まとめ
- 欧米の銀行、LNG関連への融資止める傾向-邦銀勢は「現実的」
- 環境主義者は石炭のようにガスがエネルギーとして定着すると懸念
LGN貯蔵施設 |
日本の大手企業は、2023年3月までの1年間にガス関連事業から少なくとも140億ドルの利益を上げており、これは国内のトップエレクトロニクスメーカーの利益に匹敵する。政府は、天然ガスが気候変動対策において重要な役割を果たすと主張しており、再生可能エネルギーの普及とともに、石炭からの移行を進めている。しかし、環境主義者は、天然ガスが一時的な解決策に過ぎず、石炭と同様に長期的に定着する可能性があると警告している。
福島第一原発事故以降、日本はLNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリアとの長期契約を結ぶなど、エネルギー供給の安定化を図っている。さらに、日本の金融機関は、LNGプロジェクトへの融資を増やし、国際的なエネルギー市場における影響力を強化している。特に、国際協力銀行(JBIC)は、LNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けている。
日本企業は、LNGの需要が高まる新興国市場への進出を進めており、ガスタービンやパイプラインの供給を通じて、さらなる成長を目指している。これにより、日本はLNGの輸入の約3分の2を国内で使用し、残りを海外に転売する戦略を取っている。政府は、2030年までにLNGの輸入を約15%削減する目標を掲げているが、これは新たな需要の増加や不確定要因によって影響を受ける可能性がある。
日本のLNG戦略は、エネルギー安全保障の観点からも重要であり、特にロシアのウクライナ侵攻以降、世界のガス価格が高騰する中で、その必要性が一層強調されている。日本政府は、エネルギー供給の安定性を確保しつつ、他国へのLNGの輸出を促進することで、国際的な競争力を維持しようとしている。
しかし、LNGの使用が気候変動に与える影響についても議論が続いており、特に新興国におけるガス需要がCO2排出量にどのように影響するかが焦点となっている。国際エネルギー機関(IEA)は、LNGが移行燃料として機能する余地はほとんどないと指摘しており、日本のエネルギー戦略が持続可能な発展にどのように寄与するかが問われている。
この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。
【私の論評】日本のLNG戦略:エネルギー安全保障と国際影響力の拡大
まとめ
- 日本は、LNGを経済的国策(economic statecraft)の一環として活用し、エネルギー安全保障と国際的影響力の拡大を図っている。
- 日本は政府機関を通じて、海外のLNGプロジェクトに大規模な融資や投資を行い、日本企業の国際競争力を強化している。これは、エネルギー安全保障の確保と同時に、国際的な影響力の維持・拡大を目指すeconomic statecraftの一例である。
- 日本企業は、LNGタービンの販売やパイプライン網の構築を通じて、東南アジアなどの新興市場に進出。これにより、日本のエネルギー安全保障を強化すると同時に、地域のエネルギー市場での影響力を拡大している。
- LNGの余剰分を海外に転売することで、日本は単なる消費国から国際エネルギー市場の重要なプレーヤーへと変貌。これにより、エネルギー安全保障を強化しつつ、国際市場での影響力を高めている。
- 日本のLNG戦略は、エネルギー安全保障、経済成長、環境保護のバランスを取りつつ、国際的な影響力を維持・拡大することを目指している。これは、時々の政権の政策にとどまらず包括的なeconomic statecraftの一環として位置づけられる。
上の記事では、総輸入量などが示されていないので、以下に作成しました。
- 人口データは2022年の推定値を使用しています。
- 1人当たりの輸入量は、総輸入量を人口で割って算出しています。
- オランダの数値が高いのは、他のヨーロッパ諸国へのガス再輸出のハブとしての役割を果たしているためです。
- 中国とインドの1人当たりの輸入量が低いのは、大きな人口と国内生産があるためです。
この表から、人口当たりで見ると、韓国、日本、ドイツなどが天然ガスの主要輸入国であることがわかります。ドイツは原発の廃炉を決めたので、輸入量が大きいのは納得できます。一方、中国やインドは総輸入量は多いものの、人口が多いため1人当たりの輸入量は比較的少なくなっています。
輸入量だけをみていると、上の記事のように、日本が世界に君臨する「ガス帝国」とは必ずしもいえないようです。それよりも、上の記事は、欧米の銀行がLNG関連への融資止める傾向にもかかわらず、邦銀勢はそうではなく「現実的」路線を歩んでいること、政府も積極的であことを強調しているのだと見られます。
日本は、昔から天然ガスを用いて、たとえばロシアに対する制裁を行ってきました。最近では、経済安全保障という言葉が普及してきましたが、一昔まえはステートクラフト(statecraft)などと言われきました。
