2024年5月11日土曜日

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ―【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ

まとめ
  • 経済安全保障上の機密情報アクセスを制限する「セキュリティー・クリアランス制度」導入法が成立 - 対象者限定、事前確認、漏えい罰則
  • 政府は情報保全強化と日本企業の国際ビジネス機会拡大を制度の意義として強調

 経済安全保障上の機密情報を扱える人を制限する「セキュリティー・クリアランス制度」を導入する法律が、参議院本会議で可決・成立した。

 この制度は、日本の安全保障に影響を与えかねない「重要経済安保情報」を指定し、アクセスできる人を民間企業の従業員も含めて限定する。対象者の信頼性を事前に確認し、情報漏えいには刑罰を科す。政府は日本企業の国際ビジネス機会拡大など、制度の意義を強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

まとめ
  • セキュリティー・クリアランス制度の導入法には、要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在という2つの大きな欠陥がある。
  • これらの欠陥は、政治的妥協、制度導入の緊急性、権力者の利権保護の結果として生じたとみられる。
  • 欠陥があるにも関わらず、野党やマスコミからの大きな反発がなかった背景には、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の存在がある可能性がある。
  • この制度が不備を抱えたまま放置されれば、日本は同盟国からの信頼を失い、機密情報共有の制限や経済的な被害を受ける可能性がある。
  • 安全保障環境の変化に対応し、同盟国からの信頼を維持するためには、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要がある。

今回の「セキュリティー・クリアランス制度」導入法には、2点制度の欠陥として指摘されている事柄があります。

1つ目の欠陥は、一定の要職者(国務大臣、副大臣など)が適性評価の対象外となる規定があり、これらの要職者が適切に審査されずにアクセス権を得てしまう可能性があることです。

2つ目は、適性評価の審査項目に"性行動"が含まれていないため、外国勢力によるハニートラップ攻撃の危険性が考慮されていないという点です。米国のSC制度では性行動も審査されますが、日本のSC法案ではそれがなく、重要情報へのアクセスリスクが指摘されています。

こうした指摘はSC制度の運用における重大な課題と言えそうです。

この2つの欠陥を抱えたままSC制度法が制定された背景としては、以下のような理由が考えられます。
  • 政治的な妥協の結果 一定の要職者を適性評価から外す規定や、性行動を審査対象外とした点は、制度導入に反対する政治勢力との妥協の産物だった可能性があります。完全な制度よりも何らかの制度を導入することを優先した政治決着があったのかもしれません。
  • 制度導入の緊急性 経済安全保障上の機密情報管理の必要性が高まる中、制度導入を先送りするリスクを避けるため、一定の欠陥は認めつつも先に制度を立ち上げ、課題は運用を通じて改善していく、という考え方があったかもしれません。
権力者の利権保護 要職者が適性評価を免除される規定は、将来的に自分たちが恩恵を受けられるよう、権力者サイドが確保した暗黙の了解事項だった可能性もあります。

完全な制度は難しくとも、まずは導入することに重きを置いた結果、こうした欠陥は避けられなかったという側面もあるのではないかと考えられます。

日本のセキュリティークリアランス制度が2つの大きな欠陥、つまり要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在を抱えたままであることは、海外、特に同盟国から批判的に見られるしょう。

まず制度の実効性自体に疑問が持たれるでしょう。要職者が適性評価の対象外となれば、機密情報の取り扱いに大きな穴が開きますし、性的誘惑を利用したハニートラップ対策が全くなされていないため、スパイ活動への抵抗力が低いと指摘されるでしょう。

さらに、経済安全保障を重視するという日本の姿勢と、この不備だらけの制度との間に大きな矛盾があると見なされ、日本の本気度が疑われかねないです。その結果、同盟国との機密情報の共有において、日本側の情報取り扱いが信頼できるか疑問視される可能性が高いです。

そのため、日本に対しては制度の抜本的な見直しと強化が求められ、改善が進まなければ、同盟国から機密情報の共有を制限される可能性すらあります。機密情報の適切な取り扱いは極めて重要であり、この2つの欠陥は看過できるものではありません。日本は同盟国から厳しい視線を受け、制度改善への強い期待が寄せられることになるでしょう。

日本はファイブアイズとの情報共有も難しくなる可能性がある

経済安全保障担当大臣の高市早苗氏は、「セキュリティー・クリアランス制度」の導入に向けた法案の立案を主導しました。高市大臣は、参議院での審議でも法案の説明と質疑応答に立っており、内閣府副大臣、国家安全保障局長、内閣官房副長官補らが検討に参加しています。有識者会議での議論も予定されており、政府全体で取り組んでいる重要な政策です。

にもかかわらず、政治的な圧力や利害関係の影響が大きく、この欠陥を内包したまま法案をせいりつせざるを得なかったとみられます。この法案に関して、野党やマスコミからの反発はほとんどありませんてした。

大きな反発がなかった背景には、2つの重大な欠陥を事前に認識しながら、それらを意図的に問題視せず法制化を図ろうとした勢力の存在があった可能性があります。一部の政治勢力が将来的な要職者監視の回避や利権の温存のために、免除規定を盛り込み、ハニートラップ対策を不要と判断し制度設計から外した可能性があります。

さらに、野党や報道側にも制度の実態を十分把握できていない部分があり、大きな問題視がされなかったこともあるかもしれません。つまり、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の動きが、大々的な反発を封じ込めた一因となった可能性が考えられます。


この制度の抜本的な改善が行われない限り、日本は経済・安全保障の両面で、同盟国の信頼を失い、深刻な被害を被る可能性があると言えるでしょう。ただし、いままでなかった制度が成立したわけですから、これは心もとないものの、一歩前進でしょう。今後は、この法律の早期改正を目指すべきです。

日本が情報管理に寛容であった背景には、平和国家として脅威を意識してこなかったこと、過度の監視や制裁を好まない文化があったこと、官民で情報共有が不足しリスクが正しく認識されていなかったことなどが考えられます。

しかし、安全保障環境の変化を受けて、同盟国からの信頼を維持するためにも、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要があります。

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