2022年10月11日火曜日

「すべての道はクリミアに通ず」米国供与のハイマース射程内に入ればクリミア奪還で全てが終わる?―【私の論評】二十世紀で幕を閉じたと思われた列強同士の大会戦が、今世紀のクリミアで起こる(゚д゚)!

 「すべての道はクリミアに通ず」米国供与のハイマース射程内に入ればクリミア奪還で全てが終わる?

「すべての道はクリミアへ通ず」

こんな前書きではじまるツイッターが10月2日アップされた。

投稿者は2018年まで米陸軍欧州司令官をしていて、今はシンクタンク欧州政策分析センターの戦略研究の責任者をしているベン・ホッジス退役中将でツイッターはこう続く。

「ウクライナの反撃は不可逆的なはずみがついている。まもなく彼らはクリミアのロシア軍の基地をハイマースの射程内に収める地点まで達するだろう…それらの基地は防衛不能になる…そうなるともはや時間の問題だ」

ベン・ホッジス退役中将のツイート


「すべての道はローマへ通ず」という仏の詩人ラ・フォンテーヌの言葉を引用したものだが、本来は「ある目的を達成する手段はいくつもあるが、一つの真理はすべてのことに通用することをいう」(Imidas)。

そうであればホッジス中将は「ウクライナがロシアに勝利するにはいくつもの手段があるが、クリミアの奪取がすべてを決着させる」つまり「ウクライナ紛争はロシア軍をクリミアから撃退することで終わる」と予言したわけだ。

クリミアは2014年にプーチン大統領が不法にロシアに編入させ、今回編入を強行したハルキウ州など4州よりもロシア化が進んでいることやロシア海軍にとって貴重な不凍港セバストポルがあることなど戦略的にも重要な拠点だ。

クリミア半島と黒海

クリミア半島と黒海そこでロシアはあらゆる手段を講じても死守するだろうと考えられ、ウクライナも攻略は手控えるのではないかという見方が有力だったので、このホッジス予言は意外に思えた。

そう思ったのは私だけではなかったようで、英紙「デイリー・メイル」がホッジス中将にインタビューをして同中将が考える今後の予測記事を5日の電子版に掲載した。

それによると、現在ウクライナ軍は次の3方向からロシア軍を攻撃しているがそれはずべてクリミアの解放を目指すものだとホッジス中将は見る。


●まず現在南部戦線で主力部隊がヘルソンを攻略中。ヘルソン奪還後クリミアへ進軍する。

●東部では第二戦線がドンバス地方の解放を目指しているが、その役割はロシア軍の補給を断ちながら最終的には主力部隊と合流してクリミア攻略に参加する。

●この間、ウクライナの「虎の子」の予備役の部隊が東西に長く伸びたロシア軍の防衛戦を分断するように攻撃をしたのちクリミア攻略に参加する。

それでもクリミアへの攻略は熾烈を極めるだろうと考えられるが、ホッジス中将はウクライナ半島が米国が供与した高機動ロケット砲ハイマースの射程内に入ればプーチン大統領も諦めざるを得ないことになると予測する。

これまでウクライナ紛争の展開は全体像が見えにくかったが、これで各地の戦闘の意味が理解できるようになり情勢判断をし易くなった。

そうした折に起きたクリミアとロシア本土を結ぶケルチ橋の爆破は、ロシア軍の退路を断つことにもなるわけで、ウクライナ側がそれを狙ったとすればクリミア攻略は予想以上に加速しているのかもしれない。

【私の論評】二十世紀で幕を閉じたと思われた列強同士の大会戦が、今世紀のクリミアで起こる(゚д゚)!

ロシア軍は、クリミア半島と黒海をあらゆる手段を講じても死守するでしょう。ウクライナ軍は、クリミアを取り戻すため、あらゆる手段を講じることでしょう。

そうなると、ロシア軍も、ウクライナ軍も最大限の力を出して、正面から衝突することが予想されます。

これは、20世紀を最後に終わってしまったのではないかと考えらていた、会戦になる可能性が高いです。会戦とは、両軍がその主力を集中して、相会して戦う戦いです。

世界には様々な会戦の歴史があります。日本だと、奉天の会戦が有名です。

日露戦争地図

奉天会戦は、1905年(明治38)3月に行われた日露戦争最後の大規模な陸上戦です。同年1月日本軍が旅順(りょじゅん)攻略に成功したのち、満州軍総司令部(総司令官大山巌(いわお))は乃木(のぎ)軍の転進を待って第一線兵力25万を集中し、ロシア軍を殲滅(せんめつ)して戦局を決定することを意図しました。

