2024年7月1日月曜日

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府―【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府


 内閣府は1日、2024年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)を下方修正し、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.7%減(従来0.5%減)、この成長が1年続いた場合の年率換算で2.9%減(同1.8%減)と発表した。  GDPの基礎統計である「建設総合統計」を国土交通省が訂正したことを反映した。

  修正の結果、公共投資は前期比1.9%減(同3.0%増)の下落。住宅投資は2.9%減(同2.5%減)となった。 

【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

まとめ
  • 2024年1~3月期のGDPマイナス成長は金融政策の後退と財政政策の緊縮化が主因
  • 安倍・菅政権時の100兆円規模の財政出動(国債発行と日銀引受)により日本経済はコロナ禍でも毀損されなかった。
  • しかし、岸田政権下での財政緊縮化が経済成長を妨げている
  • 積極的な金融緩和と財政出動の継続が経済改善に必要不可欠
  • 次期自民党総裁選は日本の経済政策の方向性を決める重要な分岐点となる

2024年1~3月期のGDPマイナス成長の主な原因は、金融政策の後退と財政政策の緊縮化によるものといえます。
安倍政権と菅政権時代に実施された大規模な財政出動、特に100兆円規模の補正予算は、リフレ派から高く評価されています。この100兆円の内訳は、安倍政権下で60兆円、菅政権下で40兆円となっています。この大規模な財政出動の特筆すべき点は、その財源として増税ではなく、国債発行を選択したことです。さらに、発行された国債を日本銀行が引き受けるという形で実施されました。これは、金融政策と財政政策の協調を体現した大胆な政治決断でした。

この政策は、経済に対して即効性のある刺激を与え、デフレマインドの払拭に貢献したといえます。特に、コロナ禍による経済的打撃を緩和し、雇用の維持や企業の存続を支援する上で重要な役割を果たしました。また、この大規模な財政出動は、単なる景気対策にとどまらず、将来の経済成長の基盤を整備する投資的な側面も持っていたといえます。
岸田政権下では財政政策の方向性が変化し、緊縮的な姿勢が強まりました。公共投資の減少や増税への懸念が、経済成長を妨げる要因となっています。ただし、岸田政権の初期には、先の100兆円の補正予算の効果が継続していたため、経済は悪化していなかったものが、その効果はなくなり、最近では経済が悪化したといえます。
現在の経済状況を改善するために、積極的な金融緩和の継続と拡大、大規模な財政出動、特に公共投資の増加、増税ではなく経済成長による税収増加を目指す政策、規制緩和や成長戦略の加速をすべきです。これらの政策を通じてデフレマインドを払拭し、企業や個人の期待を改善することで、経済成長を促進できるでしょう。

これは、高橋洋一氏かよく用いる、マクロ政策・フィリップス曲線を用いて分析するとより良く理解できます。フィリップス曲線とは、インフレ率と失業率の間の逆相関関係を示す経済理論です。適度なインフレーションは、雇用を増加させ、経済成長を促進します。



NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要です。一般的に、インフレ率と失業率は逆相関であり、NAIRUを達成する最小のインフレ率をインフレ目標に設定するからだ。ここから導かれる金融政策は、失業率がNAIRUに達するほど低くない場合、インフレ率もインフレ目標に達しないので金融緩和、失業率がNAIRUに達すると、その後はインフレ率がインフレ目標よりも高くなれば金融引き締めというのが基本動作といえます。

現在、インフレ目標物価より物価高ではあるものの、その原因は海外由来のエネルギー価格や資源価格の高騰によるものです。直近の2024年5月のコアCPIは前年比+2.5%、電気代などが押し上げているものとされています。コアコアCPIの数値だけをみれば、インフレ目標は達成しているようにもみえます。しかし、ここでこの数値だけでは、金融政策をどうするのか判断するのは難しいです。

であれば、ここでは失業率に着目すべきでしょう。労働力調査(詳細集計)2024年(令和6年)1~3月期平均 日本全国での就業者数が前年同期に比べて38万人増加し、6723万人となりました。 一方で完全失業者数は175万人と前年同期から2万人減少し、完全失業率は2.5%と0.1ポイントの低下を見せています。現在2%半ばの水準を保っているわけですが、ここで緊縮財政や金融引き締めをすれば、失業率が上がる懸念があるのです。

そのため、積極的な財政・金融政策を継続すべき状況にあるといえます。インフレ率が高めでも、雇用が安定していれば、このような政策をとることを経済理論では「高圧経済」と呼びます。いまはまさに、高圧経済を実施すべきといえます。現時点で、インフレ率が2.5%だから、すぐに金融引き締めということになれば、失業率があがることになるでしょう。インフレ率が4%を超え、失業率が上がり始めた場合は、金融引き締めのサインとみなすべきでしょう。

ただし、円安で輸出産業は業績が良く、輸出産業は優良大企業が多いため、円安で国全体では、経済が成長することになります。ただし、国内産業、輸入産業は苦戦をしいられている状況です。であれば、積極財政として国内・輸入産業を支援する政策や、消費税減税を含む減税や、物価高対策などをすべきです。

安倍・菅政権のときのように財政赤字を恐れずに積極的な経済政策を展開することが、国民生活の豊かさと税収の増加、さらには科学技術や教育、国防、福祉国家の強化・発展につながることになります。このような政策転換によって、日本経済が再び成長軌道に乗り、国民所得の増加や完全雇用の達成が可能になります。

また、経済政策を歴史から学ぶことも重要です。過去の成功事例や失敗事例を分析し、現在の経済状況に適用することで、より効果的な政策立案が可能です。過去には、現状のように需給ギャップが存在し、需要が低迷しているときに、金融引き締めや緊縮財政をして成功した事例はありません。あれば、財務省はこれを華々しく喧伝し、緊縮財政すべきことの根拠としていることでしょう。このような歴史的視点も含め、現在の経済政策の転換をすべきなのです。

上で述べたようなことを理解しているのは、現在総裁候補者といわれる政治家の中では高市早苗氏くらいです。高市氏は、大規模な金融緩和や積極的な財政政策、さらには「高圧経済」の考え方などを支持しています。


次の自民党総裁選は、このような経済政策の方向性を決める上で極めて重要な意味を持ちます。金融政策の方向性、財政政策の規模、構造改革の推進、インフレ目標の扱い、NAIRUに基づく政策運営など、多くの重要な経済課題が争点となる可能性があります。

高市氏のような政治家が総裁に選出されれば、積極的な経済政策が継続される可能性が高くなります。一方、異なる経済観を持つ政治家が選出された場合、政策の方向性が大きく変わる可能性があります。

このように、次の総裁選の結果は、日本の経済政策の方向性を決定し、ひいては日本経済の将来に大きな影響を与えることになります。したがって、この総裁選は単なる政治的イベントではなく、日本の経済の行く末を左右する重要な分岐点となります。

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