2024年10月24日木曜日

マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情―【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状

マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情

まとめ
  • 生成AIの普及により、データセンターの電力消費が急増。AIサーバーは従来よりも6〜10倍の電力を消費する。
  • 米国ビッグテック企業のグーグル、マイクロソフト、アマゾンが、安定的な電力供給を目的に原子力への投資を進めており、特に小型モジュール式原子炉(SMR)の導入や、原発再稼働が注目されている。
  • 日本では電力供給が減少傾向にあり、原発の再稼働も進んでいない。再生可能エネルギーの主力化が進むが、安定的な電力供給が課題となっている。
  • グーグルはSMRを、マイクロソフトはスリーマイル島の原発を再稼働させる計画を発表し、AI技術の成長を支えるためのエネルギー供給を模索している。
  • 日本もAIや経済成長に対応するため、安定的でクリーンなエネルギーの確保を目指し、エネルギー政策の議論を進める必要がある。

データセンターのエネルギー消費量予測(世界) 出所:TDK

 生成AIの急成長に伴い、データセンターの電力需要が急激に増加している。特にChatGPTなどの生成AIは、従来のサーバーに比べて非常に多くの電力を消費し、今後さらにこの傾向が強まると予想されている。AIサーバは従来のサーバに比べて6倍から10倍の電力を消費するとされており、これが電力需要の急速な増加に拍車をかけている。たとえば、ChatGPTの検索クエリは従来のGoogle検索と比べて約10倍の電力を消費するとされている。

 2023年から2030年の間に、データセンターの電力需要は年平均15%の成長率で増加し、2030年までには現在の3倍以上の消費量に達する見込みだ。これを背景に、グーグル、マイクロソフト、アマゾンといった米国のビッグテック企業は、AIの成長を支えるため、安定した電力供給を確保する手段として「原子力」に注目している。

 マイクロソフトは、過去に原子力事故が発生したスリーマイル島の原子力発電所を再稼働させる計画を発表し、注目を集めた。また、グーグルは小型モジュール式原子炉(SMR)の導入を推進し、2030年までに最初の原子炉を稼働させる計画を進めている。SMRは従来の原子炉よりも小型で、より安全かつ効率的なエネルギー供給を実現する技術として期待されている。一方、アマゾンも原子力エネルギーの活用を進めており、既存の原子力施設の隣にデータセンターを設置するだけでなく、SMRへの追加投資も発表している。

 日本では、電力供給量が過去10年にわたって減少傾向にあり、データセンターや生成AIの普及による電力需要の急増に対応するためのエネルギー確保が課題となっている。政府は再生可能エネルギーの主力化を進めているが、安定した低コストの電力供給が難しく、原子力発電の再稼働も進んでいない。東日本大震災後、原発再稼働の動きは鈍く、現在稼働しているのは36基中12基にとどまっている。エネルギーの安定供給が実現できない場合、日本はAI技術や経済成長の競争で他国に後れを取る危険性がある。

 グーグルやマイクロソフト、アマゾンといった企業が積極的に原子力エネルギーへの投資を進める一方で、日本は化石燃料への依存が依然として高く、エネルギー自給率が低い状況だ。福島第一原子力発電所の事故を受け、再生可能エネルギーの利用が推進されているが、十分な電力を安定して供給するには課題が残っている。こうした背景から、安定的かつクリーンで競争力のあるエネルギーの確保が、日本の経済成長と生活の安定を支えるために重要なテーマとなっており、国全体での議論が急務となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状

まとめ

  • 米国のビッグテック企業は異なるエネルギー戦略を採用し、マイクロソフト、グーグル、アマゾンは原子力に積極的である一方、アップルとメタは再生可能エネルギーに依存している。
  • アップルやメタの再生可能エネルギーへの依存は、自然条件に左右される供給の不安定さやインフラ不足により、競争力低下のリスクを伴う。
  • 原子力投資を進める企業は、特に小型モジュール式原子炉(SMR)の導入により、エネルギーの安定供給を確保し、コスト変動に対する耐性を高めることが期待される。
  • ドイツのエネルギー政策の失敗は、再生可能エネルギーへの過度な依存が経済の安定に悪影響を与えることを示しており、エネルギー政策には現実的な判断が重要である。
  • 我が国は従来の化石燃料と原子力を組み合わせたバランスの取れたエネルギー政策を採用し、安定したエネルギー供給体制を築く必要がある。

