間関係の重視といった一貫した方針がトランプ氏の強みであり、日本の保守派にとって信頼の対象である。

大統領選に地滑り的大勝利をおさめたトランプ氏

ドナルド・トランプ氏の再選は、日本の保守派にとって実に望ましい動きである。彼の再登板がもたらす変化は、日本の経済、安全保障、外交政策、そして社会的価値観にわたって多岐に及ぶ。アメリカと日本は共に、グローバルな激動の時代に対応するために何が必要かを問われているが、トランプ氏の再選は、その道筋に確固たる方向性をもたらすと言えるだろう。

まず経済面では、トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」の政策は、日本企業に大きなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めている。アメリカ第一政策研究所(AFPI)の経済政策責任者であるラリー・クドローは、アメリカ経済がトランプ政権の減税と規制緩和政策によって再び活性化する可能性が高いと述べているが、これには日本も含めた同盟国への恩恵が含まれている。アメリカ第一政策研究所は、単なるシンクタンクに留まらず、トランプ氏の思想的背景を具現化する組織であり、その提言は新たなトランプ政権2.0においても政策形成に大きな影響を与えることが期待される。これによって、日本企業は国際市場で競争力を一層強化できる可能性があるのだ。

次に安全保障の分野において、トランプ氏の対中強硬姿勢は日本にとって極めて好ましいものである。元国防長官マーク・エスパーも、トランプ政権の中国に対する断固とした姿勢が、日本の安全保障に寄与すると指摘している。AFPIの安全保障政策提言書では、中国を「地政学上の最大のライバル」と明確に位置づけ、日米同盟の強化を強く推奨している。日本にとって、米国の強い対中政策は、自国の防衛力向上にとって大いに寄与するものであり、この協力体制は非常に重要な意味を持つだろう。

アブラハム合意に調印するトランプ大統領と中東の首脳ら

さらに外交政策においても、トランプ氏のアプローチには日本にとっての重要な要素が含まれている。彼はウクライナ紛争の早期解決を目指し、中東ではイスラエルとアラブ諸国の関係正常化を目指すアブラハム合意の拡大を掲げている。2024年11月5日の中東政策に関するスピーチで、トランプ氏はこれらの取り組みが日本のエネルギー安全保障にも良い影響を及ぼすと述べた。このアプローチには、「アメリカの国益を最優先する外交」を掲げる一方で、同盟国との関係強化と公平な負担を求める姿勢がある。この外交方針は、日米関係にも大きな影響を及ぼし、特にエネルギー安全保障の面で日本の国益と重なる部分が多い。

社会的価値観に関しても、トランプ氏は伝統的な家族観を重視する姿勢を強く打ち出している。2024年8月30日の選挙集会では、過激なジェンダーイデオロギーを推進する学校への連邦資金を削減することを公約に掲げた。この発言には、アメリカ家族協会のティム・ワイルダモンが「トランプ氏の政策は伝統的な家族の価値を守り、子どもたちを過激なイデオロギーから保護するものだ」として賛同の意を示している。AFPIもまた、「伝統的な家族観」と「宗教の自由」を重視する姿勢を取っており、LGBTQの権利拡大には慎重である。この社会的保守主義は、日本の保守派にも共鳴するところが大きく、日本社会の価値観を支える力にもなり得るだろう。

エネルギー政策の面でも、トランプ氏の現実的なアプローチは注目に値する。元エネルギー長官のダン・ブルイエットは、アメリカのエネルギー独立が日本を含む同盟国のエネルギー安全保障に寄与すると述べているが、これは日本のエネルギー政策の選択肢を広げる可能性を示唆している。現実的かつ持続可能なエネルギー政策は、日本の経済活動や社会的安定に不可欠であり、トランプ氏の再選がその実現に貢献するだろう。

台湾情勢に関しても、トランプ政権2.0の安全保障スタッフには厳しい対中姿勢と強い親台湾姿勢を持つ専門家が揃っており、これが日米同盟の安定に寄与するのは間違いない。ハドソン研究所のマイケル・ピルズベリーは、トランプ政権の対台湾政策が中国の軍事的脅威に対する強力な抑止力となると分析しており、この動きは日本にとっても大きな意義を持つ。

米ホワイトハウスで昨年6月10日、LGBTQの誇りをたたえる「プライド」パーティーが開かれ多彩に翻る「レインボー・フラッグ」

また、バイデン政権下で推進されたLGBTQ関連のアイデンティティ政治に対し、トランプ氏の再選はその影響を抑制する可能性がある。2024年7月15日の政策演説で、トランプ氏は伝統的な家族観や社会規範を重視する立場を明確に示し、アイデンティティ政治に対する見直しを示唆した。これにより、アメリカが再び保守的な価値観に基づいた政策を推進する方向へと舵を切る可能性があり、日本の保守派にとっても大いに歓迎すべき動きである。

一部の識者やメディアは、トランプ氏の政策が一貫性に欠けると批判するが、それは事実に基づいていない。彼の政策の一貫性は、1980年代から掲げる「アメリカ・ファースト」の理念に明確に示されている。減税、規制緩和、対中強硬姿勢、厳格な移民政策、エネルギー独立の重視、国際機関より二国間関係を優先する姿勢など、彼の政策の軸はブレることなく保たれている。トランプ氏の主張は、メディアによる「不確実性」の印象操作を打ち破り、その一貫性が明らかになった今、彼はアメリカの保守派の真髄を体現する存在であることが証明された。

2024年の選挙結果は、トランプ氏への確固たる支持を示し、彼の再選がアメリカの保守派を代表するにふさわしいものであることを裏付けている。そしてこの結果は、日本の保守派にとっても、経済、安全保障、外交、社会的価値観、エネルギー政策など多岐にわたる分野で、トランプ氏が有益なパートナーとなることを期待させるものである。

【関連記事】

トランプを選んだ米国民の声「最も大事な3つは家族の価値と生命尊重、宗教」―【私の論評】トランプ氏と安倍政権の成功に見る「経済重視」の戦略 2024年11月7日

“トランプ氏圧勝“の可能性「内気なトランプ支持者」を掘り起こすと激戦州で優位に…ハリス陣営はパニック!?―【私の論評】誰に投票するのか、自らの目で、耳で、そして頭で考え抜け 2024年10月22日

トランプ氏 “次のテレビ討論会応じない” ハリス氏は反論―【私の論評】トランプの大統領選戦略:直接対決を避ける巧妙な計算されつくした手法 
2024年9月13日

トランプ氏有罪で共和党が連帯した―【私の論評】EU選挙で右派躍進と保守派の反乱:リベラル改革の弊害が浮き彫りに 2024年6月11日

もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない―【私の論評】トランプ氏のNATO離脱示唆はメディアの印象操作?アメリカ第一政策研究所の真の見解 2024年3月22日

2024年11月9日土曜日

ドイツの早期総選挙、金融市場で「ポジティブな材料」に-シティなど―【私の論評】ドイツの教訓を他山の石として、日本は原発再稼働をはやめ、増税はやめるべき

ドイツの早期総選挙、金融市場で「ポジティブな材料」に-シティなど

まとめ
  • 政局次第で法人税引き下げや規制緩和進む可能性に期待高まる
  • ドイツ経済、現政権下での経済低迷で幅広い業界が苦境

連立政権を解消したショルツ首相

 ドイツでの総選挙実施の意向が示されたことにより、欧州の株式市場は安定を取り戻すと予測されている。シティグループのストラテジストは、法人税の引き下げがDAX構成銘柄の1株当たり利益を増加させる可能性があると指摘しており、これが市場にとってポジティブな材料になると見込まれている。

