本格的な円安対策としては、日本政府が保有する外国為替資金特別会計(外為特会)の「含み益」を国民に還元すべき。円安によって日本の外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益が生じている。この含み益を活用すれば、国民一人当たり20万円から30万円の現金支給が可能になるか、あるいは消費税率を2年程度ゼロにできる。
歴史的に見ても、円安は日本の経済成長を後押ししてきた。円安のメリットを最大限に享受しているのは日本政府だ。したがって、政府がその利益を国民に還元すれば、円安へのマイナスイメージは和らぐはずだ。リパトリ減税は本格的な対策からの目くらまし策に過ぎず、国民の目をそらすための施策にすぎないようにみえる。
【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?
まとめ
- リパトリ減税(リパトリエーション減税)が円高是正に明確な効果があった歴史的事例はない。
- アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本などでも過去に類似策を試みたが、その実効性には議論の余地がある。
- 民間企業は既に自主的なリパトリエーション(資金還流)を行っている場合があり、政府の減税策の効果には限界がある。
- リパトリ減税は為替レートに直接影響を与えるものではない。為替レートは中長期的には両国の通貨発行残高比率に収束する。
- 現状では消費税減税を優先し、補助金支給とバランスを取る政策運営が賢明である。
レパトリ減税で国民はウハウハにならない |
リパトリ減税は、正しくはリパトリエーション減税(repatriation tax holiday)です。現状の日本では、これが功を奏して円高が是正されることはないでしょうし、古今東西でこれがはっきり成功したという事例はありません。
米国のレーガン政権時代(1980年代)に実施された「税源浸食防止法」。海外に留保されている企業利益の本国還流を促進するため、一時的な減税措置を講じた。しかし、その実際の効果については明確ではありません。イギリス(2009年)とオーストラリア(2019年)では、外国子会社から本国への配当に対する軽減税率などの優遇措置を導入しましたが、その効果については見解が分かれています。
日本でも過去に類似の政策は試みられたものの、大きな成果は見られなかったとされています。
このように、リパトリ減税自体が大きな成功を収めた先例は見つからず、その実効性については依然として議論が続いている状況と言えます。
また民間企業は、すでに自主的にリパトリエーション(資金の本国還流)を行っている場合があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。
- 海外子会社からの配当 海外子会社の利益を、配当金として本社に送金する形でリパトリエーションを行う。
- 外貨建て資産の売却 海外で保有する外貨建て資産(有価証券など)を売却し、円換算後の資金を国内に持ち帰す。
- 現地法人の資金調達 海外現地法人が、現地での増資や借入などで調達した資金の一部を本社に送金する。
こうした自主的なリパトリエーションは、企業の資金ニーズや為替リスク回避の観点から、日常的に一定程度行われていると考えられます。たとえば、過去に北朝鮮から頻繁にミサイルが発射されたときに、円安ではなく、円高になったことがありますが、これは企業のよる自主的なリパトリがあったのではないかといわれています。
したがって、政府によるリパトリ減税はあくまでインセンティブ付与の意味合いが強く、民間企業がすでにリパトリエーションを実施していることは事実です。減税があっても、リパトリを行う資金が当初から少なければ、大きな効果は期待できません。
つまり、リパトリ減税の効果には一定の限界があり、民間企業の実態を踏まえた上で、政策を検討する必要があることが分かります。
さらに、リパトリ減税が円安是正につながるという考えには、為替という観点からみても妥当性はありません。
リパトリ減税は、企業の海外利益や資金を国内に還流させることを目的としていますが、それ自体は為替レートに直接影響を与えるものではありません。
そもそも、為替レートそのものは、中長期的以下の式で決まるものです。
世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量(円/ドル)
中長期的な為替レートの動きは、それぞれの通貨の発行残高や流通量に収束していく傾向があると考えられています。これは「購買力平価説」と呼ばれる理論に基づいています。
購買力平価説の基本的な考え方は、2つの通貨の為替レートは、それぞれの国の物価水準を反映して決まるというものです。つまり、長期的には為替レートは以下の式に収束するとされています。
為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)
この式を変形すると、為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)
≒ (日本の通貨供給量) / (米国の通貨供給量) ≒ (日本の通貨発行残高) / (米国の通貨発行残高)
となり、結局のところ、為替レートは両国の通貨発行残高の比率、つまり「世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量」に収束していくと考えられています。
中長期的な為替レートの動きは、この比率の方向に向かう傾向があると言えます。ただし、これは理論的な見方であり、実際の為替レートは短期的には様々な要因で変動します。
購買力平価説は理論モデルの1つであり、実際の為替レートは短期的には様々な要因(金利、経常収支、投機的な資金の動きなど)で変動します。中長期的なトレンドに収束するまでには調整の時間がかかります。
一時的な円高介入や減税措置などの政策は、短期的には為替レートに影響を与える可能性があります。しかし、中長期的に見れば、そうした一時的な政策効果は徐々に薄れ、為替レートは結局のところ、両通貨の発行残高の比率に収束していくと理解できます。
これは購買力平価説に基づく理論的な見方ですが、実際の為替レートの動きを中長期的に観察すると、この理論が概ね当てはまることが分かります。一時的な乖離はあっても、最終的には通貨供給量の比率に収束する傾向が見て取れます。
やはり、高橋洋一氏が言うように、円高対策としてのリパトリ減税は、単なる目くらましすぎません。政府が実施すべきは、このような効果がはっきりしない政策よりも、外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益を活用して、消費税減税をすべきです。
総合的に判断すれば、現状は個人消費の下支えが急務と考えられることから、今こそ消費税減税を優先すべきです。ただし、減税による減収分の財源確保は先にも述べたように円安による税収増や含み益があります。
当面の個人消費喚起の観点から、消費税減税を優先し、可能な範囲で補助金支給も組み合わせる、バランスの取れた政策運営が賢明と考えられます。
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