2022年10月19日水曜日

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性―【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性

岡崎研究所

 9月22日付の英Economist 誌が「金正恩が彼の核兵器への権限を委譲することを考えている。この政策は抑止力を強化するが、事故のリスクを高める」と論じている。

 尹錫悦韓国現大統領は、繰り返し自国の「kill chain」計画(攻撃が差し迫ったと考えられたら、北朝鮮のミサイル施設とその指導部を先制打撃するシステム)について言及した。

 金正恩は9月8日の演説で「核兵器が地上にある限り、かつ帝国主義が残る限り、決して核を手放さない」と述べた。彼は北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布した。核兵器は指導部と核司令部が「危険に晒された」ときに、「自動的かつ即時に」発射されうることになった。

 この動きは北朝鮮の抑止力が相当成熟したことを示す。以前は金が核を使う唯一の権威であった。新法は金が核兵器に関する唯一の指揮を持つとするが、彼がその権限を委譲する可能性を開いている。法令は、金の命や彼の政権を支えている兵器へのいかなる攻撃も核戦争になり得るとした。

 核のボタンに指を置いている人は、兵器が常に必要な時に使えると同時に、適切な許可なしには決して使われないことを欲するが、核についての権限移譲は、無許可使用と事故による使用のリスクを高めることになる。

 金王朝は70年間続き、軍がクーデターをできないようにしてきた。部下に核コードを引き渡すと、彼らに金正恩を不安にする力を与えることになりかねない。核攻撃を始める権限を前もって与えることは技術的、人間的エラーの可能性を増やす。間違った攻撃探知システムからの情報に基づいて司令官が攻撃を命じることはありうる。

 このようなリスクは韓国と米国に注意深く行動する動機を与えるかもしれない。金が新兵器を開発するのを止めるものはほとんどない。金政権には脅しや制裁は効かない。

 尹大統領の非核化への「実質的進展」と引き換えに北朝鮮経済への協力をするとの提案は全くの軽蔑で迎えられた。金の妹は尹を「ナイーブな子供」と呼んだ。

 核の脅威は金政権の存続を助けている。しかし彼の許可なしに核兵器が発射されれば、彼は究極的な敗者になろう。米国と韓国は核使用は彼の政権の破滅になると明言してきた。

* * * * * *

 北朝鮮の最高人民会議は9月8日、核兵器の使用の原則や条件を盛り込んだ法令を採択した。この法令は11項目からなる。

 金正恩国務委員長が核兵器に関するすべての決定権を持つとしつつ、「指揮統制システムが敵の攻撃の危機に瀕した場合、自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」としている。具体的には「核兵器や大量殺りく兵器による攻撃のほか、国家指導部と核兵器の指揮機関、国の重要戦略対象に対する攻撃が、行われたり差し迫ったりしたと判断した場合、核兵器を先制攻撃に利用する」としている。

 この法令が金正恩から部下に核兵器に関する権限を委譲するものかどうかは明確ではないが、「自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」ためには、このエコノミスト誌の解説記事が指摘するように核兵器に関する権限の委譲が必要なように思われる。そしてそれは人間的、技術的エラーによる核戦争の開始の可能性も高めるだろう。

日本を取り巻く国際戦略環境は悪化するばかり

 金正恩は「核兵器政策の法制化により、(北朝鮮の)核保有国としての地位が不可逆的になった」と演説で述べた。松野博一官房長官は「北朝鮮の完全な非核化に向け、日米や日米韓で緊密に連携していく」と述べたが、完全な非核化は当面達成できない目標であると思われる。願望の表明は政策にはならないことを踏まえ、対北朝鮮政策を今一度日米韓3カ国でレビューする必要があるのではないか。

 特に北朝鮮の首脳を標的にする「kill chain」計画を声高に話すことにはあまりメリットがないと思われる。核兵器の使用については、米国は permissive action link というものを開発してきた。これは要するに大統領が特定の暗号を特定の器具に入力しないと米国の核兵器は起爆しないというものである。

