2024年5月18日土曜日

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”

まとめ
  • ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。
  • これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。
  • 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。
  • IMFは、ロシアの今年のGDP伸び率を3.2%と予測。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を進めるため、新たな国防相に経済閣僚の経験者を起用。
プーチン大統領

 ロシアの今年1月から3月までの国内総生産(GDP)の伸び率は去年の同期と比べて5.4%のプラス成長を記録し、4期連続のプラス成長となったことが発表された。この成長は、ウクライナへの軍事侵攻以来の軍事費の増加による一時的な効果と分析されている。

 専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えていると述べている。また、IMFはロシアの今年のGDP成長率を3.2%と予測している。プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をごらんに成りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

まとめ
  • ウクライナでの戦争継続のための軍需産業の興隆がロシアのGDP成長に貢献している。
  • 第二次世界大戦中、日本をはじめとする多くの国で軍事費増大により経済成長が見られた。
  • ロシアのGDP統計には透明性が欠け、疑問点が多いが、それでもロシアのGDPが伸びている可能性はある。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を目的に経済経験者を新たな国防相に起用した。
  • 経済と軍事の統合は重要だが、戦争の結果はより広範な要素によって左右される。
上の記事で、1月〜3月のロシアのGDPの伸びを専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えているとしています。これは正しい見方だと思います。なぜなら、戦争中、特に総力戦中にはGDPが伸びるというのは普通の現象だからです。

それを裏付ける資料として、第二次世界対戦中の主要国のGDPを以下に掲載します。
第二次世界大戦戦前・戦中の主要国のGDP

数字の羅列だけだと理解しづらいので、以下にグラフを掲載します。 アメリカは本土が戦場にならなかったこと、ソ連は戦争中のデータがないことなどから、以下にそれ以外の国のGDPの推移を掲載します。


フランスは、ドイツに占領されたことが影響し、1939年を頂点に下がっています。これは、戦争を継続する必要がなくなったからとみられます。イタリアも、
1943年9月8日枢軸国側から、連合国側に寝返り、そこから先はドイツ軍に占領されたということもあり、国情が安定せず1939年をピークに下がっています。

イギリス、ドイツ、日本は、戦争末期は別にしてGDPは右肩あがりに上がっています。これは、戦争を継続するために、軍需物資を増産したからに他なりません。

日本では、戦争中には原油が不足しましたが、パスなどの公共交通機関では、それを補うために、木炭を燃料としてバスを運行したこともありました。これは、燃費もかなり悪く、非効率の極みなのですが、それにしても、このバスを走らせるために、木炭を製造したり、それを運んだりするための人件費などはGDPに計上されます。

戦争中にはこのような非効率なことも多く行われますが、それでもこれらは、GDPに計上されることになるのです。

このブロクでは以前述べたように、経営学の大家ドラッカー氏は、第二次世界大戦中の経済について、以下の発言をしています。
数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう。
これは、第二次世界大戦中、多くの国が軍事費を増大させたことで、経済成長を遂げたという事実に基づいています。例えば、米国では、第二次世界大戦中のGNPは、戦前の約2倍強にまで増加しました。これは、軍需産業の急速な発展によるものです。

第二次世界大戦中、日本も、軍事費を大幅に増大させ、軍需産業の急速な発展を促しました。その結果、日本の経済も、戦前の約2倍弱にまで成長しました。

1930年代から1940年代にかけて、日本は戦争に伴う軍事費の増大や、戦時体制の導入により、経済成長を遂げました。また、国民生活の面でも、食糧や衣料などの物資の配給が徹底され、国民の生活水準は維持されていました。

本当に窮乏化したのは、1944年以降であり、連合国軍の空襲が本格化し、米軍による通商破壊がすすみ、日本各地で大きな被害が発生し、国民生活は困窮化しました。それは、上のグラフでも示されています。