 社会民主党(SPD)のショルツ首相が連立を解消した7日、ドイツ株価指数は上昇したが、翌日には世界的なリスク回避の影響を受けた。しかし、投資家は来年早々に行われる選挙が経済への必要な支援をもたらすと楽観視している。バークレイズのストラテジストも今回の早期選挙を「光明」と評価し、ドイツには財政的余裕があることから、早期選挙が欧州にとって前向きな影響をもたらす可能性があると述べている。

 一方で、企業の業績不振や中国の景気低迷、米大統領選挙による関税導入への懸念が高まり、欧州の株式市場はここ数週間、下押し圧力が強まっている。経済の不振は自動車メーカーや銀行、防衛、エネルギー、不動産などの業界に大きな影響を与えており、これに対する投資家の心理も悪化している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ドイツの教訓を他山の石として、日本は原発再稼働をはやめ、増税はやめるべき

まとめ
  • ドイツの「エネルギー転換」政策がエネルギーコストの上昇と供給の不安定さを招き、経済停滞を引き起こしている。
  • ドイツは再生可能エネルギーの導入を進めたが、発電コストが高く、天候に依存するため安定した供給ができない。
  • ドイツは化石燃料への依存が続き、特に電力源の70%が原子力によるフランスからの電力輸入に頼ることにより、矛盾と脆弱性を一層際立たせている。
  • ドイツ国内の政治的対立がエネルギー政策を混乱させ、企業や消費者の不安と負担を増幅させている。
  • 日本も同様に、再生可能エネルギーの依存と原発再稼働の遅れが経済停滞を招くリスクを抱えており、エネルギー政策の見直しが急務である。

ドイツの「エネルギー転換」政策はもはや誰の目からみても大失敗

ドイツ経済の停滞は、エネルギー政策を軽視した結果であり、その結末は予測できたものだった。ドイツは「エネルギー転換(Energiewende)」という壮大な構想のもと、全原発を段階的に廃止し、再生可能エネルギーへの転換を進めてきた。しかし、その過程で直面した数々の問題は深刻であり、エネルギーコストの急上昇と供給の不安定さを招いた。これが解消されない限り、欧州株式市場において一時株価が上がることはあっも、それが維持されることはないだろう。

ドイツは再生可能エネルギーの導入は進めたが、発電コストが高く、風力や太陽光は天候に左右されやすいため、安定した供給が確保できない。これがエネルギー価格の上昇を引き起こし、2022年には家庭の電力料金が過去最高の約40セント/kWh(同時期日本では約15〜23セント/kWh程度)に達し、2023年も依然として高止まりした。

そのため、再エネを進めながも、化石燃料への依存を継続せざるを得ず、それどころか石炭の使用は増加し、2021年には電力供給の約30%を占めた。また、再生可能エネルギーの発電量が不安定であったことも一因となり、ドイツはフランスからの電力輸入に頼る割合を増加させてきた。

しかし、フランスの電力の約70%は原子力であり、この依存度の高まりはドイツのエネルギー政策の矛盾と脆弱性を一層際立たせている。加えて、ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー供給が大きく揺さぶられ、ガス価格の高騰や化石燃料の供給不安定性もドイツ経済にとって大きな打撃となった。

フランスでは56基の原発が稼働しているが、日本では稼働しているのは12基

政治的な面でも、ドイツのエネルギー政策は混乱を極めている。すで解消された連立政権の構成党の間で政策に対する見解の相違があり、与党社会民主党(SPD)や緑の党(Die Grünen)は、再生可能エネルギー推進と原発廃止を重視し、自由民主党(FDP)はその中で柔軟な対応を求める立場を取っている。

野党のキリスト教民主同盟(CDU)やキリスト教社会同盟(CSU)は、エネルギー供給の安定化と価格高騰への対応として原発再稼働を支持している。一方、このように、ドイツ国内のエネルギー政策を巡る対立は、予測可能性を欠き、企業や消費者の不安を増幅させ、経済全体の成長を妨げている。

さらに、AfD(ドイツのための選択肢)などの右派勢力は、移民問題やエネルギー政策を背景に支持を拡大しており、特に高騰するエネルギー価格と経済的不安定さがその後押しとなっている。もし次の選挙でAfDが連立政権に加わるような事態になれば、エネルギー政策の転換が進む可能性もあるが、それは不透明だ。いずれにせよ、現在のエネルギー政策が続けば、ドイツはこのまま高コストで不安定なエネルギー供給に苦しむことになるのは避けられない。

一方、日本もエネルギー政策において大きな岐路に立っている。福島第一原発事故を契機に、原発再稼働は慎重に進められてきたが、未だに多くの原発が稼働していない。再生可能エネルギーの導入が進み依存度が高まる一方で、その供給の不安定さが問題となっている。再生可能エネルギーは天候に左右されるため、発電の安定性が欠如しており、これがエネルギーコストの上昇を引き起こしている。

 年末に向けた税制改正議論で防衛増税の財源めぐり「決着をさせていかねばならない」と語った石破総理 

さらに、防衛費の増加に伴う増税が検討されており、未だデフレから抜けきっていない日本においては、税負担が経済成長に与える影響は計り知れない。増税による消費の抑制とエネルギー価格の高騰が相まることになれば、企業や家庭に重圧をかけ、経済全体の活力を低下させるのは必定である。

日本がこのままのエネルギー政策を続け増税をするなら、ドイツと同様に高コストで不安定なエネルギー供給に直面し、さらにデフレが進行し経済全体の競争力低下が避けられなくなるだろう。連立政権のもとで進められたとしても、原発再稼働が遅れ、再生可能エネルギーへの依存が続けば、深刻なエネルギー危機と経済停滞が待っているのは明白だ。

ドイツの教訓を他山の石として、日本も今すぐにエネルギー政策を根本から見直し、安定したエネルギー供給を確保するために原発再稼働を迅速に進めるべきである。増税も控えるべきであり、それができなければ、日本もいずれエネルギー危機と経済停滞に直面し、ドイツのように後悔の念を抱えることになるだろう。

【関連記事】

ドイツは大変なことに…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖する「真の原因」―【私の論評】ドイツの脱原発政策が招く危機と日本の教訓:エネルギー政策の失敗を回避するため 2024年9月9日

2024年11月8日金曜日

衆院選大敗で執行部批判相次ぐ 自民、2千万円支給を問題視―【私の論評】石破総理の辞任は避けられない!自民党の行く末を左右する党内不満と国会運営

衆院選大敗で執行部批判相次ぐ 自民、2千万円支給を問題視

まとめ
  • 自民党は衆院選の大敗を受け、両院議員懇談会で執行部の責任が問われ、特に2千万円の支給判断が批判された。
  • 首相は謝罪したが、即時退陣の要求はなかった。青山参院議員は辞任を促した。
  • 議員たちは執行部の判断について批判し、党の一体感の重要性を強調した。

 自民党は7日、衆院選の結果を総括する両院議員懇談会を開催し、大敗を受けて執行部の責任が問われた。特に、非公認候補が代表を務める政党支部に公認候補と同額の2千万円を支給した判断に対する批判が強まった。