ステートクラフト (statecraft) とは、国家が外交政策や国際関係において用いる戦略や手法を指します。経済的手段を用いて他国に影響を与えることも含まれます。これについては特にeconomic state craftとも呼ばれてきました。これについて過去にこのブログにも述べたことがあります。その記事のリンクに掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
天然ガスのパイプ |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。
これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。日本は昨年も1月から9月にかけての時期にロシア産石油の輸入量を減らしていました。ところが両国間での平和条約の議論が始まるやいなや状況は変化しはじめ、11月には日本はロシアの石油の購入を急増させました。そして現在は、交渉の行方が不透明になりはじめたことから、ロシア産エネルギーの日本の輸入量は再び減少し始めているのです。これは、一方では米国との同盟関係を強化し、他方では北方領土問題に消極的なロシアに対して制裁を課すという、economic statecraftです。
これは、economic statecraftのネガティブな面の事例といえます。一方、国際協力銀行(JBIC)等が、海外にLNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けているという事例は、ポジティブな事例といえます。
日本政府は自国の有権者に対して、エネルギー安全保障という観点からガス支援をアピールしています。これは単なる政治的レトリックではなく、日本の地理的・地政学的状況に根ざした重要な政策です。
経済産業省資源エネルギー庁資源開発課の中真大課長補佐は、十分な供給量を確保するため日本企業は一定の長期契約を結んでおり、「必要なければ、他国に売る必要がある」と説明しています。この戦略には二つの重要な側面があります。
まず、長期契約によって安定的な供給を確保することで、日本は急激な価格変動や供給途絶のリスクを軽減しています。これは、エネルギー資源に乏しい島国である日本にとって極めて重要です。特に2011年の福島第一原発事故以降、エネルギー源の多様化と安定供給の確保は国家的な優先事項となっています。
次に、余剰分を他国に売却することで、日本は単なる消費国から、エネルギー市場における重要なプレーヤーへと変貌を遂げています。これにより、日本は国際エネルギー市場での影響力を維持し、自国のエネルギー安全保障をさらに強化することができます。
さらに、他のアジア諸国などに向けたLNG導入の促進は、熱心な買い手の確保を意味します。これは日本にとって二重の利点があります。一つは、需要の安定化によって供給の安定性が高まること。もう一つは、地域のエネルギー安全保障を強化することで、地政学的な安定にも寄与することです。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、世界のガス価格が高騰した際、日本の戦略は正当化されたように見えました。しかし、全ての国に十分なガスが供給されるわけではなく、特に新興国はガス不足に悩まされました。この状況は、日本のガス戦略の重要性を再確認させると同時に、その責任の重さも示しています。
ロシアによるウクライナ侵攻 |
日本企業は対外投資を増やしており、これもエネルギー安全保障戦略の一環と見ることができます。例えば、JERAはオーストラリアの最新LNGプロジェクトに14億ドルを出資し、欧州向けとなる見込みの出荷について、米国のプラントとの供給契約に調印しました。三井物産も、ベトナム供給向けガス田や米国のシェールガスプロジェクトに投資し、UAEの新しいLNG輸出プラントの株を取得しています。
これらの投資は、日本のエネルギー安全保障を直接的に強化するだけでなく、国際的なエネルギー市場での日本の影響力を高め、間接的にも安全保障に寄与しています。
現在、上の記事にもあるように、日本は購入したLNGの約3分の2を使い、残りの3分の1を海外に転売しています。資源エネルギー庁の中氏によれば、日本は2030年までに輸入を昨年比で約15%削減することを目指していますが、これはデータセンター向けの新たな需要やその他の不確定要因に左右されるとのことです。
政府当局者や産業界は、LNGの供給維持で日本が柔軟性を保つことができると主張しています。さらに、日本のLNG事業が後退すれば、最近LNGの買い手世界一となった中国を利する可能性もあるという懸念もあります。
このように、日本の天然ガス支援政策は、単なるエネルギー政策ではなく、国家安全保障戦略の重要な一部となっています。環境への配慮と経済成長のバランスを取りつつ、国際的な影響力を維持・拡大する手段としても機能しているのです。
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