- 自衛隊の横須賀基地で護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性が高い動画がSNSで拡散され、防衛省はその分析結果を公表した。
- 自衛隊基地でのドローン無許可飛行は法律で禁止されており、防衛省は万が一の危害に備え、警備を万全に期すとしている。
護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性があるとされた動画の一場面(投稿されたXから) |
自衛隊の基地などでドローンを無許可で飛行させることは法律で禁止されている。防衛省はドローンによって危害が加えられた場合は日本の防衛に重大な支障を生じかねないとして警備に万全を期すとしている。
- 現代の海戦では、ステルス性に優れた潜水艦が重要な役割を担い、水上艦艇はドローン、ミサイルや潜水艦から攻撃を受ける標的に過ぎなくなりつつある。
- 中国は近年潜水艦の数と質を向上させているが、日本は優れた対潜戦能力を有し、中国潜水艦の活動を探知・公表してきた実績がある。
- 一方で中国側は、日本の水上艦艇をドローンで撮影したことをSNSで公開するか、公開されたそれを利用してドローン脅威を示唆している。
- 日本としては、対潜戦能力に加え、ドローン対策や水上艦の防護能力の強化が課題となっている。
- 今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、対潜戦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにした
現代の海戦における潜水艦の重要性は非常に高くなっています。現代では、水上艦艇は、監視衛星、レーダー等によって簡単に探知することができます。
しかし、ステルス性に優れた潜水艦は、これを発見することは困難であり、敵の艦船や潜水艦を追跡し、必要に応じて攻撃でき、大きな脅威となります。一方、水上艦艇はミサイル、水中・海中ドローン、潜水艦から攻撃を受ける危険性が高まっており、大きな標的に過ぎなくなりつつあります。
これは、フォークランド紛争の頃からいわれていたことであり、当時からもはや水上艦艇は、ミサイルの標的にすぎなくなったといわれるようになりました。確かに、空母や他の艦艇には防空システムが搭載されていますが、ミサイルによる飽和攻撃を受ければ、これを防ぎきることはできません。
フォークランド紛争で撃沈された英国の艦艇 |
最近では、ミサイルよりもさらに安価な空中・水中ドローンによる大量飽和攻撃を受ければ、水上艦艇がこれに対処するのは困難です。
だからこそ、現在の海戦では、潜水艦と対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、有利なのです。
中国が製造する潜水艦は、改善されつつあるとはいえ未だステルス性には優れおらず、そのため発見されやすいです。ただし、ステルス性に優れていない潜水艦であっても、動力を使わずに潮流に乗って移動している間は、発見は難しいです。
こうした潮流を探すために、中国は日本の排他的経済水域などにブイを設置したり、測量船などを運用して海洋調査を継続しているとみられます。
中国は近年、潜水艦の数を大幅に増強しており、その質も向上しつつあります。しかし、潜水艦のステルス性や対潜哨戒能力や対潜戦能力については、まだ日本や米国に遅れを取っていると指摘されています。
日本は、対潜哨戒力がすぐれているため、中国の潜水艦を探知できる可能性は高いです。実際に、過去には中国の潜水艦が日本の排他的水域に入って航行したことを何度か公表したことがあります。
- 2004年11月: 中国の潜水艦が日本の排他的経済水域(EEZ)に入り、紀伊半島沖で航行したことが報告されました。
- 2006年2月: 中国の潜水艦が再び日本のEEZに入り、鹿児島県沖で航行していたことが報告されました。
- 2018年1月:中国の艦艇・潜水艦が尖閣諸島の接続水域を航行
日本が中国の潜水艦を発見し報道されることはあっても、中国ではそのようなことはありません。もし、中国側に優れた探知能力があれば、たとえば南シナ海やなどの中国軍基地の近くで日米の潜水艦などを発見した場合、これを公表するかもしれません。
中国の近海は浅くて、ここで日米の潜水艦が情報収集活動を行うことは難しいですが、南シナ海は水深は深く、ここには日米を含め各国の潜水艦が活動しているとみられています。しかし、そのようなニュースは未だにありません。これは、そもそも発見できていないか、自らの探知能力を知られたくないという中国側の事情があるとみられます。
こうした背景から、中国側では日本の護衛艦をドローンで撮影したことがニュースになるといった事態が生じているのだと考えられます。無論、これはSNSに掲載されただけのようですが、中国政府はこれを黙認しているということです。それは、合法的な手段で撮影されたものではないからでしょう。
ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」には、様々な用途があります。そのうち対潜哨戒と、対潜水艦戦は重要な用途です。先日対潜哨戒訓練にあたっていた海自のヘリコプターが墜落しましたが、「いずも」搭載のヘリコプターも対潜哨戒や対潜水艦戦の任務を担っています。
中国側としては、ドローンの脅威があることを日本側に知らしめるための政治的メッセージとして、利用している可能性があります。また、中国はドローンを使って重要施設を攻撃したり、情報を収集したりする可能性があります。ドローンの飛行ルートや操縦者の特定、さらには電波妨害などの対策を講じる必要があるでしょう。
ドローンの飽和攻撃の想像図 |
日本としては、既存の潜水艦や対潜水艦戦の能力を高めるだけではなく、ドローンを探知する能力やこれを攻撃する能力を高める必要があるでしょう。
また、中国が潜水艦の増強に力を入れている背景には、米国の海洋支配力に対抗する意図があると考えられています。南シナ海や東シナ海での現状変更の試みに加え、台湾有事への備えとしても潜水艦の重要性は高まっているのです。
つまり、今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、潜水艦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにしたと言えるでしょう。日本としては、この問題をきっかけに、さらに領海・排他的経済水域の防衛能力を再検討し、強化することが求められています。
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