2024年8月28日水曜日

領空侵犯機は撃墜…できません! 初めて入ってきた中国軍機への“対処ステップ”とは―【私の論評】中国のY-9JB情報収集機による領空侵犯の背景と日本の対応策

領空侵犯機は撃墜…できません! 初めて入ってきた中国軍機への“対処ステップ”とは

まとめ
  • 2024年8月26日、中国軍のY-9情報収集機が初めて日本の領空を侵犯した。
  • 領空侵犯への対応は自衛隊法第84条に基づき、段階的な措置が取られる。
  • 武器使用は最終手段であり、厳格な基準が設けられている。
  • 武器使用の判断は原則として個々のパイロットではなく、上級指揮官が行う。
  • 近年の安全保障環境の変化に伴い、武器使用の基準が見直されており、特定の要件を満たした場合パイロット個人の判断で武器を使用することもできるというのが政府の見解
統合幕僚監部報道発表資料より(24/8/26)

 2024年8月26日、中国軍の情報収集機Y-9が初めて日本の領空を侵犯する事件が発生しました。防衛省の発表によると、Y-9情報収集機は26日11時29分から31分頃にかけて、長崎県五島市の男女群島沖で領空侵犯を行いました。これを受けて、航空自衛隊は戦闘機をスクランブル発進させ、通告および警告を実施するなどして対応し、侵犯機は領空の外に出ました。

 領空侵犯機への対応は自衛隊法第84条に基づいています。この法律では、防衛大臣が自衛隊に対し、侵犯機を着陸させるか領空から退去させるための必要な措置を講じさせることができると規定しています。過去の国会答弁に基づけば、対応は(1)領空侵犯機の確認、(2)領空を侵犯している旨の警告、(3)領空外への退去または自衛隊基地等への誘導、(4)武器使用という、段階的な措置がとられることが自衛隊内の規則で定められています。

 武器使用は慎重に扱われ、過去の国会答弁によると、領空侵犯機が自衛隊機の警告や誘導に従わずに退去せず、さらに自衛隊機に対して実力をもって抵抗してきた場合、または国民の生命および財産に対して大きな危険が間近に迫っている場合に許可されます。

 武器使用は原則としてパイロット個人の判断ではなく、防空指令所にいる管制官を通じて、方面航空隊司令官などからの命令を受ける形で実施されます。ただし、領空侵犯機が自衛隊機へ急に襲いかかってきた場合など、その許可を求める余裕がない場合には、パイロット個人の判断で武器を使用することもできるというのが政府の見解です。

 近年の安全保障環境の変化に伴い、武器使用の基準の見直しが図られており、2023年初めには、無人気球などが民間航空機の航路を阻害したり、墜落の危険性があったりする場合には、武器を使用することが認められるようになりました。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国のY-9JB情報収集機による領空侵犯の背景と日本の対応策

まとめ
  • 領空侵犯機への対応は、民間機と軍用機で異なり、段階的な措置が国際的慣行となっている。
  • 中国のY-9JB情報収集機は武装を持たず、主に電子戦および情報収集任務を担っている。
  • 今回の領空侵犯は、これまでの中国機の活動パターンとは異なり、重要な目標の探知や接近の可能性がある。
  • 中国の行動には日本の離島領空を軽視する傾向があり、「力による一方的な現状変更の試み」と類似している。
  • 日本政府は直近では毅然とした抗議と警戒態勢の強化を、中長期的には防衛力の抜本的強化と憲法改正を視野にいれた法整備を進めるべきである。

上の記事のタイトルは紛らわしいです。正しくは、「領空侵犯機をすぐには撃墜できません、ステップを踏んで初めて撃墜できます。また特定の要件を満たした場合パイロットの裁量で撃墜できる可能性がある」などと改めるべきでしょう。

上の記事の内容は、そのように解釈できる内容になっています。「領空侵犯機は撃墜…できません!」とタイトルの含めると、どんな場合も撃墜不可能であると誤解されかねません。

国際民間航空機関(ICAO)のシカゴ条約改正議定書により、民間航空機に対する武器の使用は原則として禁止されています。領域国は、遭難や過失による侵入の場合は強制着陸や航路変更の命令を発するにとどめ、故意の場合でも機長の処罰が限度とされています

明らかに軍用機と識別できる外国航空機の領空侵入に対しては、対応が異なります。領域国が自衛権を行使して対抗できるのは当然とされ、偵察や空中撮影などをスパイ行為と認定して撃墜し、乗員を処罰する場合もあります

ただし、即座に撃墜するのではなく、段階的な対応が国際的な慣行となっています。通常は警告や退去要求などの措置を先に取り、それでも従わない場合に武力の行使を検討します。

Y-9JB

今回領空侵犯したY-9は中国製の多用途中型輸送機をベースとした航空機で、様々な派生型が存在します。今回の領空侵犯に関与したのは、防衛省が「Y-9情報収集機」と呼称する機体です。これはY-9JBと呼ばれるタイプで、主に対潜哨戒や通信・電子信号の傍受といった諜報活動を任務としています

