2024年5月27日月曜日

ヒグマ駆除「特殊部隊と戦うようなもの」 北海道の猟友会が協力辞退―【私の論評】安保と熊駆除:被害防止や国民保護の本来の目的を失わないことが何より肝心

ヒグマ駆除「特殊部隊と戦うようなもの」 北海道の猟友会が協力辞退

まとめ
  • 北海道奈井江町でヒグマの市街地出没が相次ぎ、対策が急務となっている
  • 町が設置した「鳥獣被害対策実施隊」への地元猟友会の協力要請に対し、報酬額の少なさから部会が辞退
  • 部会長は「ヒグマは極めて危険な存在で、報酬が命がけの作業に見合わない」と訴え
  • 高齢で人手不足の部会側と、近隣事例から報酬を設定した町側で条件が折り合わず
  • 危険作業に見合った適正報酬の設定が課題で、行政と現場の建設的対話が求められる


 北海道奈井江町では近年、ヒグマの市街地出没が相次ぎ、対策が急務の課題となっていた。町は昨年20件ものヒグマ目撃情報があり、今年4月に「鳥獣被害対策実施隊」を設置。地元の北海道猟友会砂川支部奈井江部会に出没時の見回りから捕獲・駆除、処分作業までの一連の対応を委託することにした。

 しかし、日額4800円から最大1万300円程度と提示された報酬額が低額であったため、部会側が協力要請を辞退してしまった。部会の山岸部会長は「ヒグマは森を縦横に動く賢い動物。人間には気づかれずにいつ襲われるかわからない極めて危険な存在で、米軍の特殊部隊と森の中で戦うようなものだ」と指摘し、命がけの作業に報酬が見合わないと強く訴えた。

 高齢会員中心で人手不足に悩む部会としては、長時間労働を伴う危険作業に対し、提示された報酬額では納得がいかなかった。一方の町側は、近隣自治体の実例を参考に報酬を設定したと説明している。

 このように双方の条件の折り合いがつかず、専門家の協力が得られずにヒグマ対策が適切に進められない事態となっている。人命にかかわる危険な作業に見合った適正な報酬設定が課題となり、行政と現場関係者の建設的な対話による解決が求められている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安保と熊駆除:被害防止や国民保護の本来の目的を失わないことが何より肝心

まとめ
  • 1960年代後半から徐々にライフル銃の使用に関する規制が強化されてきた。
  •  中でも、射程の制限により、熊駆除の際の安全な射撃機会が減少した。威力の低い猟銃使用では、確実に熊を仕留められない恐れがある。
  • 厳しいライフル銃所持要件により、熟練狩猟者の減少。装備の脆弱化によるリスク増加に対する報酬の確保が難しい。
  • ハーフライフル銃なども含め規制強化により、熊駆除への協力が得にくくなり、ヒグマ被害の増大が懸念される。過度な規制が市民の生命・身体の安全に悪影響を及ぼす可能性がある。
  • ライフル銃規制と、日本の安保には類似点がある。どちらも規制と実効的な力の行使のバランスが重要。 適切な運用体制の整備が必要であり、規制一辺倒ではなく被害防止や国民保護の目的を見失わないことが肝心。 
上の記事では、ヒグマ狩りの危険性と、報酬にかかわることが解説されていますが、肝心なことが説明されていません。

それは、最近のライフル銃を用いることの規制の強化です。今回は、これについて解説しようと思います。

ライフル銃


まずはライフル銃の定義を以下に掲載します。

ライフル銃は、銃身内部に螺旋状の溝(つる巻)が刻まれた長物の火器です。この特徴的なつる巻き構造により、発射時に弾丸に回転力が付与されます。これによって弾丸の姿勢が安定し、弾道のブレが抑えられるため、非常に高い命中精度が得られます。

ライフル銃は基本的に1発ずつ発射する単発射撃銃ですが、レバーアクション式などでは比較的速射も可能です。つる巻きによる弾道の精度の高さから、狩猟や射撃競技などで200m以上の長距離狙撃が可能となります。

一般的にライフル銃は大きく分けて2種類があり、狩猟用と軍用があげられます。狩猟用は主に有害鳥獣の捕獲などに使われ、軍用ライフル銃は戦場での狙撃や長距離射撃を目的としています。いずれも長距離からの確実な命中能力が最大の特徴です。

