2024年5月20日月曜日

台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず―【私の論評】蔡英文政権の成功と、 アジアのリーダーにありがちな金融財政政策の失敗

台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず

まとめ
  • 蔡英文総統は2期8年の在任中、米国など国際社会との連携を強化し、台湾の存在感を高めた。
  • 中国との対話は実現せず緊張が続いたが、極端な言動は控え、武力行使の口実を与えなかった。
  • 防衛力強化と米国との安全保障協力を進めた一方、経済面でも台湾の重要性が高まった。
  • 国内では同性婚合法化など改革に取り組んだが、年金改革で既得権益層から反発も受けた。
  • 退任間近の世論調査では前政権より評価は良好で、民進党3期目の政権発足を後押した。
  • 2期8年にわたる蔡英文総統の在任期間は、中台関係の緊張が続く中で、台湾の国際的存在感を高める一方、国内改革にも取り組んだ時期だった。

蔡英文総統

 中国は、蔡氏や民進党を「台湾独立」を目指す勢力とみなし、統一に向けた圧力を強めた。しかし蔡氏は「現状維持」の方針を堅持し、対話も呼びかけたものの、中国との溝は深まった。そのため政権は防衛費増額や潜水艦など軍備の自主開発を進め、安全保障上の「後ろ盾」となる米国との連携を一層密にした。

 一方で、中国に武力行使の口実を与えない慎重な対応を心がけ、蔡氏自身は極端な言動は控えた。この間、半導体産業などで台湾経済の重要性が高まり、米国のペロシ下院議長の訪台など、欧米諸国からの関心も高まっていった。

 国内では同性婚の合法化や先住民の権利保護など、様々な改革に取り組んだ。しかし年金制度改革では既得権益層からの反発を受け、一時的に支持率が低迷する時期もあった。ただ、2020年の再選では香港情勢を受けて中国の「一国二制度」への拒否感から支持を集め、勝利した。

 退任を控えた世論調査では「満足」が42%、「不満」が46%と割れたが、前政権と比べると評価は良好で、蔡氏への一定の支持が民進党3期目の政権発足を後押ししたと言える。

 中台の緊張は根強く残るものの、蔡政権期の8年間で台湾の存在感は確実に高まり、国際社会での役割が拡大した一方、内政でも一定の改革の足跡を残した、という評価ができるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】蔡英文政権の成功と、 アジアのリーダーにありがちな金融財政政策の失敗

まとめ
  • 蔡英文政権の支持率は時期によって大きく変動し、退任前には40%台に低下した。コロナ対策の不備が一因とされた。
  • 安全保障面では国防力の近代化を進め、軍事費増額、新兵器開発、在台米軍容認など米国との連携を強化した。
  • 経済面では減税はしたものの大局的には抑制的であり、金融緩和が不十分で中小企業や家計への資金供給が不足した。
  • エネルギー政策は原発ゼロ化で電力不足リスクが高まり、ロシアLNG依存によりエネルギー価格の高騰を招いた
  • 改革に取り組む一方で、マクロ経済政策は失敗し、既得権益層からの反発や若年層の不満があった。
台湾の蔡英文政権の支持率について、いくつかの情報源からデータをまとめてみます。

2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題(アジア経済研究所)によれば、蔡英文総統の支持率は以下のように推移しています。
  • 2016年6月: 約70%
  • 2020年1月: 約50%前後(新型コロナウイルス対応による評価上昇)
  • 2022年12月: 約37.5%(急落)
別の各種民間世論調査によれば、蔡英文総統の支持率は一時70%を超えたものの、現在は50%前後に低下しているとされています。

また、新型コロナウイルス感染拡大の抑制において「優等生」とされていた台湾で、感染対策の不備とワクチン接種の遅れが政治問題化し、蔡英文総統の支持率が急減していると報じられていました。これらの情報から、蔡英文政権の支持率は様々な要因によって変動していることがわかります。

中央感染症指揮センターの陳時中指揮官

台湾の蔡英文総統は、安全保障と経済の両面で大きな実績を残しています。

安全保障面では:

国防力の近代化と強化を進め、軍事費を着実に増額してきた。特に海空軍力の強化に注力した。
  • 在台米軍の駐留を事実上容認し、台湾有事の際の米軍支援体制を整備した。在任中に潜水艦を自主開発できるようにし、抑止力を強化した。
  • 新型の長距離巡航ミサイルの開発・配備を推進し、台湾の抑止力を高めた。
  • 国民の防衛意識向上に尽力し、徴兵制の堅持、予備役訓練の強化などに取り組んだ。
経済面では:
  • 減税政策で国内需要を喚起する方針をとった。
  • コロナ禍で深刻な景気後退に見舞われたが、大規模な金融・財政支援策を講じ、企業と国民の下支えに努めた。
  • 対中経済依存からの脱却を目指し、「新南向政策」により東南アジア諸国との経済連携を深めた。
  • CPTPP、RCEP等の経済連携に参加することで、台湾の貿易・投資環境を整備した。
  • ハイテク産業の国際競争力を維持・強化するため、半導体等の重要産業への支援を拡大した。
  • 経済の安全保障重視の観点から、医療・防衛関連産業の国内回帰を後押しした。
以上のような政策によって、マクロ経済の安定と企業活動の下支えを図りつつ、中長期的な成長力の確保を目指した、と評価できます。