首相は「深く反省し、おわびしなければならない」と謝罪したが、即時退陣の要求はなかった。青山参院議員は辞任を促し、稲田元防衛相は信を問う姿勢に疑問を呈した。柴山元文部科学相や小林元経済安全保障担当相も執行部の判断について批判し、党の一体感の重要性を強調した。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】石破総理の辞任は避けられない!自民党の行く末を左右する党内不満と国会運営

まとめ

  • 両院議員懇談会では、異例の事態として非公認候補が代表を務める政党支部に2000万円が支給されたことに対する批判、青山議員が首相に辞任を促す場面があった。
  • この「2000万円問題」は自民党の大敗の要因とされ、森山幹事長が責任を問われる中、自民党執行部は、国会運営のために森山氏を続投せざるを得ない状況に追い込まれた。
  • 自民党は予想外の選挙敗北を受け、高市早苗氏の幹事長起用の案もあたったようだが、結局森山氏の交渉力に頼らざるを得ない状況に追い込まれた。
  • 石破政権は国民民主党の協力によってかろうじて過半数を保とうとしているが、同党からの要求に対応する必要があり、内外からの圧力に直面している。
  • 次期参院選が迫る中で、石破総理の辞任と総裁選のへの要望が高まる可能性があり、石破政権は支持基盤を失い続け、ついには党内圧力によって総裁選が不可避のものとなるだろう。

7日開催された両院議員懇談会

両院議員懇談会は通常、衆議院と参議院の議員が一堂に会し、政策や党の方針について意見を交わす場である。一方、議員総会は、党の全議員が集まり、重要な決定事項を議論し、方針を定めるための会議だ。目的も参加者も異なるため、混同は禁物だ。しかし、この懇談会で異例の出来事が起こった。非公認候補が代表を務める政党支部に、正規の公認候補と同額の2000万円が支給されたことで批判が噴出さらに、青山議員は首相に辞任を促すという前代未聞の一幕もあったのだ。

この「2000万円問題」は自民党大敗の一因とされ、森山幹事長はその責任を追及されることとなった。党内からは幹事長交代の声が高まる一方、森山氏は反発を押し切り、続投を決意。なぜか?背景には与党が過半数を割り、国会運営に野党の協力が不可欠となった現実がある。

選挙戦では政治資金不記載問題が大きく響き、自民党は予想外の敗北を喫した。この厳しい結果を受け、高市早苗氏の幹事長起用も取り沙汰されたが、石破政権は大敗の直後に人事を揺るがせば政権の安定が危うくなると判断。現状維持が最善とみたのだ。党執行部は、不満が充満する中での人事異動が党内の混乱を招きかねないと冷静に見ているようだ。

森山幹事長

さらに、森山幹事長は国会運営や野党との交渉に長けており、その交渉力は政権維持に不可欠とされる。このため、高市氏の登用は見送られ、石破政権は今後も森山氏に頼らざるを得ない構図が浮き彫りとなった。

現在の自民党政権はかろうじて続いており、国民民主党の協力によってかろうじて過半数を保てる状態だ。しかし、国民民主党は「年収103万円の壁」や「トリガー条項凍結解除」といった条件を突きつけている。石破政権はこれらの要求に対応せねばならず、内外からの圧力に直面することが予想される。

次期参院選が迫るなかで、石破総理の辞任と総裁選挙が決議される可能性は高い。自民党内では、森山幹事長の交代を求める声が日増しに強まっている。「2000万円問題」に端を発した批判が渦巻く中で石破氏が続投することは、さらなる不満を増大させかねない。さらに、与党が過半数を割っているため、国民民主党の協力が得られなければ国会運営は立ち行かず、党内外の信任を損なうリスクもある。

国民民主党代表玉木氏

そして、選挙戦での敗北は党内の支持基盤を揺るがし、総裁選への道を切り開く要因となる。特に、党内の一体感が欠如した状態では、次期参院選の戦局に悪影響を及ぼしかねない。トランプ大統領の再選も影響を及ぼす可能性がある。再選か決まった現在、保守層が期待する保守的政策が一層注目を浴び、日本の自民党内でも保守色が強まることが予想される。この流れに応えられなければ、石破氏への不満はさらに膨れ上がるだろう。

こうした状況を踏まえると、石破総理の辞任と総裁選の決議は時間の問題であるといえる。党内の不満、国会運営の行き詰まり、次期選挙への影響、さらにはトランプ氏再選の影響が加われば、石破政権は支持基盤を失い続け、ついには党内圧力によって総裁選が不可避のものとなるだろう。

【関連記事】

【解説】首相は誰に? 1回目の投票で過半数「233議席」獲得へ…国会議員の間に浮上する“3つの案”とは?―【私の論評】4つ目の案自民党総裁選の可能性とは?石破総裁辞任と高市氏新総裁待望論の背景と展望 2024年10月30日

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日

いきなり危険水域〝28%〟石破内閣支持率 時事通信調査 森喜朗内閣下回る「何かの間違いかと…発足直後で政権末期レベル」―【私の論評】石破内閣の崩壊と岸田総裁再登場の可能性 2024年10月19日

高市早苗氏 「ポスト石破」への党内基盤固めへ全国応援行脚 既に100人超の依頼―【私の論評】高市早苗と安倍晋三の「雨降って地固まる」状況:日本政治の新たな転換点に 2024年10月12日

日本保守党、百田尚樹氏が比例代表の近畿ブロック 有本香氏が東京ブロックから出馬へ 次期衆院選―【私の論評】次期衆院選と高市早苗氏:保守派の台頭と財務省の抵抗、雨降って地固まる政治転換の可能性 2024年10月9日

2024年11月7日木曜日

トランプを選んだ米国民の声「最も大事な3つは家族の価値と生命尊重、宗教」―【私の論評】トランプ氏と安倍政権の成功に見る「経済重視」の戦略

トランプを選んだ米国民の声「最も大事な3つは家族の価値と生命尊重、宗教」

まとめ
  • トランプ前大統領はヒスパニック、若者、非大卒者からの支持を得て、得票数を大幅に増加させた。
  • ヒスパニックの支持率は前回の32%から46%に上昇し、共和党候補として1970年代以降で最も高い数字となった。
  • 経済問題が選挙の主要な争点となり、トランプ氏の減税政策や労働者保護の約束が支持を集めた。
  • 非大卒者の間での支持も増え、得票率は約56%に達した。
  • 大都市圏でも票を伸ばし、特にロングアイランドで52%の支持を得た。
勝利確定直後のトランプ氏

トランプ前米大統領は今回の大統領選で、ヒスパニックや若者、非大卒者からの支持を大幅に獲得し、得票数を増やした。特にヒスパニックの支持率は前回の32%から46%に上昇し、共和党候補としては1970年代以降で最も高い数字となった。これは、トランプ氏が米国の労働者を国際的な経済競争から守ることを約束し、減税政策を提案することで、労働者層や非白人の支持を広げることに成功したためだ。

出口調査によれば、ヒスパニックの支持は男性で55%、女性で38%と前回よりも大幅に増加している。また、特に18歳から29歳の若者の支持率も43%に達し、これは前回選挙から7ポイントの上昇を示している。経済問題が主要な争点となり、多くのヒスパニック有権者がトランプ氏の強硬な反移民政策を支持していることが明らかになった。調査によると、不法移民の送還を支持する意見も多く見られる。