  • スリーマイル島原子力発電所の1号機が2028年までに再稼働し、Microsoftに電力を供給することが明らかに

    米国のビッグテック企業がそれぞれ異なるエネルギー戦略を採る中で、マイクロソフトやグーグル、アマゾンが原子力に積極的な姿勢を見せている一方、アップルやメタは再生可能エネルギーに依存する道を選んでいる。この違いは、電力の安定供給やコスト面でのリスクに直結する問題であり、両者の将来に異なる結果をもたらすことが予想される。そして、ドイツのエネルギー政策の失敗が警告する通り、再生可能エネルギーへの過度な依存は経済の安定に負の影響を与える可能性が高い。

    アップルやメタは、環境に優しいとされる再生可能エネルギーに大きく賭けている。しかし、この選択は多くのリスクを伴う。まず、再生可能エネルギーは自然条件に左右されるため、その供給は不安定である。加えて、再生可能エネルギーを支えるためのインフラ整備、例えばエネルギー貯蔵技術や送電網の強化がまだ十分ではないことが、供給の安定性を損なう要因となっている。これが、データセンターやAI技術といった大量の電力を必要とする産業において、競争力の低下を引き起こすリスクを高めている。

    太陽光パネルが敷きつめられたアップル本社の屋上

    対照的に、マイクロソフトやグーグル、アマゾンが進める原子力投資は、長期的なエネルギーの安定供給を確保する現実的な手段である。特に小型モジュール式原子炉(SMR)などの技術は、従来の大型原子炉に比べて安全性や柔軟性に優れており、AIやデータセンターのような大量の電力を必要とするインフラを支えるには最適な選択肢である。これにより、電力供給の不安定さやコスト変動に対する耐性が強化され、企業の競争力を高めることが期待される。

    そして、ドイツの失敗は我々にとって重要な教訓である。ドイツは原子力を放棄し、再生可能エネルギーに過度に依存するエネルギー政策を急進的に進めた結果、電力供給が不安定になり、エネルギー価格が急上昇した。これにより、エネルギーを多く消費する産業の競争力が低下し、経済全体が低成長に陥った。特に、化石燃料への依存度が高まり、結果としてエネルギー転換は成功とは言い難い結果に終わっている。このドイツの状況は、エネルギー政策において現実的な判断がいかに重要であるかを示している。

    破壊されるドイツ西部の原発の冷却塔

    我が国が進むべき道は、こうした現実に基づいた戦略を採ることである。我々もまた、安定的で大量の電力供給を確保する必要があり、特に経済の成長を維持し、技術開発を進めるためには、エネルギー供給の不安定さを排除しなければならない。再生可能エネルギーは現時点では技術的制約が多く、これに過度に依存することはリスクが大きい。

    そのため、我が国は原子力を再評価し、特に小型モジュール炉(SMR)などの新しい技術に投資することが重要である。SMRは従来の原子力発電に比べて安全性が高く、設置場所やコスト面でも柔軟性があり、今後のエネルギー政策の柱となり得る。

    また、従来の化石燃料による電力供給も含め、安定したエネルギー供給体制を築くことができる。重要なのは、理想に基づいた過度な再生可能エネルギーへの依存ではなく、原子力やその他の現実的なエネルギーソリューションを組み合わせ、バランスの取れたエネルギー政策を構築することである。再生可能エネルギーは現在の技術水準では、いまだ実用化には不向きだが、ただしいずれイノベーションが生まれるかもしれず、これへの取り組みは実験レベルで継続する程度に留めるべきだ。

    結論として、我が国が進むべき道は、再生可能エネルギーの可能性を見極めつつ、従来の化石燃料と、原子力を含む安定したエネルギー源に現実的に投資することである。ドイツの失敗を教訓に、過度な理想主義を排し、経済成長とエネルギー安定の両立を目指す現実的なアプローチが必要だ。ビッグ・テックといえども、一企業に過ぎず、エネルギー政策に失敗したとしても、国全体のレベルで考えれば悪影響はさほどではないかもしれないし、後から取り返しがつくかもしれない。しかし、政府の失敗はそうではないことが、ドイツの現状が示している。

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