2022年10月3日月曜日

長期化するウクライナ戦争 露わになるプーチンの誤算―【私の論評】2024年プーチンが失脚しても、ロシアは時代遅れの帝国主義、経済を直さないと、ウクライナのような問題を何回も起こす(゚д゚)!

プーチンの傲慢さは、日露戦争の「悲惨なロシア」と酷似している

1904年2月、日本軍が満州でロシア艦隊を攻撃する様子

ウクライナ侵攻で苦戦するプーチンは、もはや後に引けなくなっている。その裏には、彼の過剰な自信と油断がうかがえる。かつて日露戦争で小国ニッポンを過小評価して敗北したニコライ二世のように、プーチンも同じ道を辿るのだろうか──。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自らを歴代のロシア皇帝になぞらえ、過去の輝かしい戦勝の記憶を国民に思い出させようとしている。6月、プーチンは18世紀の大北方戦争でバルト海沿岸地域の領土を「奪還し、強化した」ピョートル大帝(ピョートル一世)を讃えた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が長引くなか、歴史家からはプーチンを初代ロシア皇帝よりも、むしろ日露戦争(1904~05年)で莫大な被害を出したニコライ二世に重ねる声が上がりはじめている。

この2つの戦争に共通点があることは否定できない。ニコライ二世が日本を過小評価していたように、プーチンもウクライナはすぐに降伏すると思い込んでいた。

ニコライ二世がロシア海軍の敗北によって面目を失ったように、プーチンも想定外の苦戦を強いられている。特にロシア軍の黒海艦隊の旗艦がウクライナの攻撃を受けて沈没したことは象徴的な敗北となった。それだけではない。日露戦争でロシア軍が繰り広げた残虐行為がニコライ二世の統治に影を落とし、ロシアの国際的地位を傷つけたように、ウクライナでの戦争はロシアとプーチンの評判に深刻な打撃を与えている。

「日本に勇気があるはずがない」という思い込み

もちろん、この2つの戦争には違いもある。最大の違いは、日露戦争はロシアではなく日本が仕掛けた戦争だったことだ。

また、ニコライ二世の傲慢さの背景には、人種差別的な側面があった。「大国ロシアにとってアジアの国など恐れるに足らず、日本にロシアの軍隊を攻撃する勇気などあるはずがない」という考えだ。しかし1904年2月4日の夜、この思い込みは粉々に打ち砕かれた。日本の駆逐艦隊が満州の旅順港に停泊していたロシア艦隊に奇襲をかけたのだ。

日露戦争の背景には、満州の支配権をめぐるロシアと日本の思惑があった。第一次世界大戦に先立つ日露戦争は「第ゼロ次世界大戦」とも呼ばれる。日露戦争の開戦前に行われた交渉で、日本は満州をロシアの勢力圏と認める代わりに、大韓帝国を日本の軍事・政治的勢力圏と認めるようロシアに提案した。

ニコライ二世は日本の提案に応じず、ロシアと韓国の間に中立的な緩衝地帯を設けることを要求した。この頑なな態度の背景には、盟友であるドイツのヴィルヘルム二世の存在があった。ヴィルヘルム二世はニコライ二世に対し、君は「白色人種の救世主」であり、日本人を恐れる理由などないと言い聞かせた。

日本軍の旅順攻撃は、この妄想を見事なまでに打ち砕いた。旅順攻撃は物的な被害こそ小さかったが、ロシア人のプライドに与えたダメージは計り知れない。ロシア海軍が旅順港で停泊している間に日本の攻撃を受け、主導権を握られたという事実がロシア国民に与えた衝撃は大きい。

日本軍は旅順港を包囲するために高地の要所を占拠し、長距離砲を使ってロシアの封鎖艦隊の艦船を砲撃した。これはウクライナ侵攻の初期にロシア軍がキーウを断続的に攻撃した際に、ウクライナ人がロシアの不運な戦車を破壊するために用いた戦法でもある。

結局、ニコライ二世が派遣した6隻の艦船はすべて沈没、ロシア兵は凍てつく旅順港に取り残された。補給線を断たれ、戦う大義もないまま包囲された兵士たちの士気は急速に低下した。

