2022年8月24日水曜日

バイデン政権はロシアにもっと強硬に―【私の論評】バイデン政権は、これから段階的にいくつも強硬策のカードを切ることができる(゚д゚)!

バイデン政権はロシアにもっと強硬に

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」



【まとめ】

・今まで一定以上のウクライナ支援を抑制してきたバイデン政権だが、ロシアへの姿勢が軟弱すぎるとの批判が高まっている。

・バイデン政権は、アメリカが強硬な軍事措置をとれば、ロシアは全面戦争も辞さない反撃措置に出る可能性があると説明してきた。

・しかし戦略研究家マックス・ブート氏は、プーチン氏は自滅的ではなく合理的な判断をしており、バイデン政権は必要のない譲歩や後退をしていると批判した。

 ロシアのウクライナ侵略もこの8月ですでに半年が過ぎた。戦況は膠着状態とも、消耗戦とも評される。ウクライナ側の善戦にもかかわらず、ロシアの侵攻は止まらない。そのウクライナを支援するアメリカ国内ではバイデン政権のロシアへの姿勢が軟弱に過ぎるという批判が高まってきた。バイデン政権がロシアのプーチン大統領の爆発的な反撃を恐れて、抑止のための強固な措置がとれないというのだ。

 だがそのバイデン政権のプーチン大統領に対する「なにをするかわからない危険な人物」という認識はまちがいだとする意見がアメリカ側の著名な戦略研究家から発せられた。この意見はプーチン大統領もアメリカの戦力の強大さを知る現実的で合理的な指導者だから、バイデン政権がもっと強く出れば、自制を効かす、と強調している。

 バイデン政権ではロシアのウクライナ侵略に強い反対を表明しながらも、一定以上のウクライナ支援には一貫して慎重な抑制を示してきた。アメリカ軍を直接にウクライナに投入するなどという案は最初から「飛んでもない暴挙」として排除された。

 アメリカと同盟を結ぶNATO(北大西洋条約機構)の加盟国が軍隊を送ってロシア軍と戦うという案にも、バイデン政権はもちろん大反対だった。バイデン政権はNATO側のポーランドが自前の戦闘機を隣国のウクライナに送って支援することも明確に反対した。

 バイデン政権のこうした姿勢の説明としては大統領国家安全保障担当のジェイク・サリバン補佐官の「ロシアとの第三次世界大戦を引き起こすわけにはいかないから」という言葉がいつも引用されてきた。つまりアメリカ側がある程度以上に強硬な軍事措置をとると、ロシアのプーチン大統領はアメリカ側との全面戦争をも辞さない反撃措置に出るだろう、という示唆だった。その背景にはプーチンというロシアの最高指導者は大規模で破滅的な戦争をも仕掛けてくる爆発的、破滅的な傾向を有する人物だ、という推定があるわけだ。

 さてこうした背景のなかで、バイデン政権の対プーチン観、対ロシア観に正面から反対する見解がアメリカの戦略研究でも著名な学者から発表された。外交関係評議会の上級研究員でワシントン・ポストなどの主要メディアに国際問題についての寄稿論文を定期的に発表しているマックス・ブート氏である。ロシア生まれで幼い時期に家族に連れられてアメリカに移住したブート氏は教育はすべてアメリカで受けて、1990年代から保守派の論客として活躍するようになった。ただしトランプ前大統領に対しては批判を表明してきた。

 ブート氏のワシントン・ポスト7月28日付に掲載された論文は「アメリカはロシアよりずっと強い。われわれはそのように行動すべきだ」という見出しで、バイデン政権のロシアへの姿勢を軟弱に過ぎると批判していた。そのブート論文の骨子は以下のようだった。

〇バイデン政権はロシアのウクライナ侵略に対して一定以上に強硬な対策をとると、プーチン大統領が無謀で非合理な行動で反撃し、核兵器までを使用しかねないと恐れている。だがプーチン氏はこれまで5ヵ月にわたるウクライナでの戦争で冷酷かつ残虐的であることを示したが、自滅的ではなく、合理的な判断を下していることが明確になった。

