まとめ
- 北朝鮮の核・ミサイル開発への対応として、朝鮮半島の非核化を強く求めている
- 国連安保理決議の履行や日本人拉致問題の解決を訴えている
- 一方的な現状変更の試みへの反対を盛り込んでいる
- 6分野(人的交流、持続可能な開発、経済協力など)での協力強化を目指す
- 経済分野では、日中韓の貿易額を1兆ドルまで増やす目標と、FTA交渉の加速を掲げている
日中韓三首脳 |
27日にソウルで開催される日中韓首脳会談で採択される共同宣言原案が判明した。原案では、北朝鮮の核・ミサイル開発の加速を念頭に、「朝鮮半島と北東アジアの平和と安定の維持は我々の共通の利益及び責任だ」と強調し、「朝鮮半島の完全な非核化は我々の共通目標だ」と訴えている。
日中韓首脳会談の開催は2019年12月以来4年半ぶりとなる。3か国は共同宣言で、朝鮮半島の完全な非核化の実現に向け、対話や外交、また国連安保理決議の履行の重要性を唱える。日本人拉致問題の即時解決も求める考えを共有する。
さらに、法の支配に基づく国際秩序への関与を確認するほか、「力または威圧による一方的な現状変更の試み」への反対も盛り込まれている。
3か国協力を巡っては、人的交流、持続可能な開発と気候変動、経済協力と貿易、公衆衛生と高齢化社会、科学技術とデジタル化、災害救援の6分野で協力強化を目指すことで一致した。
特に経済協力と貿易分野では、ルールに基づく開かれた公正な国際経済秩序の維持・強化に「共通の責任を有する」と強調し、現在の7,700億ドルの貿易額を今後数年で1兆ドルまで増やす目標を掲げる。また、日中韓FTAの交渉を加速する方針も明記されている。
3か国は協力を前進させるため、首脳や閣僚による会談の定期開催の必要性にも言及している。
現在、3か国の実務者が共同宣言の成案に向け最終調整を行っているが、北朝鮮問題や一方的現状変更への反対を巡る表現で中国が難色を示す可能性もある。
【私の論評】北朝鮮の核、中国の朝鮮半島浸透を抑制する"緩衝材"の役割も
- 北朝鮮の核保有は、中国の朝鮮半島への影響力拡大を抑制する「緩衝材」の役割を果たしている。
- 日中韓3か国が朝鮮半島の非核化を唱えるのは、結果として中国の利益につながる可能性がある。
- 朝鮮半島問題の解決には、朝鮮戦争休戦協定の当事国など関係国が交渉すべきである。
- 北朝鮮の非核化を推進するには、米国による韓国への核再配備も選択肢の一つとなり得る。
- 現実的には米国の韓国核再配備は困難であり、現状維持せざるを得ない状況にある。
北朝鮮の核 |
現在の状況において北朝鮮とその核は、それが良いか悪いか、将来はどうなるかは別問題として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。
中国は、北朝鮮の最大の支援国であり、経済的・軍事的な面で密接な関係を築っています。一方で、中国は北朝鮮の核開発に対しても懸念を抱いており、国際的な圧力をかけています。
北朝鮮が核兵器を保有していることは、中国にとっても懸念材料です。中国は、北朝鮮の核開発を抑制し、朝鮮半島の安定を維持するために努力しています。
一方、中国は朝鮮半島における自身の戦略的利益を追求しています。北朝鮮の核が朝鮮半島における中国の影響力を制限する一因となっているといえます。
中国は、北朝鮮の最大の支援国であり、経済的・軍事的な面で密接な関係を築っています。一方で、中国は北朝鮮の核開発に対しても懸念を抱いており、国際的な圧力をかけています。
北朝鮮が核兵器を保有していることは、中国にとっても懸念材料です。中国は、北朝鮮の核開発を抑制し、朝鮮半島の安定を維持するために努力しています。
一方、中国は朝鮮半島における自身の戦略的利益を追求しています。北朝鮮の核が朝鮮半島における中国の影響力を制限する一因となっているといえます。
ルトワック氏 |
これについては、私だけの突飛な考えというわけではありません。たとえば米国の有名な戦略家ルトワック氏も、現状を以下のように認識しているようです。
彼の著書「自滅する中国」で、中国の台頭とその影響について詳しく説明しています。ルトワックはその北が核開発とロケットを開発をする理由を、「北朝鮮は核が中国からの自立と存続を保証している」からだ、としています
朝鮮半島が分断されたまま非核化された場合、北は中国に完全に取り込まれ、植民地になるだろうとしています。
さらに、元トランプ大統領の補佐官であったボルトン氏は、もっと直裁に、著書「The Room Where It Happened」(2020年)の中で、次のように述べています。
「北朝鮮の核兵器は、朝鮮半島における中国の影響力拡大を実質的に抑制してきた。北朝鮮は中国の属国になることを恐れており、核兵器は朝鮮半島に対する中国の軍事介入を困難にする」
ボルトン氏 |