しかし、ライフル銃のこの高い射程と貫徹力ゆえに、犯罪などに使用された場合の危険性が高まるため、所持に際しては厳しい規制が設けられているのが実情です。そうして、その規制が年々強化されています。

ライフル銃に対する規制強化の流れは、主に1960年代後半から徐々に進められてきました。

具体的には、以下のような経緯があります。

1960年代後半
  • 銃器犯罪への対策から、狩猟銃の規制が本格化
  • 総器銃(ライフル銃)の所持許可制が導入された
1970年代
  • 口径規制、連射機能の制限が開始
  • 所持者の経歴審査、適切な保管場所の確保が義務化
1980年代以降
  • 射程距離規制の導入が進む
  • 弾丸の初速規制も段階的に強化
  • 自動小銃など特に危険な銃器の所持が原則禁止に
2000年代以降
  • 規制対象銃器の精査と基準の統一化が進む
  • 代替兵器(空気銃、麻酔銃など)の普及で、ライフル銃代替が進む


2024年3月

長野県での殺人事件を受け、ハーフライフル銃に対する規制が強化されました。これは、散弾銃とライフル銃の中間的な性能を持つ銃です。

主な変更点は以下の2点です。

  • 所持許可条件: 散弾銃を10年以上継続所持していること
  • 腔線定義: ライフル銃とみなされる比率を「2分の1以上」から「5分の1以上」に変更

規制強化により、初心者ハンターによる 大型獣の駆除が困難になりました。特例として北海道では狩猟免許5年以上で所持できます、また都道府県知事許可で散弾銃所持10年未満でも所持可能です。

このように治安維持を主な理由として、1960年代後半から徐々にライフル銃の規制が強化されてきました。一方で、狩猟の用途を考慮し、一定の性能は認められています。今後も新たな代替兵器の開発などに伴い、規制の見直し強化が継続される可能性があります。

ライフル銃の所持要件が厳しくなったことが、熊の駆除作業に悪影響を及ぼしている可能性は十分に考えられます。

その主な理由は以下の通りです。
  1. 有効な射撃距離の制限 ライフル銃の規制により、遠距離からの確実な射撃が困難になります。熊は警戒心が強く、近付くと逃げられてしまう危険があるため、ある程度の距離から射撃できることが重要です。射程が制限されると、安全な射撃機会が失われる可能性があります。
  2. 殺傷能力の低下 ライフル銃に代わり、威力の低い猟銃を使わざるを得なくなると、確実に仕留められない恐れがあります。怪我を負った熊はさらに危険です。
  3. 熟練狩猟者の減少 厳しい要件のため、ライフル銃を所持できる熟練狩猟者が減る可能性があります。経験と射撃能力は熊駆除に不可欠です。
  4. リスクに見合う報酬の確保が困難に 命がけの熊駆除作業に対して、装備の脆弱化はリスクが高まることを意味します。しかし、そのリスクに見合う十分な報酬を町が支払えない場合、協力は得られません。
このように、ライフル銃の規制強化は、射撃の安全性・確実性を低下させ、リスクに見合う報酬額の確保も難しくなるため、熊駆除への協力が得にくくなる恐れがあります。

規制の強化ばかりでは、結果として十分な対策が取れず、被害が増大する恐れがあります。安全保障の分野でも、過度の自制に偏れば、国民の安全が脅かされかねません。

ヒグマ被害への対処が遅れれば、市民の生命・身体の安全が脅かされます。ライフル銃の規制が強すぎて、専門家が適切な装備を持てず、確実な捕獲・駆除ができなくなれば、被害は深刻化する一方です。

野営訓練に出動する自衛隊員

同様に、日本の安全保障においても、他国の軍事的脅威があるにもかかわらず、過度の軍備規制により、国民の守られるべき権利や生命の安全が確保できなくなれば、大きな問題となります。

つまり、ライフル銃規制でも安全保障でも、一方的な規制や軍備抑制ばかりでは、かえって守るべき対象を危険に晒すことになりかねません。

専門家の確実な装備や、国民の権利と生命の安全確保のためには、ある程度の実効的な力の行使が不可欠です。その上で、暴発を防ぐ適切な運用体制を整備することが重要となります。

規制や軍備抑制自体を全面的に否定すべきではありませんが、必要以上に規制一辺倒に偏らぬよう、被害防止や国民保護の本来の目的を失わないことが何より肝心です。

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