2022年10月21日金曜日

トラス英首相が辞任を表明―【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

トラス英首相が辞任を表明

つい一日前辞任を否定していたトラス首相

英国のトラス首相は20日、与党保守党の党首を辞任すると表明した。党首選を行い、後任を決めた後、首相を辞任する。金融市場の混乱を招いた大型減税策を撤回したものの、党内からは辞任圧力が高まっていた。トラス氏はジョンソン前首相の後任として9月6日に就任したばかりだった。

【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

経済失策をめぐり批判の集中砲火を浴びるイギリスのトラス首相は10月17日夜、政策上の「過ち」を認めて謝罪する一方、首相として引き続き職務を果たすと宣言しました。

市場の混乱を招いたとされる政府の大型減税案は、首相が責任を取らせ更迭したクワーテング前財務大臣の後任であるハント財務大臣によって、ほぼすべて撤回されました。

ハント財務大臣

トラス政権が発足から約1ヵ月ですが、窮地に陥り、崩壊してしまいました。

その裏で再登板を狙うジョンソン前首相が動いていたようです。

ジョンソン氏自身は、辞めるつもりはないのに辞めました。そのときから、次の首相が「仮の首相」になるように動いていた形跡もあります。

それに嵌められて、トラス首相は経済通というわけではないので急に富裕層優遇の税制を実施したというような陰謀論までは言いませんが、「あり得るな」という感じはします。

ジョンソン前首相は、少なくとも経済の話は嫌いではありません。人脈も非常に広いので、「こうしたらこのようなことになる」と読んでいた節もなくはないです。保守党のなかでも首相擁護論はほとんど出ていません。

トラスさんに人望がないからだと言われたら、その通りなのかも知れませんが、保守党内の底を流れるものとして、ジョンソン氏の議論ががあります。その根回しは間違いなく実施されていたと考えられます。


それがアングロサクソン流のやり方です。トラス氏は、もともとジョンソン政権を最後まで支えた人という、その忠臣ぶりがありましたが、ジョンソン氏は、そのようなことは全然気にしていないようです。

それがアングロサクソン流といえるかもしれません。だからこそ、英国にはチャーチルのような人物は出てきたともいえます。あれだけ嫌われていても、戦争の危機になれば急に首相として登場し、終戦直前にになって用済みになったら首相選で落選しました。

これが英国なのです。だから生き延びてきたのです。

イギリスの現状をみて「日本も減税などしたらインフレになってしまうのだ」という意見も多く見られます。

特に、財務省はそう言いたいでしょう。おそらく、財政制度等審議会でその話をするでしょう。英国経済で言うと、EUから離脱してしまったあとに、安い労働力が入らなくなってしまったため、供給力が落ち気味になってしまったことも事実です。さらに、ウクライナ戦争で、エネルギー・資源価格が高騰しています。だから、元々インフレになりやすい状況になったのです。そこに今回のようなことがあったので、インフレになってしまったことは間違いありません。

ただ、積極財政をするにしても、減税や様々な支援策によって、エネルギー・資源価格の高騰を和らげるという政策は、決して悪い政策とはいえません。いかにも保守らしい政策ともいえます。にも関わらず、今回の辞任劇になってしまったのは、やはり政治的動きが強かったとみるべきです。

そのため、私はこれからエネルギー・資源価格がさらに高騰すれば、英国はトラス首相と同じような政策をとらざるをえなくなる可能性も十分あると思います。

そうして、インフレになってしまえば、金利高、債券安、株安になるのは当たり前です。これを日本のマスコミ等はトリプル安などと騒ぎたてていますが、実はさほどのことではありません。

現在の英国の通貨安は米国との関係があります。米国が強烈に金融引き締めをしているので、英国も日本と同じように通貨安になったのです。そうして、この通貨安は日本にとっては良いことですが、英国にとっても悪いことではありません。通貨安は近隣国窮乏化ともいわれるように、経済を伸ばすことが知られています。そのため、インフレの英国にとっては、通貨安で救われている部分はあります。

この通貨安によって、トラス首相の経済対策は、功を奏したかもしれない可能性はあります。

この通貨安でも、トラス首相は、いろいろ仕掛けられた面もあると思います。日本のように通貨安を悪い事のように吹聴することもできます。今回の辞任劇は、政治的な要素が大きいと思います。

現状では、英国は確かに金利高、債券安、株安とはなっていますが、英国の破綻確率は変わっていません。

そういう意味では、マーケットもこのような売り仕掛けが政治的であることはわかっているので、提灯がたくさんくっついて、トラス卸しが実行されたのでしょう。財政懸念がどうのというほど、実はデータ的にはそうなっていません。

破綻確率を示すクレジット・デフォルト・スワップは、少し高くなりましたが、さほどではなく、何か動きがあれば変化する程度です。それに、すぐ戻りました。破綻するという話がまことしやかに出ているわけではないのですが、マーケットへの噂などでやられたのではないでしょうか。

中長期的には、エリザベス女王2世という社会の重石を失って、かつてスキャンダルがあった国王になり、政治にもおかしな動きがありました。

スコットランドはEUに戻りたいので、分離論がまた出てきます。もし英国が分裂したら、世界の破綻要因です。

ただ、トラス氏が日本のマスコミが語るポピュリスト的経済政策で、英国経済を極度に落としたとか、落とすだろうという見方は正しいとはいえないです。高橋洋一もこの点について、少し前の動画で語っています。その動画を以下に掲載します。


経済政策がどうのこうのということよりも、政治的な動きがトラス氏を追い込んだというのが正しい見方でしょう。それにジョンソン氏だけが、政治的な動きをしたわけではないことも事実でしょう。おそらく、複数の筋が動いていたことでしょう。

今後、英国経済が極端に落ち込むこともなく、政局だけが動いているという形になるでしょう。そうして、トラス辞任劇の裏側も新首相が決まってから、しばらくすれば表に出てくることでしょう。

トラス首相は日本にとっても良い首相になるはずでしたが、今後首相が変わったにしても、日英の関係はこれからも強化されていくことでしょう。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。

ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本

日本は中国の海洋進出を警戒していますし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。

今回のトラス首相の辞任劇は、純粋に英国内の政治的な動きであり、それが日英関係に悪影響を及ぼすことはないとみられます。

そうして、日本でももう少しすると、同じような動きがあるかもしれません。

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