さらに、トランプ氏は非大卒者の間でも支持を広げており、全体の得票率は約56%に達している。大卒者の支持はハリス氏が55%を獲得したが、この比率は前回選挙と変わらない。一方で、トランプ氏は大都市圏でも票を伸ばしており、特にロングアイランドでは52%の支持を得ている。全体として、トランプ氏は幅広い層からの支持を集め、アメリカの政治における影響力を再確認する結果となった。

トランプ氏の今回の成功は、彼が労働者階級や非白人の有権者に対するアプローチを変え、経済的な問題を重視したことによるものだ。多くの有権者が経済的な不安を抱える中、彼の政策が響いたと考えられている。このような状況は、今後の選挙戦においても重要な要素となるだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。  

【私の論評】トランプ氏と安倍政権の成功に見る「経済重視」の戦略

まとめ
  • ヒスパニックや若者、非大卒者は、トランプ氏の移民政策や経済政策に共鳴し、大統領選で彼を支持した。特にヒスパニック系は、経済的に不安定な人が多い。
  • 経済が悪化すると新卒者や非大卒者が特に影響を受け、失業率が急上昇したが、トランプ氏は製造業の復活や雇用創出を強調した。結局トランプは選挙で経済を良くするという王道を歩んだのだ。
  • この王道は、世界共通であり、日本では安倍総理はアベノミックスを通じて経済を改善し、コロナ対策として大規模な補正予算を組んだことが、失業率を抑える要因となり、憲政史上最長の政権を生み出す原動力となった。
  • 安倍・菅政権の成功した経済政策が日本であまり称賛されていない一方で、米国では同様の政策が高く評価される可能性がある。
  • 次の総理には、経済が政治に与える影響を理解し、トランプ氏や安倍政権の成功を踏まえた政策を推進してもらいたいものだ。

トランプ氏がヒスパニックや若者、非大卒者から支持を得た理由と、それが大統領選に与えた影響について考えてみよう。2020年の国勢調査によると、ヒスパニック系人口は約6210万人で、2010年から約23%も増加している。この増加率は他の人種や民族グループと比較しても高い。トランプ氏の移民政策は、特にこの人口層に影響を与えた。非合法移民には厳しい態度を示す一方、合法移民には成功を促す姿勢を見せたことで、彼らの信頼を勝ち取った。経済が厳しい中で、彼の訴えが共鳴したのも納得できる。

次に、若者の状況を見てみよう。経済が悪化すると、新卒や若者は特に大きな影響を受ける。2008年のリーマンショック後、若者の失業率は急激に上昇した。2020年のCOVID-19パンデミックでは、若者の失業率が約25%に達し、経済の不安定さが彼らの生計を脅かしている。アメリカでは新卒者が厳しい競争にさらされている一方で、日本では新卒一括採用が一般的で、企業も若者を育成する文化が根付いている。

非大卒者についても同様だ。彼らの失業率は2020年に約20%に達し、大卒者の2倍以上となった。これは、非大卒者が多くを占める経済的に不安定な職業に従事しているためである。さらに、ITや医療、製造業での技能や職業訓練の重要性が高まっており、2021年には職業訓練プログラムの受講者数も増加した。ヒスパニック系やアフリカ系アメリカ人の非大卒者は教育の格差にも直面しており、経済的な安定を求めてトランプ氏の政策に期待を寄せている。

トランプ氏は、こうした経済的な不安を抱える層に対し、非常に直接的なメッセージを発信した。製造業の復活や雇用の創出を強調し、「アメリカファースト」というスローガンは、経済的不安を抱える人々の心に響いた。彼の税制改革や規制緩和は、企業の投資を促進し、雇用機会を生み出すことを目指した。その結果、ヒスパニック系や非大卒者は直接的な経済的利益を感じ、自らの支持層を拡大することに成功した。2020年の選挙では、ヒスパニック系有権者のトランプ氏への投票割合が過去の選挙に比べて増加したことが、その証明である。

要するに、トランプ氏の政策は、直接的な経済的利益を求める層に受け入れられた。リベラルな理想論ではなく、現実的な経済政策が求められている中で、トランプ氏はその要求に応えた存在だったと言える。彼の訴えは、厳しい経済環境に直面する人々の心をつかみ、支持を広げることに成功したのだ。

結局のところ、トランプ氏は選挙の王道を歩んだと言える。経済が悪化したり、悪化していなくても不利益を被っている人々が多いときに、理想論や理念だけを語っても多くの人には響かない。結局は経済を良くすることを語り、それを実行すると見なされる候補者が支持されるのである。それはトランプ氏だけが例外ではない。世界中どの国でもそうであり、日本も例外ではない。

選挙の王道を歩んだトランプ氏 AI生成画像

アベノミックスで安倍総理は、まさに経済を良くすることを宣言し、実際に経済を良くしてみせた。二度にわたって消費税の増税を延期したが、結局は在任中に二度増税せざるを得なかった。それでも金融緩和政策は継続され、失業率は劇的に下がった。さらに、コロナ対策として安倍政権は60兆円の補正予算を組み、その後継の菅政権でも40兆円の補正予算を組んだ。両政権を合わせると100兆円であり、これは当時の需給ギャップに相当する額で、世界最大規模である。そして、この財源は政治決断により増税ではなく、政府が国債を発行し、日銀がそれを買い取る形で賄われたのだ。

これにより、米国では2020年のCOVID-19パンデミックで若者の失業率が約25%に達したが、日本ではそのような事態は起きず、コロナ禍においても失業率が上がることはなかった。これは、日本の財政政策の金字塔ともいえる大偉業であるが、日本ではなぜかほとんど称賛されない。しかし、米国で仮にトランプやバイデンが同様の政策を実行し、コロナ禍の期間中に失業率を上げないことに成功していたならば、党派を超えて大絶賛されただろう。

安倍首相(当時)

仮にバイデンだけがその政策を実行し、トランプがそうでなかった場合、今頃ハリスではなくバイデン大統領が再選されていたかもしれない。安倍・菅政権のコロナ対策は、それほどのインパクトがあるにもかかわらず、日本では顧みられない。現政権もそれを歯牙にもかけないからこそ、安倍総理がなぜ憲政史上最長の政権を築けたかも理解できない。

次の総理には、米国の大統領選でトランプ氏の勝利の鍵が経済にあること、そして日本でもなぜ憲政史上最長の政権ができたのかの鍵がまさに経済にあることを理解する人物になってもらいたいものだ。 

以下の情報を参考にしました。
[1] NHK - 灼熱アリゾナ 反トランプ共和党員とヒスパニック系の行方 (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241103/k10014626561000.html)
[2] 熊本日日新聞社 - 性別、学歴で投票分かれる 男性54%がトランプ氏(共同通信) (https://kumanichi.com/articles/1599854)
[3] ロイター - 米大統領選、ヒスパニック男性と白人女性の支持に異変 世論調査 (https://jp.reuters.com/world/us/OMP7ULBY2ZNZVO5BI2667LZKJE-2024-10-25/)
[4] 朝日新聞デジタル - トランプ氏の言動がヒスパニックに響いたわけは 「国境の壁」も ... (https://www.asahi.com/articles/ASQBN1VK6QBMUHBI00F.html

【関連記事】

“トランプ氏圧勝“の可能性「内気なトランプ支持者」を掘り起こすと激戦州で優位に…ハリス陣営はパニック!?―【私の論評】誰に投票するのか、自らの目で、耳で、そして頭で考え抜け 2024年10月22日