〇プーチン氏はウクライナの首都キーウの攻略を当初、目指したが、その実現が難しいとわかるとすぐにその作戦を撤回した。ウクライナ軍が一時、ロシア領内の標的にまでミサイル攻撃を加えたが、冷静に対応して、報復としての戦線拡大はしなかった。プーチン大統領はウクライナの兵器や弾薬の供給発信地となっているポーランドにも攻撃はかけず、NATOへの加盟の動きをとったスウェーデンとフィンランドに対しても威嚇の言葉を述べても、実際の行動はなにもとっていない。

〇プーチン氏はこうした実際の言動から弱いとみなす相手(たとえばジョージア、ウクライナ、シリアの反政府勢力など)には容赦のない威嚇と実際の攻撃をためらわないが、アメリカやその他のNATO加盟国との直接の軍事対決はあくまで避けるという合理的かつ計算高い行動様式が明確となった。実際の戦闘でもウクライナ軍を相手にしてすでにこれだけ苦労するのだからNATO軍との衝突はあくまで避けるという合理性を有することは確実だといえる。

〇アメリカは核戦力ではロシアと互角の水準にある。非核の通常戦力ではアメリカはロシアよりはるかに優位にある。しかしバイデン政権はあたかもアメリカ側の軍事能力がロシアよりも弱いかのようにふるまっている。その結果、プーチン大統領はアメリカがウクライナにより強力な軍事支援を供することを抑止することに成功してきた。

〇ウクライナでの戦闘ではロシア軍はすでに戦車1000台以上を失い、6万人以上の戦傷者を出した。今後ウクライナ軍がこれまでよりも強力な戦術ミサイル・システムなどをアメリカから得れば、ロシア側の敗北は確実となる。だがバイデン政権はなおロシア側の自暴自棄的な反撃を恐れて、その種の兵器のウクライナへの供与をためらっている。このロシア認識は変えるべきだ。

 以上、要するにプーチン大統領はいざとなればアメリカとの全面戦争をも辞さないような強気の言動をみせてはいるが、それはたぶんに演技あるいは、はったりであり、実際にはアメリカの軍事能力の優位を認め、自国の安全保障保持のためには合理的な判断を下して、アメリカやNATOと全面衝突するような方途は選ばない――という分析だといえる。だからその分析はバイデン政権がプーチン大統領のその真の姿を読みとれず、必要のない譲歩や後退をしているのだ、という批判につながるわけである。

☆この記事は日本戦略研究フォーラムの評論サイトに掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

【私の論評】バイデン政権は、これから段階的にいくつも強硬策のカードを切ることができる(゚д゚)!

今から振り返ると、開戦前から、ロシアの「強気」な姿勢に対し、アメリカ及びNATOの動きは弱いうえに遅いのが目立っていました。

バイデン大統領は、1月19日、就任1年を迎えたスピーチにおいて、ロシアはウクライナに侵攻するとの見解を示した上で、「深刻で高い代償を払うことになる」との警告を発していましたが、同時にロシアがウクライナを侵攻する脅威について問われた際、「小規模な」攻撃ならアメリカやその同盟国の対応はより小さくなるかもしれないと示唆していました。

トランプの大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)だったキャスリーン・マクファーランドはFOXニュースに対して、バイデンの発言はプーチンにとって、ウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を意味したと主張しました。

「バイデン大統領が先週、プーチンにゴーサインを出すような発言をしたことで、今やプーチンがどんな行動に出る可能性もあると思う。ウクライナ侵攻の可能性もあるし、ハイブリッド戦争を仕掛ける可能性もある。今すぐ、もしくは今後1年の間に、彼は何らかの方法で自分の目的を達するだろう」

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はその後、ロシア軍がウクライナとの国境を越える動きがあれば、それは全て「新たな侵攻」であり、「アメリカと同盟諸国は迅速に厳しく、一致団結して」対応すると説明。バイデンの発言を事実上修正しました。

昨年12月の段階ではウクライナへの米軍の派遣は明確に否定していました。それどころか、1月23日、米国務省は、ウクライナの首都キエフにある米大使館職員家族に退避命令を出したことを明らかにしていました。

