2022年10月27日木曜日

社説:英政権の混乱 他山の石としなければ―【私の論評】英国を他山の石としてはいけない日本のマクロ経済の現状を、岸田首相は理解しているか(゚д゚)!

社説:英政権の混乱 他山の石としなければ

スナク新首相

 英国の保守党政権で混乱が続いている。先月首相に就いたばかりのリズ・トラス氏が、経済政策の迷走により英史上最短の50日で辞任し、インド系のリシ・スナク氏に交代した。

 国内政治の安定と経済の再建に手を尽くすとともに、秩序が揺らぐ世界で国連5大国としての役割を果たしてもらいたい。

 ジョンソン政権の外相だったトラス氏は、党首選の決選投票で財務相だったスナク氏を破り、サッチャー氏らに続く史上3人目の女性宰相として注目された。

 だが、看板公約だった年450億ポンド(7兆円超)の大型減税を実施しようとして、市場から強烈な「ノー」を突きつけられた。通貨ポンド、国債、株がそろって急落する「トリプル安」に陥ったのだ。

 裏付けとなる財源を手当てしなかったのが大きい。英中央銀行がインフレ抑制のため利上げを続ける中、物価高を助長する企業や富裕層を含めた大型減税を行う矛盾も、市場の不信を招いた。

 トラス氏は財務相の更迭や減税撤回などで軌道修正を図ろうとしたが、英と「特別な関係」とされる米国のバイデン大統領からも「(政策が)間違いだと思ったのは私だけではないだろう」と批判され、進退が窮まった。

 大盤振る舞いで人気取りに走った末路と、他国も冷笑してはいられないだろう。日本では自民党内で、国債を無制限に発行しても財政は破綻しないと主張する勢力が歳出拡大を求め続けている。

 しかし、英の失政が示す通り、通貨の価値や信認を決めるのは一国の政治ではなく、国際市場であることを忘れてはなるまい。

 他山の石として、特に先進国は将来にわたって持続可能な財政を維持する責任を共有すべきだ。

 無投票で党首に選出され、首相に就いたスナク氏は、英史上最年少の42歳にして初のアジア系である。金融業界出身で財政規律を重視する立場から、先月の党首選ではトラス氏にこき下ろされた。

 膨らんだ政府債務を圧縮しつつ、記録的な物価高騰に疲弊した国民生活を支える難題に挑まねばならない。ウクライナ支援ではロシアへの厳しい姿勢を堅持し、国際協調を主導する必要がある。

 欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票があった2016年以降、首相が4人も交代した保守党に対し、支持率を伸ばす野党労働党は総選挙を求めている。政権の方策を示した上で、国民の信を問うのも選択肢ではないか。

【私の論評】英国を他山の石としてはいけない日本のマクロ経済の現状を、岸田首相は理解しているか(゚д゚)!

英国のトラス前首相の後任として与党・保守党の党首に決まったスナク元財務相(42)は10月25日、ロンドンのバッキンガム宮殿で国王チャールズ3世の任命を受け、新首相に就任しました。

バッキンガム宮殿で国王チャールズ3世(左)の任命を受け、新首相に就任したスナク氏

私は、この以前このブログで、今回のイギリスの政変は、経済というよりも英国保守党内の内部政局によるものが多いということ掲載しました。ただ、誤解のないように言っておきますが、トラス前首相の経済政策が正しいとは言っているわけではありません。

マクロ的にいえば、あり得ない政策です。さらに、減税政策もあながち間違いではないとしましたが、それはたとえばコストブッシュ要因として、海外由来のエネルギーや資源価格に対して、減税などすべきとは思いましたが、多くの品目に対して減税するのは明らかに間違いです。

現在の英国経済の状況で減税策を行うことは、マクロ経済政策の解としてあまり考えらません。英国はEUを離脱し大陸からやすい労働力が入らなくなってしまったことと、さらに現在ではロシアとの関係でエネルギー・コストが上がり相対的にコストアップになっています。

英国の現状の経済をマクロ経済的に見ると、「総供給が下がっている」という状況にあります。そんなときに需要刺激策をしてしまえば、さらにインフレになる事になります。だから、減税策は解にはならないのです。