奉天(現瀋陽(しんよう))を拠点とするロシア軍(総司令官クロパトキン)も32万の兵力を集中して対峙(たいじ)していましたが、3月1日、両軍は全線で戦闘を開始しました。戦局は容易に進展しなかったのですが、7日、9万の死傷者を出したロシア軍は次期会戦に兵力を温存するため退却しました。

10日、日本軍は奉天を占領しましたが、7万の損害を受けて追撃の余力を失い、敵主力の撃滅という目的を達成できませんでした。この会戦の結果、日本は戦力の限界を自覚し、これ以後大規模な作戦を企画できませんでした。

ロシアも打ち続く敗戦が革命の機運を醸成することを恐れたので、この会戦を機に講和が日程に上りました。日本はこの戦勝を記念して奉天占領の3月10日を陸軍記念日としました。

昌円陣地を視察中の大山巌(右から4人目) (防衛省防衛研究所所蔵)

話しは、少し変わりますが、日本やロシアなどを含め、いわゆる過去に列強と呼ばれたような国は、会戦を経験しており、数十万もの人間が正面からぶつかりあう戦いの凄まじさを理解しています。だから、市民を数十万人殺したとされる、南京虐殺など、途方も無いことが理解できます。

それだけの人間を殺害することの途方もない手間と、時間がどのくらいのものか想像がつくのです。そのような無意味なことを、軍隊が行うことなどあり得ないことが理解できるのです。しかし、会戦をした経験のない、現中国や韓国などは、さほど難しいとは思わずに、平気で歴史修正などをしてしまうのです。

話しをもとに戻します。このとてつもない会戦は、20世紀で幕を閉じたと思いましたが、今世紀になってクリミアで起きそうな状況になってきました。

両軍の兵力がどのくらいになるかは、わかりませんが、両方とも少なくとも数万単位の兵力を動員するでしょう。人数的には過去の会戦よりも、少ないかもしれませんが、現代兵器を用いた苛烈な戦いになることが予想されます。

ウクライナにはハイマースのような現代的兵器があり、ロシア軍もそれなりに、様々な現代兵器を有しているでしょうから、両軍ともそれを用いて、激しい前哨戦を行うでしょうが、最終的には歩兵と機甲部隊が真正面からぶつかる大会戦になる可能性が高まってきました。

上の記事にもでてくる、ホッジス元米国駐欧州陸軍司令官は、ウクライナ軍によるハルキウ州脱占領作戦を非常に高く評価していると発言しています。

ホッジス氏がタイムズ・ラジオへのインタビュー時に発言しています。以下にその動画を掲載します。


ホッジス氏は、「ウクライナ参謀本部も米国、英国、その他の国のパートナーたちも、その作戦のための条件を作るために多くのことを行った。ロシアの兵站、指揮所、防空システムへの恒常的な攻撃が、ロシア軍の間に混沌を作り出し、彼らにとって何が起こっているのか、どの防衛線の強化が必要なのかを理解するのか困難にしていた」と発言しました。

同氏はまた、東部での作戦成功は、相当程度、情報面で促したものだとし、情報によりロシア人にかなりの予備戦力をヘルソン州右岸へと投入させ、ハルキウ州の前線を弱体化させることになったと指摘しました。

同氏は、「それは、ロシア人を騙すという観点から、電撃的作戦であった。ウクライナ人は、ヘルソン州の反攻について常に公に話していたし、それによってロシア人に戦力を南に投入させ、東部の立場を弱体化させていた。

結果、ロシア人たちはあのようにすぐにばらばらになったのだ。なぜなら、彼らは疲弊しているし、彼らの兵站はダメージを受けているし、多くの将校が殺されているし、さらに重要なのは、彼らには戦闘へ向かう意志がないからだ」と発言しました。

さらに同氏は、今回の成功を確実なものとするための忠告として、「私たちは、東部でのウクライナの印象的な成功、ロシア人が残していった大量の機材や取り返した多大な領土には左右されることなく、状況を厳格に評価しなければならない。

(中略)しかし、この先まだ多くの戦いがあるのであり、現在ウクライナ人にとって重要なことは、止まらないこと、ロシア人に圧力をかけ続けること、再編の機会を与えないことだ」と発言しました。