現在のロシアのGDPの伸びも、軍需産業の急激な発展によるものと考えられます。ただしロシアのGDP統計に関しては多くの疑問が呈されています。これは透明性の欠如、データ収集方法の問題、および非公式セクターの存在など、複数の要因に基づいています。ただ、現状では断言するには、至っていません。しかし、戦争を遂行すれば、経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)等は別にしてGDPは上向く傾向があります。

上の記事でもう一つ気になるところがあります。それは「プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した」ことです。

ロシアのプーチン大統領が新しい国防相に経済学者のアンドレイ・ベロウソフ氏を指名した事例は、現代においては注目すべきものです。ベロウソフ氏は経済の専門家であり、プーチン氏の側近として長年にわたり経済開発相や経済担当の大統領補佐官を務めてきました [1]。彼の指名は、ロシアがウクライナとの戦争に備えて戦時経済を強化するための戦略的な措置とされています。ロシアの軍事支出は約51兆円にも上り、効率的な運用が求められているため、経済学者のベロウソフ氏を起用したとみられています。

アンドレイ・ベロウソフ氏

経済と軍事の統合は、国の戦争遂行能力を高めるために重要な戦略であると考えられますが、戦争の結果を決定する要因は多岐にわたります。経済合理性の追求は、資源の効率的な利用や生産能力の最大化といった面で戦争遂行能力を支えることができますが、それだけが勝敗を左右するわけではありません。

戦争の結果は、軍事戦略、国際政治、同盟国との関係、技術革新、民心の支持といった多数の要素によって影響されます。ナチスドイツの場合、軍需相であったフリッツ・トートやその後任のアルベルト・シュペーアによる経済と軍事の統合は一定の効果を発揮しましたが、結局は連合国の圧倒的な軍事力、資源、及び戦略的な決断によってドイツは敗北しました。

フリッツ・トートはナチス・ドイツ初期の主要な建設プロジェクトを担当し、特に高速道路「アウトバーン」の建設を通じて失業対策を行いました。これらの大規模プロジェクトは、1930年代の経済危機と大量失業に直面していたドイツにおいて、多くの労働者に仕事を提供し、失業率の減少と経済回復に大きく貢献しました。トートの取り組みはナチス政権の支持基盤を固めるのに重要な役割を果たしましたが、後に軍事拡張とユダヤ人などの強制労働の利用に繋がりました。

航空機墜落事故によって死亡したトートに変わり、アルベルト・シュペーアが軍需相となりました。アルベルト・シュペーアは、ナチス・ドイツの軍需相および戦争経済大臣として、経済と軍事の統合において重要な役割を果たしました。彼の下で、軍事生産の効率化と最大化が推進され、特に「全戦争」概念の実施により、軍需産業の生産能力が大幅に向上しました。

シュペーアは労働資源の再配分、生産設備の合理化、そして技術革新の促進により、短期間でドイツの軍事力を強化することに成功しました。しかし、これらの努力にも関わらず、戦争の長期化と連合国の圧倒的な経済力・軍事力により、最終的にドイツは敗北しました。シュペーアによる経済と軍事の統合は効果を発揮したものの、戦争の全体的な結果を変えるには至りませんでした。

プーチン大統領が経済経験者を国防相に起用したことは、戦時下における経済の軍事への統合を強化し、より効率的に資源を管理しようとする試みとみることができます。しかし、戦争の結果はこのような内部の効率化だけでなく、外交政策、国際社会との関係、軍事戦略など、より広範な要素に左右されます。

結局のところ、経済と軍事の統合は戦争遂行の一環として重要ですが、戦争の大局を決定するには、それだけでは不十分であり、より複合的な要因を考慮する必要があります。今回のアンドレイ・ベロウソフ氏を国防相に任命したこと自体は、戦局を大きく変えることにはつながらない可能性もあります。

ただし、ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4%ということだけを根拠として、ロシア軍最強とか、ロシアが必ず勝つとか、先進国の経済制裁は全く効いていない等という見方は、誤りであることは確かでしょう。

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