 北朝鮮も類似の技術を開発し、持っていると思うが、その詳細は分からない。今度の法令についても、慎重に対応すべきであり、より詳細かつ正確な情報を日本として確保、分析し、対処の方針、政策を立てる必要がある。

 最近、特に本年(2022年)の北朝鮮のミサイル発射の頻度と、その性能向上の現実に鑑みると、核保有国としての北朝鮮の動向は、相当危険な方向にあり、日本を取り巻く国際戦略環境は、悪化するばかりであり、改善していない。日本政府の対北朝鮮政策の方針は、「核、ミサイル、拉致」問題の包括的解決であるが、北朝鮮からのミサイル発射の状況を見るだけでも、包括的解決が遠のいているように感じられる。

 日本政府が凍結させたイージス・アショアの代替案を、日本政府から米国に提案することも含め、日本自ら日米同盟を強化し、独自の防衛を強化する具体策を実行して行かなければ、現在の国際戦略状況が改善することは難しいだろう。

【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮のミサイル発射をマスコミなどは挑発と言っていますが、北は安全保障のために核ミサイルの戦力化を図っていると見るのが正しいです。日米韓が北の核廃絶に努力したとしてもそれは不可能です。北の核武装を前提に我が国も安全保障を考えるべきです。北の核廃絶が出来るとは米も考えておらず、さらにはそれが良いこととも思っていないでしょう。

このブログでは、何度か掲載してきたように、朝鮮半島に北朝鮮とその核があるということ自体が、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる面があることは否めません。

金正恩は、明らかに中国を嫌っています。それは、中国に近いとされる血を分けた金正男を 2017年に暗殺、これまた中国に近いとされた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を2013年に処刑しています。

金正恩が中国を嫌うのは、北朝鮮の実体は、金王朝であり、金正恩の使命は、金王朝を守り抜くことであり、中国に浸透されれば、王朝の存続が危うくなるからです。

金正恩は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐためにも、核ミサイルの戦力化を図っているのです。

それは、米国も理解していることでしょう。米国にとっては、朝鮮戦争の休戦ラインの現状維持をすることが、朝鮮半島情勢においては最も重要なことです。これは、中国もロシアも変わらないです。

中国にとっては、北が核を放棄することは、好ましいことであり、そうなればすぐに北に浸透し、韓国にも浸透を開始し、ある程度の年月をかけても、いずれ朝鮮半島全体を中国の朝鮮人民による自治区にするか、完全に中国に取り込み朝鮮省にする腹でしょう。

下に、中国外務省から流出したとされる極東の地図をあげておきます。この地図、どうやら偽物のようですが、それにしても、日本を中国領にすることは、米軍も駐留しておりかなり難しいと考えられますが、朝鮮半島が中国の領土となることはあり得ると思います。

無論、それに対して米国はこれに徹底的に抵抗するでしょうが、朝鮮半島全体が中国に浸透されるということは多いにあり得ると思います。北朝鮮はこれを脅威と捉えていることは間違いないでしょう。

であれば、米国にとっても、ロシアにとっても、現状維持のためにも、北に核ミサイルがあることを許容せざるをえないというのが、基本的な立ち位置でしょう。ただ、北がさらに核ミサイルの開発をすすめて、米国やロシアの脅威になることは避けたいでしょう。

最近では、ロシアはウクライナ侵略で、朝鮮半島どころではないというのが正直なところでしょう。米国としても、ウクライナの対応にかなりの労力を割かざるを得ません。そのため北朝鮮は、特に中国の脅威に対して対抗しなければならなかったと考えられます。

北としては、こうしたこともあり、朝鮮半島での軍事バランスが崩れることを恐れて、米中に向けても、一連のミサイル発射実験をしたという側面は否めないと思います。中国に対しては、現在の情勢を利用して、朝鮮半島に浸透することを牽制するためと、米国に対して、半島から目を離さないようにさせるという意味合いもあったでしょう。

