2024年10月17日木曜日

アングル:中国のミサイル戦力抑止、イランによるイスラエル攻撃が教訓に―【私の論評】イスラエルへのミサイル攻撃の教訓:台湾防衛の現実と課題

アングル:中国のミサイル戦力抑止、イランによるイスラエル攻撃が教訓に

まとめ
  • イランのイスラエルに対する大量のミサイル攻撃は、米国とその同盟国のミサイル迎撃体制の課題を浮き彫りにし、現状の防衛システムの効力と限界を示唆している。
  • イランの攻撃を通じて、米国は中国のミサイル攻撃がイランのものより迎撃が困難であり、防御に加えて反撃能力の必要性があることが明らかになったといえる。
  • 従来の防御中心の抑止力だけでは不十分であり、懲罰的抑止力を重視する必要がある。
  • 中国のミサイルは高度で、長射程や精密誘導の能力を備えており、インド太平洋地域における米国とその同盟国の防衛体制にとって重大な脅威となっている。
  • 米国はインド太平洋地域で新たなミサイルシステムや兵器を配備しており、中国の対衛星攻撃やサイバー戦といった複合的な攻撃に対する防衛力を強化しようとしている。

ミサイルを迎撃するイスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」

イランが今月イスラエルに対して行った大量のミサイル攻撃は、4月の同様の攻撃と合わせて、インド太平洋地域における中国との潜在的紛争に関して、米国とその同盟国のミサイル防衛体制の効果と弱点を示唆している。複数のアナリストによれば、両シナリオには差異があるため得られる教訓は限られるものの、イランがイスラエルに向けて発射した400発近いさまざまなタイプのミサイルは、米中両国にとって重要な情報を提供している。

10月1日のイランによる攻撃は、近代的な防衛システムに対する弾道ミサイルによる攻撃として、これまでで最も多いサンプルを提供した。シンガポールのS・ラジャラトナム国際学院のコリン・コー氏は、米政府にとっての最大の教訓として、中国によるミサイル攻撃はイランに比べて迎撃が困難であり、大規模攻撃を阻止するには反撃能力が必要になる可能性を指摘している。コー氏は、純粋な防御による抑止力だけでなく、懲罰的抑止も重要になると述べている。

インド太平洋地域でのミサイル攻撃を伴う紛争の即時発生の懸念は低いが、中国の兵器はイランよりも高度で、機動式弾頭と精密誘導を採用している。米国は中国に対抗するため、インド太平洋地域で新たな兵器開発・配備を進めている。

米カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ氏は、イランの大量ミサイル一斉発射とその迎撃に関する情報が充実することで、紛争の可能性が低下する可能性を指摘している。パンダ氏は、ミサイル防衛システムの効果が不明確な場合、大幅なエスカレーションにつながる危険性を警告している。

イスラエルは多層的な防空・ミサイル防衛を展開しているが、インド太平洋地域における米国とその同盟国の状況は大きく異なる。米国側は「パトリオット」、THAAD、イージスシステムなどを使用している。中国のミサイル、特に東風26と東風21は、インド太平洋地域における米国及びその同盟国のほとんどの目標を攻撃可能で、高い精度を持つ。

戦略国際研究センターのミサイル防衛プロジェクトでは、中国が最も多く保有する通常型中距離弾道ミサイル「東風(DF)26」の命中精度を半径150メートルと推定している。また東風21は最大射程こそ劣るが、一部の改良型は50メートルの精度を誇る。米国防総省は、中国は東風26を数百発保有している可能性があると推測している。

対照的に「ファタハ1」などイランが使用するミサイルは、理論上は数十メートル以内と命中精度には優れるが、最大射程ははるかに短い。ケネス・マッケンジー米中央軍司令官は昨年、連邦議会において、イランはすべての種類を合わせると3000発以上の弾道ミサイルを保有していると証言した。