トランプ氏 “次のテレビ討論会応じない” ハリス氏は反論―【私の論評】トランプの大統領選戦略:直接対決を避ける巧妙な計算されつくした手法 
2024年9月13日

トランプ氏有罪で共和党が連帯した―【私の論評】EU選挙で右派躍進と保守派の反乱:リベラル改革の弊害が浮き彫りに 2024年6月11日

もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない―【私の論評】トランプ氏のNATO離脱示唆はメディアの印象操作?アメリカ第一政策研究所の真の見解 2024年3月22日

米最高裁がトランプ氏出馬認める決定 コロラド予備選、トランプ氏「大きな勝利」―【私の論評】トランプ氏の政策シンクタンク、アメリカ第一政策研究所(AFPI)に注目せよ 2024年3月5日

2024年11月6日水曜日

「斎藤元知事のまさかの当選は」兵庫県知事選の現状と見通しについて―【私の論評】斎藤元彦氏の失職の背景と日本の伝統的コミュニケーションの重要性

「斎藤元知事のまさかの当選は」兵庫県知事選の現状と見通しについて

まとめ
  • 兵庫県知事選には過去最多の7人が立候補し、斎藤元彦氏の失職が背景にある。
  • 県議会の不信任決議を受け、斎藤氏は失職し、再選を目指して選挙に臨む。
  • 現在の情勢調査では、前尼崎市長の稲村和美氏がトップ、斎藤氏が2番手とされ、清水貴之氏は苦戦している。
  • 斎藤氏のパワハラやおねだりの噂が報じられ、県政の混乱を招いたが、彼の支持者も一定数存在する。
  • 投票態度を決めていない有権者が多く、情勢は流動的で、斎藤氏の巻き返しの可能性も残されている。



 兵庫県知事選挙が10月31日に告示され、11月17日に投開票される。この選挙には過去最多の7人が立候補し、注目されているのは失職した斎藤元彦氏の再選を目指す姿勢である。彼はパワハラや公金不正支出の疑惑を受け、県議会が全会一致で不信任決議を下した結果、知事の職を辞することとなった。

 立候補者には、前尼崎市長の稲村和美氏がトップ候補とされ、前参議院議員の清水貴之氏や、共産党推薦の医師、大澤芳清氏も名を連ねている。稲村氏は自民党や立憲民主党からの支援を受けており、これまでの政治対立を超えた異例の連携が見られる。斎藤氏は失職後も積極的に街頭活動を行い、支持回復に努めているが、彼に対する逆風は依然として強い。

 特に、斎藤氏の失職には「既得権益」をめぐる争いが影響していると言われている。彼は、県政に長年携わってきた元知事らが築いてきた既得権益に手を出した結果、政敵からの攻撃を受け、「虎の尾を踏んだ」との声も上がっている。この背景には、斎藤氏が実施した施策や行動が、既存の権益を損なう可能性があったことがある。

 また、斎藤氏に対する疑惑の発端となったのは、西播磨県民局長の告発であり、彼の告発文がメディアや県議に広まったことで騒動が拡大した。これにより、斎藤氏はメディアから厳しい scrutiny を受け、失職に追い込まれた。

 投票の態度を決めていない有権者が多く、情勢は不透明であるが、稲村氏が既得権益の代弁者と見なされるようになれば、斎藤氏にも再びチャンスが生まれるかもしれない。果たして、斎藤氏の「まさかの逆転」が実現するのか、投開票日が注目されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】斎藤元彦氏の失職の背景と日本の伝統的コミュニケーションの重要性

まとめ
  • 斎藤元彦氏にはパワハラの噂があるが、具体的な証拠はないため、信憑性に疑問が残る。
  • 2017年の豊田真由子氏問題のように明確な証拠がないにもかかわらず、斎藤氏への批判はメディアの報道に基づいて広がっている。
  • 斎藤氏の改革により、公共事業、土地利用、補助金配分で既得権益勢力から強い反発を受けた可能性がある。
  • 反対派には兵庫県を良くしたいという共通の思いはあるが、個人利益を優先する勢力もいる。
  • 日本の伝統的なコミュニケーションの価値が薄れつつあり、互いを理解し合う姿勢が薄れた日本に危機感を感じる。
兵庫県は百条委員会を開催したが・・・・・

斎藤元彦氏が失職に至った背景に、彼がパワハラや「おねだり」をしたとする噂がある。しかし、現時点で具体的な動画や録音といった証拠は一切存在しない。このブログでも、証拠がないためにこれらの噂を取り上げることは避けてきた。今の時代、誰もがスマホを持ち歩き、何かあれば即SNSで広がる。斎藤氏が本当に頻繁にパワハラをしていたなら、動画が出回り、百条委員会でも取り上げられていたはずだが、そのような事実は見当たらない。

例えば、2017年の豊田真由子氏の例を振り返ってみよう。彼女は秘書に「このハゲー」と罵倒する録音が公開され、社会的批判を浴びた結果、議員辞職に追い込まれた。あの録音が示したのは、単なるパワハラではなく、明確で強烈な証拠であった。しかし、斎藤氏にはそのような具体的な証拠は存在せず、メディアの報道や告発文をもとに話が広まったに過ぎない。

それでも彼は知事職を辞し、再び選挙に挑むという決断を下した。この背景には、反対勢力が根強く絡む既得権益の存在が囁かれている。まず、公共事業の受注に関する権益が挙げられる。兵庫県内のインフラ整備で特定の建設会社が優先的に受注する構造があり、斎藤氏がそれを改めようとしたことが、既存の業者からの反発を招いたのだ。また、土地利用に関する権利も争点となった。斎藤氏が新たな開発を試みるたびに、既存の権利を守ろうとする団体が強く反発したのである。

さらに、補助金や助成金の配分においても、長年支援を受けてきた業界や団体が斎藤氏の改革姿勢に反発した。兵庫県内には強固な政治ネットワークが根を張り、その恩恵に預かる勢力が、斎藤氏の行動に猛反発したわけである。この複雑に絡み合う既得権益が、彼の失職へとつながっていった。

豊田真由子氏の件を思い出すと、当時このブログでも、彼女のパワハラをドラッカーのコミュニケーション論から分析した。ドラッカーは、コミュニケーションを単なる情報のやり取りではなく、互いが理解し合うプロセスとして捉えた。コミュニケーションとは、「私たち」の中の一人からもう一人に伝わるものとしている。


豊田氏の場合、秘書との間に「私たち」といえる関係が成り立っていなかった。単なる指示や罵声が響くだけで、真のコミュニケーションはなかったのだ。彼女は「このハゲー」というショックで自分の要求を通そうとしたが、結果は無残なもので、元秘書はそれを暴言と捉えたのだ。

斎藤元彦氏についてはどうか。彼と反対派が「私たち」として関係を築くことは難しいかもしれないが、彼らが兵庫県を良くしたいという思いを抱えている点は共通しているだろう。だが、反対派の中には既得権益に執着し、個人の利益を優先する者もいるかもしれない。結局、この戦いに結論を下すのは、兵庫県民でしかない。選挙を通じ、県民が誰を選ぶかで未来が決まるのだ。


それにしても、最近の日本は、コミュニケーションが疎かになってきたと感じる。現政権内ですら、そのような傾向が見られる。最近ではコミュ障なる得体の知れない言葉が独り歩きしている。わざわざドラッカーのコミュニケーションの原則を持ち出さなくても、一昔前の日本人なら、敵対していても言葉を通じて互いを理解し合えたものだ。