北朝鮮にとって日本の位置は丁度ミサイルの実験場のようなものです。本当にグアム方面に撃って米国を激怒させれば、自国が崩壊するので、東にしか撃てないです。日本では、報道されないだけで、北朝鮮はロシアなどに向けておびただしい数のミサイルを撃っています。東方向への発射はかわいいくらいの数です。ただ、中国に対しても黄海などに控えめにときたま打っています。

何しろ、北朝鮮は中国と国境を接しています。ロシアとも国境を接していますが、国境線は長くありませんし、中国にはすぐ近くに、大部隊が存在します。これになだれ込まれれば、北にはなすすべもありません。

台湾も中国の脅威にさらされているといいながら、台湾は島嶼国であり海に囲まれていまます。北にとって中国の脅威は、台湾などよりもより切実で、切羽詰まっているところがあります。

国境を接していることから、中国の陸上部隊は、すぐに北に侵攻できます。ウクライナに国境を接しているロシアのようです。だからこそ、北としては現在核ミサイルを打って、中国に対する牽制を行う必要があったとみられます。日本では、こうした視点はほとんど語られません。米国でも語っていたのは、ルトワック氏くらいなものです。

そうして、北の安全保証の仕上げが、北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布したことと、これから実行されるとみられる核実験であると見られます。これにより、金正恩はたとえ自分が暗殺されても、報復する構えであることを表明したともいえます。

それまでもそうだったのですが、ウクライナ戦争後、北朝鮮は完全に孤立している状態です。戦力的には、ミサイル以外の通常兵器は、第2次世界大戦末期のものですから、米中と戦えば5日で完敗するでしょう。

それをわかっているので、日米韓中露の演習に大反発するのです。米国のミサイルを備えた『B-2』戦略爆撃機が北朝鮮の付近を飛ぶだけでもかなり脅威を感じているはずです。この爆撃機に搭載されているミサイルは、北朝鮮のどこにでも届くからです。空母打撃群による演習もにもかなり神経を尖らせていることでしょう。

それは、中国の演習なども同じことです。台湾向けの演習であっても、すぐ近くの北朝鮮は気がきでないというのが実状でしょう。

米国の研究グループ「38ノース」は、9月下旬に北朝鮮北東部の核実験上で、クレーンを搭載したとみられるトラックの近くで高さ約11m、幅約1mの白い物体を確認したとして、7回目の核実験の準備を進めている可能性を指摘しています。 

北朝鮮は、次に小型化に関する実験をするだろうという見方は、6回目が終わった時点で強く指摘されていました。今年に入っての多様なミサイル、それらに小型化された核弾頭を積める可能性というものを示すための実験になるでしょう。

小型化に成功すれば、“火星12の性能と合わさった時にどうなるかわかるだろう”ということを振りかざしてくる可能性があるので、非常に注目していかなければならないです。

一方、核を保有しているのは北朝鮮だけではありません。日本政府は「北朝鮮のミサイル防衛」と言いますが、いい加減、ごまかすのはやめたほうがい良いでしょう。


中国軍は北朝鮮軍の数倍数十倍の対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを取りそろえ、日本全土を焦土と化す態勢を整えているのです。

本当の脅威は中国の核ミサイルです。そこがすっぽり抜けて「北朝鮮は~」と言っているのは滑稽としか言いようがありません。米国は、北朝鮮も最大の脅威を感じている中国を見ているからこそ、日米同盟、米韓同盟の強化、日米韓も含めての安全保障協力を進めています。

北朝鮮のミサイル発射実験を注視していく必要はありますが、北も脅威を感じる中国に対する対処こそ日米韓が協力していくべき理由であることを忘れるべきではありません。

そうして、日本が中国の脅威に対抗するためには、もはや抑止力の強化しなかないことを認識すべきです。

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