オーストラリア戦略政策研究所のマルコム・デービス上級アナリストは、中国の能力がイランを上回っていると指摘し、ミサイル攻撃が対衛星攻撃やサイバー戦争と連携して行われる可能性を示唆している。デービス氏は、インド太平洋地域における西側の防衛システムが中国の大規模ミサイル攻撃を撃退するのは、イランの攻撃に対する防衛よりもはるかに困難になると予測している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】イスラエルへのミサイル攻撃の教訓:台湾防衛の現実と課題

まとめ
  • イランのイスラエルへのミサイル攻撃からみて、中国の大規模ミサイル攻撃に対する台湾の防衛は極めて困難であり、完全な防御は現実的ではない。
  • 台湾は多層防衛システムや国産ミサイル開発を進めているが、中国の圧倒的な軍事力に対抗するには不十分である。
  • 台湾の戦略は完璧な防御ではなく、攻撃を遅らせ国際社会の介入を呼び込む時間を稼ぐこと、および中国への攻撃コストを高めることに焦点を当てている。
  • 日米の強固な連携と明確な軍事介入の意思表示、経済制裁の準備が台湾防衛には不可欠である。
  • 現在の日本の政治家は安全保障問題に真剣に取り組んでおらず、北朝鮮、中国、ロシアに囲まれた現実を直視し、国家戦略を議論する必要がある。
専門家たちの意見をまとめると、現実は厳しい。「中国による大規模なミサイル攻撃は、イランの攻撃を防ぐよりも遥かに難しい。ミサイル防衛システムの効果が不確かならば、迅速なエスカレーションを招く恐れがある。こうした状況下では、ただの防衛だけでなく、懲罰的抑止の概念も必要になってくる」というのが、総じての見解だろう。

中国軍が訓練で発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)=9月25日

この難題を、台湾を例にして考えてみよう。台湾が中国の大規模ミサイル攻撃を受けた場合、その迎撃には並々ならぬ困難が伴う。台湾は現在、防衛システムの強化を急ピッチで進めている。だが、それが中国の圧倒的なミサイル攻撃に対抗するためにどれだけ有効なのか、疑問が残る。

とはいいながら、台湾は短距離から長距離まで多様なミサイルを組み合わせた多層防衛システムを導入しており、「天剣III」や「天弓III」などの国産ミサイルの開発が進展している。これにより、台湾の防衛力は確かに向上している。しかし、このシステムが中国の大規模ミサイル攻撃に完全に対抗できるかというと、それは難しい現実だ。中国は圧倒的な数のミサイルを有しており、台湾の防御を突破することは決して不可能ではない。

さらに、台湾は中国のミサイル発射をいち早く察知するために、山岳地帯に強力なレーダー基地を配置し、早期警戒システムを整えている。だが、いくら事前に察知したところで、数百発にも及ぶミサイルの飽和攻撃を防ぎきるのは極めて困難である。中国の軍事技術は日々進化し、台湾のシステムの脆弱性を突いてくるだろう。

結論として、台湾の防衛システムは年々改善されているものの、中国の圧倒的な軍事力に完全に対抗するのは難しい。しかし、これらのシステムは攻撃を遅らせ、国際社会の介入を呼び込む時間を稼ぐための重要な役割を果たす。台湾の防衛戦略は、完璧な防御ではなく、相手にコストを強いることで抑止力を高め、戦局の主導権を握ることに焦点を当てている。

次に、台湾の懲罰的抑止力に焦点を移そう。台湾は長距離ミサイル「雄風2E」や「雲峰」を開発し、中国本土の主要都市や軍事施設を攻撃する能力を持っている。これらのミサイルは台湾の懲罰的抑止力の柱となり、中国に対して強力な威嚇材料となっている。また、2026年までに「天弓III」を12の発射施設に配備する計画も進行中であり、これにより台湾の防衛能力は一層強化されるだろう。

こうした防衛強化に加えて、台湾は地理的にも戦略的なアドバンテージを持っている。中央山脈に設置されたレーダー基地は、中国本土の深部まで監視可能であり、敵の動きをいち早く察知できる。こうした情報戦の強化は、台湾が中国の攻撃に対して迅速に対応するための鍵となる要素である。さらに、このブログでは何度か述べきたが、台湾は天然の要塞といっても良い地形であり、これを侵攻するのはいずれの国の軍隊も困難を極める。