惻隠の情や和、気配り、信義仁礼知忠恕といった古き良き価値観を、今の日本は忘れつつあるのではないだろうか。日本に根ざした本来のコミュニケーションのあり方を振り返り、他人と誠実に向き合うことの重要性を再認識すべきだと、保守派として私は強く訴えたい。

【関連記事】

変化が始まったEU、欧州議会 選挙の連鎖は続くのか?―【私の論評】日本メディアの用語使用に疑問、欧州の保守政党を"極右"と呼ぶ偏見 2024年6月21日

西尾幹二氏、日本の危険に警鐘鳴らす「カナリア」 誇り奪う自虐史観と戦う―【私の論評】西尾幹二氏の業績とその影響力:日本の歴史教育と文化を守るために 2024年11月2日

【奇跡の救出劇】JAL機炎上事故…乗客を救ったCAの半分が新人だった!―【私の論評】JAL機御巣鷹山墜落事故の教訓と企業内コミュニケーションの重要性 2024年1月12日

豊田真由子さん「コメンテーター転身」をネット民歓迎の理由―【私の論評】コミュニケーションの本質を知らなければ、豊田氏の失敗の本質や現在の姿を理解できない(゚д゚)! 2020年3月31日

2024年11月5日火曜日

ミサイルは複数の短距離弾道ミサイル、韓国軍発表 金与正氏が日米韓訓練への対抗を表明―【私の論評】核・ミサイルだけではない北朝鮮のサイバー攻撃の脅威と日本の防衛

ミサイルは複数の短距離弾道ミサイル、韓国軍発表 金与正氏が日米韓訓練への対抗を表明

まとめ

  • 北朝鮮は5日朝に複数の短距離弾道ミサイルを発射し、発射地点は南西部の沙里院付近であった。
  • 金与正が日米韓の合同空中訓練を非難し、核戦力強化の正当性を主張したことから、発射は対北安全保障協力の牽制と考えられる。
  • 米国の大統領選直前に行われたこの軍事行動は、どの候補が当選しても北朝鮮の核・ミサイル増強路線を貫く姿勢を示す狙いがある。
北朝鮮が10月31日に発射した新型ICBM「火星19」

 北朝鮮は5日朝、日本海に向けて複数の短距離弾道ミサイルを発射した。発射地点は北朝鮮南西部の沙里院付近で、韓国軍の分析によると、ミサイルは日本時間の7時半頃に発射された。日本政府は、発射されたミサイルは既に落下したと報告している。

 この発射は、北朝鮮が10月31日に最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した直後のものである。金正恩の妹、金与正は、日米韓が行った合同空中訓練を非難し、核戦力強化の正当性を主張した。今回の発射は、日米韓の対北安全保障協力を牽制する意図があると考えられる。

 さらに、米国では同日、大統領選が行われるため、北朝鮮は選挙を前にして、どの候補が当選しても核・ミサイル増強路線を続ける姿勢を示す狙いがあると見られている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】核・ミサイルだけではない北朝鮮のサイバー攻撃の脅威と日本の防衛

まとめ
  • 北朝鮮によるサイバー攻撃は、核・ミサイル開発やロシアへの派兵と同様に、国家や個人に甚大な被害をもたらす深刻な脅威である。
  • 「ラザルスグループ」を中心とした高度なハッキング部隊が、仮想通貨や銀行、政府機関を標的にして資金調達や情報収集を行っている。
  • サイバー攻撃の目的は、資金調達、情報収集、経済的混乱の引き起こしであり、特に核・ミサイル開発の資金源として利用されている。
  • 過去の「ワナクライ」攻撃や仮想通貨取引所への攻撃が示すように、サイバー攻撃は広範な影響を及ぼし、金融システムの安全性への不安を引き起こしている。
  • 日本は国際的な連携を強化し、サイバー反撃や先制攻撃の対策を講じると共に、個人レベルでもセキュリティ意識を高める必要がある。

北朝鮮の動きは、核・ミサイル開発やロシアへの派兵などが注目されているが、もう一つの差し迫った脅威として北朝鮮によるサイバー攻撃がある。これらの攻撃は、国家間の緊張が高まる中でますます重要な問題となっており、国際的な安全保障に対する新たなリスクを生じさせている。サイバー攻撃は、物理的な武力行使とは異なる形で、個人や企業、国家のインフラに甚大な影響を及ぼす可能性があるため、特に警戒が必要である。

北朝鮮のサイバー攻撃は、その脅威が国家の枠を超え、世界中の個人や企業に甚大な被害をもたらす可能性がある深刻な問題である。北朝鮮には「ラザルスグループ」を中心とした高度なハッキング部隊が存在し、資金調達や戦略的利益を得るために仮想通貨、銀行、政府機関、インフラといった分野を標的にしている。この攻撃によって、個人の財産損失から国家の安全保障に至るまで、影響は幅広く深刻である。

サイバー攻撃の目的は主に三つである。第一は資金調達であり、得られた資金は国連制裁を受けている中で経済を支える重要な収益源となっている。特に核やミサイル開発の資金源として活用されていることは、国際的な安全保障に大きな脅威である。たとえば、ラザルスグループは2017年の仮想通貨取引所への攻撃において、5億ドル以上の資金を得たとされ、これは北朝鮮の収益構造に深く関わっている。

第二の目的は情報収集やスパイ活動であり、北朝鮮は世界中の政府機関や企業に対する攻撃によって軍事機密や技術情報を得ようとしている。この活動は、特定の国家に対して軍事的な優位性を求めるだけでなく、国際的な安全保障環境を不安定にする要因ともなっている。

第三として、経済的および社会的混乱を引き起こす目的が挙げられる。金融機関や電力網といった重要なインフラを狙った攻撃によって、標的国の経済や社会が混乱に陥り、制裁対応の効果を弱めることを狙っているのである。

こうした脅威は実際の事例によっても明らかである。2017年に発生した「ワナクライ」攻撃は、ランサムウェアを利用して世界中の病院、企業、行政機関などに影響を与えた。この攻撃では15万台以上のコンピュータが被害を受け、多くの組織が一時的に業務停止に追い込まれたことから、サイバー攻撃の威力が再認識された。

また、北朝鮮は仮想通貨取引所への攻撃も繰り返しており、2020年にはクアドリガCXやビットフィネックスなどが標的となり、数億ドル規模の損失が生じた。このような攻撃によって仮想通貨市場全体が揺らぎ、世界中で金融システムの安全性に対する不安が高まっている。

VRゴーグルをつけた北朝鮮サイバー軍 AI生成画像

北朝鮮のサイバー攻撃がとりわけ脅威となっている理由は、彼らの手法が非常に巧妙かつ多様であることにある。攻撃にはフィッシングやランサムウェア、仮想通貨ハッキング、DDoS攻撃など多岐にわたる手法が用いられ、対象に応じて柔軟に攻撃手法を変えている。

また、北朝鮮は他国のネットワークインフラを経由して攻撃を行うことも多く、攻撃元の特定が困難である点も特徴である。国外のネットワークを利用しているため、国際的な法執行機関であっても対応が難しく、制裁が及びにくい環境にある。こうした状況を改善するには、各国が個別対応するのではなく、国際的な連携を強化し、情報共有や共同防御の仕組みを構築することが不可欠である。