バイデン氏は、昨年8月の米軍のアフガニスタン撤退でも、米軍幹部の反対にもかかわらず、早い段階から「8月撤退」を公言し、発言を撤回しませんでした。撤退時期を事前に言ってしまえば、武装派勢力がそれに合わせて攻撃計画を練るのは当然だ。結果として、撤退直前にテロ攻撃され、米兵13人の命が失われてしまった。重大局面での大統領の失言、妄言は、いまや定番です。

米軍のアフガニスタン撤退

NATOは、1月12日の「NATO・ロシア理事会」終了後、ロシアが求めるNATO東方不拡大の法的保証を拒否したことを伝えていましたが、次回会合に望みをつなげること以外、具体的方針は示していませんでした。むしろ、米国がウクライナへ武器供与を承認したのに対し、ドイツがウクライナからの武器供与の要請を拒否したことが伝えられており、NATO内での不協和音も認められました。

1月24日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATO諸国が東欧の防衛力増強のため部隊の派遣を進めていることを発表し、米国防省も、8,500人規模の部隊に派遣に備えるように指示を出したことを明らかにしました。NATO諸国がロシアの強硬姿勢に、遅ればせながら力による対応措置を講じ始めました。

チキンゲームの観点からは、ウクライナに対するロシアの「強気」に対し、NATOの「強気」の範囲はNATO域内にとどまっていました。これにより、ロシアのウクライナに対する「強気」を、アメリカを含むNATOが是認する可能性が高くなったいえます。

ウクライナはNATOへの加盟を希望しているものの、現時点では加盟国ではなく、NATOとしても集団防衛の義務は負ってはいません。また、バイデン大統領は8月のアフガニスタン撤退に関し、国内外から批判を浴びたことから、海外への米軍派遣には消極的と見られています。

これらのことから、ロシアのウクライナに対する軍事力行使という「強気」に対し、NATOが軍事力行使という「強気」に出て、両者が直接軍事衝突する可能性は低いと見積もられていました。

これらが、プーチンのウクライナ侵攻を後押ししたことは間違いないでしょう。

それもそうですが、実際に侵略が起こった時点でも、即時にHIMARSのような武器が使えるように早めに支援を行い、ロシア側にもその事実を知らせるとか、場合によっては、NATOがロシア国内を攻撃するなどのことを告知していれば、ロシアのウクライナ侵攻を事前に防げたかもしれません。

そういうと、後知恵のように思われるかもしれませんが、私自身は、ロシアのウクライナ侵攻は無理であると当初から考えていて、その根拠の一つとして、いくらロシアがソ連の核兵器や軍事技術を継承した国であり、決して侮ることはできないものの、現在のロシアのGDPは韓国を若干下回る程度あり、東京都と同程度であり、とても NATOと対峙できる状態ではないということがありました。

しかも一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回る状況です。にもかかわらず、広大な領土を抱えており、ロシア連邦軍の守備範囲も広く、現在のロシアには、ウクライナに攻め込むような大戦争は到底できないと考えたからです。

しかし、結局バイデンの弱気発言などが、ロシアのウクライナ侵攻を後押ししてしまいました。

ただ、プーチンは驕りから失敗しました。しかし、バイデンは駆け引きがあまりに下手すぎです。トランプだったら脅してすかしていなして、最後には「わが友、プーチン」くらいは言って侵攻を止めさせたかもしれません。それがビジネスマンです。

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バイデン大統領の外交については、当初から危惧されていました。バイデンが副大統領をつとめたオバマ大統領は外交経験に乏しく、外交の中心はバイデンが担っていました。ところが、オバマ政権で国防長官だったロバート・ゲイツはバイデンについて「過去40年、ほぼ全ての主要な外交、国家安全保障問題で間違っていた」と回顧録で切り捨てています。

「誤り」として挙げられるのはイラク戦争への対応のほか、国連決議に基づいていた1991年の湾岸戦争への反対、2011年のイラク撤退でテロ組織の台頭を許したと批判されていること、アフガニスタンへの増派反対などがあります

米企業公共政策研究所の外交政策専門家コリ・シェイクも、バイデン外交について「軍事力をいつどのように使うかという一貫した哲学に欠けている」と米誌アトランティックへの寄稿で批判しています。