また、ロバート・ギャリー元駐韓米国大使(2011-2014年)も同様の見解を示しています。 「北朝鮮は中国が朝鮮半島に介入することを嫌がっており、核兵器はその抑止力になっている」
つまり、これらの米国の戦略家らは、北朝鮮の核・ミサイル能力が中国の朝鮮半島進出への「緩衝材」の役割を果たしてきたと主張しているわけです。
これは、正しいとか正しくない、望ましいとか望ましくないの判断とは別に、現状はそうだといえるでしょう。
これを前提として、もう一度「日中韓3か国は共同宣言で、朝鮮半島の完全な非核化の実現に向け、対話や外交、また国連安保理決議の履行の重要性を唱える」とはどのように捉えられるでしょうか。
そうです、これは「中国」にとって最も良い宣言ということになります。無論このような宣言をしたからといって、朝鮮半島では、朝鮮戦争の休戦状態が続いており米国やロシアも関わっており、すぐに北朝鮮の非核化が実現するというわけではないですが、それにしても中国にとっては最も都合の良い宣言となります。
これは、目先だけのことを考えた場合、良いことづくめのようにみえるものの、その実中国を利することになることのわかり易い事例だと思います。
これに似たような事例は過去にもあります。
香港返還式(1997年) |
たとえば、香港返還(1997年)です。イギリスが150年以上にわたって植民地支配していた香港を中国に返還した事件です。香港返還は、中国の国際的なイメージ向上に繋がり、経済発展にも貢献しました。しかし、近年は中国による香港への統制強化が問題視されており、一国二制度の原則が揺らいでいるとの批判もあります。
中国は、2001年にWTOに加盟しました。これは、中国の輸出拡大と経済成長をもたらしたのですが、知的財産権侵害、環境問題、人権問題悪化などの課題も露呈しました。中国は現在でもWTOルール遵守することなく、本来WTO加入に必要であった実施すべき改革などを実施していません。
このような中国の態度をみれば、朝鮮半島の非核化について、日中韓で軽々しく論ずれば、中国に利することになる可能性は否定できません。
やはり、朝鮮戦争休戦の当事者等が、交渉すべきでしょう。
朝鮮戦争は1950年から1953年までの3年間、朝鮮半島を舞台に北朝鮮と韓国の間で繰り広げられた東西冷戦の代理戦争でした。多くの犠牲者を出したこの戦争の終結に向け、1953年7月27日に板門店で朝鮮戦争休戦協定が調印されました。
この協定は戦闘行為の停止と休戦ラインの設定などを定め、事実上の戦争終結を宣言しましたが、正式な平和条約は締結されていません。休戦協定の署名国は北朝鮮、中国、朝鮮人民軍、国連軍司令部(米国が間接参加)の4カ国でした。
ソ連と韓国は署名していませんが、前者は北朝鮮支援、後者は休戦ラインで北朝鮮と対峙しています。協定締結から70年近くが経過した現在も、朝鮮半島には緊張が続き、再び戦争になる可能性も否定できません。
北朝鮮の非核化を推進するというのなら、これらの国々で交渉をし、米国として韓国に核を配備することを認めさせるべきでしょう。これがなければ、先にも示したように中国が朝鮮半島全体に浸透する可能性があるからです。
そうして、これも私だけの突飛な考えというわけではありません。実際、1958年から1991年まで、韓国の群山空軍基地に米国の核兵器(戦術・戦略核)が配備されていました。当時の目的は、北朝鮮の脅威に対抗し、韓国の安全保障を強化することでした。
しかし、1991年、米国は韓国からすべての核兵器を撤去しました。ただし、近年、北朝鮮の核開発の進展を受けて、韓国内で独自の核武装を求める声が高まっています。2021年の世論調査では、韓国国民の60.2%が韓国の核武装に賛成していることが分かりました。韓国保守派は、米国による核兵器の再配備を代替案として追求してきましたが、実現していません。
北の核がなくなり、韓国にも核がないということになれば、朝鮮半島はいずれ中国に浸透され、朝鮮半島全体が中国の朝鮮自治区や朝鮮省になる可能性もあります。それを防ぐためにも、米国は韓国の核を配備をすべきでしょう。また、北朝鮮が望めば、北の民主化などを条件に、北にも核を配備すべきでしょう。
現状では、米国が再び韓国に核を配備することは困難を極めるでしょう。ましてや北にそれを配備することなど考えられません。であれば、現状維持をするしかないというのが、実情です。それが、北の非核化がなかなか進まない本当の理由だと思われます。
現状では、米国が再び韓国に核を配備することは困難を極めるでしょう。ましてや北にそれを配備することなど考えられません。であれば、現状維持をするしかないというのが、実情です。それが、北の非核化がなかなか進まない本当の理由だと思われます。
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