総供給が下がっているときには、総供給をまた戻すような政策が必要です。たとえばEUを離脱したのでTPPに加入して貿易を促進するというような政策にすべきです。このようなときに需要刺激策を実施すると、インフレをさらに亢進することになります。スタグフレーションの時としては間違った、マクロ経済的対応です。

ただし、英国はこの間、財政破綻の確率が高くなっているわけではありません。しかし、データ的に見ればトラス氏が減税策を打ち出しても、財政破綻の確率を示すクレジット・デフォルト・スワップにはあまり大きな変化がありませんでした。

日本でも、このような減税策をするのは財政規律の観点からあり得ないと言う人がいます。上の記事もそのような論調です。

ただし、日本と英国とでは、マクロ経済の状況が全く違います。

日本の場合は総供給が多くて需要が少ないので、総需要刺激策は有効な対策となります。これは、経済状況によって、インフレ・ギャップとデフレ・ギャップがあり、これらへの対応は異なるため、それに応じてマクロ対策を行わなければいけないという格好の事例です。

英国と日本のマクロ経済の状況の違いをまとめると下の図のようになります。

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このマクロ経済の状況から、日英で同じマクロ経済政策をすることは明らかに間違いです。

ただ、一ついえるのは、コストプッシュの要因となる、海外由来のエネルギーや資源に対して、日本ではこれに対して、減税をしたり、補助するのは当然ですが、英国でもこのような分野に限って減税や補助をするということはあり得ることです。

日本では、総合経済対策が近く岸田政権から発表される見込みです。

日本では、総需要を喚起させるような減税をすべきです。そのような政策が出ないと30兆円もあるとされる、需給ギャップを埋めることができないので、日本経済が回復するのは難しくなります。

政府・与党は27日、総合経済対策の全容を固めました。焦点となる規模は財政支出ベースで39.0兆円とし、民間企業の支出も含めた事業規模を71.6兆円とします。

新型コロナウイルス禍を受けた大規模な対策を除けば、消費税引き上げ後の2019年12月に当時の安倍内閣がまとめた経済対策(財政支出13.2兆円、事業規模26.0兆円)、参院選勝利後の2016年8月の対策(財政措置13.5兆円、事業規模28.1兆円)を大幅に超える規模となる。

対策を膨らませることで物価高や円安に対処するほか、世界的な景気減速懸念に備える狙い。複数の関係者によると、岸田文雄首相が鈴木俊一財務相に予算規模を拡大するよう指示する異例の措置を取り、歳出を積み上げました。財政支出は当初案から4兆円上積みしました。

財政支出のうち国・地方の歳出を37.6兆円、財政投融資を1.4兆円とする。国の支出である国費は35.6兆円となる。

国費のうち2022年度2次補正予算は29.6兆円と想定。一般会計で29.1兆円、特別会計で0.5兆円としています。財投追加額は1.0兆円とします。

総合経済対策は、1)物価高騰への対応と賃上げ加速、2)円安を生かした稼ぐ力の強化、3)新しい資本主義の加速、4)国民の安全・安心の確保――を柱とし、28日に閣議決定します。

財政支出ベースでは物価高騰・賃上げ対策に12.2兆円、円安対策に4.8兆円をそれぞれ計上します。岸田首相が看板政策とする新しい資本主義実現に6.7兆円を充て、国土強靭(きょうじん)化などに10.6兆円を支出ます。新たに「今後への備え」との枠を設け、4.7兆円の財政支出を見込みます。

最終案によると、事業規模としては物価対策37.5兆円、円安対策8.9兆円、新しい資本主義実現9.8兆円、国土強靭化10.7兆円などとなるとしています。

財務真理教教団長

ただ、このブログで示したように、財務真理教のトリックなどもありますから、この中にどれくらい去年の繰り越し金が入ってるのか、また新規国債発行はいくらなのか、為替特会の含み益は含まれているか、防衛増税は実施するのかなど、これから出てくる詳細の資料をみてみないと何ともいえません。


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