まとめ
- 「零日攻擊 ZERO DAY」、台湾政府が一部出資して制作
- 中国人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖-予告編
台湾で制作されたテレビドラマ「零日攻擊 ZERO DAY」の予告編(上の動画)が公開され、強い反応と大きな議論を呼んでいる。このドラマは、中国人民解放軍による台湾侵攻を題材にしており、視聴者に危機感を与え、軍事的な備えを強化するよう求める声を引き起こすことになるだろう。
予告編は約18分間で、人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖する架空のプロットや、サイバー攻撃によるインフラ破壊、中国政府の協力者による妨害工作などが描かれている。このシリーズのプロデューサー、鄭心媚氏は「脅威は今に始まったことではないが、センシティブな問題であるため、これまで話題にするのを避けてきた」と述べている。
このドラマは台湾政府が一部出資して制作されており、台湾文化部(文化省)と聯華電子(UMC)の創業者である曹興誠氏が資金を提供している。曹氏は国防強化を主張しており、民間人300万人の軍事訓練を支援するために10億台湾ドル(約47億円)を拠出すると表明している。
予告編の公開は、中国人民解放軍による侵攻の可能性に備えて台湾住民2300万人が防空避難訓練を毎年行う時期と重なり、特に注目を集めた。中国は「祖国統一」のためには、民主主義の台湾に対して武力行使も辞さないとしている。
このドラマは来年放送予定であり、鄭氏は台湾が直面する中国からの脅威に世界がより関心を高めることを期待し、国際的なストリーミングプラットフォームと交渉していると述べている。
【私の論評】台湾ドラマ『零日攻擊ZERO DAY』:高橋一生出演と台湾の現実的な防衛力分析
このドラマには、日本の俳優の高橋一生も出演しており、7月23日、台北市内で行われた台湾ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」の記者会見に出席しました。高橋にとって台湾ドラマ出演は初めてであり、同作では中国語、英語、日本語のせりふを操ります。
高橋は台日ハーフの役を演じ、台湾の女優リェン・ユーハン演じるアナウンサーの元恋人という設定です。2人は戦争の敏感な時期に再会し、互いの真の目的を探り合います。
台湾ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」の記者会見に出席した高橋一生(左)、リェン・ユーハン |
高橋は、オファーを受けてすぐに出演を決めたことを明かし、脚本をじっくりと読み込んだ上で「ぜひやらせていただきたい」と即決したと語りました。また、台湾での撮影に備えて、日本で中国語を1カ月間学んだと述べています。
滞在中には台湾グルメを堪能し、火鍋やルーロー飯、小籠包、北京ダックなどを楽しんだと話しました。台湾の印象については、「街並みがすごくいいなと思いました。皆さん温かくて」と述べています。
このドラマが公開されるのが楽しみです。ただ、中国が台湾に武力侵攻して、台湾があっという間に占拠されるというような安直な物語にはしてほしくないです。軍事知識があまりない人はこのようなストーリーを描きがちですが、現実的には台湾への武力侵攻はかなり難しいです。
人民解放軍による演習 |
なぜなら、このブログでも何度か述べてきたように、台湾は天然の要塞であり、東海岸は海岸からすぐに山が立ちはだかり、大軍が上陸できるような場所はありません。一方、西側の海岸は比較的平地が多いものの小さな湾や河川が入り組んでおり、これも大軍が上陸する地点は限られています。
また、台湾の領土の大部分は山岳地帯であり、玉山は標高3,952m、日本統治時代には富士山よりも標高が高いことから新高山(にいたかやま)と名付けられたことは有名です。このような急峻な山岳地帯を占拠するのは至難の業です。
台湾はこのような天然の要塞のような地形をしており、ここに武力侵攻する部隊は大打撃を受けることになります。実際、米軍も第二次世界大戦中には台湾が重要な戦略拠点であるにもかかわらず、ここに侵攻せずに沖縄に侵攻しました。
ただ、それでも中国は台湾に対しミサイル攻撃などを仕掛けて国土を破壊することはできます。現実の中国による台湾奪取は、サイバー攻撃によるインフラ破壊、中国政府の協力者による妨害工作などに加え、ミサイル攻撃による台湾本土の破壊など、いくつかの手段を組み合わせて行われるでしょう。
このブログでも述べてきたように、人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖するという架空のプロットは成功する可能性が低いです。そもそも中国海軍による台湾の海上封鎖は不可能です。海上封鎖に使用された中国軍の艦艇は、台湾軍のミサイルの標的になり撃沈されてしまうからです。航空機も同じです。台湾軍の地対空ミサイルで撃墜されてしまうでしょう。
台湾軍は、ウクライナ軍と比較してもかなり精強で現代的な軍隊です。台湾空軍は約150機のF-16A/Bを保有し、さらに66機の最新鋭F-16V Block 70を導入予定です。これに対し、ウクライナ空軍は主に旧ソ連製の戦闘機を使用しており、最近ようやっとF16が導入されはじめたばかりで、近代化が遅れています。また、台湾は60機のミラージュ2000-5も運用していますが、これらの機体はF-16に置き換えられる予定です。
さらに、台湾は自前のミサイル群を保有しており、対艦ミサイルから長距離ミサイルまで多様なミサイルを備えています。これにより、海上からの侵攻に対しても強力な防衛力を発揮できます。
さらに、台湾は中国領内のかなり奥地まで自主開発の長距離ミサイルを発射して標的を破壊できます。外国の長距離ミサイルをあてにせざるを得ないウクライナとは違います。
また、台湾は潜水艦を自前で開発しているだけでなく、強力な艦艇も独自に開発しています。例えば、台湾海軍は国産の沱江級コルベット艦を配備しており、これらの艦艇は高性能な対艦ミサイルを搭載し、沿岸防衛能力を大幅に向上させています。
昨年浸水した台湾の潜水艦 |
これらの装備と戦力により、台湾は中国軍に対して侮れない相手となっています。台湾は長年、中国からの脅威に備えて高度な訓練を受けており、米国との緊密な関係もその訓練の質を高めています。地理的にも、台湾は島国であるため防衛の焦点を集中させやすく、海上からの攻撃に特化した防衛戦略を持っています。
これらの要因から、台湾軍はウクライナ軍と比較して、装備、訓練、戦略、そして技術面で優位にあると言えます。自前の強力な防衛産業を持つ台湾は、着実に防衛力を強化し続けています。
以上のことを勘案すると、中国が台湾に武力侵攻をしてすぐに奪取するというストーリーは現実的ではありません。現実には、外交、軍事、認知戦などを交えて台湾を疲弊させ、何等かの隙ができればそこに付け入る形で奪取するでしょう。このドラマがリアリティーにどれだけ迫れるのかが見どころです。
ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」のタイトルから予想される中国による攻撃は、高度なサイバー攻撃を中心とした多面的な作戦が想定されます。これには、重要インフラやコンピューターシステムへの攻撃、電子戦による通信妨害、偽情報の拡散などが含まれるでしょう。
また、「ゼロデイ」という言葉は予期せぬ突然の攻撃を示唆しており、事前警告なしの奇襲攻撃や、サイバー攻撃と物理的な軍事行動を組み合わせた複合的な作戦も考えられます。このようなシナリオは、現代の高度技術社会における脆弱性を突いた、複雑で多面的な脅威を表現しており、このドラマは台湾の防衛態勢の重要性と新たな形の戦争に対する警鐘を鳴らすものとなりそうです。
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