初の大規模な陸上戦となった鴨緑江の戦いでは、日本軍がロシア軍の東部兵団を突破した。この段階でようやくロシア、そして世界は日本の軍事力を真剣に捉えるようになる。

ロシアにとって衝撃的な敗北ではあったが、日本側の被害も大きく、ロシア軍は皇帝の信頼に恥じない働きをしたと見なされた。しかし、その名誉もロシア兵が満州の中国人を強姦し、殺害していることが報じられると失われた。この点もウクライナでの戦争と重なる。

ロシア艦隊は自らの愚行と、不運と、日本軍の巧みな操船術に翻弄され、敗走を重ねた。世界海戦史上、最も長距離で行われた砲撃戦と言われる1904年8月の黄海海戦でも、日本の連合艦隊はロシア艦隊に勝利した。

約5000人のロシア兵を失う

それでもなお勝利を確信していたニコライ二世は、ロシアが誇る強大なバルチック艦隊をヨーロッパからはるばる極東へと向かわせた。しかし、この援護作戦は大失敗に終わる。バルチック艦隊は途中、北海で数隻の英国の民間漁船を日本軍の襲撃船と誤認して砲撃するという失態を犯し、ニコライ二世の海軍は世界中から嘲笑を浴びた。

7ヵ月後の1905年5月、バルチック艦隊は長い航海の果てにようやく極東に到着するが、疲労の色は濃く、ものの数時間で壊滅した。ロシアは戦艦8隻をすべて失い、約5000人のロシア兵が命を落とした。

その後、日本の陸海軍の連合作戦によって樺太が占領されると、ニコライ二世は講和を進めざるを得なくなった。日本とロシアは、セオドア・ルーズベルト米大統領の仲介の申し出を受け入れ、米ニューハンプシャー州ポーツマスで講話交渉の席に着いた。

ロシアは韓国が日本の勢力圏であることを認め、満州から撤兵することに同意した。ニコライ二世は戦争賠償金の要求を退けることには成功したが、失墜したロシアの威信を取り戻すことはできなかった。ロシア国民の怒りはロシア革命へと発展し、ニコライ二世は退位を余儀なくされ、後に処刑された。

プーチン率いるロシアは、世界ののけ者に

あくまで、ウクライナでの戦争は日露戦争と酷似しているわけではない。しかしプーチンがウクライナ人を著しく過小評価していたことと、侵攻がもたらす戦略的影響を軽視していたことは間違いない。

かくしてフィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、プーチン率いるロシアは世界ののけ者となった。この戦いがどのような結末を迎え、プーチン政権にどのような影響を与えるのかはまだわからない。

米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所の軍事専門家で、まもなく『Military History for the Modern Strategist(現代の戦略家のための軍事史)』を上梓するマイケル・オハンロンは「交戦国の顔ぶれ、戦闘の性質、地理、帝国主義的な野心、戦闘の随所に見られた人種差別的な側面など、細部を見れば日露戦争とウクライナでの戦争には相違点も多い」と語る。しかし、こう続ける。

「ロシアの大規模な軍事行動に散見される過剰な自信と油断──この点に注目すれば、この2つの戦いにぞっとするような類似性が認められることは確かです」

【私の論評】2024年プーチンが失脚しても、ロシアは時代遅れの帝国主義、経済を直さないと、ウクライナのような問題を何回も起こす(゚д゚)!

フィナンシャル・タイムズ紙は、「プーチンの諸々の誤算(Vladimir Putin’s catalogue of miscalculations)」と題する社説を9月17日付で掲載している。社説の主要点は次の通りです。

・ハルキウ地方でのロシア軍の敗走は、ロシアの大きさと軍事力が、より小さなウクライナを簡単に制圧でき、ウクライナ人はロシアを「解放者」として歓迎するとのクレムリンの間違った期待を再度際立たせた。

・同地方での敗走は、それまで投入した兵力をキーウ周辺と北部から同地に振り向ければ、総動員なしでも東部ウクライナ全域を占拠、保持できると考えたモスクワの過ちを明らかにした。

・西側諸国が彼ら自身の経済をも傷つける対ロシア制裁に対し意欲を欠き、西側の団結は早く壊れ、キーウに戦争をやめるように圧力をかけるという前提も誤りだった。プーチンは欧州への天然ガス供給を急激に減らしたが、欧州連合(EU)各国間に相違は残るものの、共同の準備と衝撃緩和のための大きな前進が見られた。