さらに、「私たちには、ウクライナに必要な武器を提供するだけでなく、前線での状況展開ベクトルを維持するためにロシアへの制裁圧力を維持することも重要だ」と発言しました。

その上で同氏は、年内にウクライナが2月24日以降にロシアが占領した全ての領土を取り返すだろうとの確信を示しました。同氏は、「これ(東部での成功)を戦争における転換点と呼ぶことができるか? それは間違いなく重要な瞬間ではある。なぜなら、主導権がウクライナ軍に移ったのであり、ロシアはすでにこの戦争での自らのクライマックスに達しているのだから。

私は、ウクライナが年内に2月23日時点の全ての領土を取り戻せると確信している。クリミアは来年だ。私は、もしかしたら、まだあまりに保守的に評価しているのかもしれない。なぜなら、状況の進展は、予期されていたよりも早いのだから」と発言しました。

さらには同氏は、ロシアが将来的に分裂する可能性にも言及しました。

「私たちは、もしかしたら、今後4、5年で生じるロシア連邦の崩壊のはじまりの目撃者となるかもしれない。戦争は、同国軍の弱さを曝け出し、汚職がロシア社会における不満をどんどん呼び起こしており、エネルギーや武器の輸出という経済の輸出分野は著しい損失を出している。

さらには、ロシアは単一民族国家ではなく、同国には200の民族集団が暮らしており、その多くがプーチンの侵略にて多大な代償を払ったのだ。というのも、ロシア軍の死者の大半はモスクワやサンクトペテルブルクから遠い、地方の出身者であるからだ。

トゥヴァやシベリア、チェチェンやその他の地域は、ロシア連邦の構成から抜け出す機会を目にするかもしれない。西側は、もう今から、その場合にどうするかを考えるべきだ。なぜなら、私たちは、例えば、ソ連の崩壊の際には全く準備ができていなかったのだから」と発言しました。

なお、ホッジス元米国駐欧州陸軍司令官は9月、ウクライナは2023年中に、クリミアを含め、ロシアが現在占領している全ての領土の主権を完全に回復できるとの見方を示していました

無論ロシア側がクリミアで再編が全くできなければ、単なるロシア軍の一方的敗走になるかもしれません。しかし、クリミアはロシア軍にとっては最後の砦です。ありとあらゆる手段で、クリミアでロシア軍の増強、再編を行う可能性もまだあります。

私は、クリミアにおける、ウクライナ軍とロシア軍による会戦にウクライナ側が勝てば、ホッジス氏のシナリオ通りの展開となると思います。それでも当初は、ロシアは負けを認めず、クリミアやウクライナ東部の一部を占領し続けるかもしれませんが、それでも新たな展開は見込めず、すでに勝負は決まっていて、国際社会はロシアが負けたものとみなすことでしょう。

国際社会がロシアが負けたとみなすとは、プーチンが何を要求したとしても、恫喝したとしても、国際社会の中では一切通らなくなってしまうということです。

ウクライナに余力がでてくれば、追撃戦に移り、全領土を完璧に取り返すことになるでしょう。

ウクライナ軍が負けた場合には、ロシアは何とか体面を保つことはできるかもしれません。クリミアと、ウクライナの東部の一部を占領し続けるかもしれません。それでも国力は衰え、新たな侵攻など実行する余力もなくなり、より時間はかかるかもしれませんが、最終的にはホッジス氏の描いたシナリオに近いものになるのではないかと思います。

いずれにしても、ロシアにとっては分が悪いです。最初からウクライナを侵略しなければ良かったのです。侵略をしてしまった時点で、ロシアの悲惨な未来は決まったといえます。国境近くに大部隊のロシア軍を配置して、恫喝し続けるだけにしておけば良かったのです。GDPが現状では韓国を下回る(一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回る貧乏国)現在のロシアにとっては、それが分相応というものでした。

分不相応な侵略してしまった後でも、キーウに侵攻できなかった時点で、失敗したことを悟り、和平協定を結ぶべきでした。そうすれば、ウクライナ戦争は、戦争ではなく武力衝突という形で終わったかもしれません。

プーチンが判断を間違ってしまったため、クリミアで会戦が起こる可能性が高まってしまいました。もう現在の時点では、特にロシア軍のクリミアでの再編が可能であれば、両者とも正面からぶつかり合う機会をつくり、雌雄を決することをしなければ収まりがつかなくなってしまいました。


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