その一方で失敗したといわれる政策は以下です。

蔡英文総統の政権における主な失敗・批判された政策は以下のようなものがあげられます。

エネルギー政策:
  • 原発ゼロ政策の推進により、電力不足リスクが高まった。
  • ロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入比率が高く、ロシア産LNGの調達リスクが高まった。
  • ロシア産LNGへの代替が進まず、電力供給の安定性が脅かされた。
  • 価格高騰によるエネルギーコストの増大で、国民生活と産業活動に大きな影響が出た。
経済済政策:
  • 金融・為替政策面では、台湾ドル高を懸念し、なぜか通貨安を故なく悪ととらえ、あまり意味のない為替介入を行った。
  • 財政規律の堅持と健全化を重視し、歳出増加を抑制するという抑制的な政策をとった
  • 金融緩和が不十分で、以下のような悪影響があった。
  • 特に中小企業への資金供給が不十分で、景気下支え効果が小さかった。
  • 家計の資産形成支援策が乏しく、個人消費を下支えする政策が弱かった。
  • デジタル金融などイノベーション促進に向けた金融環境整備が遅れた。
  • 賃金上昇が鈍く、物価高騰により国民の実質購買力が低下した。
  • 住宅・雇用対策が不十分で、若年層の生活難が深刻化した。
社会政策:
  • 同性婚を法制化したものの、保守層からの反発が根強く残った。
  • 言論統制が強まり、メディアの自由度が低下したとの批判があった。
外交政策:
  • 中国の圧力により、台湾の国際的孤立が一層深まった。
  • 米国との連携を深めたものの、安保面での役割分担でトラブルもあった。
  • 対中国輸出規制を強化したことで、台湾企業の事業環境が悪化した。
  • 新南向政策は思ったほど成果が上がらず、対中依存からの脱却は不十分だった。新南向政策は、外交政策であるにもかかわらず、蔡英文政権はこれを経済対策と考えており、これは国内の財政金融政策の停滞をまねいた一因ともなったことは否めない
総じて、中国との対立が深刻化する中で、国内の経済成長と国民生活の安定を十分に実現できなかった点が、蔡政権の大きな課題だったと言えるでしょう。

台湾を訪問したペロシ下院議員議長(当時)

蔡英文政権の政策には、功罪はあるものの、政権末期であっても、比較的高い支持率を維持しています。

これは、岸田政権も参考にすべきです。特に財政政策では蔡政権は、減税政策で国内需要を喚起する方針をとったことは、参考にすべきです。また、財政規律の堅持と健全化を重視し、緊縮財政をしたことで失敗したことも参考にすべきです。

緊縮傾向でありながら、減税するという政策は、ブレーキを踏みながら、アクセルも踏むという矛盾した政策です。ただ、この蔡政権の失敗が、日本の失われた30年のようなスケールの大失敗にはならなかったことは幸いてした。

アジアの政権は、なぜか台湾や韓国、そうして日本でも、金融引き締め、緊縮財政をして失敗というケースが多いです。その根本にはいわゆる「倹約志向」があるからかもしれません。

儲け勤倹志向の影響:
アジア圏では伝統的に「倹約」「貯蓄」を美徳とする価値観が強く、金融緩和や財政出動に対して消極的になりがちです。
債務残高への警戒感:
アジア通貨危機やリーマンショックの経験から、債務拡大を警戒する姿勢が根強い。
財政規律尊重の伝統:
歴史的に財政健全化が重視されてきた国々が多く、財政ファイナンスに後ろ向きになりやすい。
インフレ嫌避の風潮:
インフレ率が低水準で推移してきた影響で、物価上昇を過剰に警戒する傾向にある。

こうした要因が複合的に作用し、金融当局や政府が景気対策を渋る「倹約志向」が強まりがちだったことは確かです。日本では、こうした傾向が財務官僚を緊縮に、日銀官僚を引き締めに走らせ、失われた30年を生み出しました。

アジア諸国では、結果として適切な金融・財政出動ができず、経済をいたずらに沈滞させてしまうリスクがあるといえます。日本、韓国、台湾ではなぜか、こうしたリスクに関して、政府も国民も無頓着であり、「緊縮・引き締め=善」と考える識者も多く、金融政策の失敗は雇用政策の失敗につながり、経済に悪い影響を及ぼすことをしっかり認識している欧米とは大きな隔たりがあります。

このあたりを理解しうまく運営したのが、アジアのリーダーとしては珍しいといえる日本の安倍総理でしたが、その安倍総理ですら、在任中に結局2回、消費税増税の延期を行ったものの、消費税増税をせざるを得ませんでした。とはいいながら、金融政策は継続され、雇用は劇的に改善されました。

アジア諸国は、こうした「倹約志向」から脱却し、機動的な金融・財政運営ができるかどうかが、今後の課題といえます。

蔡英文政権では、安保、外交などでは一定の成果をあげたものの、金融財政政策はうまくいったとはいえないです。さらに、エネルギー政策にも問題がありました。金融財政政策やエネルギー政策がうまくいかなければ、国民の不満は高まります。

蔡英文政権の支持率の低下は主にこれに起因すると私は考えています。このことは、なぜか台湾でも、日本でもあまり指摘されていません。上の記事でも指摘されていませんが、これは非常に重要なことです。

頼清徳新総統

頼清徳新総統はこのことをしっかり認識して、蔡英文政権の良いところは取り入れ、金融財政政策やエネルギー政策においては、改革を行い、日本をはじめとするアジアの国々とって良い見本となるような政策を実行していただきたいものです。


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