・西側の協調した反対姿勢は、非西側諸国、特に中国が米国中心の国際秩序に挑戦するという共通の利益のために味方になるとの、プーチンのもう一つの前提についても、後退を余儀なくさせた。

・上海協力機構会議で、習近平はウクライナ戦争への「疑問や懸念」をロシアに伝えるとともに、カザフスタンに対し「いかなる勢力の干渉」(注:ロシアの干渉が最もあり得る)に対してもカザフスタンの主権と一体性を守ると述べた。

・同じくインドのモディ首相は、今は「戦争の時期ではない」と述べ、公にウクライナ侵攻を批判した。

・プーチンの誤算は西側民主主義国には朗報であり懸念材料でもある。これまでの多くの誤算は、プーチンがウクライナでより広い敗走に直面した場合、今後の彼の決定も賢明であるとは信頼できないことを示すからだ。

プーチン大統領がウクライナ4州のロシアへの編入を強行し、この地方の奪回を「ロシアに対する攻撃」と核兵器で反撃する口実を与えることになったが、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)諸国は、その場合ロシアの黒海艦隊の殲滅など壊滅的な打撃を与えると警告しているようだ。

米国を訪問していたポーランドのズビグニェフ・ラウ外相は27日NBCテレビの報道番組「ミートザプレス」に出演し、ロシアのプーチン大統領が核兵器使用も辞さないという態度を示していることについて次のように語りました。

ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相

「我々の知る限りプーチンは戦術核兵器をウクライナ国内で使用すると脅しており、NATOを攻撃するとは言っていないのでNATO諸国は通常兵器で反撃することになるだろう」

ラウ外相はこうも続けました。

「しかしその反撃は壊滅的なものでなければならない。そして、これはNATOの明確なメッセージとしてロシアに伝達している」

これに先立ち、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当補佐官は25日の「ミートザプレス」に出演し、ロシアが核兵器を使用した場合は「ロシアに破滅的な結果を与える」と言い、これはロシアの当局者との個人的なやりとりを通じてロシア側にはっきりと伝えてあると言明しました。

その「壊滅的反撃」や「破滅的な結果」をもたらすものが具体的にどんな作戦なのかは不明ですが、それを示唆するような記事が英紙「デイリー・メイル」電子版21日にありました。

「独自取材:プーチンがウクライナで核兵器使用に踏み切った場合、米国はロシアの黒海艦隊やクリミア半島の艦隊司令部に対して壊滅的な報復をするだろう、元米陸軍欧州司令官が警告」

2018年まで米陸軍欧州司令官をしていて、今はシンクタンク欧州政策分析センターの戦略研究の責任者をしているベン・ホッジス退役中将がその人で、「デイリー・メイル」紙のインタビューに次のように語っています。

「プーチンがウクライナで核攻撃を命令する可能性は非常に低いと思う。しかし、もし戦術的な大量破壊兵器が使われたならば、ジョー・バイデン大統領の素早く激しい反撃に見舞われることになるだろう」

その具体的な作戦についてホッジス中将は以下のように語りました。

「米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。だからプーチンや彼の取り巻きたちは米国をこの紛争に巻き込むようなことは避けたいと思うはずだ」

ホッジス中将が米国の作戦を承知していたとは思わないが、米軍の元司令官と現在の作戦立案者が考えることはそうは違わないはずです。ロシア国内に被害を及ぼさない限りでロシア軍に壊滅的な打撃を与えるためには黒海艦隊を攻撃することは効果的です。

それを米国がロシア側に警告したかどうかも定かではないですが、英国防省は20日のウクライナの戦況報告で、ロシア黒海艦隊が複数の潜水艦を、同国が併合したウクライナ南部クリミア半島のセバストポリから、ロシア本土の黒海沿岸にあるノボロシスクに移動させたとの分析を示しました。ウクライナ軍の長距離砲撃能力の向上を受け、警戒のための措置とみられるといいます。

移動したのは「キロ級潜水艦」で、黒海での船舶の安全な航行の妨げとなってきました。英国防省は、セバストポリにある黒海艦隊の司令部などが過去2カ月の間に、攻撃を受けていたと指摘しました。黒海艦隊の「虎の子」をまず逃したようにも見えます。

