まとめ
- 中国の安洵信息技術有限公司が「ツイッター世論誘導統制システム」を開発し、Xアカウントを不正に乗っ取って中国当局への有利な世論操作がされていた疑いがある
- 同社の内部資料約20ページがネットに流出し、乗っ取り手口などが記載されている
- 同社は中国当局、特に公安機関等と密接な取引関係があり、世論工作ツールを販売している
- 台湾のサイバー企業は「本物の文書」と判断し、中国のSNS世論工作の「初の証拠」と指摘
- 日本政府も資料を入手し、中国の対外世論工作との関連を調査中
安洵信息技術有限公司 |
中国の安洵信息技術有限公司が開発したとされる「ツイッター世論誘導統制システム」の内部資料が、インターネット上に流出していたことがわかった。この約20ページの資料では、旧ツイッターのXアカウントに不正なURLを送ることで乗っ取り、ダイレクトメッセージを盗み見たり、中国当局に都合のよい投稿をさせることができると記載されている。
資料によると、同システムは「好ましくない反動的な世論を検知する」ことを目的に構築され、「社会の安定には、公安機関が世論をコントロールすることが極めて重要」と明記されていた。近年、他人に乗っ取られたとみられるXアカウントが、中国語や日本語で中国の反体制派を批判するケースが相次いでおり、このシステムが使われている可能性があるという。
安洵信息技術は2010年に設立された企業で、国家安全省からIT製品の納入業者に選定されるなど、中国当局と密接な関係にあった。資料流出と合わせて公開された約580ファイルには、同社が地方の公安当局と契約を結び、通信アプリ向けの世論工作ツールを販売していた記録が残されていた。
台湾のサイバーセキュリティ企業「TeamT5」は、資料に記載された工作手口などから「本物の流出文書と確信している」と分析。さらに「中国が世論工作のため西側諸国のSNSを利用する意志と能力を持っていることを示す初の証拠だ」と指摘している。
日本政府の情報機関も、流出資料を入手し本物と判断。分析を進めるとともに、中国の対外世論工作との関連を詳しく調査している。
【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたや周りの人もその標的
まとめ
- 中国による世論工作の手口は、大きく分けて、大量のネット工作員の投入やボットアカウント、トロールアカウントの利用、さらにはSNS投稿の監視と削除などが挙げられる。
- 民間企業への世論工作の委託やコメント操作アプリの利用も行われている。
- 他国でも同様の動きが見られ、ロシアの「インターネット研究所(IRI)」やトルコ政府の「アストロターフィング」キャンペーン、イランのサイバー軍の活動が挙げられる。
- 世論操作に対処するためには、情報源の確認や正確性の検証、バイアスに気をつけることが重要である。
- 自らの政治的・経済的スタンスが不明確な人々は、世論操作の標的になりやすく、その対策としては主体的な判断力を養い、多様な情報源から情報を検証すべきである
中国による世論工作の手口について、テクノロジーツールだけでなく、人為的な工作も含めてより幅広く事例を挙げます。
1. 「五毛党」と呼ばれる大量のネット工作員の投入
中国政府は、大量のネット工作員を雇い、インターネット上で政府の主張を支持する投稿を行ったり、批判的な意見を攻撃したりすることで、世論を誘導しようとしているとわれています。2010年代には20万人以上が動員されていたと推定されています。
2. ボットアカウントやトロールアカウントの利用
政治的プロパガンダの拡散などを目的に、大量の自動投稿アカウント(ボット)やトロール(誹謗中傷を行うアカウント)を作成し、世論操作に利用していると指摘されています。
3. 検閲ツールを使ったSNS投稿の監視と削除
Facebook、Twitter、Instagramなどの海外SNSで中国批判的な投稿を自動で監視し、削除させるための検閲ツールを開発・利用していると報じられています。
4. 民間企業への世論工作委託
中国政府は、一部の世論工作を民間のIT企業に委託し、専門的なツール開発やネット工作員の雇用などを行わせているとされています。今回の安洵信息技術の事例がこれに当たります。
5. コメント操作アプリの利用
動画サイトなどで、コメント操作アプリを使って人気コメントを不正に操作し、政府に都合の良い世論を作り出そうとする動きが確認されています。
6. SNSアカウントのハイジャック
不正なリンクを開かせることで、他人のSNSアカウントを乗っ取り、ダイレクトメッセージの盗聴や政府に都合の良い投稿を行う手口も報告されています。
このように、中国当局は多様な手段を組み合わせて、インターネット上の世論をコントロールしようとしていると考えられています。
これは、中国以外の国々でも行われています。
ロシアでは、政府資金を受けた「インターネット研究所(IRI)」が、ソーシャルメディア上での情報拡散や議論に影響を与えるツールを開発。オンライン世論を監視し操作することが目的とされているとされています。
トルコ政府は、ソーシャルメディアを監視し、偽アカウントから政府支持の投稿を行う「アストロターフィング」キャンペーンを実施。都合のいい情報を拡散させようとしているとされています。
イランのサイバー軍も、偽アカウントを用いて虚偽情報を拡散したり、反体制派を攻撃したりするなど、ソーシャルメディア上での世論操作ツールを活用しているとされています。
このように、中国に加えて、ロシア、トルコ、イランなど他国でも、政府や特定組織がソーシャルメディアを利用して世論を操作する試みがなされており、偽情報に惑わされないよう注意が必要です。ただ、これらはいままでは、おそらく正しいとはみられていたものの、推測の域にとどまっていました。
ネットに流出した「世論工作システム」の資料とみられる文書の表紙 |
しかし今回の、資料流出はこれが本物であれは、中国当局の関与を強く示す内部資料が初めて現われたということになります。台湾の専門家も「中国によるSNS世論工作の初の証拠」と指摘しているとおり、これまでの疑惑を裏付ける重要な一次資料となり得るのです。
「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か―【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由〈2024/5/6〉
内閣府の再エネタスクフォース資料に中国企業の透かし 河野太郎氏「チェック体制の不備」―【私の論評】再エネタスクフォースにおける中国企業関与の問題:情報漏洩の深刻なリスクと政府のすべき対応〈2024/3/24〉
0 件のコメント:
コメントを投稿