日本は国際的な連携を強化するための取り組みを進めるべきである。具体的には、サイバーセキュリティに関する国際会議やワークショップを開催し、他国の専門家と情報を共有することが重要である。国内のインフラや企業に対して、サイバー攻撃に対する防御策の強化を支援する政策を推進する必要がある。たとえば、サイバー攻撃のリスク評価や対策計画の策定を促すための助成金や支援プログラムを設けることが考えられる。

さらに、日本としてはサイバー反撃やサイバー先制攻撃なども視野に入れた対策が必要である。近年、サイバー攻撃に対する反撃や先制的な措置を講じる国が増えている。例えば、米国はサイバー攻撃を受けた場合、その攻撃の発信源に対して反撃を行う方針を示している。

このような姿勢は、敵対的な行動に対する抑止力となる。日本も同様に、法的な枠組みを整備し、国際的なルールの中で反撃の選択肢を持つことが求められる。これにより、北朝鮮のような国家によるサイバー攻撃に対して、より効果的な防御を実現できるであろう。

個人レベルでは、サイバーセキュリティ(上図参照)に対する意識を高め、基本的な対策を講じることが重要である。強固なパスワードの使用や二段階認証の導入、定期的なソフトウェアのアップデートを行うことが推奨される。また、フィッシング攻撃に関する知識を得て、不審なメールやリンクに対して警戒心を持つことが必要である。仮想通貨を扱う際には、信頼性の高い取引所を利用し、セキュリティ対策が施されたウォレットを使用することが大切である。

北朝鮮のサイバー攻撃は、単なる国家間の問題にとどまらず、企業や個人の財産や社会全体の信頼を脅かす重大なリスクである。その影響範囲と深刻さを踏まえ、今後さらに国際的な協力によってサイバー防衛力を高める必要がある。

このような状況において、我々は毅然とした態度で北朝鮮の挑戦に立ち向かうべきであり、国家の安全保障を守るために一丸となって行動することが求められている。保守派の立場からは、国民の安全を最優先に考え、強固な防衛体制を築くことが不可欠であると強く訴えたい。 

以下の情報を参考にした。

[1] 公益財団法人電気通信普及財団 - 我が国のサイバーセキュリティ戦略の欠点と展望 ― 「平和国家 ... (https://www.taf.or.jp/files/items/1929/File/%E6%9D%BE%E6%9D%91%E6%98%8C%E5%BB%A3.pdf)

[2] Trend Micro - 能動的サイバー防御とは?日本でも必要性が高まる理由を解説 (https://www.trendmicro.com/ja_jp/jp-security/24/j/expertview-20241009-01.html)

[3] 衆議院 - 「専守防衛」及び「サイバー攻撃」に関する質問主意書 (https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a208089.htm)

[4] 内閣官房 - サイバー安全保障分野での対応能⼒の向上に向けた有識者会議 (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cyber_anzen_hosyo/giron_seiri/giron_seiri_gaiyou.pdf

【関連記事】

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も―【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念 2024年9月19日

衣服内で同時爆発、市民パニック 体中が出血、重傷者多数 レバノン―【私の論評】安倍政権下の日米安全保障協議(2プラス2)の成果:サイバー武力攻撃対策に先見の明 2024年9月18日

<正論>日本は本当にダメな国なのか―【私の論評】日本の防衛強化とシギント能力の向上:対米依存からの脱却と自立的安全保障への道 
2024年9月12日

サイバー防衛でがっちり手を結ぶ日米―【私の論評】一定限度を超えたサイバー攻撃は、軍事報復の対象にもなり得る(゚д゚)! 2019年5月9日

米国に桁外れサイバー攻撃、やはり中国の犯行だった―【私の論評】サイバー反撃も辞さないトランプ政権の本気度(゚д゚)! 2018年9月26日

2024年11月4日月曜日

英最大野党・保守党、ケミ・ベイドノック氏を党首に選出―【私の論評】世界中の政府が直面する潮流、保守の声を無視できない時代の到来

英最大野党・保守党、ケミ・ベイドノック氏を党首に選出

まとめ
  • ケミ・ベイドノック氏が保守党の新党首に選出され、黒人女性として初めて主要政党を率いる。
  • 保守党は7月の総選挙で大敗し、党の刷新と失った有権者の取り戻しを目指すと宣言。
  • 具体的な政策は提示せず、党の基本原則への回帰に焦点を当てている。
  • ベイドノック氏は、右派的発言と左派的政策の実行が敗北の要因だと指摘し、労働党のような行動を止める必要があると強調。
  • 新党首としての彼女の率直な物言いや姿勢が支持者と一部議員の間で異なる反応を引き起こしている。
ケミ・ベイドノック氏

イギリスの保守党は2日、ケミ・ベイドノック氏を新党首に選出した。彼女は黒人女性として初めて主要政党を率いることになり、注目を集めている。保守党は7月の総選挙で歴史的な大敗を喫し、野党となった後、党首選を経て新たなリーダーを決定した。ベイドノック氏は決選投票で56.5%の得票率を獲得し、1万2418票差で勝利を収めた。

勝利演説では「私が愛する党、私に多くのものを与えてくれた保守党を率いる役割を担うのは光栄」と語り、党の刷新と失った有権者の取り戻しに意欲を示した。彼女は具体的な政策を提示せず、党の基本原則に立ち返ることに焦点を当てている。そのため、影の内閣の構成や、新しい保守党の形がどのようになるのかが広く注目されている。

また、ベイドノック氏は党の価値観が危機的状況にあるとし、右派的な発言をしながら左派的な政策を実行していたことが敗北の要因だと指摘した。彼女は政権を奪還するためには「労働党のような行動を止める」必要があると述べた。彼女の背景には、ナイジェリア出身の両親を持ち、教育やキャリアにおいて多様な経験があり、政治においては「文化戦士」としての一面を持ちながらも、党の原則を守るために戦う姿勢が見られる。

新党首として、彼女のスタンスは支持者からの親近感を得る一方で、一部の議員には不安を抱かせる要因ともなっている。特に、ベイドノック氏の率直な物言いや、厳しいやりとりが議員たちの間で懸念されていることも指摘されている。これからの保守党の方向性や彼女のリーダーシップに対する期待と懸念が交錯する中、ベイドノック氏の動向が注目される。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】世界中の政府が直面する潮流、保守の声を無視できない時代の到来

まとめ
  • 保守の台頭: ケミ・ベイドノック氏の選出は、欧州各国での保守政党の支持拡大を反映している。
  • 経済的不安と移民問題: 移民問題や経済的不安が多くの有権者の支持を集め、保守的価値観の再評価の世界的潮流につながっている。
  • 高市早苗氏の影響: 高市氏は自民党総裁選で49票の議員票と約23%の党員票を獲得し、保守的な立場を明確に示し、日本保守党はわずか結党1年で国政政党になった。
  • 国際的な潮流との連動: 日本の保守の台頭は、世界的な保守の潮流と連動しており、世界中の政権はこの状況を無視できない。
  • 政策への影響: 日本でも現政権が保守層の声に耳を傾けない場合、さらなる支持率の低下や選挙での敗北に直面することになるだろう。
ケミ・ベイドノック氏が保守党の新党首に選出された背景には、欧州各国における保守の台頭がある。この現象は、移民問題や経済的不安から、多くの有権者の声を代表する保守政党が支持を集めていることに起因している。例えば、フランスの国民連合(旧・国民戦線)やイタリアの同盟党、さらにはドイツの選択肢(AfD:Alternative für Deutschland)などが、伝統的な政党の支持を奪っている。