日本でいえば、台湾は能登半島のような急峻な地形であり、さらに能登半島よりも急峻であり、しかも台湾は半島ではなく、島嶼である。能登半島に物資を人力で運ぶ姿をテレビ報道で見た人も大勢いるだろう。中国の軍隊も台湾では、あのような戦いを強いられるのである。

米国も、大東亜戦争末期に日本領であり、軍事的にも重要であったはずの台湾に侵攻していない。これは、かなりの犠牲が強いられることが、最初から分かりきっているので意図的避けたのであろう。賢い選択だったといえる。このようなことが、台湾の軍事的な立ち位置を高めているともいえる。このあたりが日本では、ほとんど理解されいないようなので、そのような方で興味のあるかたは、是非ともこのブログの他の記事を読んでほしい。下の【関連記事】のところに、URLを貼り付けてあるので、是非御覧ください。

急峻な台湾の地形 最高峰の玉山(新高山)は富士山より高い

しかしながら、中国との軍事力の差は依然として大きい。中国の急速な技術革新と圧倒的な戦力の前に、台湾への侵攻自体は難しいものの、台湾の国土が破壊を免れるのは難しい。台湾の戦略は、中国の台湾への攻撃を高コスト化し、国際社会の支持と介入を引き出すことにあるのだ。中国にとって台湾の国土破壊がどれほどのリスクを伴うかを認識させることこそ、真の抑止につながる。

そしてここで、ウクライナ戦争が我々に突きつけた現実を無視するわけにはいかない。ロシアは未だ戦争目的(それすら曖昧になりつつある)を果たせないまま、日々ウクライナにミサイルを撃ち続け、その国土を破壊し続けている。もし台湾が同じような状況に陥ったらどうなるのか。中国が台湾にミサイルを発射し続ける光景は、決して非現実的なシナリオではない。実際のところ、台湾がウクライナのような状態に追い込まれる可能性も十分にあり得る。さらに、現在のウクライナのように戦争が泥沼にはまり、長期になる可能性もある。

ロシア軍のミサイルで破壊されたキーウの郊外

このような事態を避けるためには、日米の強固な連携が不可欠だ。中国に対して、台湾の国土破壊のコストが高すぎることを明確に伝える必要がある。日本と米国は軍事介入の意思を明確にし、台湾周辺の防衛体制を強化しなければならない。特に、日本の南西諸島への自衛隊の配備や、米軍の前方展開の強化が求められる。また、台湾の防衛力を高めるために最新の防衛技術や装備の提供も急務だ。非対称戦力の強化を支援し、台湾の防御を強固なものにする必要がある。

経済制裁の準備も抜かりなく進めるべきである。中国が台湾を攻撃した場合、即座に発動できる制裁措置を整え、中国にその代償の大きさを思い知らせるべきだ。また、サイバー攻撃や偽情報キャンペーンにも対応できる体制を構築し、情報戦においても中国に優位を渡さないようにするべきだ。

これらの措置は短期的には地域の緊張を高めるかもしれないが、長期的には台湾海峡の安定とアジア太平洋地域の平和を守るための最善の策である。台湾の中国に対する懲罰的抑止力と、防衛力の強化、そして明確な日米の姿勢が、中国に対して侵攻のコストを高くする最も有効な手段となるだろう。

現状、日本国内の政治家たちは衆院選を控えても、こうした重大な安全保障問題に真剣に取り組んでいるとは言いがたい。まるで、イランによるイスラエル攻撃などなかったかのようである。北朝鮮、中国、ロシアという三つの全体主義国家に囲まれている現実を直視し、安全保障のあり方を真剣に議論する必要がある。今こそ、政治家たちは「裏金」や「統一教会」問題に目を奪われず、日本の未来を見据えた国家戦略を語るべきだ。日本も台湾も、そして地域全体も、平和を守るためには現実と向き合い、備えを怠らないことが求められるのだ。

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