Y-9には他にも以下のような派生型があります。
  • Y-9T: 通信中継機
  • Y-9Q: 対潜哨戒機型
  • KJ-200: 早期警戒機型
Y-9JBは中国の電子戦および情報収集機であり、Y-9輸送機をベースに開発されています。この機体は主に通信傍受や電子信号の収集、レーダー電波の探知などの任務を担っており、中国軍内では「高新8号」(GX-8)と呼ばれています。

Y-9JBは電子情報収集(ELINT)機能を持つ特殊任務機であり、機体上部や側面、尾部には様々な付属物や整流板が取り付けられており、これらは電子機器や各種アンテナを収納するためのものです。また、翼端と尾部にはESM(電子支援措置)アンテナが装備されており、後部胴体にはELINT(電子情報)アレイ、尾部からはHFアンテナが張られています。これらの特徴はKJ-500早期警戒機と共通しています。

さらに、Y-9JBの胴体下部にはEO/IRターレット(電気光学/赤外線センサー)も装備されています。この機体は中国人民解放軍空軍と海軍航空部隊の両方で運用されており、海軍機の場合は機体に「中国海軍」の文字と海軍旗が描かれています。Y-9JBは以前のY-8JB ELINT機の後継機として位置付けられており、主に東シナ海や日本海などの周辺海域で活動が確認されており、電子情報収集や偵察任務に従事していると考えられています。

Y-9JB情報収集機には、ミサイルや機関銃などの武装はありません。この機体は主に電子戦および情報収集任務を担っています。

Y-9JBの主な任務は以下の通りです。
  • 対潜哨戒:海中の潜水艦を探知・追跡する任務を行います。
  • 通信傍受:敵対国や他国の通信を傍受し、情報を収集します。
  • 電子信号の収集:レーダーや通信システムなどから発せられる電子信号を収集・分析します。
  • 諜報活動:上記の活動を通じて得られた情報を分析し、軍事情報として活用します。
今回の領空侵犯が起こる前まで、Y-9は主に沖縄や台湾周辺で活動しており、このように男女群島の東側にまで接近して飛行することはありませんでした。この長崎沖の東シナ海では、 中国空軍の偵察型無人機(WZ-7)が本年は6月と7月に2回、情報収集と思われる飛行を実施していますが、これらはいずれも本邦から離れて男女群島西側の沖合上空で活動していました。

今回の領空侵犯の主な目的は情報収集であり、意図的な挑発行為ではないとするむきもありますが、それはなんともいえません。領空侵犯後も同機は飛行を継続し、ミッションに固執している様子が窺えたことから、何らかの重要な目標を探知して接近した可能性があります。

統合幕僚監部報道発表資料(24/8/26)には、ブログ冒頭に掲載した資料等が掲載されいましたが、現時点(8月28日10:00)の時点では、これは見当たりません。

自衛隊としては、ここに注目されたくないという意図があるのかもしれません。ただ、上の地図など、すでに新聞などで公表され、多くのメディアで引用されています。この海域で、それだけ重要な何かがあるか、何かがなされていた可能性があります。


上の表における、②の行動が、意図的なのか、そうでないかは中国側しか知るよしもないので、ここで当て推量をしても意味がありません。自衛隊側は、中国側に警告を発しているはずですが、それかどの時点だったかもわかりません。

意図的であろうが、なかろうが、中国軍の行動には日本の離島領空を軽視する傾向が見られ、この行動は、南シナ海でのフィリピンに対する中国軍や海警局による行動、尖閣諸島における中国海警局の常続的な領海侵犯など、「力による一方的な現状変更の試み」と類似した点があります。

このような行動が続く場合、偶発的な軍事衝突のリスクが高まる可能性があり、その結果として予期せぬ事態が発生する恐れがあります。中国側はこうした事態を望んでいる可能性もありますが、国際社会としてはそのような事態を回避する必要があります。


領空侵犯に対する日本の対応として、政府は以下の行動を取るべきです。

直近の対応として、政府は毅然とした態度で中国に抗議し、再発防止を強く求めるべきです。同時に、航空自衛隊の警戒態勢を強化し、24時間体制で領空監視を徹底すべきです。また、米国をはじめとする同盟国と緊密に連携し、情報共有と共同対処能力の向上を図る必要があります。

中長期的な対応として、日本の防衛力を抜本的に強化することが不可欠です。具体的には、最新鋭の戦闘機や早期警戒機の導入を加速させ、対領空侵犯能力を飛躍的に向上させるべきです。さらに、憲法改正を視野に入れ、自衛隊の位置づけを明確化し、より積極的な防衛政策を可能にする法整備を進めるべきです。

同時に、経済安全保障の観点から、中国への過度の依存を減らし、戦略的に重要な産業の国内回帰や同盟国との協力強化を推進すべきです。これらの施策により、日本の国家主権と国民の安全を守り抜く強固な体制を構築し、国際社会における日本の地位を高めることができるでしょう。

我々日本人は、先人たちが築き上げてきた平和と繁栄を守るため、今こそ一致団結して立ち上がるべき時です。

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