台頭するドイツの保守政党AfD

さらに、ハンガリーのフィデス党やポーランドの法と正義党(PiS)など、中央・東欧においても保守政党の影響力が増している。これらの政党は、国家主義的な政策や伝統的な価値観の重視を掲げ、多くの有権者の支持を受けている。また、教育や家庭の価値観に対する保守的な見解が再評価され、特に家族政策や伝統的な価値観を重んじる声が高まっている。これにより、保守党が支持基盤を強化する機会が増えている。

さらに、経済の不均衡や格差問題に対処するため、保守政党も従来の自由主義的な政策からシフトし、国民の生活を重視する政策を打ち出すようになった。この流れは、特に労働階級の支持を得るために重要である。加えて、欧州の政治における混乱や不信感が高まり、安定したリーダーシップを求める声が強くなっている。これにより、経験豊富な保守派のリーダーや新たな顔が求められるようになり、ベイドノック氏の選出がその一環として位置づけられている。

彼女の選出は、彼女が黒人女性であることからリベラル派が強調する多様性を受け入れる姿勢と見られがちだが、彼女の主張は、これまで当然とされてきた、行き過ぎたアイデンティティー政治におけるステレオタイプ的な人種や性差別に関する主張とは一線を画している。この選出は、保守的な価値観を再び重視し、現代の政治環境にしっかりと適応するための重要なステップであると考えられる。

ベイドノック氏のような新しいリーダーシップが登場することで、これまで右派的な発言をしながらも左派的な政策を実行していた保守党のイメージを刷新することが期待される。彼女の選出は、保守党が新たな支持基盤を築くための鍵となるかもしれない。特に、彼女が持つ独自の視点や経験は、広範な有権者層に共鳴し、さまざまな人々からの支持を集める可能性がある。これにより、保守党は現代社会のより多くの人々のニーズに応える政党へと進化していくことができるだろう。

これらの要素は、保守党が保守的価値観に回帰し、支持基盤を拡大するための背景として機能しており、ベイドノック氏のリーダーシップがこうした潮流にどのように応えるかが今後の焦点となるだろう。

この潮流はEUの枠を超え、全世界的な潮流としても捉えられる。多くの国で、経済的、社会的な不安定さが広がる中、中流層の有権者が保守的な選択をする傾向が見られる。例えば、米国では、トランプ前大統領の当選が示すように、経済的不平等や移民問題に対する不満が高まり、多くの中流層の有権者が保守的な政策を支持した。トランプ政権は、「米国第一」のスローガンの下で、国民の利益を優先する政策を掲げ、多くの支持を得た。これにより、米国における中流層の政治的関心が高まり、保守派の台頭を促進した。

「アメリカ第一」のスローガンを掲げたトランプ元大統領

また、ブラジルでは、ジャイール・ボルソナロ氏が大統領に選出され、保守的な政策を推進した。彼の当選は、経済危機や治安問題に対する中流層の不安を背景にしており、保守的なリーダーシップが求められた結果である。このように、保守的な動きは南米でも確認できる。さらに、アジアでも同様の潮流が見られる。インドでは、ナレンドラ・モディ首相が率いるBJP(インディア人民党)が、国家主義的かつ保守的な政策を掲げて支持を拡大している。モディ政権は、経済成長やインフラ整備を重視し、多くの中流層からの支持を受けている。

このように、保守的な潮流はEUの枠を超え、米国、ブラジル、インドなど、さまざまな国で中流層の支持を受けて広がっている。これらの動きは、経済的不安定さや社会的変化に対する反応として、各国で共通する要素となっている。ベイドノック氏の選出は、こうした全世界的な潮流の一部として位置づけられ、保守党が新たな方向性を模索し、支持基盤を拡大するための背景として機能している。彼女のリーダーシップが、こうした潮流にどのように応えるかが今後の焦点となるだろう。

そして、日本でも同様の保守の台頭の潮流が見られることが、高市早苗現象や日本保守党の国政政党化によって示されている。高市早苗氏は、内閣府特命担当大臣としての役割を通じて、保守的な政策を強く推進し、多くの支持を受けた。彼女の登場は、特に安全保障や経済政策に対する中流層の関心を反映しており、国民の不安を解消するための保守的なリーダーシップが求められていることを示している。高市氏は、憲法改正や防衛費の増額など、保守的な立場を明確にし、支持基盤を拡大している。

さらに、高市氏は自民党総裁選でもかなり健闘し、第一回目の投票では、議員票で49票、党員票で約23%(具体的には約25,000票)の得票率を記録した。決選投票では岸田派などの画策によって惜しくも敗れたことも、この潮流の一環として注目されるべき点である。また、日本保守党の結党からわずか1年で国政政党となったことも、保守的な潮流の強さを示す一例である。この政党は、伝統的な価値観や国家の安全保障を重視し、多くの中流層の有権者から支持を集めることに成功した。特に、経済や外交に関する政策として、国益を優先する姿勢が評価され、急速に支持を広げた。

高市早苗氏

これらの動きは、日本における保守の台頭が世界的な潮流と連動していることを示している。現政権は、この状況を無視することができない。無視すれば、さらなる支持率の低下や選挙での敗北を招く可能性が高まるからだ。実際、近年の世論調査では、保守的な価値観や政策を支持する有権者が増加していることが示されている。現政権が保守層の声に耳を傾けない場合、さらなる凋落を引き起こすリスクが高まる。

つまり、高市現象や日本保守党の躍進は、単なる国内の動きではなく、世界的な保守の潮流の一部である。これにより、いずれの国の政権にとっても保守派の台頭は、重要な課題となっている。日本においても、この変化を無視することは、政権の安定を脅かす要因となるため、今後の政策やリーダーシップの方向性に大きな影響を与えることは間違いない。こうした状況を見逃すことはできないのだ。日本の保守が再び力を取り戻しつつあることは無視できず、日本でもすべての政治家が保守派の声に真摯に向き合う必要がある。

【関連記事】

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日

高市早苗氏 「ポスト石破」への党内基盤固めへ全国応援行脚 既に100人超の依頼―【私の論評】高市早苗と安倍晋三の「雨降って地固まる」状況:日本政治の新たな転換点に 2024年10月12日

石破政権で〝消費税15%〟も 自民総裁選は好ましくない結果に…国際情勢・国内の課題、期待できない〝財務省の走狗〟―【私の論評】岸田政権の国際戦略転換と石破氏のアジア版NATO構想:大義を忘れた政治の危険性 2024年10月3日

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」―【私の論評】行き過ぎたアイデンティティ政治が招きかねないファシズムの脅威 2024年9月16日

2024年は世界的な「選挙イヤー」 各国で大型選挙が目白押し―【私の論評】世界各地で保守派の台頭が進む!日本でも「保守派の反乱」で高市自民総裁誕生か? 2024年1月5日

台湾、ウクライナにホーク防空システムをひそかに引き渡しか 米国介して―【私の論評】ウクライナ支援が示す台湾の強力な防衛力

台湾、ウクライナにホーク防空システムをひそかに引き渡しか 米国介して David Axe | Forbes Staff まとめ 台湾は米国製のホーク地対空ミサイルシステムをウクライナに支援していた。 この支援は米国を通じて行われ、ウクライナ軍の防空能力を強化した。 ホークは古い兵...