シェイクは、トランプの外交よりは良いとしながらも「バイデンが混乱し、誤った外交政策を唱え続けていることは見落とされるべきではない」と警告していました。

擁護の声もあります。プリンストン大教授アーロン・フリードバーグは「湾岸戦争への反対もイラク戦争への賛成も、同じ投票をした民主党議員はほかにもいた。バイデンは基本的には海外での軍事介入に熱心でなく、党内でもリベラル寄りだ」と語つてまいす。

バイデンはトランプが「同盟国との関係を損ない、北朝鮮など独裁国家の首脳との関係を重視してきた」と非難しました。民主主義国との同盟を再構築すると訴えました。

ただ、フリードバーグは、バイデン外交について「対中国を含め自身は強い信念を持っていない。そのため、政策は周囲の助言に左右される」とその不確実性を指摘しています。

一方、米国は昨年にアフガニスタンからの撤退を完了させ、今回のロシアのウクライナ侵攻にも、軍の直接介入を行わず、兵力を温存しています。これによりバイデン政権は国内政治的なリスクも回避したことも事実です。

しかも、今回のウクライナ軍のロシアの侵攻への善戦の背景に、米国の武器供与、財政支援、インテリジェンス情報共有、サイバー空間での協力などがあることは明らかです。バイデン政権は、米国との同盟国でなくとも、米国の支援を得ることできれば、大国を相手に自国を守ることができるという構図を世界に印象付けつつあります。

過去に米国民に多大な犠牲をもたらし、国内外からの批判に晒されたベトナム戦争やイラク戦争などと異なり、米国の負担を最小にして、世界からは支援と賛同も得られる効果的な協力を行っています。

1960年代フロリダ大学の学生による反戦運動

今後、ロシアがウクライナの戦争の継続あるいは停戦のカギは、ロシアのパートナー国である中国の動き次第です。ウクライナ侵攻前の2月4日、中ロ共同声明において、両国の友情には「限界はない」と宣言しましたが、中国は必ずしもロシアに全面的な支援を与えてはいません。

もし中国が、バイデン政権が再三警告する対ロシア軍事支援に踏み切れば、ウクライナでの戦争はさらに長期化するでしょう。一方で、中国がロシアの長期化する軍事作戦を支えることは、中国の体力も奪うことになり、米国にとって中国との長期的な競争には、米国が優位に展開することになるでしょう。米国にとって中国へのけん制は、いわば「王手飛車取り」です。中国が軽々にロシア支援に動けない理由がそこにあります。

ロシア・ウクライナ戦争は、軍事介入への高いハードルという米国のおかれた状況を考えると、インテリジェンスの先制的な開示という非常手段をとっても、抑止できませんでした。また、結果として、バイデン政権の軟弱な対応が、プーチンを後押ししたという面は否めません。

しかし、この戦争がどのように終結するかどうかで、その帰結は変わってくるため、軽々に結論づけることはできないですが、一方で、軍事介入への制約ゆえに、黒子に徹することしかできない米国に、あらたな戦略と優位性を与える可能性は十分あります。

その優位性を与える一つの方法として、バイデン政権は時にはロシアに対してもっと強硬に出るという方法もあるのではないかと思います。現在まで、バイデン大統領は強気な発言をしたことはありますが、それを実行したことはありません。しかし、そのせいで、バイデン大統領には、さまざまなカードか残されているということができます。

たとえば、NATO軍や米軍のウクライナへの派遣、派遣でも様々な段階があります。軍事訓練から、実際の戦闘に加わることか、戦略の一翼を担うまで、様々な段階があります。さらに強力な武器の供与、これも通常兵器から核兵器に至るまで様々な段階があります。

「飛行禁止空域」の設定も様々な段階があります。ウクライナの一部の空域から、ウクライナ全土まで様々な段階があります。

いきなり、過激な段階ではなく、米国側が何らかの条件を出し、その条件をロシアが満たさなかった場合、段階的なさまざまなカードを切れば良いのです。それも、はっきり目にわかるかたちで切れば良いのです。

この方針の転換が、プーチンを恐慌状態に陥れ、さら追い詰めることになります。今からでも遅くありません。十分できます。それに、ロシアが残虐なやり方をしてきたから今だからこそ、強硬な手段をとっても、国内外から非難を受けることもありません。それどころか、称賛の声が沸き起こるかもしれません。

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