ソヴィエト/ロシア海軍の通常動力型潜水艦である「キロ級潜水艦}

プーチン大統領「これはハッタリではない」と豪語していましたが、米国やNATOの警告は核兵器使用に二の足を踏ませることができるでしょうか。

このブログでは、ロシア海軍の海戦能力は、日米英などに比較して、かなり低いことを掲載してきました。

特に、中露は日米に対して対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)がかなり劣っているため、ロシアには日本のステル性(静寂性)に優れた潜水艦を発見することは難しいです。一方日本の対潜初回能力は米軍と並び世界トップクラスであるため、ロシアの潜水艦を日本が探知するのは比較的容易です。しかも、太平洋等ではなく黒海という限られた海域に潜む、ロシアの潜水艦を発見するのは、さほど難しいことではありません。

ASW(Anti Submarine Warfare:対潜水艦戦闘力)に劣ったロシア海軍は、海戦においては日米の敵ではありません。現在のロシア海軍は単独で日本の海自と戦っても、勝つことはできません。一方的に敗北するだけです。

こういうと、ロシアが核原潜を持っていることを根拠に、ロシアが負けるはずがないと主張する人もいるでしょうが、破壊と海戦は別物です。海戦には目的があり、その目的を成就したほうが、勝利となります。

ロシアはいざとなれば、核ミサイルを発射して、日本の水上艦隊を壊滅させるかもしれませんが、それでも潜水艦隊を壊滅させることはできません。潜水艦隊の大部分は生き残り、反撃のチャンスをうかがい、実行することになります。

ロシアはミサイルで、ウクライナの都市を攻撃して、破壊しましたが、それでもウクライナ軍を打ち負かすことはできませんでした。それと同じことです。

海戦能力が日本よりも高い米海軍が、黒海艦隊を殲滅するのはさほど難しいことではありません。米国としては、日露戦争に破れたロシアのことは当然歴史的事実として知っていて、黒海艦隊殲滅はかなり有効な打撃であると見ているのは間違いないでしょう。

ロシアでは2024年、大統領選挙があります。西側の制裁で、その時ロシアのインフレ率は、数十%になり、輸入に依存していた消費財は店から消えてなくなっているでしょう。プーチンは当選できません。


彼を支えるシロビキ(主として旧KGB=ソ連国家保安委員会。ソ連共産党亡き今、全国津々浦々に要員を置く唯一の組織)は、自分たちの権力と利権を守るため、かつぐ神輿をすげ代えようとするでしょう。

ロシア国内では様々な思惑は入り乱れることになるでしょう。その中で国内の暴力勢力を引き込んで、ライバルを暗殺しようとする動きも出てくるでしょう。そうしてモスクワの中央権力が空洞化すると、91年ソ連崩壊の直前起きた、地方が中央に税収を送らない、勝手なことを始めるという、「主権のオン・パレード」が始まるでしょう。ロシアの中の少数民族だけでなく、主だった州も分離傾向を強めることになります。

今は21世紀なので、そんなことが起こるはずがない、と考えるのは間違いかもしれません。わずか30年前、超大国ソ連はそうやって自壊しましたし、今回は起きるはずのない文明国への武力侵略をロシアは実行してしまったのです。しかも、上で述べたように、日露戦争のときのように、愚かな方法で実行したのです。

プーチンは「ウクライナの右派過激勢力(ロシアは「ナチ」と呼んでいる)がロシアに歯向かうからいけないのだ」と言うかもしれません。しかし、そういう勢力を台頭させたのは、ロシアが14年クリミア、東ウクライナを制圧したからです。

そうて今回は武力で侵入したものですから、今やウクライナ人はほぼ全員、ロシアを憎んでいるでしょう。ロシアはロシア系の人々を守るのだ、とも言っているのですが、他ならぬロシア系ウクライナ人も、ロシア軍をこわがってポーランドに避難しています。

2024年にはプーチンは失脚するかもしれません。しかし、それでもロシアは、時代遅れの帝国主義、そして近代化に乗り遅れた経済を直さないと、ウクライナのような問題を、これから何回も起こすことになるでしょう。



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