- 蔡英文総統は2期8年の在任中、米国など国際社会との連携を強化し、台湾の存在感を高めた。
- 中国との対話は実現せず緊張が続いたが、極端な言動は控え、武力行使の口実を与えなかった。
- 防衛力強化と米国との安全保障協力を進めた一方、経済面でも台湾の重要性が高まった。
- 国内では同性婚合法化など改革に取り組んだが、年金改革で既得権益層から反発も受けた。
- 退任間近の世論調査では前政権より評価は良好で、民進党3期目の政権発足を後押した。
- 2期8年にわたる蔡英文総統の在任期間は、中台関係の緊張が続く中で、台湾の国際的存在感を高める一方、国内改革にも取り組んだ時期だった。
蔡英文総統 |
- 蔡英文政権の支持率は時期によって大きく変動し、退任前には40%台に低下した。コロナ対策の不備が一因とされた。
- 安全保障面では国防力の近代化を進め、軍事費増額、新兵器開発、在台米軍容認など米国との連携を強化した。
- 経済面では減税はしたものの大局的には抑制的であり、金融緩和が不十分で中小企業や家計への資金供給が不足した。
- エネルギー政策は原発ゼロ化で電力不足リスクが高まり、ロシアLNG依存によりエネルギー価格の高騰を招いた
- 改革に取り組む一方で、マクロ経済政策は失敗し、既得権益層からの反発や若年層の不満があった。
2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題(アジア経済研究所)によれば、蔡英文総統の支持率は以下のように推移しています。
- 2016年6月: 約70%
- 2020年1月: 約50%前後(新型コロナウイルス対応による評価上昇)
- 2022年12月: 約37.5%(急落)
また、新型コロナウイルス感染拡大の抑制において「優等生」とされていた台湾で、感染対策の不備とワクチン接種の遅れが政治問題化し、蔡英文総統の支持率が急減していると報じられていました。これらの情報から、蔡英文政権の支持率は様々な要因によって変動していることがわかります。
中央感染症指揮センターの陳時中指揮官 |
安全保障面では:
国防力の近代化と強化を進め、軍事費を着実に増額してきた。特に海空軍力の強化に注力した。
- 在台米軍の駐留を事実上容認し、台湾有事の際の米軍支援体制を整備した。在任中に潜水艦を自主開発できるようにし、抑止力を強化した。
- 新型の長距離巡航ミサイルの開発・配備を推進し、台湾の抑止力を高めた。
- 国民の防衛意識向上に尽力し、徴兵制の堅持、予備役訓練の強化などに取り組んだ。
- 減税政策で国内需要を喚起する方針をとった。
- コロナ禍で深刻な景気後退に見舞われたが、大規模な金融・財政支援策を講じ、企業と国民の下支えに努めた。
- 対中経済依存からの脱却を目指し、「新南向政策」により東南アジア諸国との経済連携を深めた。
- CPTPP、RCEP等の経済連携に参加することで、台湾の貿易・投資環境を整備した。
- ハイテク産業の国際競争力を維持・強化するため、半導体等の重要産業への支援を拡大した。
- 経済の安全保障重視の観点から、医療・防衛関連産業の国内回帰を後押しした。
蔡英文総統の政権における主な失敗・批判された政策は以下のようなものがあげられます。
エネルギー政策:- 原発ゼロ政策の推進により、電力不足リスクが高まった。
- ロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入比率が高く、ロシア産LNGの調達リスクが高まった。
- ロシア産LNGへの代替が進まず、電力供給の安定性が脅かされた。
- 価格高騰によるエネルギーコストの増大で、国民生活と産業活動に大きな影響が出た。
- 金融・為替政策面では、台湾ドル高を懸念し、なぜか通貨安を故なく悪ととらえ、あまり意味のない為替介入を行った。
- 財政規律の堅持と健全化を重視し、歳出増加を抑制するという抑制的な政策をとった
- 金融緩和が不十分で、以下のような悪影響があった。
- 特に中小企業への資金供給が不十分で、景気下支え効果が小さかった。
- 家計の資産形成支援策が乏しく、個人消費を下支えする政策が弱かった。
- デジタル金融などイノベーション促進に向けた金融環境整備が遅れた。
- 賃金上昇が鈍く、物価高騰により国民の実質購買力が低下した。
- 住宅・雇用対策が不十分で、若年層の生活難が深刻化した。
- 同性婚を法制化したものの、保守層からの反発が根強く残った。
- 言論統制が強まり、メディアの自由度が低下したとの批判があった。
- 中国の圧力により、台湾の国際的孤立が一層深まった。
- 米国との連携を深めたものの、安保面での役割分担でトラブルもあった。
- 対中国輸出規制を強化したことで、台湾企業の事業環境が悪化した。
- 新南向政策は思ったほど成果が上がらず、対中依存からの脱却は不十分だった。新南向政策は、外交政策であるにもかかわらず、蔡英文政権はこれを経済対策と考えており、これは国内の財政金融政策の停滞をまねいた一因ともなったことは否めない
台湾を訪問したペロシ下院議員議長(当時) |
アジア圏では伝統的に「倹約」「貯蓄」を美徳とする価値観が強く、金融緩和や財政出動に対して消極的になりがちです。債務残高への警戒感:
アジア通貨危機やリーマンショックの経験から、債務拡大を警戒する姿勢が根強い。財政規律尊重の伝統:
歴史的に財政健全化が重視されてきた国々が多く、財政ファイナンスに後ろ向きになりやすい。インフレ嫌避の風潮:
インフレ率が低水準で推移してきた影響で、物価上昇を過剰に警戒する傾向にある。
こうした要因が複合的に作用し、金融当局や政府が景気対策を渋る「倹約志向」が強まりがちだったことは確かです。日本では、こうした傾向が財務官僚を緊縮に、日銀官僚を引き締めに走らせ、失われた30年を生み出しました。
アジア諸国では、結果として適切な金融・財政出動ができず、経済をいたずらに沈滞させてしまうリスクがあるといえます。日本、韓国、台湾ではなぜか、こうしたリスクに関して、政府も国民も無頓着であり、「緊縮・引き締め=善」と考える識者も多く、金融政策の失敗は雇用政策の失敗につながり、経済に悪い影響を及ぼすことをしっかり認識している欧米とは大きな隔たりがあります。
このあたりを理解しうまく運営したのが、アジアのリーダーとしては珍しいといえる日本の安倍総理でしたが、その安倍総理ですら、在任中に結局2回、消費税増税の延期を行ったものの、消費税増税をせざるを得ませんでした。とはいいながら、金融政策は継続され、雇用は劇的に改善されました。
アジア諸国は、こうした「倹約志向」から脱却し、機動的な金融・財政運営ができるかどうかが、今後の課題といえます。
蔡英文政権では、安保、外交などでは一定の成果をあげたものの、金融財政政策はうまくいったとはいえないです。さらに、エネルギー政策にも問題がありました。金融財政政策やエネルギー政策がうまくいかなければ、国民の不満は高まります。
蔡英文政権の支持率の低下は主にこれに起因すると私は考えています。このことは、なぜか台湾でも、日本でもあまり指摘されていません。上の記事でも指摘されていませんが、これは非常に重要なことです。
頼清徳新総統 |
頼清徳新総統はこのことをしっかり認識して、蔡英文政権の良いところは取り入れ、金融財政政策やエネルギー政策においては、改革を行い、日本をはじめとするアジアの国々とって良い見本となるような政策を実行していただきたいものです。
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